第二十九話
ポカーンと口を開けたまま、カイルとリアナは固まっていた。酒場の喧騒が遠く感じるほど、ユーが語った事実は常軌を逸していた。
「膨大な耀気量と、極限の操作精度。師匠曰く、過去に使い手が皆無だったわけではないらしいが……『現実的ではない』と言い切っていた」
「それが……俺には無理だって言った理由か」
カイルは悔しそうに息を呑み、己の逞しい腕を見つめた。
「確かに、そりゃ俺には逆立ちしたって出来そうにねぇな」
「耀石を消費するから連発はできないし、失敗のリスクも、成功した時の腕への負担もデカい。師匠には、ここぞという時以外は使うなときつく言われた」
「……かなりピーキーだな。まるで必殺技だぜ」
カイルは一度だけ身震いし、それから面白そうに口角を上げた。
「でもよ、その『崩化』が起せりゃ、耀石さえありゃ全属性が使えるってことだろ?」
「工程としては複雑化した『発化』だが、紛らわしいから崩化と呼ぶのがいいかもしれないな。ただ、属性エネルギーを炎や水そのものに変換する『昇化』のような芸当はできない。あくまで属性を伴った『耀気爆発』を起こすだけだ」
ユーは淡々と締めくくり、「説明は大体こんなところだ」と静かにジョッキに手を伸ばした。
その様子を見て、カイルが「へへっ」と愉快そうに笑い声を漏らす。ユーは怪訝そうに首を傾げた。
「……何がおかしい」
「いや、いっぱい話したなと思ってよ! お前がそんなにお喋りだとは思わなかったぜ!」
「……長くなったのは認めるが、教えてくれと言ったのは君の方だ」
ユーがわずかに顔を背けて反論すると、リアナが二人の間に割って入った。
「まぁまぁ、二人ともそこまで。でも教えてくれてありがとう。……ユーさんが、無茶しそうな時は私が止めるからね」
サファイアブルーの瞳に宿る真剣な光に、ユーは一瞬だけ言葉を詰まらせ、それから小さく頷いた。




