第十三話
空は薄墨を溶かしたような柔らかな灰色に包まれていた。凍てついた風が吹きつける。
大陸北方、天を突く絶壁。
かつて自分が生まれ育ち、そして地獄へと変わったあの場所を望む険しい峰に、十六歳になったユー・ヴェルライトは立っていた。
風に乱れる銀砂色の髪を無造作にかき上げた。不揃いに伸びた前髪の隙間から覗くコバルトブルーの瞳は、復讐心で燃える青い炎のようであった。
彼は身に纏った防寒用の灰色の外套を強く締め直す。その下には、カッセルとの修行で鍛え抜かれた肉体を守る、最低限の黒い革鎧。彼にかつての華奢な面影はどこにもない。
眼下に広がる景色を、ユーは刺すような眼光で見つめる。
六年前から止まったままの時間が、冷たい風と共に肌を撫でる。震える拳を隠すように、彼は背後に立つ大男へ問いかけた。
「師匠。……どういうつもりだ?」
絞り出すような声だった。
数日前、カッセルに「ついて来い」とだけ命じられ、目的地がどこかさえ知らされていなかった。
だが、辿り着いたのは、彼が一生忘れることのできない因縁の地だ。
「あんたは、俺に何をさせたい?」
振り返ったユーのコバルトブルーの瞳には、困惑と、抑えきれない負の感情が渦巻いている。
対するカッセルは、ただ静かに弟子に言う。
「試練だ」
「……試練だと?」
「ああ、最終試練だ。おめでとうさん。この試練を終えたら俺との修行は終わりだ。お前の方がよく分かってるだろ? この辺りには強い魔獣がうようよしてる。……そこでだ。俺が指定した魔獣を狩ってこい。やり方はお前に任せる。今回俺は同行しない。お前一人で成し遂げろ」
ユーの大きく見開かれた両眸が、いたずらっぽく笑うカッセルを捉えたまま硬直する。
修行の終わり。それは、師匠の側を離れ、本当の意味で復讐という修羅の道へ足を踏み入れる許可証に等しかった。
「……最後の修行。……何を狩ってくればいい?」
ユーの腰には、傷だらけの革鞘に収まっていたのは無骨な片手半剣。
その柄に指をかけ、感情の枯れ果てた声で問う。
「まぁ、焦るな愛弟子よ」
対するカッセルは、髭を震わせ、子供の悪戯を思いついたかのように、ニヤリといたずらっぽく笑った。
「そうだな──じゃあ」
カッセルは丸太のような腕を伸ばすと、絶壁の麓、黒々と広がる針葉樹の樹海を指差し、ユーに狩るべき三体の魔獣の名を言った。




