第三十八話
陽光が木漏れ日となって降り注ぐ、原生林の奥深く。本来なら鳥のさえずりが聞こえるはずのその場所は、今、不気味な静寂に支配されていた。
そんな中、ユーだけが決定的な異変を感じ取っていた。
(……熱い。なんだ、これは)
腰の革袋が、突然、熱を帯びた。
中にあるのは、故郷を焼き尽くした仇『フェルゼン』の手がかり——寄生体に反応する『赤蝕の核』だ。これまで赤蝕魔獣とのの戦いで複数集めてきたが、これほど禍々しい光を放ち、熱を発したことは一度もなかった。
「おかしい。足跡がここで途切れてる」
リアナが弓を握り直し、眉をひそめる。三人が追っていたのは、上級の標的『剛角土竜』。だが、その先にあったのは「狩り」ではなく「蹂躙」の跡だった。
巨石のそばに、岩盤のように硬いはずの土竜の外殻が、ひしゃげたブリキ細工のように転がっている。内側から爆発したかのように肉を散らしたその死骸の上に、ソレは座っていた。
全身を黒い靄——生命エネルギーに纏われた、猿型の黒霧魔獣。それが息を吐き出すたび、周囲の空気が陽炎のように揺らめく。
「な、なんだコイツは……ッ!」
カイルが息を呑んだその時、頭上の樹冠が爆ぜた。凄まじい風圧と共に、一人の男が魔獣とユーたちの間に割り込む。
「おうっ! ガキ共、お前ら狩人か? 死にたくなけりゃあ、早いとこ立ち去るこったな!」
岩のような肉体を持つ男が大剣を無造作に引き抜く。ユーはその声に、わずかに眉を動かした。
「……師匠? カッセル師匠なのか」
「あん? ……って、ユー、お前久々じゃねぇか! 相変わらず景気の悪い面してやがって。と、積もる話は後だ!」
カッセルは猿から目を離さず、鋭い視線のまま吐き捨てた。
「ギルドの特命でこいつを追ってたんだが、よりによってお前と鉢合わせるとはな。運がねぇぜ」
「俺たちも加勢する! 俺とリアナだって、今日から上級狩人だ!」
カイルが折れかけた心を奮い立たせ、大斧を構える。だが、カッセルは鼻で笑った。
「ああ、その若さで上級たぁセンスはある。だがな、勘違いすんじゃねえ。この猿魔獣——『獄炎武猿』は極級だ。正直、かなりしんどい相手なんでな。邪魔になるってんなら、むしろ消えてくれた方が助かるぜ」
「なっ!?」「き、極級ですって……!?」驚愕に声を上げる二人。ユーも言葉こそ発しないが、その瞳は驚きと共に言う。
「……二人とも、それだけじゃない。この魔獣……赤蝕に寄生されている」
ユーの声が、低く沈む。その警告が終わるより早く、武猿が地を蹴った。
——ただの突進。だがそれは、音を置き去りにするほどの暴力的なまでの質量移動だった。




