暗躍する者
~120
辺り一面に暗闇の中で広がる赤く染まった大地、人の群れが慌てて移動するのが分かる大音量の足音。
そこに一人佇む深紅の剣士、その深紅の鎧は元からなのかそれとも返り血を大量に浴びて染まったものなのか・・・。
「何か詩的なことを言ってますけどどうしました?」
そしてこの一言が俺の心にダメージを与える・・・心の声が漏れ出てたーーー!
最近ゆるゆるだな、まぁいいか。
『気にするな、さてと・・・ニコル、これからお前専用の部下を作ることにする。
”ブラインドサークル”』
俺は魔力をふんだんに使い一面に創り上げられた死体の野原を不可視の壁で覆う。
『そうだな、デモン種は成長限界がまばらだが・・・俺が限界を設定したら問題はないか』
という俺の言葉に。
「急にどうしたんですか?僕の部下って?」
戸惑いを隠せないニコル。
『慌てなくていい、そうだな・・・まずはライカをベースにした個体にしてみるかな、”クリエイトゴーレム”』
設定は100体、限界値は適当に切りよく250にでもしておくか。
かつてスキャンしておいたライカのデータをもとにフレッシュゴーレムを組み上げる、ただし髪や瞳の色は赤色に額の角は伸縮の原理がよく分からないから取り払い耳もヒューマンのにする、ていうか見た目はヒューマンでいいや。
「フレッシュゴーレムですか?」
『そう、んでここからは俺にしかできないオリジナリティを加える。
”クリエイトソウル”』
”クリエイトソウル”ぶっちゃけると”ソウルハック”と似た効果なのだが決定的な違いは創った疑似魂に”マインドハック”の応用で俺の中の”ライブラリ”にある適当な者の記憶を刻み込みその後で俺の都合のいい情報を刻み込む。
うまくいったら普通のゴーレムと違う存在になれるんだが、というか元々フレッシュゴーレムが禁忌にされたのは普通のゴーレムには無い脳、考える機能が付いているかららしい、人肉を使うからだけだと思ってたでしょ?
「ココハ?」
意識を持ったようだ、ラッキー。
「兄さん?どう対応するべきですか?」
『こいつはお前の下僕だ、好きに使え体の機能も全部ライカを反映してあるから子も作れるが・・・お前にはまだ早いな』
「ワタシハ?」
『まぁいきなりはニコルでも難しいか・・・名前はニコルが決めろ。
小娘、お前は俺が生み出した人造の・・・剣造の存在だ。
これより目の前にいるニコル・ファルシオンに身命を捧げて仕えろ』
「シンメイヲ・・・カシコマリマシタ」
素直だがまだ口調がぎこちないな、まぁそのうち喋るのも慣れるだろう。
『ニコル、こいつの名は?』
「ではライカで」
・・・そう来る気はしていたが当たらないでほしかった。
『その名はどうかなって俺は思うぞ・・・』
「でしたら兄さんがつけてあげてください」
あれ?嵌められた?名前つけんのそんなに嫌かな?
『まぁいいか、後で文句言うなよ!
・・・あと3体創る予定だし1羽目ってことでカズハだな』
「カズハ、スバラシイナデス」
名づけで褒められたのは初めてだな。
そんな感じで残り3人も作る、2人目はベースはサラ、3人目はニナ、4人目は雪鱗、全員カズハと同様に髪や瞳は赤く耳もヒューマンのに統一しベースの種族的特徴は取り払っておく、能力にほとんど差が無いのにドラゴニュートなどの特徴を持つせいで変に無理されてもかなわんからな。
『名前はサラベースから順にフタバ、ミツバ、ヨツバだ。
ニコルに気にいられるように頑張れよ?』
「ハッ!」×4
さて、次は服とかか・・・えっ?もちろん生まれたばっかりだから裸に決まってるじゃん。
眼福とか思うだろうけど俺の体は反応なし、剣だから・・・。
死体は400体分使ったがまだ大分ある、というかほとんど減ってない感じ。
さて、何か召喚でもしてみるか。
というわけで今、目の前には魔竜と呼ばれる異世界にいるって言われている竜の死骸が5つ並んでいます、4人にはそれぞれの死体の上に跨ってもらう・・・なんで跨ってるんだろうか?俺はそれぞれ死体のとこに行けって指示出しただけなのに。
因みに服はアイポの中に在る適当な素材で創って着せた、偽の記憶があるため簡単に服は着れたようでよかった、ニコルが着せてあげる図を想像したら鼻血物だろう・・・俺は出ないのだが。
『まぁいいや”カスタマイズ”』
魔竜の死体が見る間に形を変えていき、ニコルのタイプドランを黒くした感じに落ち着く、ついでに牙や爪、鱗などからそれぞれに武器も与える。
得意な武器などは俺が”ソウルクリエイト”で魂を宿した時に決めておいた。
まぁ概ねベースと武器は一緒なんだけどフタバだけは鞭状に変化する蛇剣って奴にしている、杖だとなんていうか面白くない。
さて、最後にニコルのドランも強化だ。
『ニコル、じゃ竜の頭を掴んで吸収だ』
「はい、”吸収強化”」
ニコルは強化後の形の想像を俺に丸投げしたようで見事に俺が考えていた通りに掴んだ左腕のパーツが黒く染まり巻きつくような竜のレリーフが腕の先まで伸び手首の上の方から盛り上がり口を開けた竜の頭が現れている。
「この頭は?」
『ここから”ブレス”が撃てるようにしてみた。
充電式だからいざというときの切り札にでもしたらいい』
「この竜のブレスって僕見てませんが?」
『黒い炎らしい、射程は100メートルいかないくらいだ』
「分かりました」
さて、そろそろイージス砦に向かうか。
『ニコル、撤収だ。
こいつらをハルキに紹介しておくぞ』
「はい、では4人とも飛びますからついて来てください」
そういうとニコルは駆け出し跳びあがりドランの翼を広げて飛行に入る、それに続いて4人も同時に飛翔する。
”ブラインドサークル”の範囲からニコルが抜けると効果を失った不可視の壁は消え去る・・・そういやこの魔法には5メートルの制限はなかったな。
空から見ると死体の野原にところどころ丸い穴が開いたような空間ができており少しだけ笑えた。
ニコルがイージス砦に着いたのは朝日が昇ったくらいの時間であった。
「今戻りましたハルキさん」
ニコルを出迎えたハルキにニコルから声をかける。
「おお!王都からの早馬で単身魔王軍に突撃をすると聞いて焦っていた処だ。
君は既にこの国に必要な存在なのだから無茶をして私の寿命を縮めないでくれないか?
だが、無事に帰還してくれてよかった」
と冗談を交えつつも帰還を喜ぶハルキだが、後ろに控える4人に目を向ける。
「彼女たちは?」
現在ニコルたちは砦についたらさっさと鎧を外している、因みに4人の鎧はニコルの”納刀”とは違い”脱衣”が解除ワードで”脱衣”中の鎧は竜のレリーフが埋め込まれたネックレスになる、ついでに装着する時のワードは”装着”にしておいた。
「僕の主から遣わされた僕直属の部下です、名前はカズハ、フタバ、ミツバ、ヨツバです。
僕ほどではありませんがドラゴン並みに戦えるので戦力に数えてもいいですが、まだ経験が浅い為できれば4人は一組で扱ってください」
とニコルは説明すると。
「ヨロシクオネガイシマス」×4
と丁寧に頭を下げる4人、ニコルの今までの態度を見ている為にハルキは一瞬対応の困るがそこは人の上に立つ者すぐに立ち直り。
「期待以上の戦果を挙げてくれると期待しているよ」
と矛盾をはらんだ檄をくれる、期待以上を期待ってハウリング効果が起きてるよな。
「それでは追撃戦はいつごろになるんでしょうか?
というよりこんなに日が開いては追撃ではないですね」
軽く笑いながらそういうニコル、申し訳なさそうな顔をするハルキ。
「本来なら撃退したらすぐに追撃をしてそのまま追いやっていくのだが、今回の戦での被害が大きすぎてこちらも反撃に移るのに時間がかかるんだ。
1週間もあれば再編も終わり万端とはいえないまでも十分な状態で反攻作戦に移行できるんだが・・・相手が待ってくれるかどうか」
渋い顔のハルキに。
「それなら平気でしょう、昨日まで布陣していた場所に僕が出向いてさらに前線を下げておきましたから」
と何の気なしに言い放つニコルに驚愕ではなくなるほどという顔で。
「それは助かった、それなら時間も十分にできるな。
敵の不幸は君がこちらに味方してくれたことだけなのにこのありよう、かわいそうなことだな」
何に対しての皮肉かはちょっとわからないがハルキはそう呟いた後、時間を無駄にできないからまた!と急いでこの場を去っていった。
『ふむ、今日はもう休んでいいようだな部屋は・・・どうなるんだ?』
「そういえば訊き忘れてましたね」
ニコルが呟くと控えていた騎士が、こちらですと案内を始める。
着いた部屋は士官用の部屋であった。
「ニコル様はこちらでオヤスミください、ではお連れの方々はこちらです」
『ニコル止めろ』
「はい?あっ待ってください」
ニコルは俺の突然の命令に慌てたせいですこしかわいい物言いになった。
『そいつらも一緒の部屋でいいと言っとけ、今日はお前に”ソウルブリーダー”をかける』
「なるほど、彼女たちは僕の護衛ですから離れさせるわけにはいかないんです隣にも部屋がありますし交代で護衛してもらうためにこの部屋貰いますね?」
ニコルの微笑みは了承以外を許さない、という気迫も混じっていたために騎士は気圧されたが、なかなか了承をしない。
「しかし、こちらの部屋はハルキ様の部屋でして・・・」
「でしたら全員僕の部屋で寝ます、それなりに広いですし問題ないでしょう。
貴方達のおかげで外聞もよくなりそうでうれしい限りですね」
棘をもって言うニコルだが、まぁ同じ部屋の方が助かるっちゃ助かる。
4人のメンテは”カスタマイズ”が必須だから誰かに見せる訳にもいかんしな。
「申し訳ありません!すぐにハルキ様に訊いて来ます!」
という騎士をわしづかみに引き留め。
「冗談ですよ、外聞なんてどうでもいいんです。
それに僕も並の女性では静まりきりませんのでどうかお気になさらず」
と騎士に言い訳を与える・・・ニコルが大人になっていくな、悔しくなんてないぞ!
そんなこんなで少しの期間の休養が訪れる。
ところ変わってノスモニアからハーモニア街道までの道のりまでのちょうど中間地点にある都市モニカにある魔王軍本陣にて。
「くそったれ!」
口汚い言葉と共に目の前の机を殴りつけるフォウル、机は真ん中から裂ける。
「おーい、代わりの机持ってこーい」
場にそぐなわぬ間の抜けた声で代わりを要請する男をフォウルは睨みながら。
「すまんなカノン、どうにも気が立ってしまってな」
「気にしなすんなって、俺だってあれは理不尽だって思うからな」
謝罪するフォウルに間の抜けた男、カノンは今の話題に上っている者の理不尽な戦闘力に溜息をつきながら仕方ないと告げる。
「あんなんまともに相手しても兵が減る一方だし、普通あんだけモノを斬ってりゃどんなに切れ味のいい剣でも刃こぼれするだろうに、どんだけ斬っても切れ味の落ちない剣、あれも悪夢だな」
そういってカノンが持ち出したのは2つの真ん中からすっぱりと刀身を無くしたショートソードだった物だ。
「これは?」
フォウルが訊ねると、
「こいつは俺の子飼いの密偵が拾って来たもんだ、こっちが奴が降ってきたところにあった剣、こっちが死体の野原の端っこに転がってた剣だ、切り口を見たら今日は怖くて寝れないぜ」
そういって切り裂かれた刀身を見せる、切り口は全く変わりがない・・・まるできちんとやすりで滑らかにしたのではないかと思える断面図である。
「なぜ・・・今頃になって奴は現れた・・・」
フォウルは嘆く、あと少し・・・あと少しで悲願だった神国とうそぶくあのふざけた思想の国を亡ぼせたのに!
「申し訳ございません、フォウル様に伝者が参りましたがどういたしましょう?」
「通せ」
フォウルが短く返事をすると伝者が入ってくる。
その姿にフォウルは希望を得る・・・来たのは一体の悪魔だった、それもかつて消滅したランページクラスと分かるほどの。
「フォウル、ソフィア様からの伝言だ」
「どんな内容だ?」
「今伝える、急くな」
そういうと悪魔は跪き首を垂れる、すると水晶球のような物が浮かび上がり中から人の姿が映し出される。
「ソフィア様!」
「フォウル、聞こえますね?
単刀直入に言葉を伝えます。
すぐに全軍戻すことを提案します」
このソフィアの言葉に皆が唖然とする、勿論フォウルもだ。
「此度の戦に人知を超える存在が介入した気配があります。
その者は先日、私が預けたデーモンソルジャー達とのリンクをたどって私に害をなそうとしてきました。
何とかこちらに被害を被る前にリンクを切ることができましたが、恐らく次は無いモノだと思います。
この伝言が終わればこの子もこちらに帰らせる予定です。
ですのでどうか被害が少ない今のうちに帰ってきてください」
そこで映像が切れた。
「ソフィア様!」
「すまんが俺が切った」
悪魔がそういった。
「ソフィアは俺が負けると考えてるようだが、俺は敗けん負けそうになったら即ソフィアとのリンクを切ることにするからその人外と闘わせろ!」
ランページ達グレーターデーモンは自らよりも上位存在だと認めたもの以外に自分より強いと呼ばれる存在のことを嫌う、戦闘狂と呼ばれる奴だ。
だが、それが今回フォウルにとっては嬉しい結果に動いたようだった。
ただしそれは魔王軍にとってうれしい結果をもたらすものでは決してなかったのだが・・・。
さて、1週間がたち全軍が反攻作戦のために移動を始める、目指す拠点は先日ニコルが魔王軍に強襲をかけた町ハーモニア街道の先につながるハーモの町である。
町に軍が入るのをスムーズに済ませるためにニコル達が先行して町に向かう。
「さて、受け入れなどの雑務処理などは抱えてきた騎士たちに任せて僕らはどうしましょうか?」
「マスターニコル、カズハは騎士たちに護衛を付けるべきだと進言します」
カズハがニコルに提案する、そこでカズハとミツバを騎士たちの護衛に向かわせる、まぁ一人でも過剰戦力だから大丈夫か。
「”ストーンショット”」
突然石礫が飛んでくる、ニコルは抜き身のファルシオンで切り落とす。
「”ファイアボール”」「”ウォーターカッター”」「”ウィンドアロー”」
次々と魔法が飛んでくる、がすべて”ソウルイーター”の応用で消し飛ばす。
と今度はひゅんひゅんと矢が飛んでくる・・・しかしそれもすべて斬り落とす。
攻撃がやむとフタバとヨツバが歩いてくる。
「マスターニコル、フタバはマスターに魔法攻撃を行っていた者たちを仕留めることができました」
「マスターニコル、ヨツバはマスターに弓矢での狙撃を行っていた者たちを仕留めてきましたが途中で気配を消され数人逃げられてしまいました」
と報告してくる、ふむ。
「気にしないでもいいです、期待以上には働いていますから」
ニコルの言葉に二人は表情を緩ませる、ただニコルは二人にあまり期待してないだけだったりするんだけどね・・・黙っとくか。
「それにしてもなんだったんでしょうね?あの程度じゃ僕は殺せませんけど?」
『しまったな、俺の能力をはかってきたんだと思う』
「兄さんの?」
『俺が魔法攻撃は無力化できるが矢なんかの物理攻撃は無力化できないというのを前回、前々回で確認してて今回ので確信するために仕掛けたんだろう』
「ということは逃がしたのは不味かったですかね?」
ニコルが忌々し気に転がってる矢を睨みつける、が。
『まぁ問題ないだろう、俺には”オールイーター”があるし』
そう、特に問題じゃないのだ。
俺に弱点を知ったとでも浮かれてくれてたらそれでもいいさ、それで相手が絶望に落ちやすくなるだろう、まぁ落ちたからなんだって話ではあるのだが。
その後は特に襲撃などもなく帰ってきた騎士の手伝いを少しして神国軍が到着するのを数日待つだけだった、大体4日から5日だとさ。
「やはりな」
ところ変わって魔王軍本陣の自分の部屋にいるフォウルは報告を聞き自分の立てた仮説がどうやら正しかったようだと確信し喜び出す。
「何か嬉しいことでもあったんですかい?」
カノンがフォウルの部屋にノックをしながら入ってくる。
「お前のその癖直せと言っただろう!」
返事を聞く気のないノックに怒りながらも顔が締まらないフォウルを見てカノンは何があったのかを考える、が分からないので素直に訊くことにした。
「一体どうしたんですかね?」
「ふふん、聞きたいか?」
「へい」
「一応機密事項になるから注意しろよ、実はな、ニコル・ファルシオンの弱点が分かったのだ!」
その言葉にカノンは驚愕する、あの人知を超える化け物に弱点!
だが確かにあんな化け物だ何らかの弱点が無いと世の中成り立たないんじゃないかとも思えなくもない・・・訳ない。
理不尽な存在だから化け物なのだから、だが・・・聞くだけの価値はありそうだと思い聞くことにした。
「どんな弱点なんです?」
「実はな奴が現れた最初の戦場で見ていて不思議に思っていたんだがな、あいつはこちらから魔法を無力化するには足を止めてしないといけないみたいなんだ。
また、魔法でも土系統の呪文や弓矢などの飛び道具は消滅しなかった。
つまり土魔法と大量の矢での一斉攻撃で仕留めることが可能なのかもしれないということだ!」
興奮して喋るフォウルにカノンは自分でも考えてみる。
土系統の魔法で視界を塞いでバリスタなどの弓矢なんか比べ物にならない威力の飛び道具を用いれば確かに行けそうな気がする。
ただし、ここでカノンは一つの可能性があることを黙っておくべきか迷う。
それは、無力化できたのにしなかっただけなのではないかという事だ。
だが、今それを言っても逆になぜ今まで圧倒的なあいつがこちらをだます必要があるのだ?と聞かれても答えられる気がしなかった・・・が言って後悔するのと言わないで後悔するのでは言って後悔する男のカノンはいうことにした。
「フォウル様、機嫌を損ねるようなことを言いますけどもし土魔法も無効化できるのに今までワザとしてなかったのだとしたら軽率な作戦はかえって危険じゃありませんかね?」
その言葉を聞いたフォウルも少し考える、確かに保険が欲しいところだと・・・そこで。
「カノン、この町にAランクの冒険者がいたよな?」
「冒険者は国同士のいざこざには不介入ですよ?」
「国に巣くおうとしている魔物の駆除を依頼するだけだ・・・無理っぽいか?」
「無理っぽいですよ、というわけで直接交渉するのはどうですか?」
カノンの提案にフォウルは2つ返事で了承し交渉をカノンに任せる。
「では任したぞ」
「へいよっと、報酬は成功報酬を言い値で払うってことでいいですかね?」
「構わん、その程度であの悪魔が片付くのならな」
「それじゃあ行ってきまさー」
と部屋を後にするカノンを見送り溜息を吐く、今回カノンがいなければ何も考えずにぶっつけでニコルと事を構えているところだったのだ。
自身の迂闊さに冷や汗が流れた、自分はいつからこんなに短慮になったのだろうか、少なくとも普段ならこのくらいの事言われなくても考えつくことだというのに。
自分が何かに操られている?いや今の自分の意識は自分を認識している、ということは意識を誘導されているのでは・・・だが誰に?
終わらない応えてくれる者の無い問いに頭を悩ませるフォウルを部屋の外から悪魔が笑うのだった。
魔王軍本陣からちょいと離れた天幕の中に所狭しとぎゅうぎゅうに座る筋骨隆々な男女がいた。
「狭すぎるな」
彼らのリーダーだろうか?一人の男が代表して自分の対面に腰を下ろす男に文句を投げかける。
「すまんなぁ、6人ならこの天幕で充分入る予定だったんだが・・・聞いてたよりも立派な体格で予定が狂っちまった。
場所を移すか?」
「そうしよう、これではまともな話し合いもできん」
そういうと彼らは天幕を出る、と文句を言ってきた一行に各種属性の魔法が飛んでくる。
「これはどういうことか訊いてもいいだろうか?」
襲撃を受けた彼らは攻撃を確認すると素早く展開しすべての属性魔法に対して各々が得意とする属性に向かい突進消滅させるという荒業をやってのける。
そう、彼らは全員がドラゴニュートで構成されているAランク冒険者パーティ”ドラゴントゥース”それぞれが地水火風雷氷のスペシャリストである。
「悪いな、今回の依頼ははっきり言って成功してもらわないと困る要件なんだ、だからこちらも依頼する相手に慎重にならないといけなくてね。
気を悪くさせちまっただろうけどそれだけこっちも切羽詰まってんだ」
「確かに切羽詰まっていることは分かるがな、今までの快進撃が今はこのざまだからな」
軽口をたたく交渉人カノンに、”ドラゴントゥース”のリーダー地のグランが嫌味で返す。
「そうなんだよ、笑えんだろ?順調に神国を攻めてあと少しで落とせる所までいっていたのに突然文字どうりに降ってわいた化けもんにこの体たらくだ。
まぁ今回の依頼はそれに関係してるんだが」
カノンはもう一つの大き目の天幕に案内し交渉を続ける。
「まぁお前たちの”狂った思想で他種族を迫害する神聖とは名ばかりの悪しき国を亡ぼす”という思想には少しばかり共感できるものがあるが、冒険者は基本戦争に介入することは無いぞ?」
グランが言った言葉に他のメンバーも同意とばかりに頷く。
「それは知っている、だから今回はあくまで化け物退治を依頼したい」
「化け物退治?」
「そう、はっきり言ってあれはドラゴンの化身か上位の悪魔なのではとウチの上の方は当たりを付けてるところだ。
んで、そんな個体としての強さが飛びぬけた存在に兵としては優れていても常識の範囲内にいる者たちでははっきり言って死体の量が増えるだけだ。
そこであんた達にあの化け物の退治を任せたい、手段は問わない成功後の報酬は可能な限り言い値でだそう、どうだ?引き受けてくれないか?」
そういうとカノンは頭を下げる、実際にニコルさえどうにかできたらまた攻勢に出れるだけの戦力差はある、が・・・これ以上の無為な損害はもはや許されないだけの損害を先日のニコルの強襲で受けてしまったので魔王軍には後が無くなっている。
「どれだけの情報が集まっているかにもよるな、それだけの化け物なら数日程度の準備では返り討ちに会っておしまいだろう。
最低でも弱点、苦手な物、立ち回りの癖なんかは教えてほしいな」
という返事を聞きカノンは内心ガッツポーズをとる、これでこいつらをニコルにぶつけることができると内心安心して。
「・・・聞けば聞くほど圧倒的な強さだな」
呟くグランに他のメンバーも。
「一太刀で兵士に紛れ込ませていた悪魔を全滅させたとか、突然の襲撃で軍の約二割を殺しまわったとか、それなのに手持ちの武器には一切の刃こぼれが起きてない可能性もあるとか・・・確かに化けもんだな」
そういったことを改めて聞くとカノンも溜息しか出ない、
「しかも魔法は殆どキャンセルされるんだろ?
唯一の救いは土系統の魔法は通じるかもしれないのと弓矢の攻撃は割かし効果がありそうだってことか・・・」
それを聞いてから目を閉じていたグランが目を開けてパーティメンバーに語り掛ける。
「とりあえずこの依頼は受けるぞ、それから今貰った情報からある程度の作戦を考えてみた。
実行前にあと一回は情報を引き出したいところなんだが、カノンさん、あんたらにあと一回情報収集を頼めるかい?」
との質問にカノンは二つ返事で了承し契約を交わす。
「では、さっそく行動を開始しよう・・・時間がなさすぎるからな」
そういって”ドラゴントゥース”は飛び立っていった。




