第五十七話
ユーの全身から、眩いばかりの白き光の耀気が噴き出した。
これまでの炎のような揺らめき以上の怒りに震える彼の魂を代償にしたかのような膨大な耀気量を纏っていた。
剣身にはその光がさらに凝縮され、まるで一振りの光剣と化したかのように夜の闇を白く輝いていた。
ユーが地を蹴った。凄まじいスピードでフェルゼンへ肉薄する。
対するフェルゼンは、その顔から笑みを一瞬たりとも崩さない。
「ふふふ、君の激しい怒りが伝わってくるよ」
フェルゼンが灰色の長衣の袖を軽く振る。その拍子に、彼の右腕がどろりと赤黒い粘液に溶け、次の瞬間には黒く硬質化した異形の鎌へと姿を変えた。
金属とも骨ともつかぬ、光を飲み込むような禍々しい漆黒の刃。
ギィィィィィィィン!!
純白の剣と黒い大鎌が、正面から激突した。
「おおおおおっ!」
ユーは全身全霊を込めて剣を押し込む。白き耀気がフェルゼンの黒い鎌を焼き切らんばかりに激しく火花を散らす。
だが、フェルゼンは片手でその一撃をいなし、あくびでも出そうなほどに余裕たっぷりの足取りで、ユーの猛攻をいなしていた。
「その輝き、その躍動。……あぁ、もっと見せてごらん? 君がどれだけ足掻けるのかを」
「黙れッ!」
ユーは剣を翻し、連続斬撃を繰り出す。
しかし、フェルゼンは踊るように身体を逸らし、黒い鎌の石突きで軽く剣筋を弾き飛ばす。
それは戦いというより、大人が子供の剣舞を眺めて楽しんでいるかのような、残酷な「遊び」だった。
「どうしたんだい? さっきまでの勢いは。まさかこれで全力と言う訳じゃないだろう?」
「……っ!!」
ユーの全身を、生理的な拒絶感を孕んだ冷気が襲う。白く燃え上がる耀気。それとは対照的な、どこまでも底知れない黒。
二人の実力差を嘲笑うかのように、フェルゼンの黒い鎌が、月光の下で妖しく光る。
ユーは流れるような動作で片手半剣を鞘へと収めると、ポーチから二つの白日耀石を掴み出した。
「……ッ!!」
パキンッ!
掌の中で耀石が過負荷に悲鳴を上げる。
両手に握り込んだ白日耀石に高密度の耀気を一気に流し込み、亀裂を生じさせ、爆発的なエネルギーを強引に引き出す。
ユーの右拳が、凄まじい程の白光に包まれた。
「おおおおおっ!」
至近距離。ユーはその右拳の崩化による耀気爆発をフェルゼンの黒い大鎌へと叩きつけた。
——ドォォォォォンッ!!
凄まじい衝撃。だがユーは止まらない。
間髪入れず、左拳に宿したもう一つの白日耀石で崩化現象を起こし、同じ箇所へと追い打ちで叩き込む。
「はぁああああっ!!」
連続する白光の爆ぜ。強固さを誇ったフェルゼンの黒い鎌に、ピキリ、と致命的な亀裂が入る。
次の瞬間、ガラスが砕け散るような音を立てて、禍々しい刃が粉々に霧散した。
爆煙が晴れ、静寂が戻る。
フェルゼンは一瞬、何が起きたか理解できないといった風に、砕け散った右腕の先を凝視し、驚いたように目を見開いた。
しかし、その驚愕はすぐに三日月のような深い笑みへと塗り替えられた。
「……ふふ、ふふふっ。驚いたな。まさかこれほどとは……。なかなかやるねユーくん。これが君の必殺技かい?」
フェルゼンは砕かれた腕を気にする様子もなく、むしろ愛しい教え子の成長を喜ぶ教師のように肩を揺らした。
「おもしろいね。想像以上だよ……じゃあ、ちょっと遊び方を変えようかな」
フェルゼンは一気に後方へと飛び退き、ユーとの距離を取った。
直後、彼の両腕がどろりと赤く濁った粘液状へと溶け崩れる。
そこから無数の触手が爆発的に増殖し、それぞれの先端が、黒く硬質化した鋭利な槍や鎌へと次々に変質していった。
「さて、防ぎきれるかな?」
フェルゼンの合図とともに、赤黒い触手の群れが全方位からユーへと殺到する。
死角を埋め尽くすような、無慈悲なまでの物量攻撃。
「……っ!!」
ユーは再び片手半剣を抜き放ち、その身に高密度の耀気を纏わせた。
白き輝きが以前よりも鋭く、硬質に剣を包み込む。
全神経を極限まで研ぎ澄ませ。
飛来する無数の槍を、鎌を、ユーは最小限の動きで弾き飛ばしていく。
ギィィィン、ギィンッ! と、夜の庭園に火花が絶え間なく散る。
一撃でも受ければ致命傷。針の穴を通すような精密な防御を続けながら、ユーは赤い粘液の嵐の中で、反撃の機会を狙い続けるしかなかった。




