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壱玖話 その人の人望は見舞客でわかる?

ちょっと短編集風にしてみた

 0・???


「白零」


 なんだ親父? 珍しいな、話しかけてくるなんて。


「君も、もうそんな歳か。月日の流れは速いものだ」


 いや、まだ中学生になるところだけど……


「白零、気をつけろ。中学生とは大変な年頃だ」


 大変?


「精神が不安定で、まるで病気にかかったような年頃だから」


 親父、全国の中学生に謝れ。


「勉強、試験、部活動、恋愛、友情、上下関係、確執、嫉妬、傲慢、差別、ジレンマ、目覚める性欲、私利私欲、いじめ……不安要素は数多い」


 今、変なの混ざってなかった?


「中学とは子供が大人になるための重要な段階。それ故に、失敗と成功が大きく分かれるとこだ」


 親父……お前中学時代になんかあったか?


「だがな、白零」


 無視するな。


「そんな情緒不安定な中学に君は行くことになるんだが……」


 ああ、親父の話を聞くと行く気なくなって来たよ。


「君は男なのに綺麗な貌をしている。必ず目立つだろう。……いろんな意味で」


 子供になんてことを言うんだ。


「お前の美貌は母さん譲りだからなあ」


 美貌って言われても正直嬉しくねえよ。


「まあ、そのために剣術を教えて、簡単に負けないよう強くしてるんだが……」


 強制的にな。嫌ってほど慣れてきたよ。


「話を戻すが、もし、な。君の前で、誰かが傷ついていたら……君はその子を護るんだ」


 ……護る?


「そうだ。もし、その誰かがいじめ……理不尽な暴力にさらされていたら、君はそいつに手を差し伸べて、護るんだ」


 護るって、いったい……


「……白零……僕は母さんも、お前も、護れなかった。母親を知らない君は僕を負担さえないようにとなんでも一人でできるようになった」


 なんでもって……家事炊事洗濯ぐらいだし、


「しかし君はそのせいで誰に対しても甘えなくなってしまった。僕は君に『護られる実感』を与えてやれなかった……」


 親父?


「現に白零は僕の事を“お父さん”でも“パパ”でもなく“親父”と……」


 え!? 関係あるの!?


「本当は君には……誰かを護れる人に育ってほしい……!」


 親父。どういう意味だ?


「だからな、君には残酷だけど……もしも傷ついている子がいたらもう傷つかないようお前がその子を護ってくれ」


 俺が……護る……


「順序が逆になってしまうけど……仕方がない」


 親父……わからないけど……わかった。


「白零……すまない……僕は……君を……!」


 親父……


「パパって呼んでじゃれてくる子に育てられなかった!」


 親父ぃ!?


「こんなかわいい顔して甘えてこないなんて……残酷だ!」


 気持ち悪いこと言うな! バカ親父!


「僕は……君に“親父”って呼ばれてほしくなかった!」


 ああ……そう。もういいや……



 1・目を覚まして



 長い長い微睡まどろみからもう一度意識がはっきりとなっていく……

 そして……


「……………」


 目を覚ますとここは知らないところだった。

 なぜか一度見たことがある風景。いや……


「……確か俺は……」


 俺はそばに置いてあったカチューシャを着け、周りを見ようとした時、

 視界の端にあるものが見えた。


「……これは…………」


 俺が寝ているベッドのすぐそこの床。

 そこには俺の刀が折れた状態で置いてあった。

 つまり……


「夢じゃないってことか……」


 昼江ひるえは本当にここに……


「……あいつが言ってたこと……いったいどういう意味だったんだ…………」


 護るために必死になってなにがいけないんだ…………


「ん?」


 なにやら足の部分に重さを感じた。

 どうやら何かがのしかかっているようだ。

 それは……


「千代……」


 千代が俺が寝ているベッドにもたれかかって寝ていた。

 俺の看病をしていたってことか。

 しかし……


「何時の間に部屋へ?」


 なんで深夜にはいなかったのに、朝にはいるんだ?

 いつの間に部屋へ入ったんだ?

 なんかよくわからんが……


「う……ん……」


 すると、タイミングがいいのか、千代が目を覚ました。

 そして、まだ寝ぼけた様子で俺の顔を見ていると……


「…………。…………? …………!」

「よう」


 だんだん覚醒してきたのか俺の顔を見て驚いている。


「零……ちゃん……!?」

「ああ。俺だ、千代。おはよう」

「零ちゃん……」


 すると千代は急に涙目になり。


「零ちゃん!」


 俺に抱き着いてきた。

 …………って!?


「痛たたたたたた!! ちょ、強い! 強すぎるぞ!!」

「零ちゃん! 目を覚ましたんだね! よかった……よかった……!!」


 待て待て待て! まずは強すぎる拘束を解いてくれ……!

 き、傷に……響く……!


「おおう……」

「……? あっ! 零ちゃん、ごめん……」

「…………いや、大丈夫だ…………」


 本当は大丈夫じゃないけど。


「零ちゃん……」

「?」


 なんだよ急にしょんぼりしちゃって。


「あの時は御免なさい。あのとき私が出てこなかったら……」

「……………」


 ……あの時。

 俺が刺されたきっかけの事だろう。

 やっぱり千代はこのことを気にしていたんだな……

 けど……


「千代」

「……はい」


 俺はあえて……


「用心棒はな、たとえどんな時でも気を抜いてはいけない。とくに目標達成時は一番危ないんだ」

「はい」


 厳しく言う。


「それに任務中は俺の事を気に掛けるな。同業者よりも護衛対象を気にしろ。わかったか」

「はい……!」


 あのとき、もし俺が間に合わなかったら千代は怪我じゃすまなかったかもしれない。

 そうなったら俺は……

 だけど……


「……それとな、千代」

「はい」

「……ごめんな」

「え?」


 とはいえ俺も、

 それ以前に心配させちまったしな。


「あんなに無理しちゃってよ。約束、破っちまったな」

「零ちゃん……!」


 ぺちっ


「千代?」


 千代が俺の頬を軽くたたいた。


「零ちゃん。あの時、私たちを護るためにあの蜥蜴男さんに挑んだけど……もう無理に私たちを護ろうとしないで……」

「千代……」


 こんな千代……珍しい。


「私も……もっと強くなるように……頑張るから……だから……」


 そう言って千代はもう一度俺に抱き着いて泣きじゃくっていた。


「お願いだから……心配させないで……!」

「……そうだな、本当にごめん」


 今思えば、あの時はもっといい方法があったじゃないかと思う。

 しかしそれは結局過去。

 今思ってももう遅い。


「俺もお前もまだまだってことだな」


 まあ何とか、いろいろ危機があったけど……


「改めて言うぞ。心配かけたな、千代」

「……うん。無事でよかった、零ちゃん……!」


 俺は千代にしばらくの間抱き着かれたまま、泣き止むのを待つのだった。


 こうして俺は、途中危機がありつつも、

 オーリエ村を護ったのだった。



 2・あの衣装の件



 しばらく経って、千代が泣き止み、俺も落ち着いた頃。


「ところでラネットはどうしたんだ?」

「ラネットさんならもうすぐここへ来るはずだけど……」

「そうなの?」

「うん。私はいつもより早く起きちゃってここに来ちゃったんだけど……」

「そうか……」


 俺はラネットとの約束を思い出す。

 一人で無茶はするな、だっけ

 はは……なんだか怒られそうな雰囲気。


「あ、それとね零ちゃん」

「ん? なんだ」

「実は零ちゃんのジャージなんだけど……」

「ジャージ…………はっ!?」


 言われて気づく。

 確か俺のジャージは……


 カルリトロスにズタズタのボロボロにされたんじゃ……!


 そう、たしかあいつに剣で所々斬られまくった。

 だが、やばいのはそこじゃない。

 たしか……


 あの炎の蛇のせいで片腕と片脚が……!


 そうだ。

 たしか左腕と右脚の部分が焼け落ちたんだ。

 切られたところは直る。しかし、焼け落ちたは所は直らない。

 つまり……あのポニーテールな女剣士の……そう!


 まさかの片だけスタイル!?


 片だけスタイル。

 片袖、片裾がないこと。(命名、俺)


 いや、待ってくれ! そんなの嫌だ!

 それってなんのサービスにもならないし第一嫌だ!

 だが、ここ幻界にジャージはない(はず)!

 ってことは……


 片だけスタイルか、ジャージを捨てるかの二択……!


 どっちも嫌だ! 片だけも嫌だがジャージなしも嫌だ!

 片だけだと駄目だ。なんていうかいろいろな意味で駄目だ! こんなジャージを着こなしたら沢山のジャージ愛好家に怒られる!

 かと言って着ないなんて選択肢はもっと駄目だ! それだと次回からはジャージ剣士じゃなくてただの剣士になっちゃう! 俺の気分と相まって二重の意味で駄目だ!

 これはなんなのだ神よ! いったい何の試練なのだ!

 いったい……どうすれば……!


「零ちゃん? なんだか、かつてないすごい葛藤しているけど。はい、零ちゃんのジャージ」


 なんだと……!


「やめてくれ千代! 俺は無残になったジャージの亡骸なんか見たくない!」

「え? 零ちゃん。別にこれは……ほら」

「だああぁぁぁ! わざわざ俺の前に出して見せなくても……」


 ……あれ?


「はい。ジャージ」

「……………」


 千代……なんで俺のジャージが……!


「完全修復してるんだ!?」


 いや、たしか長袖の左腕とズボンの右脚が焼け落ちて片だけスタイルになったんじゃ……


「えっとね。零ちゃんの治療が終わって、後は起きるのを待つだけって言ってたから零ちゃんが起きる前にジャージの修復を……」

「いや、でも。この世界にジャージはないんじゃ……!」


 いや、正確にはないと思う、だけど。

 だってあったら雰囲気が……


「うん。正直に言うと、呉服屋さんには随分無茶な頼みをしちゃったけど、私もがんばったよ」

「千代……」


 お前……

 俺が起きると信じて……俺のために……こんなことをしてくれるなんて……!


「千代おおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

「きゃ……!?」


 あまりの嬉しさに俺は、ベッドから上半身を起こして千代に思いっきり抱き着いていた。


「れ、零ちゃん!?」

「ありがとう……ありがとう千代!! 俺は……俺は嬉しいぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「う、うん……いいけど……ちょっと苦しいよ……」


 千代が珍しく慌てている。

 けど構わない! ジャージの危機を救ってくれた恩師よ!

 と、その時……


「ちょっと! 今の声ってまさかハク、レ……イ……が…………」

「あ……」

「うん?」


 ラネットが部屋に入ってきた。

 それはいいんだが……


「……………」

「……………」

「……ラネットさん?」


 …………さて、シンキングタイムだ。

 部屋に入ったラネットが見た光景。

 それは……


 病み上がりの俺がベッドから上半身を起こして千代に思いっきり抱き着いてる。


 うん、これは……


「………ハクレイ、あんた……」

「…………なんでしょうか」


 これはやばい。

 なんかものすごい危機が……!


「あんたが倒れて……私はとっても……とっても……! 心配したのに……!」

「待ってくれ。話をしよう……!」

「……心配したのに何やってんのよ―――――――――っ!!!」

「い、いや。ちょっと待って! 話せばわかぎゃあああああああああ!!!」

「零ちゃん!? ラネットさん! ちょっと待って……!」


 ああ……

 ……今回の件から俺が得るべき教訓。

 思い込みの激しい女は基本の人の話を聞かない。


 つまり?


 紛らわしく見られるようなことはするな、だ……


「以上…………」

「れ、零ちゃん!? ラネットさん! やりすぎだよ! まだ病み上がり前なのに!」

「は……!? 私としたことが! ハクレイ、大丈夫!? ハクレイ!!」


 はは……千代の慌てた声も珍しいな……

 そう思い、またしても俺は本日三度目の強制気絶をされる羽目になったのだった。



 3・本気の説教



「まったくもう! あの時は私も……その……申し訳ないって思ったよ。でもね!」

「はい……」

「いろいろ心配させないでよね!」

「わかりました……」


 何で病み上がりなのに容赦ないの……

 理不尽だ……


「ラネット……」

「なによ!」

「なんでもありません……」


 本当に理不尽……


「まったく……! あんたったら……!」

「ん? ラネット……?」


 ラネットが顔を伏せて震えている。

 それは……


「泣いて……いるのか?」


 俺はそう問いかけるとラネットは……


「当たり前じゃない!」

「!?」

「本当に心配したんだから……助かったってわかったから泣いてもいいじゃない……!」

「ちょ、おい、おおう……」


 待て待て待て!

 女が泣かれるとこっちとしてはどう対応したらいいか……!

 いや、千代の場合は静かに泣くって感じでラネットはその反対だから……


「だいたい……なんであんたはそこまでして護ろうとするのよ!」

「え?」


 ラネット……

 いきなりどうした……?


「そこまでって……」

「私たちのせいであんたを怪我させてしまったのは申し訳ないと思っているわ! でも、後は私たちに任せてもよかったんじゃないの!」

「ラネットさん……」


 ……カルリトロスの時のことか。

 あの時は必死だったけど、俺は……


「ハクレイ。あんたはいつも“護る”ってばっかり言ってる! でもね! 何かを護るためにあんたが傷ついたら意味がないのよ!」

「!?」


 ラネットが真剣な顔をして俺に語る。


「……あんたが私たちを護りたいって思ってる。でもね……!」


 そして、ラネットは大声で言った。


「……私やクロチヨだってあんたの事を護りたいのよ!」

「…………!?」


 ラネット……


「私はね……! あんたが死んだらどうしようって……いつも……いつも……不安になったのよ!」

「…………」


 千代は特に何も言わない。

 ラネットの言う事を静かに聴いていた。


「あんただけが傷つく必要なんてない!」


 ラネットは俺に命令するように懇願した。


「あんたが護るために、あんたが傷つかないようもっと私たちを頼りなさいよ!」

「頼る……」


 しかし……


「そんなの……」

「そんなのも何もない! 頼ることは必ずしも悪いことじゃないのよ!」

「だけど、自分の身は……!」

「私たちのせいで怪我を負ったのにその上で『自分の身は』なんて言わないで! その時は素直に私たちに任せてよ!」

「…………!」


 ラネット、本当に心配してたんだな。

 なんだか……凄く申し訳ないな。


「だからハクレイ! あんたができないことは私たちに任せて……








 ……何でもできる人なんてどこにもいないんだから!」









「!?」


 その言葉は……!


「もっと私たちを頼って! 信じて! 私とクロチヨががあんたを護るから!」

「……………」


 千代が言ったこと。


『もっと強くなるように頑張るから』


 ……そうか。


「そうだな。あの時は素直にお前等に任せて眠っとけばよかったな」


 もし俺が死んだら俺はもうなにも護れなくなる。

 だからこそ……


「ラネット……それに千代……」

「……な、なによ……」

「零ちゃん……」


 どうやら俺は忘れていたようだな。

 初心って奴をよ。


「ありがとう」

「「…………!」」


 昼江が言ってたこと。

 わかった気がする。


「零ちゃん……!」

「……初めからそうしなさいよ! バカ…………!」

「……ははは、大丈夫。俺は死なないから」


 昼江……


「……? 零ちゃん?」


 そうだよな。

 あの時は素直に任せて先に寝ていればよかったな。

 ははは……


「零ちゃん。ラネットさんが……」

「え?」


 と、千代に呼び止められ、ラネットを見てると……


「う……うぐっ……ひっぐ……うううううっ……!」

「!?」


 言いたい事を言いきったのかボロボロ涙をこぼしていた。


「おぉい! ま、まあ待てって! そそそう……落ち着いて! 落ち着いてって!」


 女は苦手だが流す涙はもっと苦手だった。


「ちょ! ち、千代! これどうすればいいの、これ!?」

「うーん……」


 情けない事に千代に助けを求める俺であった。







「私の時と同じく抱きついたら?」

「そ、そうか! よし! ラネット!」

「……!? ちょ! 離しなさいよ! バカっ!」

「ごふっ!?」


 病み上がりなのに大変な目に遭ったのだった。



 4・あの衣装の件2



 さて、ラネットもようやく泣き止んだところで……


「ね、ねえ……気になる事があるんだけど……」

「……なんだ?」


 さっき泣いたせいか気まずく視線をそらしながら訊いてきた。


「あんたのその……ジャージ、だっけ? それが直ったくらいであんなに喜ぶの?」


 直ったくらい?


「当たり前だ! それに俺が長年愛用していたものだからなおさらだ!」

「……よくわからないけど」


 なんだよわからないのかよ!

 このジャージの素晴らしさが!


「いいか! ジャージとはあらゆる状況に適した最高の運動着なんだよ!そんなジャージには素敵な着こなし方があるんだ! まず下は長ズボン! 上は半袖と長袖をいっしょに着る! そうすると暑い時と寒い時の両方に対応できるんだ! 寒い時はそのまま! 暑い時は長袖を脱げばすぐ半袖! 脱いだ長袖は腰に巻くもよし! 襷のごとく巻くもよし! 邪魔にはならないんだ! それにな、わかるか? ジャージの袖や裾はきつめに締まってるけど、これは捲り上げるには最適なんだよ! ずり落ちる心配はなし! つまりは温度が微妙な時も長袖長ズボンを捲り上げて微調整ができるんだ! あとはな! カルリトロスの時はいっぱいいっぱいでできなかったけど、戦闘時にも適した着こなしはあるんだ! それは――――――――――」

「ちょっとクロチヨ! どうしちゃったの、ハクレイ!?」

「うん。零ちゃんはジャージの事になるとこんなに熱くなるの」

「いや、熱いっていうより……うるさい」

「うん、そうだね」

「あっさり肯定しちゃったよ……止められないの?」

「えっと、ひとつ方法があるけど……」

「え、あるの? じゃあ止めてくれない?」

「うん、わかった」

「――――――――――と、いう事なんだよ! そんでもって長袖は……」


 プシュ――――――――――!


「意外と……頑丈……だから……!」


 なんだ……急に眠気が……


 バタッ!


「ってちょっとクロチヨ! 何してるの!?」

「え? 麻酔気体噴霧器がすすぷれー。これで静かになったでしょ?」

「いや、麻酔ってたしか眠らせるものよね。まだ聞きたいことあるのに……」

「あ、そうだったね」

「……まあいいわ、その間に落ち着こうかしら」



 5・今の村の状況



「……………は!?」

「あ、おはよう。零ちゃん」

「ああ、おはようって違うだろ! だから俺に向かって麻酔スプレー使うな!」

「大丈夫。零ちゃんは今、布団の中だから」

「ああそうか。それならいいわけが、あるかぁ!」

「……うん。御免なさい」


 はあ、どこまで話したっけ?

 ……まあいいか。


「それにしてもハクレイ。ずいぶん早く起きたわね」

「何度も眠らされてりゃあ起きるって」

「いや、そうじゃなくて」

「え?」


 違うって何が?


「治療が終わってから起きるのが早いってことよ」

「……そう言われてもわからんのだか」

「えっとね、零ちゃん。リュンピさんが推定した日にちよりも早く起きてるの」

「リュンピさん?」


 何でここにリュンピさんの名前が?


「クロチヨ。いきなりリュンピ様の名前を出しても解らないわよ」

「あ、そうね。実はね、零ちゃん……」


 千代の説明によると。

 村にやって来たレイラさんが瀕死の俺を見てリュンピさんを呼ぶためにわざわざ里まで戻ったそうだ。

 リュンピさんも向こうの都合があるのになんと治療のためにここまで来たそうだ。

 ちなみに今は里へ戻っているようだ。


「リュンピさんが……俺を……」

「うん。次に会ったら感謝しないとね」

「……そうだな」


 はは、参ったな。

 思わぬところで世話になってしまったな。


「で、それでさっきのはいったい……」

「あ、それでね。そのリュンピさんが最低でも起き上がるのにかかる時間を推定したの。でも、零ちゃんはそれよりも早く起きたんだって」

「……よくわからんが、そうなのか」

「そうよ。リュンピ様の予想より早いなんて……それ以前にそもそも起き上がること自体難しかったのよ」

「へえ……」


 地味にすごいな、俺。


「それにあんた、結構な大やけど負ってなかった?」

「火傷……」


 カルリトロス……正確にはあいつが出した蛇だが、そいつに腕と脚を焼かれてしまった。


「ああ、これのことか?」


 俺はかつて火傷があった左腕を出した。

 今では火傷があったなんて思えないくらいに綺麗に治っていた。


「零ちゃん。本当に火傷した腕なの?」

「ああ。脚も同じくだ。ここまで治るとは……リュンピさん凄いな」

「……そうね。レイラが言うだけあるわ」


 もし次にあったら絶対感謝しないとな。

 と、ここで……


『おい……カル…………当か!?』

『ああ……で…………されていた』

『いった………が……』


 ……なんだ?


「おい、やけに外が騒がしくないか?」


 風精族シルフィが戻ってきて村がまた賑やかになったのだろうか。


「ああ、それはね。ついこの前までここに攻められそうだったからね。外を警戒するために里からたくさんの兵を遣わしてるのよ」

「へぇ」

水妖族オンディーヌからもいくつか派遣させてもらってるわ」


 外……つまり……


「また火蛇族さらまんどらさんが来ても大丈夫なように?」

「そうよ。また新しく国境警備隊ができるまでに時間がかかるからね」

「そうなのですか……」


 まだ気は抜けないってことか。

 そりゃそうだな、悪いことの立て続けだもんな。


「こんなことになるなんて初めてよ。いったい何が……」

「……………」


 昼江とは別の殺し屋。

 いったい誰だろうか……


「……少々不安だが」

「?」


 遭遇したら……気を付けないとな。

 そう思う俺であった。



 6・看病



 と、ここで突然の空腹感が……


「ああ、そういえば腹が……」


 朝から何も食べてないし。


「零ちゃん。お腹の傷、まだ痛いの?」

「いや、そういう意味で言ったんじゃなくて……」


 そっちは安静にすれば大丈夫だし。


「朝から何も食べてないなって事だけだ」

「あ、そうなの」

「そう言えばハクレイここ何日もずっとだったからね」

「……俺、いったいどれくらい寝てたの?」


 少々怖い気がするが……


「じゃあちょっと待ってね……ラネットさん」

「ええ、わかったわ。ハクレイ、少し待ってて」

「おい! なぜ答えない!?」


 千代とラネットは部屋を出て、どっかへ行ってしまったのだった。


「……いったいどこへ?」


 疑問に思いつつ言われた通り待つことにした。


「……なんか食べる物でも持ってくるのか?」


 だとしてもなんでわざわざ二人で……

 疑問に思いつつも待ったのだった。



―――――――――――――一時間半後―――――――――――――



「お待たせ、零ちゃん」

「待たせたわね、ハクレイ」

「ああ、結構待ったな。いったい何をしてたんだ?」


 千代とラネットが部屋に入ってきた。

 なにやら千代は両手に土鍋を持っている。


「実はね、ラネットさんと二人で頑張って零ちゃんのために……」

「俺のために?」

「お粥を作ったの」

「へ? お粥?」

「私も結構頑張ったわよ」


 何で二人がかりで、しかもこんなに時間をかけてお粥なの?

 ……まあいいか。


「じゃあ零ちゃん。はい、食べて」


 ラネットがベッドの近くへ寄せたテーブルに土鍋を乗せ、千代が土鍋のふたを開ける。

 さて、どんな出来かな。


「おう、いただきま…………」


 …………あれ?


「千代……ラネット……なにこれ?」


 俺は土鍋の中を見る。

 そこにあったのは……


「なにって、お粥だけど」

「いや、おかしいだろ!」


 中にあったのは砕けた米と水。

 うん、れっきとしたお粥だ。しかし……


「なぜに紫!?」


 全体的に紫色のお粥だった。

 しかもそれはとてつもない異臭を放ち、紫色の湯気を放っている。


「ハクレイ。これはオーリエ村名産の薬草をふんだんに使った薬粥やくがゆよ。これを食べて早く元気になって」

「いや、ずいぶん健康的な名前だけど……」


 確かによく見たら草のようなものが入ってる。

 しかし……


「零ちゃん、大丈夫だよ」

「千代……」


 そうだよな、ラネットは解らんが千代は一人暮らしだから料理もできる。

 そうだよ! 城の名前が苗字の女が作る必殺料理じゃないんだから。


「私も味見したんだけどね、そしたら……」

「そしたら?」

「時間が先に進んだの」


 …………はい?


「どういう意味?」

「えっとね、食べた後に時計を見たらね、三十分も時間が進んでたの」

「何があったの!?」


 一気に不安になったぞ!?


「ごめんねクロチヨ。あの時は間違って買った放心作用の薬草入れてたから……」

「待て待て待て! 本当に大丈夫なの!?」

「大丈夫だよ、ラネットさんは料理が上手だから」

「……そうなの?」

「そ、そうよ! 薬草だってあのあとちゃんと確認をしたから!」

「……だったらいいが」


 まあラネットが必殺料理人じゃないからよかったが……

 改めて聞かれると……


「大丈夫……だよな……?」


 不安がぶり返してきた。

 やっぱりどうも躊躇してしまう。


「やっぱり不安?」

「そ、そんなことは……!」

「じゃあ、零ちゃん。私が食べさせてあげる」

「へ?」

「え?」


 そう言うと千代がスプーンで粥を一杯すくって……


「はい、零ちゃん。お口開けて」

「なにぃ!?」

「ええ!?」


 千代が俺にあーんしてきた。

 かけ声はないけど。


「ちょっと待て! 何やってんのよ!?」

「え?」


 と、ラネットが大声を上げた。

 いや、これって……


「えっとね、零ちゃんが食べようとしないから……」

「で、でも! あーんって……!?」

「…………」


 やばい早く食べないとさらに面倒くさいことに……!


「千代! 貸せ!」

「あっ」

「いただきます!」


 俺はこれ以上面倒なことになる前に千代からスプーンを取って、粥を口に入れた。


「零ちゃん? どう?」

「お、おいしい? ハクレイ?」


 口の中に入れた粥の味は……


「……美味い」

「本当? 零ちゃん」

「ああ、おどろおどろしい見た目と違って結構いけるぞ!」

「……! ありがとう、ハクレイ!」


 俺はスプーンをどんどん進めて粥を食べ続ける。


「いやー俺、こんなおいしいお粥を食べたのは初……めて……」


 あれ?

 なんか意識が……


 バタッ!


「零ちゃん?」

「…………粥…………うま…………」

「ハクレイ!?」


 も、もしかして……

 また……か、よ……


「ちょ……い……こな……」

「え……わか……いった……」


 なんでまた……こんな目に……

 まだ病み上がり……なのに……


 ……あれ? 今日一日、俺……

 ろくに入院してない気が……


 俺はまたしても、本日何度目かの強制的に意識を手放したのだった。

次回の更新は春になります。

突然かと思いますがしばらくお待ちください。

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