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参伍話 最後まで何が起きるかわからないものだ。

長らくお待たせしました

投稿再開です。

 この体に“自分”はいない。


 殺し屋に、意志は持たない。


 そう……感情など、葛藤など、必要ない。


 主義も思想も理想もない。


 あるのはただ、殺し屋としての本分のみ。


 体は弾丸。


 組織は銃。


 依頼は引き金。 


 弾丸は標的を追う。


 たとえ障害があろうとも、貫く。


 放たれた弾丸に逃げはない。


 ぶつかって、進んで、撃ち抜くのみ。


 止めるなら、弾くつもりで立ち向かえ。


 ためらうな、ためらうな。


 ただ、この体は標的へと飛ぶのみ。


 そう、飛ぶのみだ……



          1



 ゴッ…………!


 …………。

 ………………?


「あ……れ…………?」

「…………!」


 ど、どうしたのしょうか……?

 キノサキさんの拳が私の目の前で突然急停止しています。

 まるで見えない何かにぶつかったみたいに……


「【風障壁バリエヴェント】。まったく危ないところだった」

「…………え!?」

「!」


 だ、誰…………?

 仰向けに倒れているから見えませんが頭上の方から男の声が聞こえます。


「いや、すまない。いろいろと急いではいたんだが予想外の事態にあった。だが、なんとか間に合ったようだな。さて……」


 この声は……もしかして……


「とっとと嬢ちゃんから離れろ。迷い子!」

「!」


 厳かな声……

 キノサキさんがその声を聞くと同時に弾かれるように私の上から離れて距離を後ろへと跳んで距離を取りました。

 後ろへ跳んだキノサキさんが機械の眼鏡に手を当てて何かを呟きます。


「……モード移項、《神経拡張》停止」

「…………?」


 私はなんとか起き上がった後、すぐに声がした方へ視線を向けます。

 そこには……


「さてと、大丈夫かお前等。怪我はないか?」


 ……間違いありません。

 ロビィさんのお仲間さん探しに協力してくれた風精族しるふぃさん……


「た……隊長!!」


 おじさん……!

 ラネットさんから連絡を受けて駆け付けてきてくれたのですね……!


「ラネット、すまない。連絡を受けてからここまで来るに時間はかかったが、ちゃんと見つけることはできたか?」

「は、はい! ロビィの仲間は無事取り戻すことはできました!」

「そうか。となるとあとは……」


 おじさんが私達より前に出てキノサキさんを睨んで言います。


「あとはお前だけのようだな。迷い子」

「……ここにきて援軍ですか。しかも妖精でおっさんって詐欺じゃん」

「…………」


 キノサキさんは軽い調子で言いますけど、おじさんを警戒した様子見ています。

 それにしてもおじさんはキノサキさんの身体を見て驚かないのでしょうか?


「お前、あの時と同じ異様な姿をしている」

「あの時? ああ、こちらとヘールメースが思いっきり暴れたときの事か?」

「そうだ。だが、今もそうだがあの時のお前はもっと怪物じみた姿をしていなかったか?」


 え?

 今でも十分すごいと思うのですけど……


「……ああ、あれ(・・)ね。あれはヘールメースのバックアップがないと不可能だからね」

「……そうか、なら戦力を分けるのは間違いだったようだな」

「なに?」


 おじさん……

 もしかして……


「ここは我ら風精族シルフィ領! 我らになんの断りもなくここで暴れるつもりなら、お前とあの乗り物を我らの里へと連行する!」

「え…………!?」


 おじさん、キノサキさんと戦う気ですね。

 ラネットさんは驚いておじさんを見ます。


「嬢ちゃん、ラネット。お前等は手を出すな。この迷い子は俺が何とかする」

「ちょ……待ってください隊長!」


 ラネットさんが、息を絶え絶えにしておじさんを止めようとします。

 確かに、いくらなんでも一対一は……


「相手は確かアローン将軍相手に圧倒していた人ですよね!? いくら隊長でもたった一人で相手をするのは無茶ですよ!」

「それを言うなら向こうだって一人だ。それにお前は術の使い過ぎで疲労しているんじゃないのか?」

「うっ……それは…………」


 おじさんはどうやらラネットさんがもう戦えない状態であることをわかっているようです。

 だとしてもおじさん一人で殺し屋を相手にするのは……


「……また、面倒な奴が来たね」


 キノサキさんはやれやれと言いながらも、真剣な顔でおじさんから目を離さないで言います。


「確かにこちらとヘールメースが分断されている以上こちらが本気を出せないことに違いはないが、いくらファンタジーの住人とはいえこちらが負けるつもりはさらさらない」

「そうか」

「とはいえ、こちらの目的はあくまで標的の殺害であってお前たちじゃない。殺しちゃったら話せないし、どうやっても話しそうにない」


 でもキノサキさんは、歯を軋らせて機械の眼鏡つけた顔でおじさんを見据えます。


「だが! それで諦める気はない! 可能性が残されたまま任務を放棄するわけにはいかない!!」

「!」

「人間、痛みには結構弱いもんなんだぜ! そんでもってこの機械の身体は、残念ながら手加減なんて器用な真似ができないもんだからよぉ!」


 まさか……!


「というわけで……覚悟してもらうぜ!!」

「隊長!」

「おじさん!」


 キノサキさんが先ほどよりもさらに速くおじさんのもとに向かって走り出しています。

 また、おじさんが捕まったら……!


「今だ、縛れ!!」

「「「了解! 【捕らわれし妖精キャプティビィ・フィー】!!」」」

「ゴゲッ!?」

「!?」

「!」


 え!?

 今、おじさん以外にも別の声が……!?


「ん……んんん!? なんだぁ!?」


 キノサキさん……?


「体が……動かねえ……!?」


 え……?

 なんだかキノサキさんが急に足を止めて、身体を縮めています。

 そして身をよじらせて、もがいているようにも見えますが……


「【捕らわれし妖精キャプティビィ・フィー】…………対象者の周りの空気を固定させて対象者を捉える術……」

「ラネットさん、これはいったい……!」

「まさか……!」


 ラネットさんが突如周りを見渡しながら驚いたように言います。

 なにかわかったようですけど……


「かかったな迷い子。なにも倒すことが目的ではない。無力化できるのならなんだっていいわけだ」

「どういう……ことだ……!」


 えっと……おじさんが精霊術でキノサキさんを止めたのでしょうか?

 確かにキノサキさんは、まるで縄に縛られたみたいに腕と胴体が密着した状態で、もがこうにも動かない様子です。

 でもそんなそぶりはありませんし、それにさっき聞こえた声って……

 するとおじさんはなぜか周りを見渡して、そして言います。


「お前等、姿を現せ!」

「「「はい!」」」


 おじさんがなにかを言うと……


「!」


 すると突如おじさんやキノサキさんを囲うように沢山の風精族しるふぃさんが突然何処からともなくあらわれました。

 これって……


「ラネットさんが使っていた、姿を消すことができる……」

「【隠れ潜む妖精(ルーカーシ・フィー)】!? それもかなり精度が高い……!?」

「お前も気づいてないとはな。まだまだだな」

「う…………」


 と言う事は、おじさんが出る前か出ている時点で、もうほかの風精族しるふぃさんが準備していたという事ですか……!?


「センサーに反応しない……!? だ、れだ……そいつら……!」

「こいつらは風精族シルフィ領地調査隊、一班から三班の者でラネット達とは別の目的で調査をしてた者たちだ」

「え、それって……」


 たしか火蛇族さらまんどらさんが里へ攻めてきた原因を探していたとかいう人たちの……?


「ラネットから連絡を受けて急遽、俺を含む火蛇族サラマンドラの大軍の調査に出た班員を半分ずつお前等迷い子に分けたということだ」

「半分、だと?」


 すると突然キノサキさんが頭を伏せて小言でなにか言いだします。

 いったいなにを……


「…………!!」

「?」


 あ、れ?

 いきなり表情が変わりだしました。


「……やってくれたなヘイメン!」

「え…………?」


 どういう、ことでしょうか……?


「クックックック! やれやれここまでやられるともはや依頼を達成することは不可能になっちまいそうだねえ……」

「!?」


 それは、もしかして……


「いいだろう。だったらここは素直にこちらから退くとしようじゃねえか」

「!?」

「退く、だと? この数人がかりによる【捕らわれし妖精キャプティビィ・フィー】を解く気か?」

「はん! なめるなよ。すぅ~~~…………!」


 するとキノサキさんはいったん息を大きく吸って吐くと、


「! うぬぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!」

「…………!?」


 なにか、大きく声を絞り出して体に大きく力を入れているのですが、

 まさか……!


「無理やり拘束を解く気か……!?」

「待て! そんなことをすれはお前の身がただじゃ済まなくなるぞ!」

「おい、よせ!! やめろ!!」


 な、なんだか大変なことをしているようです。

 周りの風精族しるふぃさんが止める中キノサキさんは構わずに


「サァァァァァァァァァァァイボォォォォォォォォォォォォォグッッ!!」

「!?」


 すると、


 バキィ!!

 バキバキバキバキバキッ!!


「バ、バカな!?」

「拘束外しぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 ……どういうことでしょうか。

 ひとしきり叫んだあと、キノサキさんの両腕が自由になったかのように、肩が回り出しました。

 ということは……


「腕力のみで無理やり拘束を解いただと!?」

「バカな!? 一人ならまだしも数人分の拘束だぞ! それを力で強引に……」

「…………!」


 みなさん……

 想定外の事に冷や汗が……


「……くっくっくっく、大したことないな。妖精の悪戯ってのも……!」

「【捕らわれし妖精キャプティビィ・フィー】!」

「サドバッ!!?」


 え…………? あ……

 おじさんがもう一回、精霊術でキノサキさんを捕らえたようです。

 こんな時でもおじさんが冷静に皆さんに言います。


「お前等、もう一度一斉にやれ!」

「え……は、はい! 【捕らわれし妖精キャプティビィ・フィー】!」

「え、ちょ、ごあっ!?」

「【捕らわれし妖精キャプティビィ・フィー】!」

「なじぇ!?」

「これで!! 【捕らわれし妖精キャプティビィ・フィー】!」

「バゲッ!?」


 次々と調査隊の皆さんがキノサキさんに術を掛けます。

 そして……


「あ、あれぇ?」


 キノサキさんがもう動けないのか、微動だにしないようになってしまいました。

 隣でラネットさんが感心をしています。


「すごい……こんな短時間に素早く術を展開して……」


 皆さん……動揺したばかりなのに、おじさんの一言ですぐに統制をとって続けざまに動いています。

 そのおかげでキノサキさんに再び動き出す隙を与えずにもう一度拘束をしました。

 キノサキさんは困惑顔でおじさんを見ます。


「お、おかしいな……さっきより強い?」

「当然だ。無理やり拘束を解いたんだからそれより強くするに決まっている」

「…………!」


 さっきよりも強くしたために、キノサキさんはまったく動けません。

 勝負あり……ということですね。


「……はは、やられたね」


 キノサキさん……

 ……笑っている?


「あの……たった一人の子供の為にこんなにも出るとは……こうなっちゃあもう動けねぇや……」

「……つまりセーヴェさんは殺さないでくれるという事ですか?」


 ……よくわかりませんが、これは諦めなのでしょうか?

とにかくキノサキさんの言う通り力ずくで抑え込むことはできました。

 ここで退いてくれるといいのですが……


「ああ、そう言うことになるな」

「!」

「それは……!」


 キノサキさん……ずいぶんとあっさりと言ってくれます。

 ですがなんなのでしょうか……少し信じられない気持ちです。


「……あれだけ執念深く追っていたのに、退くのですか?」

「……確かに、こちらが殺し屋である以上依頼の遂行には力を入れるが、しかし標的または標的の護衛の力量差がはっきりと理解した以上素直に退かないといけない。勝てないとわかって戦うつもりはないんでね」


 ……勝てないとわかっていて戦わない。

 本当にこの人はほんの少しだけ似ています。


「やれやれ、殺すって宣言しておいて退くなんてかっこ悪いけど、無駄に損害を出したくないでしょ? お互い」

「…………」

「標的の周囲はずいぶん厄介なのが多い。おまけにこれ以上暴れてもこの拘束は解けそうにないし……」

「ということは……!」

「……だが、安心するにはまだ早い?」

「!?」


 え……?

 諦めてはくれないのですか……!


「任務には失敗したが、好機があればやるかもしれないし、依頼人がもう一度こちら側に依頼するか、はたまた別の殺し屋に依頼するかもしれないよ?」

「…………!」


 そんな……

 そんなことって……


「セーヴェさんが何をしたって言うのですか……!」


 どうして……どうして……!

 セーヴェさんのことはあまり知りませんが、それでも命を狙われることは理不尽なことです……!


「さあね。それはこちらに訊くんじゃなく、依頼主に訊くことだね」

「!」

「ま、もっともだれかは言えないがな」


 ……いったい誰なんですか。

 セーヴェさんに、殺すなんてことを言ったのは……!

 どうして…………!


「嬢ちゃん。話したいことはいろいろあるようだが、まずはこいつを里へ連れてからにしてくれ」

「…………」


 ……おじさん。

 ……そう、ですね。話したいことはたくさんありますが、後でも話せるのなら……


「……はい、わかりました」


 おじさんは速く問題を終わらせたいようですので、ここはおじさんに任せました。

 隣のラネットさんもとくに問題は内容です。


「お前もそれで構わないな」

「はは、好きにしろ。ヘールメースも捕まっちまったし、こっちだけは逃げられねぇ」


 あの自動二輪車おーとばい捕まったのですね。

 では、エイジットさんたちの方はもう大丈夫なのですね……!


「それとラネット」

「はい」

「お前はもう帰って休め。事後処理なら俺たちがやる」

「あ……はい……わかりました」


 そう言った後、おじさんと周りの皆さんは羽で空を飛んで里の方へと飛んで行きました。

 キノサキさんも、空中に浮かんだままおじさんについて行くように飛んでしまいます。

 あとには私とラネットさんが取り残されました。


「…………」

「…………」


 私も……


「……クロチヨ、ごめん」

「え?」

「私ったら……」


 ラネットさんはなにか言いたいようでしたけど……


「……ううん、大丈夫よ。なんでもない」

「…………」


 頭を振ってすぐに言おうとしたことを振り払いました。

 たぶん、ラネットさんは何か思う事があるようですけど……


「ラネットさん。いろいろと言いたいことはあるけど、でもセーヴェさんの約束を守ることはできました」

「え?」


 約束……

 里を出るときに、震えるセーヴェさんを安心させるためにしたあのことです。


「ロビィさんもロビィさんのお仲間さんも一緒に皆で戻るって。最後はおじさんに助けられましたけど、約束は守れました」

「…………」


 ……そうですね。

 たとえ命を護れても、それでも大事なことを護れなかったら……


「だからラネットさん。とにかく、里に戻ろ?」

「……そうね」


 キノサキさんのことがすこし気がかりですけど……

 今回はセーヴェさんを守ることはできましたので、私はラネットさんと一緒に里へ戻ることにします。


 あ……


「ちょっと待って、ラネットさん」

「ん? なに?」

「これ……」


 私は、少し離れたところにキノサキさんが脱ぎ捨てた上下の服と、私の銃で弾いたもう一つの回転式拳銃りぼるばーを見つけました。

 そのまま近づいて拾い上げます。


「これって……あの迷い子の服?」

「そうですね。返さないと……」

「え?」


 あれ?

 ラネットさんがなにか意外そうにこっちを見ていますが……


「クロチヨ。それ、武器なんでしょ? 返していいの?」

「え? でも、落し物は持ち主に返さないといけないし、キノサキさん多分裸みたいだから服を着ないと危ないかなって……」

「…………」


 改造とかなんとかいろいろと不思議ですが、このまま放っておくのはどうかと思いますし……


「……まあ、それがいいんならいいけど、でも里に帰っても会えるのはしばらく後よ。それは覚えておきなさい」

「うん、わかった」


ロビィさんたちの事も心配ですしセーヴェさんに会わなくてはいけないしやる事は多いです。


「そう、じゃあ帰るわよ」

「うん!」


 いろいろと思う事はありますが……

 なんとかキノサキさんを捕まえることが出来ましたので、私とラネットさんは里へと戻りました。

ひとまずこれにて、決着

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