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第二十五話

「あんたに……あんたに何がわかる!」


夜の静寂を切り裂くような自分の叫びが、脳裏に蘇る。

四年前。焚き火の反対側で酒を煽っていたカッセルは、拍子抜けしたように目を丸くしていた。


「いや、わからねぇ。さっぱりわからねぇよ。……お前、なんで魔獣の肉なんて食ってんの? ヴォエ! 見てるだけで気持ち悪りぃわ!」


大袈裟に吐くふりをするカッセルに、ユーは顔を赤くして反論した。


「オレだって、本当は普通に兎や鹿の肉が食べたかった……! なのに、親父が『食え、食え』って幼い頃から……『獲った獲物は全て血肉にしろ、それがヴェルライトの男だ』って……あんたに俺の気持ちがわかるもんか!」


「……わからん。魔獣を食う奴らの気持ちなんて、これっぽっちも分かりたくねぇよ。ヴェルライト一族、恐るべしだな。ヴォエッ」


「別に、美味しくなんてない。むしろマズいし、食うたびに吐き気はするし、毎回お腹だって壊したんだ!」


「じゃあ、なんで今も食ってんだよ」


カッセルの至極真っ当な問いに、ユーは急に視線を落とし、消え入りそうな声で漏らした。


「……だって、初めて一人で、まともに狩った魔獣、だったから……」


父親の教えを、不器用なまでに守ろうとするその姿。カッセルは呆れ果てた末に、愉快そうに鼻で笑った。


「かぁ〜……お前、無口で無愛想で何考えてるかわからんこともあるが、変なところで律儀だよな。いいか、魔獣の肉は人間には毒だ。そもそも普通の生物とは宿る生命エネルギーが違うって話よ。耀石に分類していいかわからん、あの黒の夜月耀石……あれも魔獣体内から出る生命エネルギーの小さな塊みたいなもんらしいぞ。俺たち人間の生命エネルギーとは違って、体には馴染まねぇんだよ。普通ならゲロゲロのゲリゲリでお断りだぜ」


「……今ではもう、体が慣れてしまった。吐き気もしないし、下すこともない」


「慣れってのは怖いねぇ。……はぁー、やだやだ。友達にはなれねぇな。いいかユー、王都のギルドに入ったら絶対に『魔獣食ってます!』なんて言うなよ? 確実にドン引かれるからな。下手したら変な奴認定されてパーティ組んでもらえんかもよ?」


「……言わない。それに、別にパーティなんて組むつもりはない。一人で実績をあげて、一人で復讐を果たす。俺の手で、必ず」


ユーを包む空気が、一瞬で凍りついたように冷たくなった。復讐の二文字が、彼の瞳を暗い闇へと沈める。カッセルはその気配をやり過ごすように、真面目なトーンで切り出した。


「まぁ、お前の復讐だ。好きにすりゃいい。だが、お前は無属性だ。属性相性を補完し合える仲間がいたほうが、ランクアップも手っ取り早いとは思うぞ?……ん、あぁ。そうだ、お前。ギルド登録はどうするつもりだ? ヴェルライトの姓で行くのか?」


「……駄目?」


「駄目ってこたぁないがよ。ヴェルライト一族様は、ギルドの階級なんざ気にしねぇ『法外特権』持ちだ。そんな特別な方がのこのこ現れてみろ。手続きのために『里の長から許可証をもらってこい』と門前払いされるのがオチだ。だが、その里は……」


カッセルは言葉を濁し、焚き火の灰を枝でいじった。


「里があんなことになっちまった以上、お前には身分を証明するもんがない。俺だって『里が壊滅した』事実は報告しなきゃならんが……そんな状況で本名を名乗ってみろ。周りからは『憐れな生き残り』だと好奇の目で見られるか、名前を騙る詐欺師だと疑われるのがオチだ。ギルドにゃあ、そうやって浮いた『後ろ盾のない奴』を、真っ先に食い物にする荒くれ者が腐るほどいるんだよ」


ユーは沈黙した。弓も満足に扱えず、属性も持たぬ自分。そんな「半端者」が、一族の名前を背負って憐れみを買うことなど、到底許せなかった。


「ま、時が来りゃ俺が紹介状を書いてやる。詐欺師扱いされないための最低限の保証だ。だが……魔獣に襲撃された里のヴェルライト一族という事実は、お前の歩みを鈍らせる火種にしかならねぇ」


カッセルは酒瓶を置き、少しだけ照れ臭そうに頭を掻いた。


「これは俺なりの配慮……まぁ、お節介ってやつだ。お前が嫌じゃなきゃ、俺の名字を使わせてやる。親族兼弟子ってことで紹介状を書いておいてやるよ。……どうするよ?」


すぐに答えは出ず、黙ってしまうユーに、カッセルは追い打ちをかけるように言った。


「まぁ復讐なんて考えず、ギルドを頼るって手もあるが……あいつらは『公共の利益』にしか動かねぇ。一族の仇を討ってくれなんて個人的な依頼、誰も引き受けちゃくれねぇよ。お前、金もねぇだろ?」


「……わかってる。それに、あいつは俺が殺す。殺さなきゃいけないんだ。そうじゃないと、俺が生き残った意味がない」


——生き残った、意味。

四年が経った今でも、その言葉がユーの胸の奥で、毒のような熱を持って燻り続けている。


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