参陸話 長い夜のお話 前
キノサキを退けた黒千代たち。そしてその後の夜……
さてと、ガルシャードの説得もかれこれ……何日目だ?
まあ、説得に行ってない日もあったから回数で言うなら三回目か。
とはいっても、たまには視点を変えてガルシャードではなく、風精族の兵士とか、ディオンさんに訊くという手も使った。
もちろん、訊くからにはそれなりに覚悟がいる。他国とはいえよそ者に事情を話すことになるからな。
ディオンさん、話を訊くからにはそれなりの理由があるだろうな、って険しい顔で言われた。
しかし……何と言うか、個人的な理由で昼江のことは言いたくなかった。
……昼江を悪印象みたいに言うのはいろいろと躊躇われた。
だからまあいろいろあって、土下座込みでお願いしたらディオンさんは最終的には話してくれた。
本当にすみません。そしてありがとうございます。
ディオンさんの話を纏めると以下のようになる。
火蛇族は今の様子からは想像できないが、昔はもっと穏やかで少なくとも他種族に攻め入るようなことはしなかったそうだ。
なんだっけ……ガルシャードが前に言っていた名産物やら何やらでそれなりにいい感じに開放的な所だったと。
けど、三年前に突如火蛇族は軍というのを作り出して、風精族に攻めいったそうだ。
しかもそれは始まりみたいで、あの時からだんだんと攻められる頻度が増えてきたとか。
まあ、その後にいろいろあって水妖族と同盟を組んだりするようだがあんまり関係ないので割愛。
どういう事かさっぱりだが、なんでも統治者が代替わりしたとか何とかでその時から火蛇族の国家は実力主義と言うやつになったそうだ。
……もしかして、下位とか上位とかもこの時から始まったのだろうか。
ディオンさんは俺たちの事情をあんまり知らないというのに、それでもよく話してくれたと思う。
本当にあの人には感謝としか言いようがない。
仕事は……結局紹介されなかったけどね、うん…………
だが、いよいよ話が不穏じゃなくなってきたな。
いかにも昼江が望んで介入していそうなことだ。
あいつ……まさかとんでもない事考えていないだろうか……
だとしたら俺は…………
………………。
……それにしても千代もラネットも遅いな。
ラネットはとにかく千代まで帰り遅いってどういうこと?
向こうでいったい何しているんだろうか?
自由に音信とかできないから不便だな……
なんか変なことに巻き込まれてないかな……
……でも、勝手にどっかへ行こうとしたら行き違いになるだろうかな。
どうしようか、うーん……
2
おじさんがキノサキさんを連れて里へ戻った後、私やラネットさんはほかの風精族さんの力を借りて早く里へ戻ることができました。
キノサキさんのことは何とかなりましたけど、その後のことが大変でした。
まずロビィさんがけがをしたロビィさんのお仲間さんたちを治療するために急いで診療所に連れて行きました。
その時のロビィさんは相当無茶をしたのでしょうか、足が腫れ上がっていました。
手ぬぐいのお兄さんもひどいけがでしたけど、帽子のお兄さんもかなり危険なようです。大丈夫なのでしょうか?
「だ、大丈夫……キッド君も、デヴィッドさんも……頑丈、だから……」
と、ロビィさんは言ってました。
でも、表情がすぐれない様子でしたし心配はぬぐえません。
エイジットさんやシャルロさんは大した怪我はない様子ですので、復帰するのに問題はないという事です。
他にも、おじさんが調べていた火蛇族さんの襲撃の事ですが……
どうやら見つける事には成功したようです。
肝心の内容は聞いていないのですが……
あとは、私たちが戻ってきたことと、ロビィさんがお仲間さんと取り戻せたことをで、セーヴェさんに安心させようと会いに行きました。
約束通りに無事に戻ることができたというとセーヴェさんは……
「そ、そうか……運転手は無事なんだな! よかった……!」
と、言っていました。
本当は、今は怪我を直している最中ですけど……
言うのか言わないのか悩んだときに、
「……な、なんだよ! こっちくんな!! 言いたいことはもういいだろ!!」
「?」
……なぜでしょうか、拒否されてしまいました。
あまり目も合わせてくれないのですが、どうしたのでしょうか?
「おい……ちょっと待って」
「? なんでしょうか?」
「あ……ありがと……」
「…………?」
目を逸らしながらもセーヴェさんはお礼を言ってくれました。
嫌われては……いないのですね?
あとラネットさんは、もう今日はあまり仕事しないという事で、ほんの少しだけ事務所に戻ってなにかを少ししただけで終わったようです。
私もおじさんに改めて感謝しようとしたのですが、先に家で待ってと言われましたのでここはラネットさんに任せて先に戻って待ちました。
3
そして、その日の夜、ラネットさんの家でのことです。
私とラネットさんとセーヴェさんと、ラネットさんのお母さんのアデルさんの四人で夜を過ごしました。
「ちょっと待って母さん。父さんはどうしたの?」
「あらラネット。実はお父さんね、お仕事の都合上、今サンシルア村の方へ出張に行ってるの」
「え? 出張って……」
ラネットさんのお父さん、どうもお仕事でここにはいないのです。
ちょっと会ってみたいと期待した分、残念です。
「ちょっとまて。じゃあオレ一人…………」
「?」
セーヴェさん、一人ってどういう事でしょうか?
別に私もラネットさんもアデルさんもいるのですが……
「あら! あなたけっこうかわいいじゃない!!」
「あ、おい!? やめろ!!」
「ちょっと母さん!! だからその抱き着きは何とかしなさいよ!!」
……楽しそうでなによりです。
セーヴェさんもすっかり元気になってくれたようで。
「まったくもう……大丈夫?」
「お、おう……平気だ…………」
「もう、母さんったら……」
ラネットさんが疲れたように言うのに対してアデルさんはにこやかに笑ったままです。
セーヴェさんは顔を赤くして胸に手を当てています。
「あ、そうだラネット。ちょっとこの娘のこと借りてっていい?」
「え、私?」
アデルさん、なにか私に用事があるのでしょうか?
「母さん。借りるって別にクロチヨは……どうするの?」
「ふふ、ちょっとお話をしたいだけよ。その間にあんたはお風呂にでも入ってちょうだい」
「……わかったよ。でも、変な事吹き込まないでね」
「ふふふ……それはどうかしら?」
「母さん」
「あ、男の子の方はあとで私と一緒に入る?」
「え!?」
「母さん!」
驚いて顔を赤くするセーヴェさんと困った様子でアデルさんを怒鳴るラネットさんを前に、アデルさんはいたずらをするように、楽しそうに微笑みました。
4
黒千代とアデルが話をするために外出している一方、風精族の診療所にて。
運び屋の一人であるロビィは、仲間であるキッドとデヴィッドが眠っている暗い大部屋型の病室にて、二人が眠るベッドの傍で椅子に座ってうずくまっていた。
俯く表情からは不安としか言いようがなく、夜になってもなお眠ることなくずっとキッドやデヴィッドを見守っていた。
「…………」
今のロビィは、はたから見れば痛々しいとしか言いようがない。
キノサキが退いた今でも、本当ならセーヴェの傍らにいるべきだが、用心棒である彼女がいてくれるという安心から、ロビィはずっと眠り続ける仲間のそばに居続けた。
すると、
「……やれやれ、だめッスよ。僕らの事よりセーヴェ君のそばにいてあげなきゃ」
「…………!」
すると、今目を覚ましたのか、それとも寝てすらいなかったのか、キッドはロビィに対して半ば詰るように言った。
それまで死んだように動かなかったロビィが驚きに目を見開いてキッドを見つめていた。
暗い部屋の中であれ、すでに順応したロビィの目にキッドの平気そうな顔が映る。
「キッド君……!?」
「なにをそんなに驚いているッスか? 大した怪我じゃあないッスよ……!」
「あ……!」
キッドは痛む体に構わず上半身をベッドから起こした。
その行為にロビィは驚いて、慌てて彼を止める。
「だ……だめだよキッド君……!? そんな体で動いちゃ……!」
「大丈夫ッス……大したことはないって言ったッスよ……!」
「でも…………!」
別に体を起こすだけだというのに、それだけでロビィは大ごとのように心配してキッドを見つめた。
その様子にキッドはため息をつきそうな顔で、しかし困ったように笑いながらロビィを見つめ返した。
「まったく……ロビィのそういう所が困ったところッス。だからいつまでも半人前ッス」
「あ……ぅ…………」
「でもお前の事だからセーヴェ君は安全な所にいるッスよね」
「うん……」
キノサキに捕らわれたときのキッドは見た。ロビィと共にいる、二人の少女のことだ。
恰好からして場違いな感じが伝わるのだが、しかし表情からはそうでもなかった。
あの時の少女たちは戦いに対して備えのある表情をしていた。それも明らかに只者ではないキノサキに対してである。
それはよほどの覚悟か、確固として負けられない理由がない限りそうそうあんな顔はしない者である。
キッドはキノサキの背に縛られて何もできはしなかったが、キノサキの背中越しにロビィと取り巻く人たちをよく観察したのである。
「あの時、お前と一緒にいた羽の生えた人たちは味方なんッスね?」
「う、うん……そうだよ……。みんな……みんな優しい人たちで、キッド君やデヴィッドさんのことを治してくれて……」
「そうッスか。しかしそのデヴィッドさんはいまだに目が覚めないままッスが……」
「…………」
風精族が彼らに対してどういう治療を行ったのか、彼らもロビィもよくわからない。
しかし、デヴィッドの場合、最低限命の危機は脱することはできたが、あとは目を覚ますのを待てばいいだけの事。
しかしいつ目が覚めるのかわからないらしく、かなり先である可能性があるとも言われた。
キッドが目を覚ましたことで、ロビィの精神は多少安定したのだが、再び眠り続けているデヴィッドを見ていると、急に胸の奥からなにかがこみあげてきた。
それはキッドが目を覚ます前よりもさらに深刻な様子となった。
「キッド君……」
「!」
キッドが目を覚ましたからだろうか、それまでずっと堪えていた何かが耐え切れず崩壊し、ロビィはもう放したくないように体を起こしたキッドの身体に強く抱き着いた。
彼女は泣き出しそうな声で、自らの心情を吐露する。
「もう……いやだよ……」
「え?」
「ロビィはもう……一人になるのは嫌だよ…………!」
セーヴェを護りきることにいっぱいでずっと心の奥に封じていた感情がここにきて一気にあふれ出した。
通信でデヴィッドが怪我したと聞いた時も、実際間近でそれを見たときも、治療のために運ばれていく彼らを見たときも、全部抑え込んでいたはずの物が、この瞬間耐えきれなくなってしまった。
「今回みたいなことは……もう、いやだよ……!」
「……だめッスよ、ロビィ」
キッドはそんなロビィの心情を理解している。
しかし、頷くようなことはしない。安易に同意することはできない。
キッドはこの仕事を始めたときから忘れてはならないことを言う。
「仕事に私情は厳禁ッス。ましてや僕らは決して公に認められてはいない人たちッス。セーヴェ君の時はとにかく、僕らは認められない者の手助けだってしないといけないッスよ」
「でももう……離れ離れになるのはいやだよう…………!」
……まるで親から離れられない小さな子供の用にずっとしがみついてくるロビィに、キッドは困りつつも慈しむように抱き返した。
「もう失うのは嫌……もう一人は嫌……キッド君も……デヴィッドさんも……お願いだから……!」
「…………」
しばらくの沈黙。キッドはまたかと思った。
こうなった以上何も言えない。言う事を聞かない駄々をこねる子供のように、ロビィはテコでも動かなくなる。
だが、こうなってしまった過去を知っているキッドにはこれ以上なにも言い返すことができない。
仕方がない、と素直にキッドは認めることにした。
「……そうッスね。僕もデヴィッドさんも怪我をしてしまったのは自分たちの失敗ッス。でも大丈夫ッス。デヴィッドさんは殺しても死なないほど頑丈ッス。きっと目を覚ましますッスよ」
「きっと?」
「それを信じるのが僕らッス」
「…………わかった」
そう言うとロビィは静かに落ち着いてきだした。
ただし、まだキッドに抱き着いたままである。
静かになった彼女の口から呟くように言う。
「キッド君……」
「なんスか?」
「キッド君もデヴィッドさんも、ずっと一緒だよ」
「わかっているッス。僕らは家族ッスから」
「うん……」
キッドは、建前では自分たちは仕事内容が内容のため、いつ離れても死に別れてもおかしくないと言う。
しかし本音では彼女同様、仲間たちとともに居続けることを望む人でもあった。故に、
(デヴィッドさん……早く目をさましてくださいッス)
これ以上ロビィを心配させないためにも、デヴィッドが早く目を覚ますことを祈るのだった。
「ロビィ。僕は大丈夫だから早くセーヴェ君のもとに行くッス」
「いや、もうちょっとだけ……!」
「……やれやれッス」
本当にいまのロビィはどこか甘えん坊のようにキッドに抱き着いたまま離れられないのだった。
キッドも、多少困りつつ仕方がないように言う。
「でも、本当にもうちょっとしたら早く行くッスよ」
「……うん。キッド君も、早く元気になってね」
「当然ッス!」
……その後、しばらくの抱擁を終えた後にロビィはキッドたちの病室を後にしてセーヴェのいるラネットの家へと向かったのだった。
5
真夜中の風精族さんの里ってこんなにも静かなのですね。
アデルさんに連れ出される直前にラネットさんは湯浴みに、セーヴェさんはラネットさんの部屋で待機しました。
私とアデルさんは外に出て二人きりで話をするようです。
「ふぅ……夜の風ってのは、こんなにも気持ちのいいものね……」
「……? そうなのですか?」
「ええ、私たち風精族は風を浴びて、肌で感じて育つ一族よ。風の届かないところに閉じこもるなんてことはできないんだから」
そう言って夜風を感じるアデルさんの横顔はどこか大人びた感じがしました。
さきほどラネットさんと楽しそうに言い合っていた時とは対照的です。
「ふふ……あんなに楽しそうにしている娘を見るのは久しぶりよ」
「え?」
「正確には私がいないところでも、かな?」
……どういう事でしょうか?
「だってあの子、まだ若いのにもう風精族の調査隊に入っちゃってね、そのおかげで同年代の子と仲良くしているところなんてそう見かけないから……」
「……やっぱり、ラネットさんの歳で仕事をするのは早いのですか?」
「ううん……今の歳ならそんなことないけど、あの子の場合、二年前からもう働き始めてるのよ」
「え…………」
二年前……ですか?
それって
「えっとね……詳しくは言えないけど、家庭の事情で早くからあの子が働かなきゃならないことになってね。私の親友のコネであの子は調査隊で仕事をすることになったのよ」
ラネットさん……昔はけっこう大変だったらしいですね。
いったいなにがあったのでしょうか?
「年齢とは関係なく、あの子は仕事ができる子でね。最初はいくつか躓くことはあったらしいけど波に乗り出してからはどんどん成果を挙げていったそうよ」
「ラネットさん……すごいんですね」
「ええ……でも今はそうじゃないけど昔、『隊長ったら私が子供という理由で班長どころか班長補佐にすらさせてもらえないのよ』てよく愚痴ってたわ。昔は自信あったからね」
「そうなのですか」
自信満々なラネットさん……
ちょっとだけ想像できますね。
「……でもその有能さが今となっては哀しい事よ」
「?」
どういうことでしょうか?
できることはいい事なのに、アデルさんは喜べないような様子です。
「でもね、調査隊に限らず有能な人材って、その分仕事の量も質も多くなるでしょ?」
「確かにそうですね」
青江さんは、今は任務ができないですけど、春房さんも相当強くてすごい人物です。
でも、任務から帰ってくる春房さんはいつも衣服を汚して、時には怪我をして戻ってきます。
用心棒が危険であることを、あの人はいつも説いていました。
「だからすぐに仕事場へ駆けつける住処……今一人暮らしをしているあの家を支給されからは、あの子は私やお父さんとは徐々に会えなくなってね……」
「!」
親に会えない……
そんなことが…………
「それも、火蛇族が攻め入っていることもよくあったから、なおさら調査隊の仕事も多くて、一月どころか三月か半年も会えないことがあったわ」
「アデルさん……」
「娘の成功が素直に喜べないなんて、私も面倒ね……」
嬉しいのか哀しいのか、アデルさんは複雑な表情をしています。
でも、もしも零ちゃんが私より仕事がうまくて、でもそれで危険な任務へ行くようになったら……
……なんだか、それは嫌だと思います。
「幸い、今は私やお父さん……いえ、夫ががんばっているから安定しているけど、あの子は仕事場から離れることはなかったわ」
「それは……」
「それに同年代の子はそういないから仲のいい友達なんて……」
するとアデルさんが、はっとするように、少し考え事をしながら照れるように言います。
「あら、ごめんなさいね。すぐに本題へ入ればいいものを私ったら長々と話しちゃって……」
……それは多分、聞いてほしいと思ったからではないでしょうか?
アデルさんの表情からは気持ちが強く伝わりましたから……
「いろいろあるけど、私の言いたいことは一つよ」
するとアデルさんが私の真正面に立って、頭を下げて…………?
「アデルさん……?」
「娘の事、よろしくお願いします。クロチヨさん」
「あ、あの……頭を下げる必要は…………」
ないと思うのですが……
「そう? でも、たとえ人間で、迷い子で、いつかは人間界に帰らなきゃいけないことになっていても、その間だけでいいから……」
「!」
「あの子の事、お願いします」
……そうです。
私は人間で、ラネットさんは風精族さんです。
だからいつかは…………
「……大丈夫です、アデルさん。私はラネットさんが好きですから、頭を下げないでください」
「あら、正直な子ね。素直にそう言う事が言える子、私は好きよ」
「それにラネットさんも私のことを友達と言ってくれましたし、大丈夫です」
「へえ、あの子がそう言ってくれるとはよっぽどね」
そうでしょうか?
でも、そう言ってくれて私は嬉しかったです。
「よかったわ。わざわざ私が言う事じゃなかったわね」
「いえ、大丈夫です。私もアデルさんとはお話をしたかったので」
「そう?」
「はい」
と、私とアデルさんがお話をしていると……
「あ……三咲さん」
「え? あ、ロビィさん」
お見舞いの帰りでしょうか、ロビィさんがこちらに向かってきました。
……ん?
「ロビィさん。目元、どうしたのですか?」
「え、え! これ? だ、大丈夫。大丈夫だよ!」
「?」
……泣いた跡……ですよね?
大丈夫でしょうか?
「あ、あなたってあの時いっしょにいた子ね」
「ラネットさんのお母さん……」
「一緒にいた男の子も待っているよ。そろそろ冷え始めたころだし、お家に戻ろう?」
「はい」
「は、はい」
時間もそろそろですので、アデルさんとロビィさんと私は、ラネットさんの家へと……
…………あ、
「あの……アデルさん。ロビィさん」
「ん? なに?」
「なに? さ、三咲さん……」
アデルさんとロビィさんがこちらに顔を向けます。
私は……
「先にお二人でラネットさんのお家に戻ってくれませんか?」
「え? さ、三咲さんはどうするの?」
「えっと……少し大事な用があります」
「大事な用? なにかしら?」
「それは……い、言えません」
「え?」
今私がやることを知れば、たぶんロビィさんは反対します。
だから……
「危ない事ではありません。すぐに戻りますからお願いします……」
「三咲さん……?」
「ふぅん…………」
アデルさんが私の顔を深く覗き込んでいます。
それもじっと、私の顔を……
でも、少ししたら顔から離れて……
「わかったわ。そこまで言うなら、いってらっしゃい」
「え! い、いいの!?」
「あ……ありがとうございます!」
「でも、いくら治安がいいからってこんな夜遅くに一人で歩くのは危険だからね」
「はい、わかりました」
許しはもらえたようです。
さっそく私はある所へと向かいます。
「さ、三咲さん。いったいどこへ……?」
「ロビィさん……」
ロビィさんが心配そうに私を見つめます。
気持ちは分かります。でも……
「大丈夫です。心配しなくても私は必ず戻りますから」
「え……うん…………気を、つけてね…………」
「はい」
心配そうな表情はそのままですが、許してはもらえました。
そのことに私は感謝して、改めてある所へと向かいました。
黒千代が向かったところは……




