第四十三話
「が、はっ…………」
吐血し、喘ぐユー。だが、極級の殺意は休む間さえ与えない。
土煙を切り裂いて迫った武猿は、倒れ伏すユーの脇腹を無慈悲に蹴り抜いた。
「ぐああぁぁッ!!」
鈍い衝撃と共にユーの身体が地面を滑り、愛用の片手半剣が手の中から弾き飛ばされる。
武猿は逃さない。止まったユーの腰元へ、その強靭な足を無造作に振り下ろした。
メキ、ィ……ッ!!
ユーのすぐ耳元で、生々しい破砕音が響く。
崩化の媒介となる数々の耀石を収めた革袋が、武猿の足の下で、中の石ごと無残に踏み潰されたのだ。
「あ……」
袋の隙間から、砕け散った色とりどりの破片が泥にまみれてこぼれ落ちる。
剣を失い、耀石すらも目の前で粉砕された。それは、狩人としての死を宣告されたに等しい。
「……っ、ユー!!」
リアナの声が遠くで響くが、今の彼女に助けを呼ぶ力はない。カッセルもカイルも、地を這い、自らの身体を支えるのが精一杯だ。
完全なる孤独。そして、完全なる無力。
ユーは、粉々になった耀石の残骸を霞む視界で見つめることしかできなかった。牙をすべて折られ、死神の前に晒された少年。
武猿はゆっくりと、ユーの頭上へ影を落とすように歩み寄る。その足取りには、もはや警戒すら存在しない。ただ「終わらせる」ための、静かな歩みだった。
指先一つ、命令に従わない。
絶望の闇がユーの視界を塗りつぶそうとした、その時。
霞む視界の隅、泥と血にまみれた地面に、たった一つだけ形を保った「黒い耀石」が転がっているのが見えた。
耀石のなかで最も使い道がないと言われる石だ。耀気の伝導率が極端に低く、どれほど力を注いでも何の反応も示さない。狩人の間では石ころ同然と蔑まれる、無価値な屑石。
それが無意味な行為だと、誰よりもユー自身が分かっていた。だが——。
(……動け。……動けよ……ッ!)
混濁する意識のなか、すがるような思いで指を這わせる。
「……ぁ……っ!」
ユーは震える指先を泥に潜らせ、その黒い石を固く、壊さんばかりに握りしめた。
武猿がその頭上に、トドメを刺すための巨大な拳を振り上げる。死の影がユーを完全に覆い尽くした、その瞬間。
(すべてを……この一点に……ッ!!)
ユーは体内に残る全耀気を、その一粒の石へと流し込んだ。




