第二十一話
「次だ」
受付カウンターに、粘りつくような魔獣の体液が付着した牙が転がされる。
ユーが下級狩人の証、銅板のライセンスを手に取ってから、わずか十日。ギルドのロビーを支配しているのは、活気ではなく、困惑と奇妙な静寂だった。
「……岩狼を五体。これ、昨日の夕方に受理された依頼ですよね? 現場の廃村まで、馬車でも半日はかかるはずですが」
「耀気……着化で脚を強化した。走れば夜には着く。そう時間はかからない」
受付嬢の問いに対し、ユーは視線さえ合わせず淡々と答える。
彼にとって必要なのは「中級」という肩書き。それによって閲覧が許可されるギルドの内部資料。そしてフェルゼンという男の足取り。その一点に辿り着くための、最短距離を走っているに過ぎない。
彼の狩りは、多くの狩人が連携や派手な戦技で圧倒する中、ユーはただ最短の軌道で、魔獣の「急所」のみを断つ。素材としての価値を一切損なわないその手際は、職人というよりは、冷徹な機械を思わせた。
「あの新人、また『ソロ』でこなしたのかよ……」
「ヴァングレイブの弟子だろ? 腕は確かだろうが、あの目を見てみろよ。ほんとに十代のガキかよ……とても同じ人間とは思えねえ」
背後に刺さる畏怖と忌避が混じった視線を、ユーは一度も振り返らない。
だが、十五日目。
下級ランクの限界点とされる大型魔獣を一人で狩り終えたとき、ついにギルド側が折れた。
「……異例ですが、ギルドマスターの承認が降りました。ユー・ヴァングレイブ様、本日付で中級へ昇級となります」
差し出されたのは、鈍い光を放つ銀板のライセンス。
ユーはそれを手に取ると、刻まれた自分の偽名を確認し、すぐに懐へねじ込んだ。




