第四十二話
「あ、……っ! い、い……やっ!」
悲鳴にすらならない、喉をかき切るような音が戦場に響いた。
武猿の黒棒が、震えるリアナの肩口に突き立てられ、ジワジワと体重をかけて地面に縫い付ける。
それは一撃で仕留めるための攻撃ではなく、明らかに弱者を弄び、その精神を折るための残酷な「拷問」だった。
「リアナぁぁ!!」
カイルが叫ぶが、吹き飛ばされた身体は思うように動かない。リアナが苦痛に顔を歪めるたび、その悲鳴が原生林の静寂を切り裂いていく。
ユーの脳内で、何かが焼き切れる音がした。
「……離せ……。その手を、離せぇええッ!!」
ユーが地を蹴った。
その速度は、先ほどまでとは一線を画している。右手に片手半剣を握ったまま、空いている左手で白日耀石を握り込んだ。そこへ、自らの腕に耀気を限界まで流し込んだ。
「ああぁぁあああ!!」
『崩化』──。
耀気の過負荷に耐えきれなくなった耀石に亀裂が走り、そこから溢れ出した白き燃え上がる炎のような光が、ユーの左拳を凄まじい破壊の塊へと変える。
ユーはそのまま肉薄し、全霊を込めた左拳を、リアナを抑えつける武猿の黒棒へと叩きつけた。
パキィィィィィン!!
金属音を超えた、空間が割れるような轟音。
赤蝕の粘液が変化した黒棒は、ユーの拳から直接放たれた『崩化』の暴力的なエネルギーに耐えきれず、粉々に粉砕された。
「……っ!? なんて威力だよ。俺と修行してた時以上じゃねえか!」
カッセルがその威力に目を見張る。だが、武猿の反応は、その驚嘆を即座に絶望へと塗り替えた。
武器を粉砕された直後、武猿はたじろぐどころか、空いた手で、振り抜いた直後のユーの左腕を正確に掴み取ったのだ。
「──ッ!?」
感情を排した魔獣の瞳が、至近距離でユーを射抜く。
次の瞬間、ユーの視界から天地が消失した。
逃れようのない強靭な膂力。
ユーの身体は巨大な鉄球のように振り回され、地面へと叩きつけられる。
ドォォォォォォォン!!
凄まじい衝撃が背中から全身を駆け抜け、肺の中の空気がすべて強制的に押し出された。
ユーの身体はその衝撃の中心で深く沈み込み、視界が真っ赤に染まる。
土煙が舞う中、全身の骨が軋み、意識が遠のいていく。混濁する意識のなかで、ユーはただ一点、震えながら自分を見つめるリアナの方へ、血に染まった手を伸ばした。




