第二十二話
中級狩人として受理された最初の依頼——それは北の渓谷深部に生息する、魔獣の討伐だった。
(さっさと終わらせる。……上級に上がれば、ギルドから得られる情報も増え、フェルゼンの手がかりになりうる赤蝕魔獣の依頼も受けられるようになる)
腰に下げた剣の重みを感じながら、ユーは険しい岩道を淡々と進んでいた。狩り場まであと数キロという地点。そこは本来、下級狩人が足を踏み入れるべきではない危険地帯だ。
不意に、渓谷の風に乗って、耳を裂くような金属音と絶望に満ちた叫びが届いた。
「……なんだ?」
ユーは音のする方角へ向かって岩壁を駆け上がった。
視界が開けた先、凄惨な光景だった。空の暴君、『岩断鳥』——本来この辺りでは姿を現さないはずの巨鳥が、ユーと年齢がそう違いない、二人の若き狩人を蹂躙していた。
「が……クソッ!」
鈍い金属音が響き、少年の体が宙に浮く。
燃えるような赤髪を振り乱し、重厚な戦斧で立ち向かっていた少年だったが、巨鳥の鋼鉄じみた爪に、赤き革鎧ごと掴み上げられたのだ。
「カイル! 放して、この!」
地上では一人の少女が叫び、弓を引き絞っていた。渓谷の風が、サイドを留めた桜色の髪を激しくなびかせる。サファイアブルーの瞳が見据える先——放たれた青い光の矢は岩断鳥の眼を狙うが、硬鱗の翼が巻き起こす突風に、その軌道は無慈悲にも逸らされた。
(……水耀はヤツの弱点属性だが、当たらなければ意味がない。……仕方ないか)
ユーは冷静に戦況を俯瞰し、師匠から譲り受けた無骨な片手半剣を引き抜いた。
「どうしよ……どうし、え……っ!」
岩壁を蹴り上げたユーの背に、涙目の少女は驚き目を丸くする。
ハッとし、深緑の革ベストにリネンのシャツという軽快な出で立ちの彼女は、すぐさま次の矢を番えようとしたが、目の前の光景に息を呑んだ。
ユーは彼女を置き去りにし、輝気による爆発的な加速で宙を舞う。
右腕に耀気を収束させ、剣身を眩い光で包み込むと、巨鳥の顔面を目掛けて剣を真っ直ぐに投げ放った。白き尾を引く一撃は、岩断鳥の鼻先を掠め、背後の岩壁に深く突き刺さる。
「ガアアアッ!?」
敵意の矛先が、武器を手放したユーへと一気に向けられた。
(……来い)
ユーはポーチから、一際青く澄んだ水耀石を掴み出した。
それは本来、それは属性適性者が使うべきもの。だが、ユーの規格外の耀気が、石の許容量を瞬時に突破する。
——パキン。
石には亀裂が生じ、青い奔流がユーの拳から溢れ出した。
崩化現象による属性解放。
至近距離。ユーは剥き出しの属性エネルギーを、岩断鳥の喉元へと叩きつけた。
圧縮された水耀の光が限界を超えて爆発し、硬鱗を紙細工のように吹き飛ばす。
落下するカイルを空中で受け止め、その勢いのまま岩壁へと着地。突き刺さった剣を抜き去るや否や、弾丸のような速度で地上へと跳んだ。
着地しユーが手を放すと、カイルは地面に尻餅をついたまま、エメラルドグリーンの瞳を丸くして固まっていた。
「カイル!」
駆け寄ってきた少女はカイルを心配しつつ、すぐにその視線をユーへと向けた。
「本当にありがとう! ……でも今の、腕が吹っ飛んでもおかしくないぐらいの技だったけど……大丈夫なの!?」
「……問題ない」
ユーは視線を渓谷の底へと向ける。
属性エネルギーの爆破を受け岩断鳥は、轟音と共に渓谷の底へと叩きつけられた。




