第四十七話
王都ディエーリスの喧騒から切り離された救護施設の一室。
西日の差し込む窓から侵入した赤い陽光が、眠り続けるユーの横顔を無機質に、そして残酷なほど静かに照らし出していた。
「……あんな力、見たことがねぇ」
沈黙を破ったのはカッセルだった。かつて幾多の修羅場を潜り抜けてきた狩人の声が、今は枯れ葉のように微かに震えている。
彼の脳裏に焼き付いて離れないのは、武猿を圧倒したあの禍々しい黒いオーラだ。それは、この世界の理である『耀気』とは明らかに一線を画していた。
「俺たちが使う耀気とは、根本的に違う何かだだった。黒霧魔獣が纏うあれに似ていたが、あれよりもずっと重く、暗い……何か。断言できる。あれは、人間が使っていい力じゃねぇ」
カッセルは、ベッドの傍らに置かれたユーの装備――酷使され、無数の刃毀れが生じた片手半剣を見つめた。
「俺たちが、あいつに全部背負わせちまったんだ」
カイルが絞り出すように応じる。白くなるほど強く握りしめられた拳が、膝の上で小刻みに震えていた。
「あいつが一人で戦うしかなかったから、あんな力に頼るしかなかったんだ……! 俺が上級狩人に上がれたのだって、全部ユーのおかげだった。結局、俺はいつだってあいつに頼りっぱなしだ。これじゃ、仲間なんて……胸を張って言えねぇよ」
悔しさと情けなさが混じったカイルの言葉が、狭い病室に重く沈殿する。
「……カイル」
リアナがそっとカイルの手を包み込んだ。だが、彼を慰める彼女の指先も、同じように震えを止めることができない。
彼女は思い出していた。あの一瞬、光を吸い込むように深紅へ染まったユーの瞳を。あの瞳に見つめられた時、彼女は本能的な恐怖――自分たちの知る「ユー」が、どこか遠い場所へ行ってしまったような喪失感に襲われたのだ。
「……それでも。ユーは私たちを守るために、あの力を使ってくれた。だから……目が覚めたら、いっぱいありがとうを伝えなきゃ」
震える声を懸命に整え、リアナは自分に言い聞かせるように続けた。
「もう二度とあんな無茶をさせないように、私たちがもっと、ずっと強くならなきゃいけないんだよね」
リアナの言葉を噛みしめるように、カッセルは自嘲気味に息を吐き捨てた。
「……ったく、何が極級狩人だ。お前たちにも、そしてユーにも、無理をさせすぎた。……ユーの師匠失格だな」
「……あんたのせいじゃない。あの時、俺やリアナが動けなかったせいで、俺たちを庇いながら戦うしかなかったんだろ? 回避に専念してりゃ……あんたならもっと善戦してたはずだ。それに、本来は引率役で一歩引いてるはずの中級のユーが、あんな最前線に出る羽目になったのも……全部、俺たちが足手まといだったからだ」
病室を包み込むのは、逃れようのない後悔。
しかしその底には、自分たちの命を繋いでくれた少年への、祈りにも似た情愛が流れていた。
外の時計塔が、一日の終わりを告げる時報を低く響かせる。




