第五十八話
ギィィィン、ギィィンッ……!
火花を散らしながら、ユーは死力を尽くして剣を振るい続けた。だが、フェルゼンから放たれる触手の速度と数は、ユーの限界を刻一刻と削り取っていく。
(……くそっ、キリがない……!)
弾いても、斬っても、赤黒い粘液は即座に形を変えて襲いくる。
反撃の隙を見出せないまま、腕の筋肉は悲鳴を上げ、視界には激しい疲労が混じり始めた。
その時だった。
——パキン。
研ぎ澄まされた神経が、絶望的な音を拾った。
これまでの激闘、そして過負荷なまでの高密度耀気に耐えかね、師匠から譲り受けたユーの愛剣の腹に細い亀裂が走る。
「……しまっ——」
動揺が走った刹那、フェルゼンの触手が、獲物を狙う蛇のようにその隙を突いた。
ガシュゥゥゥッ!!
「……が、はっ……!?」
次の触手を弾こうと掲げた片手半剣が、黒く硬質化した槍の直撃を受けて粉々に砕け散る。
防壁を失ったユーの無防備な胴体を、二の矢となる槍が容赦なく貫いた。
槍の穂先がユーの横腹を深く掠め、鮮血が夜の闇に舞う。
凄まじい衝撃に、ユーの体は木の葉のように吹き飛ばされ、地面を転がった。
「カハッ、……はぁ、……がっ……」
脇腹を抑え、荒い息を吐きながら顔を上げる。
指の間から溢れ出す温かい血が、地面に黒いシミを作っていく。
手に残っているのは、無残に折れ、輝きを失った剣の柄だけだった。
「おや、もうおしまいかい? あれだけ力強かった耀気も随分と弱まってしまったね」
フェルゼンは一歩も動かぬまま、ゆらりと触手を揺らして嘲笑う。
武器を失い、傷を負い、絶体絶命。
ユーの手から、剣の柄がするりと零れ落ち、石畳に乾いた音を立てた。
ユーは震える左手でポーチを探り、そこから二つを取り出した。
禍々しく脈動する『紫の結晶』。そして──夜月耀石。
「いいさ……やってやるよ……!」
血に濡れた右手。その人差し指と中指の間に『紫の結晶』を、中指と薬指の間に『夜月耀石』を、それぞれ深く挟み込む。




