日常回3 (真也と麗華のデート)
「お父さん、行ってきます」
私は車椅子に乗り、私を待ち合わせ場所まで送ってもらう車の前にいる。
「日焼け止めは持った?ボディガードは?ハンカチとかティシュは?」
「大丈夫、全部持ってるしボディガードの人にも許可もらってるよ」
全く本当にお父さんは心配性だな。
ちなみにもう日焼け止めは塗ってある。
日差しに当たってから慌てて塗るようでは遅いと知っているので。
車椅子で車に乗る。
今日は長谷川さんか。
「長谷川さん。お願いします。」
「了解です。今日はデートですから遅れるわけにはいきませんね。」
そう。今日は真也くんとのデートの日なんだ。
ここまで来るのに長かった。
裕也君と凛ちゃんは…もう何というかラブラブだし、舞ちゃんと太郎君は最近いちゃついているし、沙耶ちゃんという可愛い子が最近入って来たので私は危機感を覚えたのだ。
まぁそんなこととは関係なく真也くんと私もいちゃついてみたいって思っただけなんだけどね。
足が動かないせいで手を繋いで一緒に歩くことはできないけど。
私の足はまだ動く様子がない。
私の意思が足りないのでしょうか?
窓の外では青々と茂った街路樹が流れていく。
車の中は無音だ。
音楽を聴きたいと言わなければ基本的に音楽は流さないことになっている。
遊園地でWデートとかもいいよねと舞ちゃんと話していたけどごめん、真也くんには私だけを見てもらいたいから。申し訳ないけど真也くんとのデートに舞ちゃん達は邪魔なので。
車のスピードが遅くなる。
「到着しました。よろしければ私が送っていきますが、いかがなさいますか」
長谷川は私が自分で行くと言うのを想定して待ち合わせ場所から一番近い場所でかつスロープのある場所に車を止めていてくれた。
「いえ、自分一人で行きます」
正確にはボディガードが周りにひっそりといるのですけど。
ボディガードも邪魔ですけどこれは安全のためなので仕方ないと割り切るしかありませんね。
待ち合わせ場所にはもう真也くんがいた。
「ごめん、待った?」
なんだか…このセリフは恋人っぽい、かな?
「全然待ってないよ。行こっか」
真也くんが私の後ろに回って車椅子を押してくれる。
本当は顔を見て一緒に回りたいんだけどね。
「初めはどこに行こうか」
後ろから真也くんの声がする。
遊園地といえばジェットコースター…と言いたいところだけど足が動かない私は乗ることができない。殆どのアトラクションがそうだ。
ここはそういった以外に大規模な植物園があるからそこに行こう。
本当は真也くんと一緒にお化け屋敷とかジェットコースターに乗りたかったなぁ。
「飲み物は何がいい?シェイクなんてどう?」
「バニラ味がいいかな」
「じゃあ俺はストロベリー買うからバニラも飲ませてね」
「移動用にパーク内に電車があるなんて凄いね。乗って行く?」
「乗ろっか」
「多分いい景色だろうね…うわっ移動にもお金取るんだ…まぁ仕方ないか」
「今日はいつもより可愛い服を着てるね。髪型もちょっと違う?」
「気づいてくれた?嬉しいな」
「間違ってるかもって冷や冷やしてたけどね」
真也くんが色々と話しかけてくれる。
嬉しい。嬉しいけど満たされない。
顔を見て話したい。手を繋ぎたい。
一緒に並んで歩きたい。
……私の足……動いてよ…
ちょっと涙目になった。
けど真也くんは気づいてくれない。
気づかない。
気づかなくていい。
せっかくの楽しいデートなんだからせめて真也くんには楽しい思い出になって欲しい。
……?!
「大丈夫?」
真也くんが私の手を握っていた。
「もしかして…楽しくない?」
「そんな、ことないよ」
真也くんが顔を覗き込んで来る。
嫌だ。泣き顔なんて見られたくない。
「えっ……?麗華さん…」
「ごめんね?……なんでもないから」
真也くんの困惑した顔が見える。
ごめんね、ごめんね。
せっかくのデートなのに。
ごめんね、ごめんね。
私の足が動かなくて。
こんなに…こんなに足が動かないことを悔しいと、悲しいと、悔しいと思った日はない。
真也くんの姿がぼやける。
真也くんの姿だけじゃなくて視界がぼやける。
「なんでもなくないよ。泣いてるじゃないか。どうしたのか言ってくれ」
言ってどうにかなるの?
真也くんはどうにかしてくれるの?
なんか心の中がぐちゃぐちゃだ。
これ以上は真也くんに強く当たってしまうかもしれない。
そんなことをしたら嫌われてしまう。
「なんでもないから。ちょっと放っておいて…」
「……わかった。じゃあそばにいるよ。落ち着いたら声かけて」
「……わかった」
ありがとう。
そう言いたかったけどそうは言えなかった。
両手に真也くんの手の温もりを感じる。
抱きついてもいいだろうか?
私が真也くんに抱きつくと真也くんは何も言わずにゆっくりと抱きしめてくれた。
少し…少しだけ泣いた。
声も少し出た。
目をこすろうとしたら真也くんが止めた。
真也くんは私の目元の涙を拭ってくれた。
メガネを付けてるとあまりわからないけど真也くんはかなりのイケメンだ。
それで行動まで時々無駄にイケメンだから他の女の子たちもこんな真也くんを見たら恋に落ちるに違いない。
私は何を思ったのかわからないけど真也くんにキスをしようとした。
よくわからない。
よくわからないけど、とにかく真也くんが欲しかった。
けど真也くんは私の肩を持って止めた。
「焦ってそう言うことをして欲しくないな」
何かの建物の中なのか風は吹かない。
周りの音も静かだ。
草木の香りがする。
新鮮な空気を吸って、吐いて…深呼吸をすると心が落ち着いて来た。周りが見えるようになってきた。
…そっか、私は焦っていたんだね。
「そうだね……ちょっと焦りすぎたかもしれないね」
今いる場所は植物園だった。
人気がないのか人がいない。
「ゆっくりでいいよ。麗華さんの足も、俺たちの関係も。ゆっくりでいいから進んでいけば」
気持ちが落ち着いてきた。
動かない私の足はそんなに気張らなくてもゆっくり治していけばいいと思えた。
「真也くん。ちょっとこっちに近づいて」
「ん?何?」
「もっと顔近づけて」
「え?なになに?どうしたの?」
真也くんの顔が私の目の前まで来る。
またキスをされるかもしれないと思ったのか私の肩に手を置いているけど。
メガネを取ると相変わらず整った顔立ちが現れる
「ちょっと…メガネ返してよ」
真也くんのメガネを膝の上に置く。
もう焦ってるわけじゃない。
真也くん。あなたが私は好きです。
大好きです。すごくすごく大好きです。
だから……恋はちょっと早めに進んでもいいよね?
「私は真也くんが大好きです」
「え…………?」
両手でメガネを持ち戸惑った表情の真也くん。
私は真也くん頬を両手で持って……
そっと触れるようなキスをした。




