第九話
耀気操作の訓練を開始してから、三日が過ぎた──────。
深い藍色に染まり始めた雪原で、少年の右腕が激しく脈動していた。
ユーは右手から腕へ、必死に白き炎を這わせていく。だが、肘を越えたあたりで制御の綱がぷつりと切れた。抑えきれない出力が暴発し、火花のように四散する。
「……ッ、くそ……!」
雪の上に膝をつき、肩で息をするユー。その様子を、カッセルは背後の岩に寄りかかり、腕を組んで静かに見守っていた。
(……あーぁ。操作の精度は、想像以上に微妙だな。出力がデカすぎて、扱いにくいってのはなんとなくわかるが……)
カッセルは、期待と呆れが混ざった溜息を夜の空気に吐き出した。
「……おい、もういい。一旦止めろ。操作がお粗末極まりねぇ。正直、数日で形になると思ってた俺がバカだった。こりゃあ、相当時間がかかりそうだぜ」
ユーが悔しげに顔を上げる。カッセルはその視線を遮るように、自身の無骨な手を少年の頭に置いた。ごわついた掌の熱が、冷え切ったユーの頭に伝わる。
「だが、まぁ……いいさ。時間をかけて、じっくり慣らしていけや」
カッセルはわずかに口角を上げ、踵を返した。
「今日はそこまでだ。戻って飯にしろ。明日からはさらに気合を入れろよ。これが出来なきゃ、次には進ませねえからな」
黄昏の闇が完全に降り、石造りの根城の窓から漏れる暖炉の光が、真っ白な雪原に一筋の道を引いていた。
───────さらに五日が経過した。
全身から耀気を出し続け、肌の表面に「固定」させる。少しでも集中が切れれば、白き炎は揺らめき、膨張し、霧散する。その繰り返しだ。
カッセルはといえば、一人訓練する少年を尻目に、悠然と自身の得物を手入れしていた。あるいは、近くの林で仕留めてきた獣の肉を干し、酒を煽る。
一見、ユーを放置しているかのようだった。だがその瞳は、片時も少年の耀気の揺らめきを見逃してはいなかった。
「……ッ、はぁ、はぁ……ッ!!」
訓練開始から八日目の夕暮れ。ついに、その瞬間が訪れた。
ユーの身体を包んでいた荒々しい白き炎が、吸い込まれるように密度を増し、薄く、だが確かな光の膜となって全身に定着したのだ。揺らめきすら消えた、耀気による白き光の鎧。
「……できた!」
纏身着化――全身を耀気で補強し、強固な防御を得る基本。
カッセルは手元の短剣を鞘に収めると、重い腰を上げて少年に歩み寄った。
「……ようやく形になったな。思ったよりかは早かったじゃねえか」
カッセルはわざとらしく鼻を鳴らした。内心では、この少年が「復讐心」という狂気じみた集中力だけで、わずか一週間強でこれを成し遂げたことに舌を巻いていた。
「さて、基礎の基礎は合格だ。だがな、ユー。鎧を着ただけじゃあ、ただの動くマトだ。守りの次は攻撃だ」
カッセルは肩に担いでいた薪を地面に放り投げ、地面に刺さっていた自身の大剣を引き抜いた。




