第三十一話
中級魔獣の討伐を終えた帰り道。
三人は、赤く染まり始めた薄暗い森の獣道を街へと向かっていた。木々の隙間からは、斜陽が血のように赤い差し込んでいる。
三人の足取りには、安堵と、まだ噛み合わない連携への反省が混じっていた。
ふと、ユーの視線が前を歩くリアナの背に止まる。歩調に合わせて揺れる弓を、じーっと、穴が開くほど見つめていた。
「な、なに……?」
視線に気づいたリアナが、当惑したように身を引く。
「弓……か」
ポツリと漏らしたユーの言葉には、複雑な響きがあった。
彼は現在、師の姓を借りてユー・ヴァングレイブと名乗っているが、本名はヴェルライト。代々、魔獣専門の「弓の一族」として名を馳せる血筋だ。しかし彼にはその才能がなく、一族の誇りであった弓を諦めた過去がある。
「? まぁ、何の変哲もない耀樹の弓だよ。矢も同じ素材で、耀気を流しやすいようにしてあるし」
リアナが手元の弓を軽く振ってみせる。耀樹は環境中の耀気を吸って育つ特異な木だ。だが、一族の薫陶を受けたユーの目は欺けない。彼女の弓は栽培品ではなく、極めて希少な天然の老樹から削り出された業物だった。
「なんだ、ユー。弓に興味あんのか? やめとけって。遠くからビュンビュン飛ばすより、近接戦だろ、男なら!」
カイルが鼻息荒く割り込み、担いだ大きな戦斧を揺らして笑う。
「……カイルは弓、からっきしだもんね。ユーは本当に興味があるの?」
「ないと言えば嘘になるが……俺も弓は向いてなくて諦めたんだ。だから、少し思うところがあってな」
「そうなんだ……」
少しの沈黙が流れる。気まずさを察したのか、カイルが戦斧の刃を指先で弾いた。硬質な金属音が森に響く。
「ま、武器なんてのは適材適所だろ。俺たちの武器も元を辿れば生き物の命なんだよな。俺の斧もユーの剣も、『耀鋼虫』の殻が使われてるしな」
「あ、私の籠手にも使われてるわね。耀樹を食べて、そのエネルギーを全部、殻の硬化と反発に転換しちゃうっていう、あの食いしん坊な虫よね?」
リアナの言葉にカイルが大きく頷く。
「そうそう。あいつらは耀樹のエネルギーを凝縮して殻にするから、俺たちの『耀気』を流した時の通りが抜群にいい。おまけに……」
カイルが戦斧の根元にある「窪み」を指差した。
「このソケットに耀石をぶち込めば、武器にも属性が付与される。考えた奴は天才だよな」
カイルは街道の先に目を向け、しみじみと続けた。うんうんと頷くリアナ。
「……そう考えると、いろんな生き物がいるわよね。この世界って」
そんな会話を聞き、ユーの強張っていた肩の力が少しだけ抜けた。
「……確かにそうだな。弓がすべてじゃない。今の俺には、この剣がある」
師匠から譲り受けた片手半剣の柄にそっと手を置き、自らに言い聞かせるように呟いて前を向いた。
三人の狩人としての道は、まだ始まったばかりであった。




