第七話
里が滅んでから数日が過ぎた。
深い山奥、切り立った断崖の隙間に張り付くように建つ、古びた石造りの番小屋。
そこは、カッセルが獲物を追う際に吹雪を凌ぐため偶然見つけた場所だった。里からはつかず離れずの距離だが、断崖が天然の防壁となり、吹き上げる風が音も匂いも遮断している。
時刻は、山の端から陽が消え去ろうとする黄昏時。空気は冷え込み、周囲は深い藍色の静寂に包まれようとしていた。
「……おい。飯の準備はいい、掃除もそれなりにこなす。だがよ、ユー。お前、さっきの雪兎に逃げられたのはどういうわけだ?」
カッセルは使い古された弓を放り投げ、地面の岩に腰を下ろして大きな溜息をついた。
「魔獣狩りの特権を持つあのヴェルライトの一族の生き残りが、弓も満足に当てられねぇとはな。面白すぎるだろ。……なんだお前、里じゃ親の手伝いばかりで、狩りはしてこなかったのか?」
十歳のユーにとっても、それは何よりも痛いところだった。父のような立派な狩人を目指して背丈以上の弓を引いてきたが、いつも矢は狙いを逸れてしまう。
図星を突かれたユーは屈辱に唇を噛み、汚れた袖で顔を拭った。
「じゃあ耀気はどうだ。どれくらい使える。基礎の基礎……『着化』までは出来るんだな?」
「……それなら、できる」
ユーが微かに頷き、精神を集中させる。少年の右手が淡く白い光に包み込まれた。だが、それはあまりにも頼りなく、吹けば消えそうな陽炎のようだった。
「……ふん、現時点じゃお話にならねぇか。復讐なんて夢のまた夢だな」
カッセルが鼻で笑い、言葉を続けようとしたその時だ。
ユーの脳裏に、村を焼き尽くし、家族を粘液の繭に沈めたフェルゼンの冷酷な嘲笑が過った。
「……ヤツを……フェルゼンを、絶対に殺す」
少年の喉から漏れた、地を誇うような呪詛。
次の瞬間、小屋の周囲の空気が爆ぜた。
「っ……お、おい!?」
カッセルは思わず身を仰け反らせた。先ほどまでの微かな白光が、一瞬にして白き炎の如く逆巻き、膨れ上がったのだ。
(……なんだ、この耀気の量は!? コイツ)
カッセルの瞳が驚愕に大きく見開かれる。少年の内側から溢れ出したのは、憎悪という名の黒い燃料で燃え上がる、圧倒的な出力のエネルギーだった。
「……ハッ、なるほどな。こりゃあ、たまげたぜ」
カッセルは冷や汗を拭い、自嘲気味に笑った。
「決まりだ、ユー。お前は弓なんて捨てちまえ。向いてねぇ」
カッセルは焚き火の薪を蹴り上げ、火花の舞う中で、自身の無骨な大剣の柄を叩いた。
「接近戦だ。その制御しきれねぇ怒りを、そのまま拳や剣に乗せてブチ当てる。……お前、化けるかもしれねぇな」




