第六話
「待って、ください! お願いだ……っ!」
ユーは、遠ざかるカッセルの背中に向かって叫び、雪を蹴って走り寄った。もつれる足で追いつくやいなや、カッセルの前へ回り込み、そのまま深い雪の中に膝と額を叩きつけた。
「……何だ、そりゃあ。土下座か? わりぃがそんなもん見せられても一ミリも心は動かんぞ」
「何でもします……! 囮でも、雑用でも何でもやる! だから、あの化け物に復讐する方法を教えてください! ヤツを……フェルゼンを絶対に殺す! そのためなら何でも……何でもやる!!」
額を雪にこすりつけ、泥にまみれながら懇願する少年の姿。カッセルは足を止め、深いため息をついて天を仰いだ。
「ったく、面倒な拾いもんをしちまったぜ。いいか、クソガキ。俺もガキの頃、故郷が魔獣に食い散らかされた……だが、誰一人として、俺に手を差し伸べてくれる奴なんていやしなかった。俺は一人で泥をすすって生き延びて、この体一つでここまで来たんだ。そりゃあ、地獄の連続だったぜ」
カッセルの琥珀色の瞳に、一瞬だけ鋭く、孤独な光が宿る。
「お前がここで絶望して死のうが、本来俺には知ったこっちゃねえんだ。だがな……」
カッセルは呆れたように頭を掻くと、力なく垂れたユーの肩を掴んで、強引に引き起こした。
「ま、あれだ。利用価値があるかないか、それ次第だ」
カッセルはユーの至近距離まで顔を寄せ、その瞳で少年の目を見据えた。
「復讐? いいじゃねぇか。自分はすっきりするし、死んだ奴らもヤツを恨んでるだろうよ。そりゃあ一番の供養だ。復讐は大賛成だ。俺でもそうするぜ」
予想もしなかった肯定の言葉に、ユーは驚き、目を見開いた。
「綺麗事で腹は膨らまねえし、家族も戻ってこねぇ。だが、やり遂げるってんなら、その泣きっ面を今すぐやめろ」
カッセルは不敵に笑い、親指で背後の険しい山道を指した。
「ヴェルライトの一族なら狩りは得意なはずだろ? とりあえずついてこい使えるか品定めしてやる」
ユーは溢れそうになる涙を、汚れた袖で力任せに拭った。
「……行きます。どこまでも」
「改めて、カッセル・ヴァングレイブだ。ガキ、お前……名前はあるんだろ?」
「ユー……ユー・ヴェルライト」
カッセルは大股で再び歩き出し、少年はその大きな背中を追い、二度と振り返ることなく雪の山路へと踏み出した。朝焼けが、二人の長い影を白い雪原に描き始めていた。




