弐弐話 しかし入院生活は退屈で大変だ。
少し改訂しました
今回までのあらすじ
現代を生きる用心棒、金斬白零と三咲黒千代はイギリスでの任務の帰り道の途中、あることにより人間がいない不思議な種族が存在する世界、『幻界』へと迷ってしまう。そこで二人は元の世界へ戻るため、水妖族の族長リュンピからの助言により、風精族の里へと目指すがその途中で、火蛇族に襲われていた風精族の女の子、ラネットに出会う。火蛇族の計画を知った彼女はまずは近くの村が襲われると推測し、二人は村を護るために防衛する。しかし、その途中白零は黒千代とラネットを庇ってしまい重傷を…………
「長ぇよ! もっと要点を掻い摘んで書けよ!」
…………なんだかんだで復活した白零は女の子たちを泣かせたり女の子たちに抱き着いたり女の子たちに説教されたりと散々なことをした後、黒千代から諭された彼はもう少し幻界にとどまることを決意したのだった。
「『なんだかんだ』で省くなぁ! そして誤解されるようなことを言うなぁ!!」
一方その頃人間界からもまた新たな一癖も二癖ものある人間共がやってくるのだった。
「ヘェェェェェェェェエエエエルメエエエエエェェェェェェェスッッ!!」
「ヒャッハー! なんだぁぁぁぁぁい!」
「ネット小説を読むときはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ヒャッハー! 読むときはぁぁぁぁぁ!?」
「部屋を明るくしてぇ! パソコンから離れて見てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「お目目を大事にぃぃぃぃぃぃぃぃ! ヒャッハー!!」
「あらすじに割り込むなあああああああああああああ!!!」
お前もな。
と、いうわけで本編へ続きます。
1
「零ちゃん。どうしたの? あたま痛いの?」
「いや……なんか妙な感じが……」
「妙な感じ? なによそれ」
「大丈夫?」
そう言って俺の額に手を当てる千代。風邪じゃないんだから。
とはいえまあ明日退院することになったけどずっと待つのもあれなので……
「ほらハクレイ。幻界のことについてもっと知りたいんでしょ」
「ああそうだ。知っている限りでいいから教えてくれ」
ラネットから幻界の事情について教えてもらうことにした。
まあ、なぜかというと……
幻界と人間がどれほどかかわっているのか。
俺は思う。
火蛇族は人間に対してあまりいい感情を持っていないらしく、獣人族、鳥人族も聞いた話じゃ同じくってところ……
逆に水妖族や風精族はあまりそうでもない。
まあ、その他についてはよくわからないが……
昼江が言っていた人間を連れ去って奴隷にしているということ。
なぜそうさせたのか、なぜそうなったのか。
俺も千代もしばらく幻界に留まり、行動する以上、知らなくてはならないかもしれない。
となるとまずは……
「ラネット。そもそも“月の口”ってのはずっと昔からあったのか?」
「え? ずっと昔って?」
「いやさ、幻界と俺たちの世界って結構前から繋がっているのかなって……」
俺や千代をこの世界へ迷わせた存在。
月の口……
まあ、川に映った月だなんて見つかりにくい入口だけど、
「いいや、そんなに昔じゃあないと思うんだけど……」
「そうなのか?」
「ええ。たしか資料によると、“月の口”が開き始めたのってたしか……二十年ほど前だったわね」
「二十年?」
「……あんまり昔じゃあないんだね」
二十年前……確かにそれほど時間があるわけじゃあないな。
「ここ幻界ってさあ、頻度はそうないけどそれでも“迷い子”は来ていたわ」
「そうなのか?」
あれ結構見つかりにくい入口なんだけど……
「それでも、人間は幻界のことを知らないのか“迷い子”以外でここに来る人間はいないわ」
え? だとするならば……
「え? あの、なんで幻界のことが人間界に知らされていないの?」
「それは……」
千代の疑問にラネットは答えようとするが……
なぜかしばらく俯くと……
「……わからないわ」
「「わからない?」」
……帰ってきた答えは意外であった。
「“迷い子”が人間界へ戻ってきた後どうなったかは知らないわ。でもね……」
「幻界から意図的に人間が来ない以上知らされていない、と」
「そうよ。それに、人間が幻界へ迷ってくることはあってもその逆はないから」
「「?」」
「間違って迷わないよう監視されているからよ」
「「あ……」」
そうか……他は知らないけど水妖族の場合もなんだか監視していた様子だったし……
「じゃあラネットさん。私からも聞いていいですか?」
「構わないよ」
と、ここで次の質問に移るようだ。
「じゃあ、幻界の人(?)ってどれくらい人間のことを知っているの?」
「そうね……」
人間のことを知っている……
知名度ってことだな。
「幻界だって人間のことについて知っているのは“迷い子”のことだけなのよ」
「「?」」
そうなのか?
「それに、人間のこと知っているのは、種族ごとには違ってくるけど少なくとも風精族はみんな知っていて水妖族はみんな知っているわけじゃないわ」
「え?」
「そうなの?」
なぜだ?
「そうよ。全てを知れば人間界に対し慎重になるし、逆に人間界自体何も知らなければ、下手に興味をもたれて予備知識もなしに人間界の方へ行っちゃうこともないしね」
「ああ……」
つまり中途半端に知ればいろいろと問題が起きるかもしれないってことか。
「ラネットさんは人間界へ行ったことあるの?」
「人間界? 私は行ったことはないね」
「ないの?」
「ええ。でも調査隊の隊長や班長は何度も行ったことがあるらしいの」
「そうなの?」
千代が少し驚いたように返した。
俺は……結構驚いている。
「ほら、風精族って見た目は羽があるかないかでほかは人間とは大して変わらないし……」
「そうか」
確かに風精族の見た目は羽の生えた人間みたいだから羽を隠せばいいしな。
けど……
「あれ?」
と、ここで千代が疑問の声を挙げる。
「どうした、千代」
「たしかレイラさん、初めて見たときは普通に人に見えていたけど……」
「え? あ……」
確かにあのとき自殺しようとした(ように見えた)レイラさん。
確かにあの時は見た目人間で……
しかしその後はほかの水妖族同様、青い肌に魚のひれ。
あとは恰好も変わっていたし……
「ああ、レイラの場合はね、自由自在に肌の色を変えることができるの」
「え?」
「マジで!?」
「ほら、擬態とか言うでしょ? あれと同じよ」
「あれと同じって……」
そんなことができるのか……
ってか本当に魚みたいだな。
「ひれに関しては服で隠せばいいし」
「……あの服は何処からとってきたんだよ……」
そう言えばいつの間に着替えたんだろうかレイラさん……
「水妖族の場合、人間を知っているのは里にいる者たちぐらいで、小さい村の方は村長以外知っているのはそんなにいないんじゃ……」
「ちょっと待て。水妖族って村があるの?」
いや、だって里って洞窟みたいなところだったし、村と呼ばれるようなものなんて……
「……言っておくけど、水妖族の住処って水中にあるのよ」
「「え?」」
「そうね、人間にはあまり行くことができないところだから」
「そうなのか!?」
いや確かに、あの洞窟水場が多かったし……
……けど、
「確かに底とか見てなかったな……」
水中が住処、か……
「……ってかなんでラネットがそれを知ってるの?」
「まあ……それは……そういうことよ」
おい、なんで口ごもる。
「でもリュンピさん、確か地上でそれらしい席に座っていたけど……」
「千代。それらしい席ってなんだよ」
玉座って言いたいのか?
確かにあの椅子は立派そうだったが……
「まあ、水妖族ってのは基本水中に住んでいて、地上に上がるのは来客時か“迷い子”が来た時だから……」
「へぇ……」
見ることは……できないか。
「なんで人間についてあまり教えないの?」
「それはね、水妖族から見たら人間はあまりにも違いすぎるという事よ」
「違いすぎる?」
「肌の色、ひれの有無、水中での限度。……人間に慣れているのって実はリュンピ様とその親衛隊ぐらいなの」
「……結構少ないのですね」
「水妖族はね、“迷い子”をあまり多くの者に見せないため、里と村は切り離しているの」
「へぇ……」
もしかして待たせたところが牢屋なのも関係があるのかな……
……それはないか。
「あの、火蛇族さんってなんであんなに人を……その……低く見るように言うの?」
「ああ、簡単な事よ」
千代は先ほどよりも真剣な様子でこの質問をした。
それに対する答えは……
「姿が違いすぎる、という事よ……」
「それは……見かけだけの事ですか?」
理由が理由で千代は悲しそうにそう言った。
まあ……たしかに難しいことだな。
「そうね。それに火蛇族はね、あることに関して上下関係が激しい社会であるんだけどね……」
「あること?」
「…………」
昼江が言っていた、下位、中位、上位のことか……
「その精神からきているのか人間はそのどれもに値しないってことよ」
「……そうか」
まあ詳しいことはある者に訊くとして……
「獣人族も、鳥人族も、そうなのか?」
「わからないわ。そこは実際行ってみないとね……」
……まあさすがに他人から聞いただけを鵜呑みにするわけじゃないが…………
「……ほかに訊きたいことがある?」
「……そうだな」
まあ、そうだな。
……必要なものがある。
「……一つだけある」
「そう? どんなこと」
「それは……」
今の俺に必要な物……
「刀……」
「へ?」
「零ちゃん。刀って……」
千代はそばに置いてある折れた刀を見る。
そう、これはカルリトロスに折られた刀だった。
もっともこれは刃が付いた柄の方であり、刀身はどこに行ったか分からない。
「いや、新しい刀がほしいからどこかにないのかな、と……」
「ああ……そうね、あんたって変な剣術使うけど、それでも剣がいるもんね」
「そういうことだ。ってかラネット、変な剣術は余計だ」
「なによ、実際変じゃない」
いや確かに変だけどさ……
「だったら里へ行く? そこなら『騎士団』が使う剣を売っている店があるけど……」
「……どうせなら刀……片刃の剣がいいな……」
慣れない剣じゃあうまく身刀流も扱えないし……
「そうだよね零ちゃん。だって刀じゃないと身“刀”流じゃないからね」
「そこは別にどうでもいい」
そんな揚げ足取りはいい。
「そう……刀……反りのある片刃の剣……」
ラネットは折れた刀を眺めて呟いた。
もしかして、心当たりがあるのか?
すると……
「あ……そうだ。いいところがあるわ」
「本当か!」
思いついたようだ。
いったいどこに……!
「武器づくりなら地人族の里に行ってみるのはどう?」
「え? 地人族?」
ってたしか隣国とは戦わない代わりに武器防具を作って取引してるっていう……
……つまり、
「地人族さんなら零ちゃんの新しい刀が作られるの?」
「そうよ、クロチヨ。地人族は鍛冶や製造と金属の扱いに長けた種族よ。そこならどんな注文でも答えてくれるわ」
なるほど。オーダーメイドってことか。
それなら自分に合った刀を作れるな。
「でも、大丈夫なの? 地人族さんのことはわからないけどそんな無茶な振りにも応えられるの?」
「大丈夫よ。だって……」
ラネットは自信がある様子で言った。
「地人族は、幻界の種族の中で一番の技術力を誇る種族なのよ」
「へぇ……」
そこまで言うのか……
いったいどれほどの腕前なんだろうか。
「なにせ彼らは正体不明だけど強力な兵器を製造しているらしいし」
「ええ? なんだそれは?」
そんな話初耳だぞ。
と、ここでラネットは小声で何か言いだした。
「『その武器は、鎧や鱗を簡単に貫き、離れた相手され容赦なく傷つけ、使い手が女でも子供でもたった一人で十人も二十人も簡単に倒せる』と……」
「なんだよそれ」
そんな武器聞いたことがない。
ってか今鱗って言ってなかった?
「私はなにか新種の槍だと、思うんだけど……」
「ラネット。使い手に関係なく、って量産でもされているのか?」
「そうね……」
「おいおい。一体なんて名前なんだ。それ」
「わからないわ。そう言われているくらいで正体すらよく……」
ってか正体不明なのにその説明文は何処から出てきた。
「……まあでも、武器を作りに行くのなら一応、地人族には気を付けておきなさいよね。もしかしたらあんたの武器もそれくらい……」
「普通の刀で結構だ」
まあ、普通って言ったけど欲を言えば強い刀がいい。
下手に振るだけで折れるほど脆いとか、持つだけで人を斬りたくなるとか、そんな特異性はいらないから。
「さて、結構話をしたけど、他に聞くことはない?」
「ああもう十分だ。今の所知りたいことはわかった」
「クロチヨは?」
「うん。私も零ちゃんと同じ、もう大丈夫」
「そう、よかったわ」
さてと、訊きたいことは訊いたし後は……
「後は退院までの辛抱だけど……」
「……そうだよな。どうであれあと一日か……」
さて、結局はゆっくりしないといけないのだが……
……そういえば。一つ気になることが……
「ラネット」
「ん? なに?」
「お前、そろそろ里へ戻らないといけないんじゃないのか」
俺はラネットにそう促すと……
「え……!?」
突然なのか、ラネットは驚いた顔で俺を見た。
「そうなの? ラネットさん」
「そ、そうだけどなんで……」
何でわかるんだ、ってか?
「わかるんだよ。お前たしか里の調査隊だったよな。初めて会った時から一度も里に戻ってはいないんだろ」
報告とやらはレイラさんに言伝を頼んだくらいだし。
俺が寝ているときはどうだったかは知らないが千代の様子からは戻ってはいないようだ。
「それは……そうだけど……」
「そろそろ職場に戻らないとやばいんじゃないのか?」
「え? ラネットさん。じゃあ……」
俺の問いかけにラネットは……
「……そうね。本当はハクレイが目を覚ますまでで、そのあとに戻ろうと思ったんだけど……」
「ラネットさん……」
「まあ……俺が原因なら申し訳ないんだが……」
「……! い、いいのよ! わ、私の意志でここに残っただから……!」
「え……そうか」
「そ、それにあんたが起きないまま帰ったら心配で……」
「何か言ったか?」
「……! なんでもない。とにかく気にすることはないわよ!」
そうか……まあでも気にせずにはいられなかったし……
「それにしてもよくわかったね、そろそろ里に戻らないといけないことを」
「まあな、似たようなことが俺にもあったし」
「はあ?」
いつだったっけな。
昔、任務で遠くへ派遣されたときに俺の不注意で向こうへ長く滞在することになって……
そのせいで予定よりかなり遅れて事務所へ帰ったことがあったな。
もちろん所長には怒られたが……
「とはいっても、まだまだ外は危ないし安心して一人では歩けないだろ?」
「ええ、そうね。今でもこの村も里も緊張状態は続いているし……」
「と、いうわけで、千代」
「何? 零ちゃん」
「お前に提案することがある」
「提案?」
まあ、そう難しくはないことだ。
「ラネットが無事に里へたどり着けるまで、お前が護衛をするのは?」
「え?」
「は?」
俺の提案に千代とラネットは少しだけ呆けたような声を出した。
「ほんの少し前までは火蛇族に侵入を許しているんだ。そのために護衛……もとい用心棒が必要だろ」
まあ、念には念を入れて、という事だ。
ただ……
「ちょっと待ってよ。別にここから里までなら片道で一日半ぐらいだし、本気を出せばもっと早いよ。クロチヨに護衛されるほど……」
ラネットはどうも遠慮気味であった。
また、千代も千代で遠慮しているのは……
「でも、零ちゃんは大丈夫なの?」
「俺?」
「もう看病は……」
ああ、そっちの事か。
なら……
「俺は別に明日退院する身だし、問題ごとなんて起きねーよ」
「そうなの?」
「ああ、俺は大丈夫だから今はラネットの方を頼む」
「…………」
俺がそう言うと、千代は少しだけ考えてから……
「零ちゃん……わかった」
「ちょ、クロチヨ!?」
千代は応えてくれた。
どうやらやってくれるようだ。
「だってラネットさんは私の友達だから、何かならないように護らないと……」
「でも……」
ラネットは遠慮しているが……
「ラネットさん。一緒に風精族さんの里へ行こう。ねっ」
「クロチヨ……でも」
「お願い」
「……わかったわ」
千代の切実なお願いにしぶしぶ了承してくれた。
「千代。ちゃんと護るんだぞ」
「うん。ちょっと準備をしてくるから」
千代はどこか張り切った様子で、病室を出ようとするが……
「あ、そうだ。零ちゃん」
「なんだ?」
「これ、持って行っていい?」
「え?」
千代はそばに置いてあった折れた刀を持っていこうとしてた。
「なんで持っていくの?」
「えっと………………お守り?」
「回答遅いし、どんなお守りだ」
折れた刀をお守りって……
「何かあってもこの刀を見たら頑張れると思うから」
「クロチヨ……言っておくけど里で出したら大変よ」
「え? そう?」
ラネットの冷静なダメ出しに気づく千代。
まあ、折れても刀だし正直危ないが……
「……まあいいか」
「え? いいのハクレイ?」
「ああ、持って行け。うっかり怪我したなんてことにはなるなよ」
「ありがとう零ちゃん。じゃあ改めて準備してくるね」
千代は懐から紙を出すと、それで刀を包んで袖にしまった。……大丈夫かあの持ち方で?
そして改めて千代は病室から準備に出て行ったのだった。
残されたラネットは俺に問い詰めてきた。
「ハクレイ……別にクロチヨに護ってもらわなくても……」
「ラネット。何事も用心深く、だ。何かあってからじゃ遅いだろ」
「まあ、そうだけど……」
「それにあいつは……同年代で、同性の友達はいないんだ」
「え? あ……」
あいつは学校に通っていないし、事務所には男しかいないし。変なのが一人いる。
ラネットも宿で千代の事について少し話しているからそこらへん察しているだろう。
「そんなあいつにとってお前はいい友達でいてくれる。俺は嬉しいよ」
「友達……」
「だからまあ、もう少し付き合ってくれ」
「……わかったわ」
ラネットは困ったような顔をしたが少しだけ口元が緩んでいる。
お前、本当は嬉しいんだろ。
「あと、もしあいつに何かあったらあいつののことを頼む」
「頼むって……逆になってどうするのよ」
「まあ、よほどの事がない限りだから」
なんだかんだであいつはしっかりしている。
あいつも護るために頑張っているのだから。
「なるべく早く仕事終わらせて、ここに戻ってくるから」
「そうか。けど無理はするなよ」
「ええ。あんたも、ちゃんと安静にしてなさいよ」
そう言い、ラネットも病室を出て行ったのだった。
そして、この病室は俺一人になった。
「さて、と……」
そういえば入院中でもできることはあったな。
俺は自分の病室を出てある所へと向かった。
まあ、すぐ見つかるだろう。
2
ラネットさんが仕事とのために里へ戻るそうなのですので……
「じゃあ、行くわよ。クロチヨ」
「うん」
私も風精族さんの里へと向かいました。
「クロチヨって里へ行くのは初めて?」
「うん。どういう所か楽しみ」
「楽しみって……まあ、緑のきれいな所よ。ちょっと道がキツイけれど、そこはがんばってね」
「うん!」
と、私はラネットさんと楽しそうにお話をしながら目的地へ向かっていました。
しかし、ある程度森の中を歩き続けたときでした。
「ねえ、クロチヨ」
「ん? なに?」
「言い忘れていたけど、ちょっと気になることが……」
ラネットさんが私に訊きたいことがあるそうです。
いったいなんでしょうか?
「ハクレイって確か昨日の夜、獣人族か鳥人族のどちらかが人間界から人間をさらっているって……」
「うん。たしかそう言っていたね」
零ちゃんがここに留まるようになった一つの理由……
「その上あまり騒ぎにならないよう孤独な人間を選んでいるって言ってたけど……」
ラネットさん、なにか引っかかることでも……
「……普通そんなのあり得ないわ」
「え?」
あり得ない?
なぜでしょうか?
「だって、そう言うのってきちんと調べてみないとわからないものなのよ。けど“月の口”が開いてから閉じるまで時間はそうない。それなのにどうやって攫っているっていうの?」
「あ……」
確かにそうですね。
そういうのって調べるのに時間はかかりますし……
「それは、人間界に長くとどまって、その人のことを十分に調べたうえで次の“月の口”が開くのを待っているんじゃないのかな?」
まるで潜入みたいだけど、それならいろいろと納得が……
「確かに獣人族も鳥人族も人に姿を似せることができるのもいるけど……」
その種族に会ったことはありませんので姿に関してはわからないのですが……
「……問題はそれだけじゃないのよ」
「え? まだ何かあるの?」
何なのでしょうか?
誘拐の手際かな?
「そうよ、人間界にあるものを持ち去るにはもう一つ問題が……」
「? ラネットさん?」
どうしたのでしょうか。
なにか言いたくないような感じがするのですが……
「……まあいいわ。そう言うのは直接会って確かめればいいだけだしね」
「それは……そうですね」
……いったいなんだったのでしょうか?
「あともう一つわからないことがあるけど……」
「もう一つ?」
なんのことでしょうか?
「ハクレイが今度こそ護るって言ってたヒルエって誰?」
「え?」
「……ちょっと気になってね」
それって……昼江さんのこと……?
ラネットさんも零ちゃんが心配なのでしょうか気にしているようです。
でも……
「その人のことは私にもよくわからないの。今わかるのは、その人が殺し屋だということだけ」
「殺し屋って……」
「うん。頼まれて人を殺す人たちなの」
それは暴力から人を護る用心棒とは対極です。
暴力で人を傷つける……殺し屋。
「そんな人が……人間界にいるの?」
「うん……」
……どうして自ら進んで人を殺すのでしょうか。
殺される人の気持ちがわからないのでしょうか。
頼む人も頼む人です。
殺しはいけません。さらにそれを誰かにやらせるなんて……
「じゃあハクレイは……その殺し屋って人のことを護ろうとしているの……?」
「ううん……少し違うの」
「え……?」
私は……殺す人も殺してくれと頼む人も……そんな人たちの気持ちがわかりません。
だから殺し屋は好きになれません。
でも……
「零ちゃんにとって昼江さんだけは違ってたの」
「違う?」
「うん」
零ちゃんも殺し屋のことは許せません。
どんな理由でも殺すことは許さないのです。
だけど昼江さんだけは少し違うようです。
「零ちゃんは昼江さんとは昔、何かあったらしいの。それが原因で殺し屋になったかもしれないって……」
「ハクレイが…………」
「だから、零ちゃんは昼江さんに殺し屋をやめさせようといろいろ頑張っているの」
「……そうなの…………」
「私が知っているのはこれくらい……」
でも……何度やっても失敗だった。
そのたびに零ちゃんは悔しそうにしていました。
「あいつ……それであんな風に護るって……」
「ラネットさん?」
小言なのでよく聞こえないのですが……
「いえ……なんでもない」
「……?」
ラネットさん、なにか深刻な表情ですがなんなのでしょうか?
……よくわかりません。
その時でした。私はあるものを見つけました。
「あれ?」
「……? どうしたの、クロチヨ」
「ラネットさん。あの人たちはなに?」
「え?」
私は森の中、近くの崖の下にある道で何かを見つけ、指を差しました。
その先にあったのは……
「……なによ、あれ?」
「あれって……女の人と子供……?」
遠目で少しわかりづらいですが……金の髪の女の人と、その一回り小さい明るい茶髪の男の子を抱えて、崖の下の道を走っています。
「ラネットさん。覚えのある人?」
「いいえ、見たことのない人ね、だとすると考えられるのは……」
「“迷い子”……」
そういえば昨夜はたしか“月の口”が開くとか……
「ラネットさん」
「わかったわ。里から出てきたなら放って置けない。行ってみよ」
「うん。でもどうやって?」
崖が結構急斜面ですので降りるには……
「そうね……ちょっと待って」
ラネットさんは私から少し離れて何かを唱えました。
すると……
「わっ……!」
私の身体が少し浮かび上がりました。
そして、浮いたまま自動でラネットさんについていくようにされています。
「これなら少しの間だけなら一緒に降りられるわ」
「ラネットさん……ありがとう」
「いいよ、これくらい。じゃあ行こう」
「うん」
私たちは里へ向かうのを中断して、森の中、崖の下で歩いている人たちの方へ向かいました。
3
さて、お目当ての病室は見つかった。
なぜか監視付きの病室で、許可を取らないといけなかったが、話の分かる監視のようであっさりと面会を許可できた。
「さてと……」
トントンッ
俺は病室の扉をノックした。
「………………誰でありますか?」
やや遅めの返事が返ってきた。
初の面会だからだろうか。
「俺か? 俺はお前の見舞いに来た」
「み……見舞いでありますか?」
「そうだ、失礼するぞ」
俺は扉を開け、病室に入った。
そこには……
「な、何でありますか……?」
「……………」
そこにはベッドに座っていて肩から脇腹(なのか? 腰はないけど……)の部分にかけて大きく包帯を巻かれた蛇男がいた。
こいつは……
「どうだ。カルリトロスに斬られたところ、もう大丈夫か?」
「!? なぜ、それを……!?」
おーおー驚いてるな蛇男。
そして蛇男は、あることに気が付いた
「……!? その声はまさか……あの時戦場にいた……!」
「ああ、そのまさかだ」
「…………!!」
その蛇男は浜辺のやつらとは違い気弱そうな表情で俺を見ていた。
こいつの目……他の火蛇族とは違うな…………
何と言うか、こう……他の奴は爬虫類のような、鋭さをイメージするような目をしていたんだけど……
けどこいつは……よく言えば穏やかな、悪く言えば気弱な、そんな目をしている。
「ちょっと話したいことがあるがいいか」
「え……? 話したいこととは……」
「ひとつは火蛇族の事情について。そして……」
俺は目の前の蛇男の顔を真っ直ぐ見て言った。
「浮空昼江のことだ」
「!?」
俺の言葉に反応する蛇男。
やはりこいつも知っているようだな。
「ヒルエさんの……ことでありますか」
「そうだ」
今思うと、わからないことはいろいろある。
昼江は殺し屋だが、悪と決めたもの以外は殺さない主義だ。
曖昧で不安定だが、少なくとも無抵抗のものや罪のないものは殺さない。
そんなあいつがなぜ火蛇族に雇われている。
村を襲ったりするあいつらに……
いったい何を考えているのか……
「あなたはいったい……」
「そうだな」
とりあえずはまあ、近くの椅子に腰かけて……
「まあ、まずはお互い名乗りましょうか」
「は、はいであります」
自己紹介でもするか。




