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壱捌話 起き上がるタイミングも大事?

 さっきから随分妙な感じを味わっているな……

 そう言えば今、俺は何をしていたんだろうか……

 たしか……


 ……そうか、たしか俺は千代やラネットをかばって重傷を負ったんだったな。

 村は……護れたんだろうか。

 だったらいいんだが……

 だとしたらこれは夢か……


 ラネット……

 すまねえ。一人で無茶はしないって約束、破っちまったな。

 安請け合いはしないつもりだったんだが……


 千代……

 たぶんあいつは俺が怪我したのは自分のせいだって思ってんだろうな……

 まあ、あいつは悪くないとは言えないが、必要以上に思いつめてしまいそうだな。

 もしこのまま俺が死んだらあいつは……

 ……それだけはだめだ。

 ここ死ぬわけにはいかない!

 ここで死んだらまた……また……

 また護れなくなる!


『やれやれ。これに懲りたのかと思ったのだがな……』


 ん? 誰だ?


『……哀れだな小僧。あれだけ痛めつけられてなお、何かを護ろうとして何の意味がある』


 あぁ、やっぱりあれ重傷だったんだな……だろうと思ってたが。


『起きた所で、また同じことに、なるかもしれないぞ?』


 それでも……それでも護るさ。どんな人だろうと、暴力から護るさ。


『随分傲慢な男だな。それほどまでに、死にたくないか?』


 当たり前だ。千代の約束も守らなきゃあいけないしな。

 ……だからお前誰?


『……死にたくないのなら目を覚ませ……小僧』


 ……その発言は大丈夫か?


 けどまあ、当たり前だ。これ以上心配させねえ。


 腹が刺される?

 どっかの剣士は腹えぐられても生きてるんだぜ。

 体中斬られる?

 どっかの剣士は全身ずたずたになっても復活してるんだぜ。

 腕や脚が焼ける?

 どっかの剣士は……焼けてはないか。

 ってか、どっかの剣士ばっかだな。


 そんじゃあまあ。

 もう一つの約束を果たすとするか!



         2



 目を覚ますとここは知らないところだった。


「……どこだここは」


 もしかしてあの後誰かに運ばれて治療されたんだろうか……


「……………」


 とりあえず自分の状況を見る。

 俺は今、ジャージじゃなく入院患者が着るような手術衣を着てベッドに寝かされていた。

 怪我があったところを見てみると……


「おおい……」


 ほぼ治っていた。

 所々の軽い切り傷は跡形なく消えていた。

 左腕と右脚の火傷の跡も綺麗になくなっていた。

 ただ……


「おおう……」


 腹の部分には包帯やらガーゼやらよくわからんものやらでぐるぐる巻きにされていた。

 まだ完治していないところを見ると、この傷には苦労していたようだ。


「だとしても良く生きていたな、俺……」


 正直、あれは死ぬかと思った。

 精神論でどうにかなる傷じゃなかったんだが……


「ま、生きててよかったならそれでいいか」


 現在の状況。

 どうやら夜らしく、この部屋は俺以外に誰もいない。

 あまりにも静かだが……もしかして深夜か?


「何でこのタイミングで起きるんだ……」


 ここは、そう。看病しながら寝入ってしまった誰かがここに居て、俺が朝日が昇るとともに起きる。

 そして、寝ていた誰かを起こしておはようって言ってそこで感動の抱擁じゃ……


(……映画の見すぎか)


 さすがにそれは不謹慎か。

 しかし、誰かがいないのも事実、勝手に動いちゃいけなさそうだし。

 かと言ってもう一度寝るにしろ眠気を感じないし。


「それにしてもさっきの声はいったい……」


 夢の中の声に疑問していると……






「あれ、もう起きたの? ずいぶん早かったわね」






「!?」


 突然窓からそんな声が聞こえてきた。


「誰だ!」


 俺はその謎の声に警戒し、ベッドから飛び起きようとしたが。


「だめよ♥」

「がっ!」


 謎の人物は俺が起きる前に素早く俺の上に跨った。


「ちょ……病み上がりだぞ!」

「えへへ、知ってる♥ だけど先に動いたのはあなたよ」

「……!? その声は……お前……!」


 暗闇に目が慣れた俺は、目の前の人物をよく見た。

 金髪に染めた髪に女子高生のような制服姿。

 腰のベルトには大量の鉈が吊るしてあった。


 そしてこの聞き覚えのある声に見覚えのある顔。

 そいつは怪しい笑みで俺を見つめていた。


「なんで……!? なんでお前がここにいるんだ!」

「……第一声がそれなの? 白零君」


 目の前の女は呆れたような顔で言った。

 そう、そいつはかつて俺が護れなかった子の片割れだった。

 今は依頼を受け、悪と決めている者を屠る殺し屋。

 そう……


浮空うきそら……昼江ひるえ!」

「久しいね。白零君。会いたかったよ♥ うふふふふ……」


 浮空うきそら昼江ひるえが、そこにいた。



           3



 これは俺がまだ用心棒になる前の学生だった頃。


「白零君! 白零君!」

「ん? なんだ」


 俺が最初に護ると約束した子。

 浮空うきそらよる浮空うきそら昼江ひるえ

 同じ苗字が並んでいるが双子ではない。

 こいつらは……


「今のあたし、どっちでしょ♥」

「うーん。夜」

「……よくわかったね」

「昼江の口調を真似ても、雰囲気でわかる」

「……そんなの白零君だけよ」


 そう、いわゆる二重人格だった。

 元気があり活発な方の人格が昼江。

 お淑やかで落ち着いた感じの方の人格が夜。


 彼女は一つの身体に二つの人格を宿す子だった。

 ちなみに当時は金髪じゃなくて黒い髪だ。

 そのころで金髪だと目立つし。

 とはいっても……


「おい。変態女!」

「!?」


 また来たよ……

 そこには派手そうな格好の女に取り巻き二名の女がいた。

 その中でリーダー格の女が言った。


「ちょっと来な。ワタクシ、あんたに用があるのよ」

「……! いや……」

「いやじゃないわ! さっさと来なさい! 変態女!」

「そうよ! そうよ!」

「……!」

「おい! そんなこというのやめろ!」


 浮空のついたあだ名は変態女。人格が変わるのが虫の変態の様だそうだ。

 そう、彼女は二重人格故にいじめられていた。

 クラス中からもあまり相手にされなかった。

 そのせいで、面倒な女子に……


「なによ白零! また邪魔するの!」

「あんた最近、生意気よ!」

「知るか、だったら浮空をいじめるのはやめろ。……無論、両方だ」

「なによ……生意気!」

「マジでムカつくわ!」

「はあ……面倒くさい」


 俺の女が苦手な所はここから始まったかもしれない。


「大体白零、あんたちょっと顔がいいからってなにその女になびいてるのよ! そんな女より私達の方が断然上でしょ!」

「……そうだな」

「……! 白零君……」


 まったくこいつらは……


「お前等の方が断然……嫌いだな」

「なに……!」

「浮空の方がまだ魅力的だな」

「白零君……!」


 俺の言葉に女子どもは……


「私達より……その女が魅力的ですって……!」

「いちいちコロコロと変わる変態が……私達より……!」


 と、ここでリーダー格が、


「もういいわ。こうなったらあんたも変態女も、みんなワタクシに跪かせてやるわ!」

「お前は女王か」

「そう言ってるのも今のうちよ! 健二けんじ!」


 そう言って現れたのはいかにも不良な近藤健二こんどうけんじ。(だった気がする)

 まあ簡単に言うとリーダー(もうそう呼ぶわ)の彼氏である。


「やっと呼んだか。はっはっは! こいつがお前の言ってた……」

「そうよ。最近何かと変態女をかばっている騎士ナイト気取りの男よ」

「……お前意外とメルヘンチック?」

「……! うるさい! 健二! とにかくこいつを倒して!」

「ああわかったわかった。だがここじゃあ場所が悪い。移動しようぜ」


 そう言われ、半ば強制的に校舎裏へ移動させられた俺達。

 移動中、浮空のそばを離れず警戒しつつ、校舎裏へ移


 面倒くせえ



―――――――――――――しばらくおまちください―――――――――――――



「はい、何か言う事は」

「す、すいませんでし……た……」


 ドサッ!


「健二!?」

「さて、お前等はどうするんだ」

「「「!」」」


 俺は敵意のこもった眼で女どもを見た。

 すると……


「……今回は見逃してやるわ!」

「覚えていなさい白零!」

「謝っても許さないからね!」


 女どもはありきたりなセリフを残し、行ってしまったのだった。


「ふう、大丈夫か」

「……え、うん。白零君は?」

「大丈夫。問題ない」


 親父にある程度鍛えられてるから簡単には敗けないさ。


「……白零君って強いね」

「ん? そうか」

「……そうだよ。いつもわたしを護ってくれる。それなのに……」


 夜?


「……わたしって弱いね。いつも護られてばかりで……そのせいで白零君に迷惑かけて……」

「……夜。別にいいんだ」


 俺は落ち込む夜に声をかけて慰めた。


「何でもできる人なんていないんだ。誰にだって強い方と弱い方を持っている。お前はたまたま気が弱いってだけでお前自身が弱いわけじゃねえ」

「……そうなの?」

「そうだ。それに……」


 ああこれ、言うの恥ずかしいが……

 ……仕方がない。


「……迷惑じゃない。お前のこと、大事だと思っている」

「……え!? 白零君……!」

「もちろん、友・人! としてだが……」

「白零君……ありがとぉ―――――っ!!」

「え? うわ!」


 夜!? 急に抱き着くなんてお前らしく……

 ……はっ!


「お前昼江か! いつの間に変わったんだ!?」

「ついさっき! 夜ったら照れて引っこんじゃったよ♥」

「ええ!? わかりづらっ!? もっとこう片目が変わるとか髪の色が変わるとかで人格がわかるのってないの!?」

「いいじゃん! 今はこうやって白零君に抱きつけるんだから♥」

「ちょ! やめ! おい! 当たってるって!」

「うふふ、白零君なら別にいいよ♥」

「ちょ! おまっ! お前はもっと慎みを持てぇ――――――――――!!」


 と、まあこんなように二人の浮空を護っていた。

 もっとも昼江は元気があっていじめに屈するような子じゃない。

 ただ、夜の場合今一つ気が弱いのが難点だった。


「……白零君。おんぶして」

「……夜の口調にしても無駄だ。それにあいつはそんなこと言わない」

「あぁ、残念ね♥」


 と、まあ俺はそうやってあいつを護っていた。

 あいつに迫る脅威から、暴力から、護っていた。



          4



 昼江はニコニコしながら俺のお腹に跨ったまま嬉しそうに喋った。


「驚いたね。白零君もこんなところに迷い込んだんだね♥」

「俺『も』!? じゃあお前も……!」

「そ、“迷い子”よ♥」


 よりにもよってこいつが……こんなところに……!


「いったい、どういう……!」

「あはは、そうね……」


 昼江は思い出すかのように考え、そして言った。


「話すと長くなるから割愛すると、つまりあたしがここに迷い込んだ時に火蛇族サラマンドラに会っっちゃったの♥ それで、『奴隷にする』って言って、あたしに襲い掛かったの♥ そいつ等すごく悪そうな顔だし♥ 実際にも悪いことをしているとわかったから……殺っちゃった」

「ああ……」


 最後に見せたこの冷たい表情……そうだ。

 殺すとき、殺そうとしてる時、相手を刻むときになる表情。

 いつも笑う表情は飾りで……最後の表情がこいつの本質。


「相変わらずだな、お前」

「でね、そのあとあたしはそこのリーダーに言ったの。『あたしを雇わないか』って」

「なに!?」

「それでね、快く承諾してくれたわ♥」

火蛇族サラマンドラが……殺し屋を……!?」


 いや、ちょっと待てよ……たしかラネットの話では……


「……昼江、教えろ」

「ん、なにを?」


 どうしてもこいつに聞きたいことがある。


 ……あれ以降、昼江はあいつ等に復讐をし、そして容赦しない外道を許さない殺し屋になった。

 依頼され、いわゆる悪と呼ばれるものを殺すために……

 任務で何度も会った。殺されまいと必死になったことがあった。


 殺し屋ではあるが、悪を許さないことから殺し屋になった女だ。

 そんなお前が……


「なんで火蛇サラマン――――」

「あっ」


 ズキッ!


「痛たたたたたたた!? ちょ、動くな! ってかさっきから言いたかったが俺のお腹に跨ぐな! 傷が広がってしまうだろうが!」


 さっきから衝撃の事実についスルーしてしまったけど。


「あ、ごめんね♥ じゃあ……」


 と、昼江は体勢を変えて……


「これならどう?」

「なんでだよっ!」


 俺の上でうつぶせの体勢に、

 つまりは覆いかぶさっていた。


「あはははは。白零が動かないからよ♥」

「意味わからんからどいてくれ。重い・軋む・確実に!」

「それで、なにか聞きたいことは?」


 華麗にスルーされた。

 まあそんなやり取りをしたが改めて……


「で? お前はいったい何で火蛇族あいつらに雇われてるんだ」

「そうじゃないとあたしは死ぬかもしれなかったのよ♥ だってあいつら、『奴隷にする』なんてことを言ってきたからね。貞操の危機よ、危・機!」

「……じゃあ国境警備隊を壊滅させたのも、ラネット……いや、調査隊の奴らを殺したのもお前なのか」


 ラネットは言ってた。

 奴隷じゃない人間がいると。

 そいつは人間の速さじゃないと言ってた。

 だとしたら……お前は……!


「そうよ。と、言うと思った? 違うわ。それは別の奴がやったのよ」

「別の奴……?」


 じゃあ、まさか……!


「そうよ。あたし以外の殺し屋もいるわ」

「!?」


 なんてこった……

 昼江以外にもいるのかよ。

 と、ここで昼江が……


「さてと、ここで白零君に手土産で~す♥」

「ん?」


 腰のベルトの後ろ側からあるものを取り出した。

 それは……


「俺の刀……」

「そう、折れているのはご愁傷様ね♥」


 そう、折れた刀の柄がついた方だった。


「ねえ、白零君。あなたにあることを教えます」

「……なんだ?」


 いい予感はしないんだが……


「実はこの村の近くで、ある怪我をした火蛇族サラマンドラがこの村に運び込まれてます♥」

「なに!?」


 まさか……


「いや、カルリトロスじゃないわ。ただの蛇人サーペンターよ」

蛇人サーペンター?」


 浜辺であった蛇男のようなものか。

 しかし……


「誰だ……?」


 あの戦いはカルリトロス以外は傷つけずに無力化したはず、

 カルリトロス以外に怪我をした奴がいたか……?

 それとも、千代かラネットがやっちまったんか?

 いや、待てよ……確か……


「カルリトロスに斬られた部下か……!?」

「あら、何で知ってるの? その通りだけど♥」

「斬った張本人がそう言ってたんだよ。反省の気もなしに」

「……やっぱ外道ね、あいつ」

「うん?」


 今不吉なことが聞こえた気が……


「で、いったいそいつがどうしたと?」

「あ、そうね。しばらくあなたがそばにいてくれない?」


 は? そばにって蛇人サーペンターの?


「……どういうつもりだ?」

「いやーそれはね♥」


 昼江はおどけたように言った。


風精族シルフィは基本的には寛容だけどやっぱり敵対種族にはどうしても警戒してしまうんだよね。だからさ、村を護ったあなたと一緒ならなんとかな―――――」

「ちょっと待て。お前は何でその蛇人サーペンターの奴に肩入れするんだ?」

「……簡単な理由よ。彼はね、いい蛇なんだよ」

「はあ? なんだそりゃ」


 ますますわからん。

 いい蛇って……


「白零君。火蛇族サラマンドラの里ってどんなところか知ってる?」

「いいや、まったく」


 行ったことねえし。


「そう、まあ一言で言うとね、格差社会があるのよ」

「えぇ?」


 格差社会?

 それって……


「白零君。火蛇族サラマンドラにはね、三つの位があるのよ。わかる?」

「位……蜥蜴とか蛇とか?」

「そう。一般的には下位の蛇人サーペンター。中位の蜥蜴人リザードマン。上位の竜人ドラグナーとあってね。生まれつきで決まるから残酷なシステムよね♥」

「おいおい、竜までいるのかよこの世界」


 ってか爬虫類のオンパレードだな。


「でね、里では蛇人サーペンターは基本、貧しい家が多くて働き手が少ないのが多いの。軍だって蜥蜴人リザードマン以上じゃないと入れないの。もっとも竜人ドラグナーなんてたったの数匹しかいないし」

「え? じゃあその蛇人サーペンターは……」

「そ、位の差を実力で埋めた秀才君でね、貧しい家族のために必死で軍に入った子なの」

「家族のため……」


 どこかで聞いた話だな。


「でも、そんな秀才君もここで終わりよ。生まれた種族。残酷な社会。部下を斬る嫌な上司。作戦には失敗。敵国には捕まる。つまり彼はこのまま里には戻れない……チラッ」

「なぜそこで俺を見る」

「だからね、しばらくの間一緒にいてくれないかなって」

「待て待て待て、何で俺なんだ。お前じゃダメなのか?」

「えぇ? そんなこと言うの?」


 俺達の目的を忘れてはいけない。

 そう…………


「俺達はもう少ししたら風精族シルフィの里へ行って“月の口”に入って元の世界に帰らなきゃいけないんだ」

「……ずいぶん冷たいわね。あなた、任務で見た時より冷たくない?」

「それはその蛇人サーペンター自身が何なのかはわからん。だけどな、わざわざ俺よりも親しいお前ならいいんじゃないのか?」

「駄目よ。火蛇族サラマンドラに雇われたあたしを知る風精族シルフィはいないと思うけど、でもあなたの方がやっぱりいいのよ」

「だとしても俺はこれ以上ここには長くとどまれねえ。心配してる人たちがいるんだから」

「ふぅん……」


 所長はどうなんだろうか。

 俺達が行方不明なのに気が付いてしまったか?

 それともまだ任務の途中だと思ってるのか?

 ……どちらにしろ。


「第一、勝手によその事情に首突っ込むのはお節介なんだぜ。せめて相手の意志は尊重しないと独りよがりになる」

「……じゃあさ、他人事じゃないことを教えようか♥」

「ん? なんだ」

「最近聞いた話だけどね……獣人族コボルト鳥人族ホークマンか、そのどちらかが……








 ……人間界から人間攫って奴隷にしてるんだって♥」








「なに……!?」


 人間をさらって奴隷だと……!

 だが……!


「たしかその話は他の種族との間で禁止されたんじゃ……」

「いいえ、こっそりやってるって噂よ」

「……! そうだとしたら、行方不明者が……」

「攫ってる人間はね、皆、天涯孤独か事件で死んだように見せかけられたやつよ。たとえば自宅でさらった後自宅ごと爆発させてうやむやにしたり……」

「……!」

「白零君。“月の口”ってのはね大体九個……いや十個……じゃなく十一個だっけ?」

「はっきりしろよ」

「まあいいわ、まあ結構数があるけどね、でも中には出口や開く時間ががランダムな“月の口”があるのよ」

「なに?」

「どこにあるかは知らないけどね。でももしそこが疑わしい種族の里にあって、日本に繋がってたら?」

「!?」


 確かにこれじゃあ他人事じゃない。

 人間が攫われるなんて……!


「これで他人事じゃなくなったでしょ。これを聞いてまだ自分は帰るって言える?」

「それは……!」

「まあ、無理に答えなくてもいいわ。それとね白零君」

「なんだ」

「これでも見直してるのよ。村を護ったことを」

「!?」

「だから……がっかりさせないでね♥」


 そう言って言いたいことを言いきったのか俺から降りようとする昼江。

 いや……待て!


「昼江!」

「なに?」

「いいかげん殺し屋を……やめてくれないか?」

「えー、また?」

「お前に人殺しをさせたくないからだ」


 今さらで手遅れかもしれない。

 だが……!


「もうお前のその作り笑いは見たくないんだ……!」


 諦めたく……ない……!


「……はぁ、いっつもそうね。会うたび会うたびにそれだもの。もう遅いわ」

「昼江!!」

「黙って」


 すると……


 シュッ!


「!?」

「本当に耳障りね」


 昼江は腰の鉈を抜き取り、俺の首筋に当てた。

 その表情は……殺しの表情だ。


「いっつも思うけどそれはなんなの? 殺しをしてほしくないとか本物の笑顔が見たいとか、まだそんな綺麗事を言うの?」

「……綺麗事で結構だ。それが悪いと誰が言う」

「悪を殺すことが綺麗じゃないと?」

「ああそうだ。殺された人もまた人なんだ。向こうだって護りたいものがあるはずだ」

「世の中そんなに物分りのいい人ばかりじゃないわ。死んでも理解しない馬鹿がいるわ」

「たとえ同じことをする馬鹿がいてもまた止めればいい。ただし、殺さずにだ。だからな、昼江……」


 昼江が殺し屋をやめるためなら……


「もう一度言う、綺麗事で結構だ。お前が綺麗になるためなら俺は全力を尽くす!」


 これが俺の……

 今にできる全力だった。


「……あはは♥ 本当に白零君は甘いね」


 そう言うと昼江は俺の首筋に当てた鉈を引き戻して腰のベルトに差した。


「でも、その甘さはいいね。溺れてみたいわ♥」

「…………?」

「そうね、もしあたしの条件を二つ飲んだら聞いてやってもいいわ♥」

「条件だと?」

「そう」


 つまりチャンスってことか……


「一つはさっき言った通り蛇人サーペンターの人としばらく一緒にいること。ほとぼりが冷めるまででいいわ。もう一つは……」

「もう一つは?」

「もし、あたしの中で今も引きこもっている夜を表に呼び出してくれるのなら、考えてもいいわ」

「……! それって……!」


 あいつが出てこなくなってから何年経ってるってんだ。

 そんなの……


「あたしは言ったはずよ。最後まで護りなさいよと。それは今も続いている。そして、夜を護るのはあたしじゃない……あなたよ」

「……! 俺が……?」


 そう言うといきなり右手を俺の顔へと近づけ……


「白零君。あたしが言うのもなんだけどね。それでも最後に一つだけ」

「なんだ?」


 いつもの笑い顔じゃない。真剣な顔だ。


「護ることに縛られないで」

「?」

「あなたは護ることに一生懸命すぎよ。それに……」

「それに?」

「それに、できないことをできないからって誰も責めないわ」

「……!? それはどういう意……味……!?」


 なんだ……!?

 意識が…………!


「それは後でわかるから今は安静にしてて」


 こいつ……何時の間に…………!


「じゃ、またね! 白零君♥」

「待……て……」


 俺の声も虚しく昼江は俺から降りて窓の方へと行ってしまったのだった。


「……く…………!」


 俺はまたしても強制的に意識を手放されてしまったのだった。

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