第三話
「化け物め……っ! 息子には指一本触れさせん!」
ユーの父親が咆哮した。
その手に握られた弓が、これまでにない眩い光を放つ。耀気を絞り出し、一本の矢へと凝縮させる。
岩をも穿つ、父の渾身の一矢。放たれた光の筋は、フェルゼンの眉間を正確に捉えた。
だが、フェルゼンは避けようともしなかった。
「……ほう。凄まじい耀気だ」
彼の皮膚が金属的な黒い光沢を帯びて波打つ。次の瞬間、「ガキィィィィン!」と鼓膜を震わせる硬質な音が響き渡り、ユーの父親の必殺の矢は、いとも容易く弾き飛ばされた。
「無駄だよ。さあ、あなたも私の栄養になりなさい」
フェルゼンの足元から伸びた触手の先──黒い槍が父の脇腹を深く貫いた。
「が、はっ……!」
「父さん!!」
駆け寄ろうとするユーを、父は血を吐きながら、力強い腕で制した。
「来るな! 行け、ユー!!」
「でも……母さんも、ミーナも……!」
視線の先では、粘液の繭に包まれた母親と妹が、もがきながらも次第に静かになっていく。父親はそれを見て、唇を噛み切りながら叫んだ。
「母さんとミーナは、必ず俺が助け出す……! だからお前は、生きろッ!」
父は貫かれた脇腹の槍を自らの手で掴んで固定し、全身から白く燃え上がるほどの耀気を噴出させた。自分の命を賭して、フェルゼンの動きを封じる。
それが、ユーの目に焼き付いた父の最後の背中だった。
「行けェッ!!」
魂を振り絞る叫びに背を押され、ユーは広場を飛び出した。
宴の暖かな熱気は一瞬で消え去り、ユーを待ち受けていたのは、猛吹雪の夜の森だった。背後から聞こえる里の崩壊音、そして家族の叫び。
それらすべてが、冷酷な冬の夜空に溶けて消えていく。
頬を切り裂く風。凍える指先。
薄い麻の服一枚で雪の中を駆ける少年には、もう何も残されていない。
心臓が破裂しそうなほどの寒さの中で、ユーは膝から雪原に崩れ落ちた。
だが、視界が白く染まりゆく中。
胸の奥底で、氷のように冷たく、泥のように熱い「何か」が疼いた。
それは悲しみを超え、形を変えた――怒りという名の未知の力。
家族を奪ったフェルゼンへの殺意が、絶望に沈むユーの心臓を、静かに、しかし確実に叩き始めていた。




