第二十四話
翌日、王都の魔獣専門・狩人ギルドにて。
依頼の報告と素材の売却を終えたユーが受付を離れようとした時、背後から聞き慣れた声が届いた。昨日よりは幾分か落ち着いてはいるが、隠しきれない熱を帯びた声だ。
「……いたな、ユー」
振り返ると、昨日の無様な姿からは見違えるほど整った装備に身を包んだ、カイルとリアナが立っていた。二人の瞳には、昨日とは違う明確な意志が宿っている。
「……何か用か?」
「単刀直入に言う。俺たちとパーティを組んでくれ! 頼む!」
カイルの叫びに、周囲の狩人たちが一瞬、静まり返った。中級パーティが、あの「冷徹な機械」と噂される単独の若者に勧誘をかけるのは、あまりに異例な光景だった。
ユーは足を止めたが、その瞳に温度はない。
「……断る。俺には俺の目的がある。君達と俺では足並みも、目指す場所も違う」
「分かってるよ。お前が規格外なのも、俺たちがまだ未熟なのもな」
カイルは一歩前に出ると、周囲に聞こえないほどの低い声で続けた。
「……探してるんだろ?『紫の結晶』。お前が素材交換所で、上級狩人連中からそれを買い取ろうとしてるって噂を聞いたぜ」
ユーのコバルトブルーの瞳に、わずかな鋭さが宿った。
それを見たカイルは、確信を持って言葉を重ねる。
「俺たちは、上級に上がるための実績が欲しい。上級になればギルドの機密情報の閲覧権が得られるし、数人でのパーティなら、中級狩人一人じゃ門前払いされる『赤蝕魔獣』の討伐依頼だって受注できる。……お前の目的への、最短距離になるはずだ」
沈黙が流れる。
カイルの提案は単なる協力ではない。ユーの目的である「復讐の手がかり」と、二人の目的である「地位」を天秤にかけた、合理的な取引だった。
「他人を巻き込むつもりはない。これは、俺が成さねばならないことだ」
ユーの拒絶は冷たく、そして重かった。だが、カイルは引き下がらない。彼は一歩踏み込み、周囲を憚ることも忘れて声を絞り出した。
「……俺の故郷は、一度魔獣に滅ぼされかけた。今は廃村同然だ。だから俺は、凄腕の証である『極級』になりたい。極級になれば報酬としてその土地の自治権が与えられる。ギルドの力を動かして、あそこを……故郷を再建したいんだ」
その言葉に、ユーの胸の奥が微かに疼いた。
それは、フェルゼンにすべてを奪われたあの日から、ユーが心の奥底に封じ込めてきた「守りたかったもの」への執着に似ていた。
カイルの瞳にあるのは、単なる功名心ではない。
一度多くを失った者が、それでもなお大切なものを守り抜こうとする覚悟だ。
ユーはゆっくりと向き直り、カイルの瞳を静かに見据えた。そこには突き放すような冷徹さはなく、同じ地獄を知る者への、わずかな共鳴があった。
「……わかった。ただ、互いに足を引っ張るようなことがあれば、それまでだ」
ユーの返答に、カイルが驚いたように目を見開く。
「……交渉成立だな。改めてよろしく頼むぜ、ユー! それから……昨日は助けてくれてありがとう。命の恩人だ」
照れ臭そうに呟くカイルに、「やっとお礼言えたね」とリアナが笑いかけた。
「カイルが色々言ってごめんね。でも私も彼と同郷なの。目的も一緒なんだ。私たち、ユーさんと歳も近いみたいだし、これからよろしくね!」
ユーは二人の笑顔を見つめる。
復讐一色だったユーの心が、静かな熱を帯びる。
カイル、リアナ。二人の足音に歩調を合わせるように、ユーはギルドの喧騒の中へと踏み出していった。




