弐玖話 対談では座る場所などにも技術がある
白零「最近こうも出番がないとなんと言えばいいやら……」
昨日は本当に大変でした。
新しい迷い子のロビィさんやセーヴェと出会ったり、ラネットさんの故郷が燃え上がってしまったり、その中でラネットさんが辛そうにしていたこともありました。
ですが、面と向き合って話し合ったおかげで何とか不安になったことは解消されました。
ちなみにその後ラネットさんの部屋で寝ることになりましたが、この部屋で一つしかないべっどはセーヴェさんが入ってしまったため、私たちはそれ以外で寝るしかありません。
ロビィさんが『この家はラネットさんの部屋しかないのですか?』と言ったのですが、それに対しラネットさんが『ここは一人暮らし用だから最低限の部屋しかないの』という事ですので仕方がありません。
となると、さすがにセーヴェさんを途中で起こすのはかわいそうなので、ラネットさんは毛布を取り出してロビィさんと三人で寄せ合って眠ることにしました。
壁際に寄りかかる形ですが、私の場合壁立て掛け寝以外はどんな姿勢でも眠ることはできました。
そして、次の日の朝です。
朝日が昇ると同時に、私は自然と目が覚めてきました。
少しづつ時間をかけて、徐々に徐々に意識がはっきりとしてきました。
私が起き上がると、先に起きたラネットさんが挨拶をします。
「おはよう。クロチヨ」
「ラネットさん。おはよう」
ラネットさんはすでに寝巻からいつもの軽い衣服に着替えていました。
私も、畳んで置いてあった和服を取ります。
セーヴェさんはべっどからまだ出てきていません。
ロビィさんもまだ毛布にくるまったまま寝息を立てています。
「ロビィさんとセーヴェさん、起こそうかな?」
今時間はどれくらいなのかはわかりませんが、外は明るいですしもうそろそろ起きてもいいのではないでしょうか。
「そうね。まだ時間はあるけどこの後一緒に行かなきゃいけないところがあるからね」
「え? どこへ?」
一緒に行く?
いったいどこへ……
「調査隊の所よ。昨夜の事について、ロビィたちは一応目撃者だからね。なにかヒントみたいなものがあるかどうか訊いてみないと……」
「それって、火蛇族さんの事? それとも殺し屋の追手の事?」
「両方よ」
昨夜の事はラネットさんでも分からないところが多かったようです。
そのために、ということですね。
「調べるところはいろいろあるわ。今日は大忙しだからね」
「うん」
私は和服に身を包み、中の持ち物も問題ないかどうか確認しました。
どれもこれも大丈夫なようです。
と、私が確認をしているとラネットさんが気になることを言い出しました。
「それに迷い子だって、ここじゃなくて正式な所で保護しないとね」
「正式な所?」
「そうよ」
それってどういう事でしょうか?
まだ説明してなかったわね、とラネットさんが疑問に思ったことを続けて説明します。
「風精族にはね、帰れなくなった迷い子を次の月の口が開くまでに保護するところがあるの」
「そうなの?」
それは……まるで施設みたいですね。
「今日、ロビィの仲間を捜索するにあたって、ロビィはどうか知らんけどセーヴェの方は里の外へ出すわけにはいかないでしょ?」
「捜索…………」
そう言えば……
「あの……ラネットさん」
「ん、なに?」
私はふと、一つ疑問に思ったことを訊きました。
「昨日ラネットさんはロビィさん達の問題ってこの領地の中で起こっているから騎士団を派遣するとか言ってたね」
「ええ、そのはずだったけど……」
ラネットさんは暗い顔になって少し下を向けます。
私には何なのか、察しました。
「今は……無理なのですか?」
私はそのままの意味で訊くと……
「多分、無理かもしれないわ」
ラネットさんは辛そうに言いますけど……
私にはある程度予想していました。
「里の騎士団は皆昨夜の戦いで負傷している。それが大きかろうと小さかろうと変わりないわ」
「そう、ですか……」
「それに、里自体もダメージがあるため、今この里を護る騎士が離れていくのは……」
だとするとロビィさんのお仲間さんを探しに行くのは最少、私とロビィさんの二人だけなのかもしれません。
追手もまだいる中それは大変そうです。
「まあ、まだだれがどこを調査するかはこの後決めるけど、ロビィの仲間の捜索はなるべく協力してもらえるように頑張ってみるわ」
「……うん。わかった」
ラネットさんと少しだけ話した後、私はロビィさんとセーヴェさんを起こしました。
途中セーヴェさんが寝起きから突然驚いた様子でしたけど少しだけラネットさんの部屋を見回して、
「やっぱり、夢じゃないんだな……」
と、呟きました。
セーヴェ君は最後まで幻界の事には否定的でしたけどやがては認めました。
ロビィさんは朝に弱い方でしたので起き上がるのに結構時間がかかりました。
先に起きたセーヴェさんが「早く起きろ!」と、怒鳴ったことではっきりと意識を戻したようです。
その後はラネットさんがあらかじめ買っていた朝食を食べて、軽く湯浴みをして、外に出る準備をしました。
ロビィさんの場合髪がとても長かったために三つ編みするのに時間がかかりました。
セーヴェさんはそのことにかなりイライラしてましたけど、結局待ってくれました。
そして準備を終えると、私たちはラネットさんの家を出て中央に見える巨大な宮殿のようなところを目指しました。
その途中の街中で……
「わ、わぁ……! 妖精……じゃなくて風精族がいっぱい…………!?」
「本当に夢だと疑いたくなるよ……」
その途中、当たり前ですが街中には沢山の風精族さんがいました。
ロビィさんは驚いて周りを見たり、セーヴェさんが頭を抱えています。
私も、オーリエ村はそんなにいなかったですので、これだけの大人数を見るのは少しだけ驚きました。
逆に風精族さんの方は、人間について教えたり、迷い子を保護するところがあるという事で人間にはそう珍しいわけではないと言う事だと思いますが……
なんでしょうか? 時々珍しそうにこちらを見ていますが……
「……気にしないでクロチヨ。人間自体が珍しいんじゃなくて、その変わった衣装が珍しいのよ」
「え? 和服がですか?」
「そうよ。私だってその服、あんたに出会った時、初めて見たわ」
「そうですか?」
確かに、リュンピさんの所は英吉利でしたから、風精族さんはどこにつながっているかはわかりませんが、和服が珍しいのはわかる気がします。
「あ、あの……ラネットさん」
「ん? なに?」
ロビィさんが周りの目に少し怯えつつもラネットさんに質問しました。
「こ、こんなにも……風精族が多いのは、入り口辺りがあんな惨状だから?」
入り口……つまり街の外側辺りの事ですね。
確か昨夜では建物がひどい状態にされてましたけど……
「ええそうよ。現在、町の外側は復興中ってことで、そこら辺の住人には中央付近に仮住まいをさせてもらっているわ」
「そんなこと、可能なのですか?」
里の外側は結構な数の被害がありました。
その分だけ住民を中央に移すにはそれだけ負担が多いと思うのですが……
「もちろん可能よ。どんな時でも昨夜のような突然の出来事が起きた時のために備えているのよ」
「そ、そうなの?」
「ええ。何者かが里へ攻めた時に一番被害を受けやすいのは外側の町よ。だから中央にはもしもの時のために外側の人たちを受け入れるための仮設住宅が数多くあるの」
ずいぶん用心深く考えているのですね。
「里の外側が一般住宅であることに対し、中央は基本的に商業や工業といった里の重要な所が多いわ。あとは騎士団や調査隊に、精霊術師用の住宅があるのよ」
「じ、じゃあラネットさんの住宅が中央あるのは……ラネットさんも……」
「ええ、私は調査隊だからね」
ラネットさん……私と歳はあまり違わないのにもう家持ちなのですね。
すごいです。
「あそこからだと詰所からはそんなに遠くないし、いつ呼び出しが来てもすぐに駆けつけることができるからね」
「へぇ……」
ですけど、あの家は明らかに一人暮らし用でしたけど……
私やロビィさんが里に着いて質問し、ラネットさんがそれを応えたりしながら目的地へと進んでいます。
セーヴェさんはずっと何も言わずに黙ったままですが……大丈夫でしょうか?
と、ある程度街中を進んだ私たちは……
「あら? ラネット? ラネットじゃない!」
「え?」
突然横から若い女の声が聞こえました。
私たちはすぐに声がした方へ視線を向けると……
「あ……!」
「いつのまに里に帰ってきたのよ!?」
そこには、長い茶色の髪に背が高い細身のお姉さんでした。
もちろん背中にも大きな羽があります。
ラネットさんを知っているのでしょうか? 驚いた様子でこちらに向かって走ってきます。
それになんだかラネットさんにどこか似ている気がしますが……
「ラ、ラネットさん……お姉さんかなにかですか?」
ロビィさんが真っ先に思ったことを訊きます。
するとラネットさんが「えっ?」と言うような表情になって、すぐにロビィさんの言ったことを否定しました。
「え? 違うわ。この人は……」
「ラネット!」
「うわぁ!?」
ラネットさんが返事をする前に、お姉さんがラネットさんに抱きつきました。
いきなりでしたので、ラネットさんも私達も驚きます。
「まったく! 連絡もしないで里から長く離れて……!」
「ちょっ! ちょっと待って!」
お姉さんが、ラネットさんをぎゅうぎゅうに強く抱きしめています。
抱きしめられている本人はちょっと苦しそうですけど……
「心配させたのは謝るからちょっと……放して!」
ラネットさんは強引に、お姉さんの腕から離れました。
「んもう、つれないね……」
ちょっと残念そうにお姉さんはラネットさんから離れました。
「まったく……だからそう強く抱きしめないでよ……」
「そういわないでよ。心配したことは本当なんだし」
「……まあ、それについては謝るけど……」
ラネットさんは少し俯いて、小さく言いますが……
「んふふ、いいのよ。無事だってことがわかればそれでいいわ」
お姉さんがニコっと笑って軽く答えました。
さわやかな人です。
「あ、あの……どちら様ですか?」
と、ロビィさんがお姉さんが誰なのかを訪ねました。
お姉さんはロビィさんや私を不思議そうに見ます。
「あら? ラネットのお友達かしら」
「まあ、そういうものよ」
「へえ、人間のお友達は珍しいね」
と、嬉しそうに笑ってお姉さんは自己紹介しました。
「初めまして。私はアデル。ラネットの母親です」
「「え……?」」
軽い調子で自己紹介するお姉さんにロビィさんと、あとセーヴェさんが同時に声を発します。
そして、
「「母ぁ!?」」
二人とも同時にラネットさんの母親と名乗ったアデルさんを見て驚きました。
「あら? そんなに驚くことだったかしら?」
なんで驚いたのかわからないアデルさんが首を傾げます。
「あ、す、すいません……ただ、その、若々しく見えましたのでお姉さんかと……」
「あら、嬉しいことを言うわね」
ロビィさんがたどたどしい言葉で思ったことをそのまま言いました。
確かに……アデルさん、ラネットさんのお母さんにしては若く見えます。
お姉さんって言っても不思議に思わないくらいです。
「ああーまあ……そこに関してはあんまり追求しないで」
「?」
ラネットさんどうしたのでしょうか?
なんだか疲れているようですけど……
「ラネットさんのお母さんってラネットさんとは別で暮らしているの?」
「ええ。私の両親は外側で暮らしているの。でもここにいるってことは……」
ラネットさんは恐る恐るアデルさんに確認します。
すると……
「そうよ、ラネット! 私の家ももれなく全壊しちゃったのよ!」
「ああ……そう……」
案の定想定した通りだったらしいです。
ラネットさん、大丈夫でしょうか?
「だからね! 対処として用意した施設よりも娘の一人暮らしでしばらくしようかな、ってお父さんと相談したんだけど……肝心のあなたがいないから……」
「ごめん。一日遅れだったわね」
「そうよ! いつの間にか里からいなくなるなんて、私もお父さんもびっくりしちゃったわよ!」
アデルさん……ラネットさんが里から出たこと、気づいていなかったんですね。
「で、あの家でしばらく住んでいい?」
「……良いわよ。でも、一人暮らし用だからいろいろ不便があるけど……」
「大丈夫よ! 家が元に戻るまでだから!」
と、一息ついたようで次にアデルさんは私たちの方に視線を向けます。
「それで、あなた達の名前って、なんていうの?」
アデルさんが名乗りましたので私たちも名乗ることにしました。
「私は三咲黒千代と申します。ラネットさんの友達です」
「あら! 礼儀あるね! こんなかわいい子供が友達!?」
「きゃ!?」
アデルさん……なんで突然抱き着くのですか……?
「ちょっと待って! いきなりすぎて戸惑っているから待って!」
「あぅ!」
いきなりの事に困惑しているとラネットさんが後ろからアデルさんを引き剥がしました。
「んもう、ラネットったら……」
「ちょっとは慎みなさいよ!」
ラネットさん、怒ってはいますけど悪い意味ではない風な怒り方です。
するとラネットさんがなぜか私に頭を下げるのですが……
「ラネットさん?」
「ごめんクロチヨ……うちの母は自分の好みの子なら何でも抱き着くような人だから……」
ラネットさん……
「大丈だよ。ちょっとびっくりしちゃったけど」
「まったく……いい歳して自重しないんだから……」
ラネットさんはまるで何回も言っているような感じでアデルさんの事を不平に言いました。
ちなみにその頃……
「ロ、ロビィ……ロビィ=クルールです」
「あら! そんなに緊張しなくても大丈夫よ!」
「わっ!」
今度はロビィさんにも抱き着いていました。
「ちょ、まって……やめ……!」
「だからそう言うのはやめてって言ってるでしょうが!」
またしてもラネットさんはアデルさんをロビィさんから引き剥がして叱っていました。
「…………」
なんだか不思議です。
当たり前ですけど、アデルさんはラネットさんより年上です。それなのにラネットさんは遠慮なくアデルさんに言います。アデルさんもラネットさんを茶化したりと楽しそうです。
自然と力が抜けている様子を見て私は一つある言葉を思い浮かべました。
「母娘……」
ちょっとだけ考え事をしたのですが、すぐに考えるのをやめました。
しばらくして、
「ちょっと母さん! これから私は調査隊の所に行かないといけないんだから!」
「あらそう? だったら悪いことをしたわね」
と、素直に身を引くと残念そうながらも踵を返しました。
そして、
「じゃあまた今度、ゆっくりと話でもしましょ」
と、アデルさんはこちらに片目を瞬いて、行ってしまいました。
「もう……ごめんね。うちの母ったら本当に自重しないんだから……」
ラネットさんは恥ずかしそうに謝りますけど……
「だ、大丈夫だよう……怖い人じゃなかったし……」
「オレは……いや、抱き着かれなくてもいいけど……」
私にはそれがちょっとだけ羨ましく思いました。
「それじゃ、気を取り直していきましょ」
「はい」
私たちは止めた足を動かして、再び目的地へと進みました。
2
途中でいろいろとありましたけど、ようやく目的地に到着したそうです。
「着いたわ。ここが風精族領地調査隊の詰所よ」
「ここが……」
ついたのは宮殿の近くにある、大きな建物でした。
外見上、あまり目立った特徴はありません。三階建てなのが他と違うところですが……
「じゃ、行きましょ」
「は、はい……」
「わかりました」
「…………」
セーヴェさんは沈黙したままで、ロビィさんが緊張した様子で返事をしました。
ラネットさんを先頭に建物の入り口の扉を開けます。
みんな続けて中に入りました。
「おはようございます!」
入口へ入ると、まずは受付さんでしょうか? 入り口と対面になるように風精族のお姉さんが座っていました。
ラネットさんが受付さんに、初めに挨拶をして次に自分の事について話しました。
「風精族領地調査隊の第四班所属のラネットだけど……」
「あ、はい! ラネットさんですね! 少々お待ちください」
「わかったわ」
と、受付さんが何かを唱えると独り言のように話していました。
もしかして通話でしょうか?
しばらく受付さんのやり取りを眺めていると……
「お待たせしました。隊長がお待ちですので、ついてきてください」
「わかったわ」
受付さんが席を離れ、別の受付さんを呼んで先ほどの席に座らせると、こちらを案内するように横にある階段を上ります。
ラネットさんと、続いて私たちが受付さんについていきました。
その途中、
「あ、あの……ラネットさん。班とか隊長とか、どういう構成になっているの?」
ロビィさんが調査隊の事に疑問を思い、ラネットさんに質問しました。
「ああ、簡単よ。調査隊って言うのは一人の隊長と八人の班長とあとは複数の班員でできているわ。班員の数は一つの班に最大五人。大掛かりな調査の場合は複数の班で行うの」
「え? じゃあ、班長の数は八人で一つの班に五人ってことは、班員は四十人ってこと?」
「いいえ、もっといるわ」
足元を確認して上りつつ、説明は続きます。
「班員は私を含めて大体どこの班に所属するのかは決まっているの」
……確かにラネットさんは第四班所属って言ってましたね。
「で、余りがいる場合は調査内容ごとに班員を選別するってこと。だから……」
と、ラネットさんはほん少しだけ辛そうな表情になって……
「仮に班員の一人や二人が抜けても、班自体は大丈夫なのよ」
「なるほど……」
意外と大人数で構成されているんですね。
「ま、風精族の領地は広い上に厄介な隣国もいるからね。いろいろと必要にされる所が結構あるのよ」
「そ、そうなんだ……」
ラネットさんの説明を聴いたあと私たちは階段を上り切り、その先にある大きな両開きの扉にたどり着きました。
コンコンッ
と、案内してくれた受付さんが扉をたたきます。
そして、受け付けさんはすぐに内容を言いました。
「隊長。第四班のラネットさんと、そのお連れ様が来ました」
「わかった。入れ」
返ってきたの威圧感があるとても渋い声でした。
返事を聞いた受付さんは「失礼します」と言うのと同時に、大きな両開きの扉の片方を開いて中に入りました。
受付さんに続き、ラネットさん、ロビィさん、セーヴェさん、私の順番に部屋へ入ります。
その部屋の中の事ですが……
「うわ……!」
「すげ…………!」
ロビィさんとセーヴェさん部屋を見回して驚きの声を上げました。
部屋の隅に、沢山の本棚と隙間なく詰められた大量の本が置いてあり、それだけで入って来た人を圧迫するような存在感がありました。
さらに、部屋の向こうにある窓際の机には大量の紙が、もうすぐ天井に届きそうなくらいたくさん積んでありました。
相当の量の何かが書かれているようです。
そして、その机とは別に応接用でしょうか、一つの机とそれを挟むように長椅子が二つ設置されています。
その長椅子の向こう側の方に風精族さんのおじさんが座っていました。
青江さんと同じくらいでしょうか? ゴツゴツとした体つきにしわが多い顔が印象的でした。
おじさんは座ったままラネットさんに挨拶します。
「おはよう、ラネット」
「はい。おはようございます、隊長」
敬語で喋るラネットさん……初めて見ました。
ロビィさんもセーヴェさんも緊張しているようです。
おじさんは私やロビィさん達を見て、ラネットさんに確認をします。
「この人らが、一昨夜の迷い子か?」
「はい。正確にはこの子だけは別の里から迷い込んだ人間です」
「そうか……」
ラネットさんが私を指して捕捉するとおじさんは何か考えながら返事をします。
一昨夜……火蛇族さんが襲ってきて、ロビィさん達が迷い込んだ日の事ですね。
「あ、あの……ロビィたちは大したものは見ていませんし……期待させるほどの情報は持っていないのですが……」
何を話すのか想像したロビィさんが、あらかじめ前置きをしますが……
「ああ大丈夫だ。何も話してほしいのはそう言う事じゃない」
「え?」
「この後行う調査に、君たちの意見も聞きたいことだけだ」
と、いったんおじさんが話を区切ると、おじさんから対面上にある長椅子を指して……
「まあ、とにかく話は座ってからだ」
私たちに椅子に座るように促しました。
「は、はい……」
「失礼します」
私たちはひとまずおじさんとは対面にある長椅子に座ろうとしたのですが……
「ああ、ちょっと待て」
「?」
いきなりどうしたのでしょうか?
おじさんが私達が椅子に近付くと突然制止の声をかけました。
その後、なぜか紙がたくさん積んでいる机の所へ行くと……
「さすがに四人は座るのは無理そうだから……」
そこから一人用の椅子を引っ張り出して、中央の机の横に置きました。
そして、なぜか……
「ほら、坊主。座れ」
「?」
なぜかセーヴェさんを指名します。
すると、
「あ、ありがとう……」
「?」
なぜかセーヴェさんが感謝をして、一人用の椅子に座りました。
もう座っていいぞ、とおじさんが言いますので私はよくわからないまま、長椅子に座りました。
私とロビィさんが両端でラネットさんが真ん中です。
確かに、これだといっぱいいっぱいですね。
おじさんが一度私達から後ろにいる受付さんに視線を変えます。
「お茶を頼む」
「はい」
受付さんは返事をして、大きな扉を開けて部屋を出ました。
そして、扉が閉まる音が響くと同時におじさんは切り出します。
「さて、そんじゃ話し合いをするか」
おじさんは一旦体を伸ばすと、真っ直ぐな姿勢に改めて言います。
「火蛇族の大軍の調査とは別の、あの危険な迷い子の事についてだ」
その言葉を聞いたロビィさんとセーヴェさんの身体がわずかに震えた気がしました。
3
おじさんと話し合いが始まってしばらくの事です。
受付さんがお茶を出して、その後へ部屋から出て以降話は着々と進みました。
話し合っているのは主におじさんとロビィさんが主で、ラネットさんは幻界についてわからないところを捕捉するように、セーヴェさんはほとんど何も言わない状態でした。
その結果……
「そうか……頼まれて人を殺す、か……」
おじさんは深刻そうな表情で呟きました。
ロビィさんが見せた写真の……あの殺し屋さんの事について話し終わったことです。
「最近の人間はずいぶんと強いんだな」
おじさんが呟いた一言にロビィさんが「えっ?」と言いました。
「べ、別に全員が全員そういうわけじゃ……」
おじさんはキノサキさんが火蛇族さんと戦うところを見たと言っていました。
その時のキノサキさんでしたが……
「ああ。まだ正直信じられないがまあいい」
おじさんはほんの少し悩むだけですぐにどうするべきかに切り替えました。
「どちらにしろ、火蛇族の将軍に対抗する力……それだけならまだしも、あの時の容赦ない暴れ方に、殺し屋と呼ばれる職業。放っておくわけにはいかない」
「では、捕縛するという事なのですか?」
「そうだ」
おじさんはどうやらキノサキさんを捕まえようとしますが……
「待てよ」
と、ここで先ほど無言だったセーヴェさんがおじさんの言う事に反対しました。
「あいつ……オレを追っている人間は色々とやばいやつだ。余計なことをして怒らせたらどうするんだよ」
セーヴェさんは突っかかるように言いますけど……
不安なのでしょうか、心配しています。
「問題ない。調査隊ってのは危険な所に行くことだってあるんだ。心配する必要はない」
「……そうかよ」
セーヴェさんはあまり追及はしないで、そのまま黙りました。
おじさんは怒ったりしないで続けます。
「とはいえ、あの人間が厄介なのは直に見た俺でも分かる。無理なことはしない。あくまで里まで同行させて、大人しくするようにさせるだけだ。なぜなら……」
おじさんは頭を抱えて悩ましげに言います。
「隣国はどちらとも人間に対しては肯定的ではないからな……」
「そうですか……」
えっと……片方については解りませんが……
何も知らないままその人が火蛇族さんの所に流れ着いたら大変なことになるかもしれませんってことですね。
「だがまあ、迷い子捜索の編成をする前に一つ確認したいことがる」
「え?」
おじさんは一旦区切ると視線をロビィさんに向けました。
突然おじさんに真顔で見つめられているロビィさんが「え、え? 私?」と、狼狽えています。
「確かお前とそこの坊主はその迷い子に追われているんだったな」
「は、はい……そうです……」
「主に目的はそこの坊主の命、と?」
「は、はい。なぜなのかは……言えませんけど……」
おじさんは何度もセーヴェさんの事や追われている経緯を訊きましたが、頑なに答えませんでした。
そのためおじさんはこれ以上訊かないと折れたのですが……
「お前はこの坊主を護るために動いている」
「はい。そうです」
「そのために、仲間を囮にしてもか?」
「「…………!」」
おじさんの一言に部屋は緊張の空気に包まれます。
ラネットさんは慌てておじさんにどういうつもりなのか訊きますが……
「隊長! それは……」
「ラネット。お前は黙っていろ」
「…………!」
ラネットさんが言おうとしたことを先に止めました。
おじさんは続けます。
「ロビィ=クルール……だったか? お前はそこの坊主を殺し屋とやらから逃がすために仲間二人を囮にして逃げた、と……」
「はい……」
セーヴェさん……
先ほどから黙ったままですけど、唇をかんでいます。
セーヴェさんもそのことに否定的でした。
「坊主を逃がすためなのならまだいいが何故お前自身も逃げる必要がある」
「…………!」
少しだけ責めるような言い方ですけど……
もしかしておじさん……
「ロビィは……何があっても目的を忘れてはいけません。それはあの二人も同じです。それに……」
「それに?」
ロビィさんは、おじさんの瞳を真っ直ぐ見て断定します。
「仲間のために子供が死んじゃったら……ロビィは後悔します」
「……そうか」
ロビィさん…………
「じゃあもしお前は、仲間を助けるため、坊主を護るためなら体を張れるか?」
おじさんは真剣な瞳でロビィさんを見つめます。
ロビィさんは不思議と全く怖気ることはなく、
「はい」
と、ただ一言答えました。
すると……
「……わかった」
ふう、とおじさんは一旦深呼吸をします。
「いいだろう。お前の仲間探しに調査隊を同伴させることを許可する」
「え……ええ!?」
「なに!?」
いきなりの発言にロビィさんが驚きました。
セーヴェさんも驚いています。
「あ、あの……い、いいのですか!?」
「かまわん。もしあの殺し屋とやらの狙いがそこの坊主なら、連れて行ったお前にも接触する可能性が高い。それに……」
おじさんは口元が少し笑いながらロビィさんを見て言いました。
「お前はどうやら臆病だから逃げたわけじゃねえってことが分かったしな」
「あ……」
「本気でそこの坊主を護るためってのが伝わった」
おじさん……
やっぱり先ほどのやり取りでロビィさんを試していたのですね。
「だったら、仲間を助けに行くのに協力してもかまわないか?」
「は、はい!」
ロビィさんは一気に嬉しくなって、椅子から上がって頭を下げました。
「あ、ありがとうございます!」
「かまわん。あくまであの迷い子を探すついでだからな」
おじさん……
ちょっと雰囲気が青江さんに似ていました。
「それじゃあこの後それぞれどの班がどの調査を当てるか決めに行く。ラネット、ついてこい」
「はい」
おじさんはこのあと大事なことを決めるらしく、ラネットさんと共にこの部屋から出ようとしました。
「すまないはお前たちは少しの間でいいからここで待っててくれないか」
「え? ここで、ですか?」
「ああ。だが気を付けてほしいことがあるから……おい!」
おじさんが何か呼びかけると、今度はさっきの受付さんとは別の風精族さんお姉さんが出てきました。
……もしかして、ずっと扉の向こうで待っていたのでしょうか?
「退屈ならこの部屋の書物はどれを読んでもいい。ただし、あの机の書類は手を出さないでくれ」
「……わかりました」
「まあそう緊張するな。ダメならダメでこいつが注意する」
と、おじさんは新しく来たお姉さんを指して言いました。
もしかしてそのためだけに新しく呼んだのでしょうか?
「…………」
お姉さんは無表情で特に何も言いません。
文句がないという事でしょう。
「そんじゃ、少しだけ待っててくれ」
「わかりました」
おじさんは足音を大きく立てて部屋から出ていきました。
ラネットさんは部屋を出る直前にほんの少しこちらを見て、そして行ってしまいました。
「え、えっと……」
「…………」
ロビィさんは突然の状況にどうしたらいいのか狼狽え、セーヴェさんは静かに席を立って本棚に近付きます。
私はお姉さんとお話をしようかと思いましたけど……
「…………」
新しく来たお姉さんは……
よくわからない無表情のままです。
では……
「何か読もうかな?」
私は向こうの机の紙を読まないことを念頭に置いて、本棚へ行きました。




