弐捌話 本音を引き出すのに大事なのは……誠意?
ラネットはどういう思いを抱えているのか……
しばらく自宅を空けちゃってるけど、明かりも水道もちゃんと動けるようでなによりだった。
それなのにそんなことはなにも思ってはおらず、先ほどクロチヨから言われたことばかりが頭の中を回り続けた。
『私はラネットさんのことが心配です』
他意はない。本当にそう思ってくれていることは解る。
でも……
脱衣所で頭の中で考え事をしながら無意識に服を脱いで浴室に入った。
そして、浴槽の横の水栓のハンドルを回して水を出した。
頭上から降り注いでくる水滴を体に浴びせつつ私はまだ考え事をし続けていた。
……ごめんね、クロチヨ。
怒っちゃったかな……私が変に渋って言わなかった事を……
でも、信じられないの。
殺し屋の迷い子も信じられないけど、こっちはもっと信じられないから……
クロチヨ……前に言ったわよね。あんたと初めて会った時の事……
私が国境警備隊に異変がないかどうか調査しに行ったときに火蛇族に見つかってしまったこと。
その場に、奴隷じゃないのに火蛇族と一緒にいる人間がいたって言ってたわね。
そう、私の仲間、ゲイルを斬り殺した人間……
あいつが……いた……!
あの時、正体がなんなのか分からなかったけど、もしハクレイが言ってたヒルエみたいに火蛇族に雇われた人間と同じく、そいつも…………いや、今はそんなのどうでもいいわ。
里が助かった三つ目の理由。だからこれが聞いた時は……いや、今でも信じられない。
こんなはずじゃない。
こんなことするなんてありえない……
その人間は…………裏切った。
火蛇族を裏切った!
報告によるとそいつは迷い子が現れる前までは普通に戦ってたらしいのよ。
実際あいつは強かったらしいし、ゲイルの時もそうだけど、剣を使って里の兵士のかなりの数を斬ったそうよ。
妙なことに誰も彼もがその傷自体深くはないそうだけど……
けど、あの迷い子が現れて将軍が弱りだして、そして迷い子が去った途端、まるで見計らったかのように急に近くにいた火蛇族の兵士達を斬り出したのよ!
突然の出来事に敵味方みんな訳が分からなくなった。
さっきまで敵として戦ってた人間が、自分の軍が弱った途端に裏切るなんて……!
わからない……! ゲイルを斬って、里を襲った火蛇族に加担してたくせに……!
今度はいきなり裏切って火蛇族を斬った……!
大切な仲間を斬ったあいつが今度は里が助かる要因の一つになって……
訳が分からないわ……!
いっそのこと敵のままでいいのに……
どうして……!
わからない…………
……あの後、あいつはアローン将軍と戦うことになったわ。
アローン将軍も里なんかそっちのけで部下を斬られた怒りにその人間と戦った。
もちろん竜化のままだそうだ。
……それはどんな時だったのかよくわからない
ただ、アローン将軍もあいつも最後に戦いながらどこかへ行ったしまったらしいわ。
だからアローン将軍もあいつもどうなったかわからない。
わからないけど……
「…………!」
私は……あいつが許せない……
仲間を斬られた。脅しで命令されたとかじゃなくて自分から斬った。
そんなあいつを……私は許せない……!
クロチヨ……
あんただったらどう思う?
仲間を斬り殺した人間が今度は故郷を襲った火蛇族の仲間。
けど、意味が分からずに裏切り、結果的に里は窮地を脱した。
あんたは……仲間を殺した人を許せる?
いくら里が助かった要因の一つかもしれなくても、それでいいと言う訳にはいかないでしょ?
私はね……あいつに、ゲイルを殺した罰を与えたいのよ……
あの時ただ逃げるしかなかった私は火蛇族もあいつも私自身も呪った。
あの時からずっと、仲間たちの…………!
……そんな私のこのドロドロとした感情をあの子に向かって吐き出したくなかった。言いたくなかった。
こんな私を友達って言ってくれるあの子に……! 仲間を殺された恨み言を聞かせたくない!
だから私は……私は…………!
「ラネットさん。ここですか?」
「!?」
コンコンッ
と、浴槽の扉をたたく音が響いてきた。
この声は……何度も聞き覚えがある。先ほどまで私が迷っている相手であった。
「クロチヨ……?」
「うん。私だよ」
「…………」
いけない。さっき部屋であったことを考えるとうまく言葉が見つからない……
「なんで? 部屋で待っててって言ったでしょ?」
……なにつっかけるようなことを言ってるのよ私…………
でも、扉の向こうにいる子は私のきつい言い方に大して気にしなかった。
「うん。でも一刻も早く言わないといけないことがあるから……」
「?」
一刻も早く?
なによそれ。
「あ、でもそのためにはちゃんと面と向かってお話しないと失礼ですから……」
「え?」
ちょっと待って、まさか……
ガラガラガラ!
「失礼します」
「うわあああああああああああ!!??」
ちょ、なに入ってきているのよ!
私は今シャワー浴びてるところでしょうが!
それに……
「それになんで服を脱いで入ってきているのよ!?」
「え?」
今のクロチヨはあの独特の衣装を脱いで、一糸まとわない姿となっていた。
恥ずかしくないのか、堂々と白くて細い裸身を晒している。
私の一言にクロチヨはなんでかキョトンとした表情で……
「それは、お風呂場に入るのに服を脱ぐといけないの?」
「…………」
そ、それはそうだし間違ってはいないけど……
そもそもなんで私が上がるまで待たなかったのよ……
「ラネットさん、どうしたの? あたま痛いの?」
「ええ。精神的に痛いわ……」
「大丈夫?」
そう言ってクロチヨは私の額に手を当てた。
それは関係ないと思う。
……けど、
「?」
……なんかこの子に思いっきりペースを崩されたわね。
さっきまで悩んでたのが馬鹿みたいね。
「……そもそもなんで私が上がるまで待たないのよ。なんで今迷っているって時にこっちへ来るのよ……」
私は一旦シャワーを止めて、近くに置いてある木の台に座って入り口近くで立っているクロチヨに何で入ったのか訳を訊いた。
するとクロチヨはそのまま風呂場の床に正座して、こちらと向き合った。
……風呂場で裸のまま正座する人、初めて見た。
「お母様がね、こう言ってたの」
「?」
お母様?
ハクレイが言ってた母親の事ね。
「『千代。男に限らず人とは常に素の身体と素の心に衣を纏っているのよ。それは、自分を見せないためのものである』って」
「…………?」
いったい何の話なのかさっぱり分からない。
けど、大事なことだろうし最後まで聴こう。
「『衣とは自分を覆い隠すもの。本当の自分を隠すものよ。それは誰にでも素をさらしてほしくない。故に誰もがすることなの』」
「…………」
「『でも、身体の方は無理やり剥ぎ取られることもあるし、無理矢理身体の素を見せられるころができる。しかし心の衣というものは無理に剥ぎ取ることはできず、むしろさらに心の素からかけ離れてしまうのよ』」
つまり、本音を隠している人に対して無理やり迫っても本当の自分を見せてはくれないって言ってるのね。
先ほどの私に関係があって言っているのね。
「『かといって離れてばかりでは人の心はつかめないのよ。無関心な人間に本音を言う人間なんていないでしょ?』」
「……………」
……そりゃあ、親しくない人に本音なんか聴かせたくないけど……
けど、それが今ここに入ってきたことと関係が……
「『でもね千代。人が体ではなく心の衣を外しやすく、それ故に素をさらけ出しやすいところがあるの』」
「へ?」
「『それは、湯浴み場、夜の寝室、暗くて狭い密室……」
「ちょっと待って。 ちょっと待って! ちょっと待って!!」
「あとは……』……? ラネットさん。どうしたの?」
なんか妙なものが混ざってたけどつまり……
「えっと、なに? ここだと私が本当のことを言うかもしれないって思ってたからって事?」
「うん。お母様が言ってたことを当てはめるとそうなるね」
「…………」
な、なによそれ……
私は変に力が抜けてしまい、顔に手を当ててうなだれていた。
「? ラネットさん?」
「いや、なんでもない……」
クロチヨ。仮にそうだったとしてももしこの場合私じゃなかったら通用しないわよ……
いや、別に私は通用したわけじゃあないけど……
「でも、やっぱり一番の理由は一刻も早くいいたいことがあったから」
「?」
そう言えばさっきもそう言ったけど……
……早くしてくれないかしら、そろそろ寒い。
「ラネットさん。さっきのラネットさんの顔、まるで誰かの事を激しく……その……許せない、って思っているようだったの」
「!?」
この子……
私が何を思っているのか……わかるの……?
「私にはわかるの。実際に見たことだってあったの。だけど……」
クロチヨは頑なに背筋を張って正座した足を崩さないまま続ける。
けど、なんでか言っている方のクロチヨも頑張って喋ろうとしている。
「もしも……もしもラネットさんがなにか考えていて……でもね、それが私たちに言えないようなことなら……言わなくてもいいよ」
「あ…………」
控えめに、静かに言うクロチヨを前に私はこう思った。
……気遣われている。
……遠慮されている。
……心配されている。
そうされるとなんか……避けられている感じがした
私はどうしようもなくなってその言葉に返そうとした。
「それは……」
「でもね……!」
「?」
クロチヨは私が言いたいことを中断するように一旦強めの口調で言って再度続けた。
「ラネットさん。もしもなにか危ないことをするつもりなのなら……私にもひとこと言って」
「え?」
ひとこと言ってって……
てっきり止めるとか言いだしそうなんだけど……
「ラネットさん。あのとき、零ちゃんが刺された時の事、覚えている?」
「え? ええ……覚えているわよ」
あの時のこと。
ハクレイがあたし達をかばって腹部に剣が突き刺さることがあった。
それだけじゃなく、そのまま思いっきり無茶をしてカルリトロス将軍を倒したことがあったけど……
いったい何で今それを……
「ラネットさんはあの時、零ちゃんに『もっと私を頼って』と言ってた」
「!?」
「だからね、ラネットさん。私はラネットさんに、似ていることを言うよ」
クロチヨは息を静かに吸い、ゆっくりはっきりと決意するように何かを言おうとした。
「ラネットさん。私はラネットさんが何をどう思っていても構わない。私はラネットさんの意志を無視したりなんかしないから。もし、私を遠慮して話さなかったのが理由なら、やっぱり私の事は気にしないで話して」
「!?」
クロチヨは指を三本床について、頭を下げた。
「私は苦しんでいる人を黙ったまま見ることはできないから……」
「…………!」
そう、か……
頼ってくれって言いたいのね。
でも……
「クロチヨ。私があんたに本当のことを言わないのはね、怖いからよ……」
「? 怖いの?」
クロチヨは優しいから、私が恐れていることなんて怒るはずがない。
そう思いたいのに、そう思いきれない私がいる。
ひとまず私は台から降りて、手でクロチヨの下げた頭を上げた。
「クロチヨ。とにかく頭を上げて。そんなに軽々しく土下座なんてしないでよ」
「え? これは土下座じゃなくて三つ指って言うのですが……」
「そんなの今はどうでもいいわ」
私は……自分が恐れていることを……クロチヨに告白した。
「クロチヨ。私はね、ある人に対して激しく恨んでいるわ」
仲間を斬ったあいつ。
奴隷ではなく自らの意志で斬ったあいつ。
それなのに自分の属しているところを裏切ったあいつ……
何をどう思っていても、あいつに対する恨みは忘れられない。
「恨んでいる?」
「ええそうよ。仲間を殺されたことについて、ね」
「!?」
ああ、とうとう言っちゃったわね……
でも……言わなくちゃこの子が、離れそうで……
「クロチヨ。私はね、心のどこかで嫌な事とか辛い事とかを他人に吐き出して楽になりたいって思っているわ」
仲間が死んだ悲しさも、
あいつに対する怒りも、
私はそれを……抱えきれるほど強くはない。
「でも、そんなことをされたらその人は絶対に私の事を嫌うって……そう怯えている自分もいるの」
「それが……私なの?」
「…………ええ」
……なんでだろうね。
別にほんの少し前まではそんなに強く恨んで……いや、恨んでいる暇がなかった。
そう思う前から私は目の前で話を聴いてくれる友達や、身を挺してまで動くあの男に心が動いていった。
それなのに、里に危機が迫って、それで隊長からあいつの話を聴いた途端……
私は再び、あの人間の事を……!
「私は……怖かった。クロチヨに、私の言いたいことを訊いて、それで嫌に思われたくなかった!」
私は……哭いているの?
それとも、叫んでいるの?
わからない。でも……止まらない。
次から次へとどんどんあふれ出てくる。
「クロチヨがそんなことを思わないって信じたいのに、信じきれない私がいる! そんな私に対してさらに嫌になる私がいる!」
結局…………自分の言いたいことをさらけ出してしまった。
「もう何が何だかわからない! 私はただ、ただ……!」
クロチヨ……あんたに嫌われたくなかった……!
「ラネットさん……」
クロチヨが悲しそうな目で私を見ている。
ああ、これはさすがに……聴いてて迷惑だったかな……
「大丈夫だよ」
ギュッ!
えっ…………?
クロチヨ、いきなり何……?
なんで私の頭を、胸に抱えるように抱きしめているの?
「私はね、どんなに辛い事も、悲しい事も、話す人を嫌いになったりなんかならないよ。だって、それを話すこと自体、辛いことだから……」
一度抱きしめるとクロチヨは私を少し離して、穏やかな表情で話してきた。
どうして……
「ラネットさん、ごめんね」
「え?」
いきなり、なんでクロチヨが謝っているの?
「ラネットさんがそんなに辛い想いをしていたのに私は無理にラネットさんに話してって言っちゃって……」
「クロチヨ、それは……!」
違う!
そんなの……クロチヨに責めることなんてない……!
「それはただ、私が私の事しか考えていなくて……それなのに、結局私はあんたに甘えて……!」
「大丈夫。甘えてもいいよ」
「!?」
クロチヨはもう一度私を、今度は頭が相手の肩に乗るように抱擁した。
そして、
「ラネットさん。私は用心棒で、なによりもラネットさんの友達だから、辛いことも苦しいことも遠慮しないで言っていいよ」
「クロチヨ……」
「私は……友達って何をどうすることがいいのかわからないけど……でも、ラネットさんが苦しまないためなら私は私にできることを全力でやるから……」
「クロチヨ……!」
……やっぱり、クロチヨは私を嫌う事なんて思っていなかった。
それなのに私は、勝手に一人で悩んで、決めつけて……
やだ……折角我慢しているのに……目の奥から……なにか……
「大丈夫。私は私自身がラネットさんを嫌わないって信じてるから……ラネットさんが何を思っても、私はラネットさんのことを悪くなんか思わない。だって……」
「……だって?」
クロチヨ……どうしてそんなに自信満々に言えるの?
いったいあんたは私をどう思って……
「だって、ラネットさんは零ちゃんの事を好きでいてくれるから」
ゴンッ!
……………………!?!?
「? ラネットさん、椅子から転げ落ちるなんてどうしたの……?」
「い、い、今なんて言ったの……!?」
な、なんか今さっきとんでもない言葉が聞こえていたような……
「え? だからラネットさんが零ちゃんのことを好…………」
「うわああああああああああ!? やっぱり言わなくていい!!」
ちょ、ちょっと!? いきなり何を言い出すのこの子!?
さっきまで泣きそうだったのに何……!?
だ、だいたい……
「わ、私が……は、ハクレイの事を……ど、どうしてそう思えるの!?」
「え?」
クロチヨは『わからないの?』とでも言いたいような顔をしてこちらを見ている。
悪意はないようでしょうけど……
「だって、前に零ちゃんが大けがを負った時ラネットさん泣くくらい心配してくれたし……」
「ちょ……!」
「零ちゃんの事を思って本気で頼ってって言ってくれたし……」
「ちょっと……待って……!」
「零ちゃんに感謝されると、嬉しそうに照れるし……」
「うわああああああああああ!? それは言っちゃダメ!!」
この子、鋭いのか鈍いのかどっちなのよ!?
って! 別にそれが本当とは限らないし!
「ちょっと待って! たとえそうだとしても……べ、別に好きとは限らないでしょ!」
「ええ?」
ああ……さっきまでいったい何を話し合っていたのかしら……
何でこんなことに……
「そ、それは確かにハクレイが刺された時は大変だったし……実際泣いちゃったけどそれは心配しているのはハクレイだけじゃなくて……」
「……あの、ラネットさん」
「……って、なに?」
なんだろう……
またなんかとんでもない事を言いそうな……
「もしかして、零ちゃんの事、嫌い?」
「…………!」
ちょ、クロチヨ! そ、そんな悲しそうな目で私を見ないでよ!
べ、別に私はあいつのこと嫌いってわけじゃないわよ!
確かにあいつ妙にジャージって衣服に固執しているし、時々落ち着かないことがあるし、女の子に対して慣れない様子がわかるけど……
でも……
「……くしゅん!」
「!?」
今のは……くしゃみ?
って、いつの間にかクロチヨが自分の身体を抱えて少し震えているんだけど……
あー……結構こんなところに裸で長居したからね。
「そ、それじゃあラネットさん。部屋で待っているから……」
え? ちょっと待って? 何でこのまま脱衣所へ行こうとするの?
「ちょっと、待ちなさいよ」
「?」
まったく……こうなったのは私のせい?
「折角裸でここへ来たのに……」
私は片手で後ろにある水栓を軽く叩いた。
「浴びないで帰るつもり?」
「? でも、今はラネットさんが使用中だから……」
「……………」
この子、本当になんで服を脱いでここに入ったのかしら。
本当によくわからない……
「別に、一人が二人になっても構わないわ。時間だって省けるし、それに……ま、まだ私の答えを聞いてないでしょ……」
「?」
なんだろうかね……
この子に間違った認識をさせたままにしておきたくはないわね……
「……嫌いじゃ、ないわ……」
「え?」
「ハクレイの事よ。あいつの事、嫌いじゃないわ」
あいつは……人間にしてはちょっと変わっていると思う。
見ず知らずの人に対して平気で『護る』って言う。
かと思ったら本当に『護る』ために無茶な事だってする。
挙句の果てに、それで人間界へ帰る事を延ばすなんて……
なんというか、いつか絶対に将来損をするような気がする。
でも……
「ハクレイは、あいつにはいろいろと助けられたこともあったしね。それなのに嫌いなんてとても言えないわ」
「ラネットさん……」
するとクロチヨはなんだか嬉しそうな顔になって笑った。
「ありがとう。うふふ……」
「クロチヨ。嬉しそうね」
「うん。だって零ちゃん、褒められたから……」
大事な人が褒められると喜ぶなんて、この子……なんかわかりやすいわね……
「ねえ、クロチヨ」
「?」
私は、目の前で私の話を聴いてくれた子を見て、少し思った。
……この子、体が小さい上にずいぶんと白くて、それに細くて、あと……薄いわね。
それで、あんな無骨な武器を扱っているとは思えないほど華奢で、乱暴に扱うと簡単に折れてしまいそうだ。
それなのに、見た目と違ってこの子はハクレイを支えていたんだね……
でも、一人でできることに限界はある。だから……
「クロチヨ。じゃあ、私はあんたに頼ってもいいんだね」
「うん」
「でもその代り、私の方も頼ってよね」
「うん?」
この子だって、ハクレイが死にかけた時は本当に大変だった。
同じことは繰り返しちゃいけない。だから……
「私もあんたの辛いところ、見たくないから……」
「ラネットさん……」
私は……あの時のクロチヨに掛ける言葉がなかった。
それどころかともに辛い思いばっかりで共に気を沈めるばかりだった。
あの時はレイラがいてくれたおかげだったけど……
もっとしっかりしないと……
「……ありがとう。そう言ってくれると、私は嬉しいです」
「ちょっと、大げさなことを言わないでよ。これくらいは当然でしょ」
「ううん。それだけじゃないの」
え? それだけじゃないって……
「ラネットさんは零ちゃんの事が好きだって改めてわかると嬉しいから……」
「!?」
ちょ、ちょっと待って!?
「結局そこに行きつくの!?」
「え? だってラネットさん。嫌いじゃないってことは好きってことじゃないの?」
「…………」
も、もうこれ以上何か言うのはやめよう……
な、何とか切り替えないと……
「あのー! ……まだ入っちゃダメ!?」
「うわああああああああああ!?」
するといきなり後ろからまた別の人の声が聞こえたので吃驚した。
この声って……
「ロビィさん。話は何とか終わりました。入ってください」
「え、ちょっと、入ってって……!」
クロチヨの合図にまた浴槽の扉が開けられ、入ってきたのは……
「!?」
あのお下げにした金の髪をほどいて、もちろん衣服も何もつけていないロビィであった。
意外とボリュームのあるほどいた髪がとても綺麗で印象的だったけどもうひとつ……
い、意外と着やせするタイプ!?
ロビィの……その……胸部が意外と質量があって私は驚いていた。
私も……あとクロチヨも年齢に合わず小さ……じゃなくて控えめだってのに……
……じゃなくて。
「なんであんたまで入ってきてるの!? だからシャワー中だって言ったでしょ!」
「え、ええ!? ロ、ロビィもそう言ったけど三咲さんが……」
「え?」
あんたロビィに何を言ったの!?
と、暗にそう言うようにクロチヨを見ると、伝わったのかその理由を説明した。
「えっとね、お母様がね、こう言ったの」
また? またお母様なの?
なんでかわからない私にクロチヨは続ける。
「『就寝時と湯浴み時は大人数の方が楽しめる』って」
「「…………」」
はあ……なんだか疲れたわ……
本当にさっきまで悩んだのが馬鹿らしいわね……
……あれ、二度目?
「……仕方がないわね。もうこうなったら一緒に入るわよ!」
「はい」
「え? い、いいの!?」
そう言えばハクレイもクロチヨに一緒に入ろうって誘われてたわね。
あいつ……なにか妙なことしていないかしら。
……まあいいわ。
私はクロチヨとロビィに水栓の動かし方を説明した後、場所を交代した。
せっかく二人とも入って来たし、湯船の方も溜めておくか、とそっちの水栓も動かす。
そして、少しして私は一つまとまった考えを言った。
「クロチヨ。ロビィ」
「え?」
「な、なに?」
「里を救った第三の理由だけど……」
私とクロチヨは湯船につかりながら、ロビィはシャワーを浴びながら私の話に耳を傾けた。
私は、ひとつ決心をしてその内容を言う。
「ごめん。実は内容からして到底信じられない内容なの。だから……悪いけど曖昧で信憑性が薄いから……話せないわ」
「ラネットさん……」
まあさっきクロチヨに一部だけ言っちゃったけど直接じゃないからいいよね。
でも、今度は感情的な理由じゃなくちゃんとした理由で言わなかった。
……国境警備隊を一度壊滅した火蛇族に手を貸した人間。
なのになぜか里に攻めた時は急に裏切りだした人間。
仲間を斬ったことが許せないけど、それ以前に……
「いろいろとこれまでの情報が矛盾しちゃってね。だからまだはっきりと話せる段階じゃないの」
「そ、そうなの……」
「でも、考えがまとまったら話すから、少しだけ待ってて」
「……はい!」
クロチヨはもうこれ以上追跡はしないようでもう訊くことはなかった
わからない。あいつは何を目的にしているのかも。
いろいろなぞは多い。だから……
「ロビィの仲間の確保。火蛇族の大軍の謎。放浪する殺し屋の迷い子。いろいろと調べることは多いわ。それに、迷い子の保護の申請、と明日は大忙しよ」
私は、二人の眼をしっかりと見て言った。
「だから今日はこれ以上話すことはない。今だけはゆっくりと体を休めること!」
「「…………はい!」」
今だ疑問は多いけど……
とにかく今日はこの時点で、お互い知りたいことを交換することはできたのだった。
「あ、あの……ロビィ、一つ気になったんだけど……」
「ん? なに?」
「ラネットさんが好きとか言ってた『ハクレイ』って誰?」
「…………えっ!?」
「零ちゃんの事? 気になるのですか?」
「ちょっと待って! さっきの会話聞こえてたの!?」
「う、うん。三咲さんが入り始めた所から……」
「それ完全に最初っからじゃない!?」
「で、でね。ラネットさんが好きって言う子がどんな子かなって……」
「待って、気になるとこってそこ!? それに言っておくけど別にあいつにそんな感情は……!」
「うーんとね、私にとっても大事な人なの」
「ええ!?」
「ちょ、ちょっと! これ以上話をややこしくしないでよ!」
「ね、ねえ……もっとその人の事教えてもいい?」
「ってさっきから話を聴いてよ二人とも!」
「うん。いいよ」
「ちょっと待ってって―――――――――――――っ!!」
何でかこの時に限ってはロビィは押しが強いのだった。
とにかく必死に話をそらすのに十分以上はかかったのだった。
これにて長い夜は終わります。
翌日、いったいどう動きだすのか。




