参零話 知らないところで探すなら気をつけて行け。
ラネットさんが隊長と呼んでいた風精族さんのおじさんにしばらく待てと言われて、ひとまず本棚から本を出して読もうとしたのですが……
困ったことに字が読めませんでした。
想定外です。
言葉は通じますが文字のことに関しては全くです。
セーヴェさんもわからないようですので、どうしようかと思っていると……
「わたしが訳しましょうか?」
驚くことに、先ほどおじさんが呼んだ風精族さんのお姉さんが申し出ました。
私たちは驚きつつも、お言葉に甘えてお姉さんに通訳をお願いしました。
「すげぇ……!」
セーヴェさん。今後は感嘆の意味で驚きました。
お姉さんは先ほどの無表情で無口だった時とは違い、流暢に本の内容を訳します。
しかも、私やセーヴェさん、途中から入ったロビィさんを順番に、丁寧に訳してくれました。
訳してくれても難しい言葉が出ていましたけど、おかげでいろいろと不思議なことや面白いことがわかりました。
中には初めて月の口が開き始めてから、今の今までの迷い子のことが書いている記録もあります。
さすがに個人的な情報はまずいので、訳してはもらえませんでした。
と、しばらくお姉さんの通訳を介して本を読んでいると……
「待たせたな」
おじさんが大きな扉を開けて戻ってきました。
ラネットさんは……いませんね。
「あ……! じゅ、準備できたのですか?」
おじさんが戻ってくると、さっそくロビィさんが急いだ様子でおじさんに詰め寄ります。
「逸る気持ちもあるが落ち着け。まあ、班決めは終わったが準備はあと少しってところだ」
「え? じゃあどうして……」
準備が終わっていないのにもう呼びに来たおじさんにロビィさんが疑問に思っていると、おじさんがセーヴェさんを見て言います。
「準備が終わる前に坊主を預ける場所を案内しないといけないだろ」
「え?」
「あ……」
そういえば今朝ラネットさんがそのことを言っていましたね。
ロビィさんは今朝ラネットさんの言ってたことは聞いていませんでしたが、これからどうするのかは察しました。
セーヴェさんを専用の所へ預けるためにおじさんが来たのですが……
「その必要はねえよ」
「!」
先にセーヴェさんがそう言うのですが、必要ないって……
「あ、いや……」
と、セーヴェさんは少し慌てて、おじさんが相手だからでしょうか、かしこまって言い直します。
「あ、あの……お願いがある」
「?」
お願い?
いったいなんでしょうか?
「なんだ、坊主」
「もう少しだけオレをここに置いてはくれないか?」
「なに?」
言っていることはお願いだからでしょうか、ほんの少し慎んで言っていました。
「いったいなぜだ?」
それに対し、おじさんはどうしてなのか理由を訊きます。
「オレ、もう少しだけここの本を読みたいからだ」
え?
セーヴェさん、本を読みたいって、通訳しないと読めないけど……
「子供が読むような面白いものはないぞ」
「構わない。だからお願いだ。もう少しだけここにいさせてくれ!」
セーヴェさん、なんだか必死な様子で頼みますけど……
「駄目だ」
「!?」
「ここは仕事場だ。悪いが見せられない資料もあるため、班員たちが忙しいなか、ここに置いて行くわけにはいかん」
「そ、そこはなんとかしてくれ! 頼む!」
「セ、セーヴェ君……?」
ロビィさんもセーヴェさんを不思議そうに見ていました。
さっきまでは静かなのにいきなりどうしたのでしょうか?
よくわかりませんかセーヴェさんが必死な様子がわかりましたので、
「あの、すいません」
「ん?」
必死なセーヴェさんに、私もおじさんにお願いをしました。
「では、いくつか気になる本を借りて、預かった先で読ませるのは駄目でしょうか?」
「三咲さん!?」
ロビィさんが驚いていますが構いません。
「お前、なんで……」
セーヴェさんは私が続けてお願いするとは思わなかったからでしょうか、驚いています。
私はセーヴェさんに一つ確認をしました。
「セーヴェさん。なにか気になる本があるのですか?」
「え? あ、ああ……少し……」
「…………」
それがいったい何なのかはわかりませんが……
おじさんはしばらく考えるとセーヴェさんに言います。
「坊主。お前が借りたい本ってのはどれだ?」
「あ、ああ! 確か……!」
と、セーヴェさんはお姉さんにいくつか本の題名を訳してもらい、その中から気になる本を選びます。
「ひとまずこれとこれとこれだ!」
選んだのは……文字が読めませんので題名がわかりません。
しかし、おじさんは題名を読むと少しだけ考えて、
「まあ、その本ならいいだろう。持って行け」
「あ、ありがとう!」
どうやらおじさんは許してもらえたようです。
何の本なのかは解りませんが……
「それじゃあこれより風精族領内調査隊は調査に出るとする。ついてこい」
おじさんが私やロビィさんを見て
「は、はい!」
「はい」
私もロビィさんもしっかりと返事をしました。
2
おじさんに続いて私たちが仕事場である建物から出ると、入口あたりでラネットさんが待っていました。
「お待たせ、みんな。私もロビィの仲間の調査に出ることになったわ。よろしく」
「ラネットさん……」
ということは私とロビィさんとラネットさん、あとは数名で探しに行くと言うことですね。
でも、他の皆さんはどちらに……?
「私以外の人はもう里の出口付近で待っているわ。あとは私達だけよ」
ラネットさんが私の視線に気がついて、先に説明してくれました。
「あとはセーヴェを保護するところへ案内するだけだけど……」
と、続けようとして気が付きました。
後ろにいるセーヴェさんが何冊か本を持っているからです。
「それ……隊長の持っている本じゃない。しかもその本……なんであんたが?」
ラネットさんが怪訝な表情になってセーヴェさんを見ます。
その様子におじさんが横から先ほどの事を説明します。
「大丈夫だラネット。ちゃんと俺が許可を出した。なんでももっと読みたいって言うから特別に貸した」
「隊長、いいのですか? だってその本って……」
ラネットさん?
「まあ大丈夫だ。対して問題はないだろう」
「?」
よくわかりませんね。
ラネットさんが本について追及しなくなった後、おじさんがラネットさんにあるものを出します。
「ラネット。これを持って行け」
「? これって……」
取り出したのは……なんでしょうか?
一見すると緑色に輝く綺麗な石みたいなものなのですが……
「これって風聞石ですね? なんでまた……?」
「これは今回の任務用に俺が改造したものだ。まあ俺の場合は火蛇族の大軍及びその将軍たちの調査であり、お前らとは同行できないが……」
おじさんは念を押すようにラネットさんに渡した石に指を当てて言います。
「もし、あの危険な迷い子がお前等の前に現れ、危険な状況になったらそれを使え。すぐに俺が駆けつける」
「隊長……解りました」
そう言うとラネットさんは石を懐にしまいました。
もしかして通信機みたいなものでしょうか?
「それじゃあ気を付けて行けよ」
「はい。わかりました」
そう言っておじさんは先に街の外へ行ってしまいました。
「それじゃあ、私たちも行かなきゃね」
「そ、そうね。じゃあ……
そして、いったんセーヴェさんとお別れの時です。
先ほどとはまた違うお姉さんに、保護するところへと案内していくところです。
セーヴェさんが別れ際に言います。
「なあ…………」
「? なに?」
「…………怪我とかするんじゃねーぞ」
セーヴェさん……言葉はとにかく心配した目で私たちを見ています。
「正直オレはもう……逃げたくはないと思っている」
「?」
セーヴェさん……なんだか疲れたような表情ですけど……
「オレが逃げるたびに……オレを逃がしてくれた人がみんな怪我をしている」
「セ、セーヴェ君……そんなの気にしなくて……」
「でも!!」
「!」
ロビィさんが慰めようとすると先にセーヴェさんが大声で言い、その後だんだんと弱気になっていきます。
「でも、オレは……もう……オレのために……その……」
多分……これ以上は言わせてはいけません。
私はそう思い、セーヴェさんに近づいて、同じ高さにしゃがみます。
そして……
「……? なにを……」
「セーヴェさん。大丈夫だよ」
ギュッ、と
「ちょ、おい!?」
「ちょ、クロチヨ!?」
「え……三咲さん!?」
私は安心させるように、優しくセーヴェさんを抱きました。
身体からは不安であることが伝わるように感じます。
とにかく、不安を取り除こうとゆっくりと安心させるように言います。
「私が……ううん、私たちがロビィさんやロビィさんのお仲間さんを護るから」
「! クロチヨ……」
私は……私だけで危険なことはしません。
ラネットさんに辛いところは見せられませんから……
「でも、あいつは強いと思う。そんなのお前一人じゃ無理じゃねーか!」
「うん。だから私は……私にできることを全力で頑張る」
「なに……?」
「少なくても、私の目的は護ることだから……」
セーヴェさんが言うあいつがどれほどなのかはわかりません。
でも、今の目的はロビィさんのお仲間さんを助けることだから……
「だから、私たちを信じて待ってて」
「お前…………」
すると、セーヴェさんの体から一瞬緊張が抜けたことが伝わりましたが、なぜかそのあとまたこわばらせて……
「……わ、わかったから離せ! 安心するから!」
と、セーヴェっさんがなぜか怒って私から離れてしまいました。
あれ? もしかして、嫌だったのかな……
お母様の言う通りにしたのですが……
「クロチヨ。今のは子供だから大丈夫だけど……」
「え?」
「……なんでもない」
ラネットさん、今何か言ったようですけどなんだったのでしょうか?
「じ、じゃあ……絶対帰ってくるんだぞ! 絶対だからな!」
と言って、なぜか私が返事をする前にお姉さんを連れて先へと走って行ってしまいました。
よくわかりませんでしたけど……
「……うん。約束する」
その言葉は護らないといけません。
怪我をしないように帰りますから。
3
そして、街から出て山から降りた所。
他の風精族さんと合流した所でラネットさんがロビィさんに訊きます。
「ロビィ。あんたの仲間の居場所ってわかる?」
「う、ううん。発信機とかあるんだけど……壊れちゃったのか来ないんだけど……」
「最初に会った時のあの機械は?」
「あれも……無理」
本当に見つかるかどうか不安げな表情でつぶやくラネットさん。
しかし、
「大丈夫だ!」
と、安心させるような大きな声が聞こえます。
声をした方に視線を向けると、体の大きいおじさんがいいます。
「この風精族領内調査隊、第六班と……」
おじさんが周りを見て、
「先に別の方へ行っているが、第七班が全力でサポートする!」
「みんな……」
今回の調査に協力してくれた調査隊の皆さん。
ここにいる班は一つですが、この人たちはあくまで同行であり、もう少しだけ他の班が別の方向へ探しに行っているという事です。
つまり、結構な人数がロビィさんに協力的です。
「何処に居るのが解らなかろうがそれを見つけるのが調査隊だ」
「だから、心配せずに素直に頼ってくれ」
調査隊の皆さんの声に……
「はい!」
ロビィさんが嬉しそうに返事をします。
「それじゃあこれより、この風精族領内で迷い、怪我をした迷い子の捜索を開始する!」
「「「はい!」」」
班長らしき人の掛け声に皆さんは大声で返事をしました。
「それじゃあ行くよ、クロチヨ」
「はい」
私も頑張ろうと心の中で強く思いました。




