壱陸話 昔話は出すタイミングが大事
護ると言って護れなかったのは、
いったい何年前だろうか……
おい! いったいどうしたんだ! おい……!
「白零君……」
いったい誰がこんなことを……
「……どうしてなの?」
え……
「何であたしはこんなにもボロボロなの……?」
それは……
「何であたしはこんなにも辱められてるのに助けに来てくれなかったの……?」
い、いや……あの……
「……護るって言ったじゃない!!」
……!
「あなたが護らなかったせいで……夜は……夜は……!」
『夜』……!? じゃあ今のお前は……!
「…………!」
待ってくれ! 俺はただ……
「……あなたがなんと言おうと、もう夜は出てこないわよ!」
……!? そんな……
「夜はあなたを信じていた! あたしだってあなたを信じていた! それなのに……あなたは……あなたは……!」
待ってくれ! 昼江!
「嘘つき!」
…………!
「護るって言ったら……最後まで護りなさいよ……!」
……ごめん……夜……ごめん……!
「……もう謝っても……夜は…………う……うう…………」
う……う、うわあああああああああああああ!!!
当時の俺は知らなかった。
約束することの重さと言うものを。
“護る”って口にすることがどれだけの物かというのを……
当時の俺は知らなかった。
“覚悟”と呼ばれている物を。
俺は本当に考えなしだった。
それは軽々しく口にしてはいけないと言うことを……
当時の俺は知らなかった。
あいつは……いや、あいつ等は本当に俺を信じていたという事を。
それ故に俺がほんの少し物事を軽く見たせいであいつを護れなかった。
そのせいであいつ等は……あいつだけになってしまった。
あいつ等は……いいやつだった。
確かに他と比べては異質かもしれない……でもいい奴だったんだ……
だから、悪くないのに暴力を振るわれて……
それが嫌で護るって約束して……
でも結局は護り切れなくて……
だから俺は……護るんだ……
護れなかったあいつのためにも……
2
火蛇族さんから村を護ったのはいいけど、零ちゃんが大変なことに……!
私のせいで……!
「クロチヨ! あたしはこっちを持つからあんたはそっちを持って!」
「……わかった!」
いけません。今は零ちゃんのことです。
今の零ちゃんは危険です。
所々切り傷を負っていて右足と左腕が焼けてしまい、さらにはお腹には剣が刺さったままです。
その上激しく動いたために血が……!
「ラネットさん……!」
「落ち着いて! とにかくオーリエ村に戻るわよ!」
「でも……人はいないんじゃあ……!」
「……! そうか、もう避難はさせてしまったから……」
「……! 零ちゃん……!」
死んじゃダメだよ!
ここで零ちゃんが死んだら……私は……私はまた一人に……
「諦めないで! 今は安静できるところに運ぼう」
「……うん!」
とにかくこのままにするのはもっと危険です。
現に今も血を流し続けています。
「零ちゃん……死なないで……!」
傷に響かないように気を付けながら零ちゃんをオーリエ村に運んだのだった。
3
そして……オーリエ村に着くと……
「ラネット殿、黒千代殿に……白零殿!?」
「レイラさん……」
オーリエ村にはレイラさんと風精族さん達が何人かいました。
「レイラ! 何でここに……!」
「ラネット殿! 村の危機だからと里から遣わした兵士達と一緒に来たのだが……」
「レイラさん! 零ちゃんが……零ちゃんが……!」
「いや、説明は後だな。今は白零殿を何とかしないと……救護班殿!」
「「「はい!」」」
同じく里から来たのか別の風精族さんが何人か前に出てきました。
「この人を治療してやってくれぬか!」
複数の風精族さんは今の零ちゃんを見て……
「なっ……!? この子をですか……!」
「む、無理ですよ! いくらなんでもこれは……!」
「このようなひどい状態だともう……!」
「そんな……」
風精族さんの言葉に私は……
「なによ! あんたら弱音を吐かずにやりなさいよ!」
「なっ! お前は確か調査隊の……!」
「ラネットさん……」
「こいつはね! こんな状態になるまで村を護った人間なのよ! ここで風精族たちが何とかしなくてどうするのよ!」
「そ、それはそうだが、しかし……」
「救護班殿」
レイラさん……
「な、なんでしょうか」
「こうなったら仕方がない。水妖族の里からリュンピ様に来てもらうよう頼む。あのお方の精霊術なら白零殿は……」
「……! し、しかし……族長は里の外へは出られないんじゃ……!」
「同盟の村を護った者を見捨てるようなまねはしない! これは時間の問題よ。だからあなた達はせめて白零殿がこれ以上悪化しないように留めておいて!」
「……! 解りました!」
そう言われ風精族さんの救護班さんは零ちゃんを引き取り、この村の診療所へ運びました。
レイラさんもリュンピさんを呼ぶため水妖族の里へと向かいました。
あと、ラネットさんは……
「それとあんたら! 村のはずれのあそこに火蛇族の奴らがいるわ!」
「何! 本当か!」
「ええ! 全員無力化しているから、また起きてしまう前に取り押さえて!」
「……わかった!」
「あと、カルリトロス将軍もいるわ。気を付けて」
「カ、カルリトロス将軍ってあの……!? わかった! おい、お前等! 行くぞ!」
「「「はい!」」」
それぞれがそれぞれ動き出しました。
でも、私は……
「クロチヨ」
「……はい」
「もう私たちのやれることはやったわ。あたし達は宿へ戻りましょ」
「……はい……!」
私にできることは……もう……
4
俺は“女”が苦手だ。
理不尽で、感情的で、思ったことを口にせず陰でこそこそとやる。
まったく面倒だ。
「あの子は綺麗で可愛い。だから生意気ね」
「なによあいつ、調子のっちゃって」
「ほんと、ばっかみたい」
そんな理由で……いや、
たとえそうでなくても、そうだそうだと決めつける。
そう言って自分が上に上がろうとはせず、相手を引き下げる。
嫉妬した女は怖いものだ。
けど、初めから俺は女が苦手だったわけじゃない。
まあ、普通……って所だったな。
だから当時の俺はあいつとは難なく付き合えたのだ。
だけど、それも長くは持たなかった。
嫉妬した女は怖いが、執念深い女はもっと怖かった。
そのおかげであいつはその執念深い女によって……
俺の不注意であいつを護れなかった。それは事実だった。
だが“女”のあまりにもなやり方に俺は嫌悪するしかなかった。
なぜそこまでする。
お前等に容赦はないのか。
なぜお前等はあいつがあんなにつらそうなのに平気で笑っているんだ。
俺の女に対する感情は悪くなった。
そして何よりも決定的だったのは……
あいつが出てこなくなって数日後。
あいつをいじめた、原因である女どもは皆……
そう、通り魔に襲われたそうだ。
女どもが夜遊びをしている最中に何者かに襲われてしまったそうだ。
それだけならまだわからなかった。
しかし、話で聞いたその襲われ方で気が付いた。
同じだったのだ。
あいつが女どもにされたことと。
似ているどころじゃなかった。
俺は気が付いた。
犯人はもう一人のあいつだという事を。
そう、
執念深い女は怖い。
そして、復讐する女も怖かった。
女は感情的だ。
感情が豊かだ。
それ故に、感情に関する恐ろしさは男よりも恐ろしかったのだった。
あいつが出なくなったもう一人あいつはそう……
非道なことをする者に対して容赦のない人になってしまったのだった。
俺は護れなかったのはあいつだけじゃねえ……
もう一人のあいつをこんなのにさせたのも俺のせいだった。
だから俺は次、護るときはちゃんと護れるよう強くなろうとした。
そのために親父に頼んで、興味半分でやった身刀流を本格的にやった。
そして……俺はある人物を必死で探しだし……
……用心棒になろうと、決めたのだった。
5
白零が診療所に運ばれた日の夜。
ある村のはるか外の平原にて、一人の少女が一匹の蛇男を抱えていた。
「う、うう……」
「ごめんね。あたし、あの男を止められなかったわ」
少女は金に染めた髪に女子高生のような服を着た少女だった。
蛇男は体にいくつかの切り傷がある。
半日ほど前、自分の所属する隊のリーダーにつけられた傷だ。
「戦場で怪我するのは当たり前だけど、嫌な上司に斬られたんじゃ気の毒ね」
「ううう、うう……」
蛇男はうめき声をあげているが、意識はないようだ。
少女も困ったように言う。
「応急手当では限度があるから、仕方ないけど……」
そう言って少女は、ある村の近くにいる風精族の衛兵を見つけると、すぐさま近寄って声をかけた。
「あのー……」
「ん? 人間と……火蛇族!?」
「え?」
「村を襲おうとしたものか!」
しかし、案の定火蛇族である蛇人を見るなり警戒態勢に入る衛兵。
だが、少女はそうではないと全力で否定する。
「い、いえ、違います。実はこの人(?)、カルリトロス将軍に無理やり戦場に連れてこられた者なんです」
「なに? 本当か?」
「はい。村を襲う、なんて命令に従えないって言ったら逆上したカルリトロス将軍に斬られてしまって……」
「たしかに、これは切り傷だし、装備の類は一切付けてないな……」
もちろんあらかじめ武器防具は外している。
目立つのは大きな切り傷だけだ。
だからこそ少女は衛兵にあることを頼み込む。
「あの、この村でこの人(?)を治療してやってもらえませんか?」
「え? そう言えば君はいったい……」
「はい。この人(?)に助けてもらったのです。カルリトロス将軍は“迷い子”であるあたしを奴隷にするって言って……それをかばうためにこの人は……!」
「しかし、同じ火蛇族であるこいつが人間の君をかばうなんて……」
しかし衛兵の疑いは晴れない。
ただでさえ近くに控える村は火蛇族に制圧される所だったのだ。
怪我をしているとはいえ、そう易々と火蛇族を助けることはできない。
だだ少女は諦めない。なんとしてでも蛇人を助けるために必死に頼み込む。
「お願いします! 後でどんなことでも話しますから……!」
「……わかった。ただし、監視付きだが構わんな」
どうやら少女のまったく退こうとはしない姿勢に負けたのか、衛兵は最終的には許してくれた。
少女は引き受けてくれたことに目を輝かせるが、すぐにまた表情が曇りだした。
「はい! あの、あと……」
「ん? まだ何かあるのかね」
「はい。実は……あそこに……」
少女が指を指したところを見る衛兵。
しかし、そこには何もない。
「ん? 何もないじゃないか、って……」
ところが目を離したすきに少女は消えて行ってしまった。
突然の消失に衛兵は驚き、訳が分からないみたいに頭を掻く。
「なんだったんだ……?」
しかも自分は怪我を負った蛇男を抱えている状態だ。
こうなった以上捨てることはできない。
「放っておくわけにはいかないし……仕方がないか」
そう言って衛兵は蛇男をオーリエ村に連れて行った。
「さて、無事に治るといいね」
怪我を負った蛇男を衛兵にまかせた少女。
「それじゃああとはあの男を見つけて……」
と、さっきまで無表情だった少女の顔が急に笑みの表情になり、
「本来の依頼でも、しましょうか♥」
そう言って、どこかへと行ってしまったのであった。
彼女の狙いとは……




