センス
~70
「ではサラさんたちは雪鱗さんを連れて冒険者ギルドに報告を僕は兄さんの様子を見てきます」
ニコルたち一行がシーフォートに着いた頃には日が傾き始めたくらいといったところだった。
「分かったわ、ついでに私たちは途中で何か食べて帰るからそっちはそっちで先に食事は済ましといていいわよ」
「はい、ではまた後で」
といった会話をしてニコルと他のメンバーは別行動にうつる。
「でもニコル君ってあの歳で強すぎない?ほんとにヒューマンなの?」
といった疑問を雪鱗が投げると。
「信じらんにゃいだろーけど、あれでちゃんとしたヒューマンにゃんだよね」
「そうだよね~最初の~私たちとパーティ組んだばかりの頃は~私たちの方が強かったんですけどね~」
「この間の盗賊どもも結局ニコルがほとんど片付けたものね」
といった言葉に。
「・・・成長が異常なんだね」
雪鱗の疑問は解決することなくさらに深まった。
「兄さん体の具合はどうですか?」
ニコルは自分たちが借りた2階にある2人部屋で、腰に差した剣を手に持ちベットで静かに寝ている兄の上に置く、数秒の間の後。
「ふぅ、長時間リンクが切れてると再度繋げるのに少し時間がかかるようだな」
寝ていたレッドが目を開きそう語りだす。
「体の方は概ね回復したみたいだな、まぁ元々60人分の血肉が詰め込まれてるんだから多少肉が削れても問題はないようだな」
「そうですか、では包帯などは邪魔なだけですし、もうはずしときましょうか?」
治ったなら態々つけておく必要もないだろうと包帯を外しにかかるニコルを手で静止し。
「いや、ケイベルに戻るまでこの状態でいる・・・その方がまぁ自然だし」
不敵な笑みを浮かべるレッド。
「そうですか・・・ではそのままにしときますね」
「それじゃあ、なんか食べに降りるか?腹減ってるだろう」
「そうですねサラさんたちは外で食べてくるそうですし、買い物なんかも昨日のうちに大体は僕のほうで終わらせてあるます。
明日の出発のために今日はもう食べて休ませてもらいましょう」
とニコルと二人で食事のために降りていく。
食事が配られたころ何故かサラたちが帰ってきて。
「雪鱗があなたたちも一緒のほうがいいって言うからこっちで食べることになったわ」
というサラからの説明に結局全員で食事となるのであった。
「師匠!右手がそんな状態では食べにくいかと思いまして不肖この雪鱗が右腕の代わりをさせていただきたく思います!」
と元気よく隣に座りこむ雪鱗・・・何故か左側に。
「いや、別に俺は左手でも不自由なく食えるんだが」
「そうですか・・・」
あからさまにテンションが下がる雪鱗。
「いいじゃないの食べさせてもらえば」
「かわいいこに、”あーん”してもらえるにゃんて~この幸せ者!」
というセリフが落ち込みだした雪鱗を見たサラとニナから飛んでくる、二人とも笑顔で言っているのに目が笑ってない・・・気がする。
「それじゃ~私はニコル君に”あーん”してあげる~」
何故かニコルの口に向かってテーブルに並べられていたウィンナーのような物を押しつけながら「はい、あーん」といっているライカ・・・口を開ける前に言うもんじゃないのかな。
意表を突かれたニコルが若干狼狽えるが、抵抗するのも面倒くさくなったのか諦めて受け入れるようだ・・・まだ力はライカの方が強いのかもしれないな。
「なるほどああすれば・・・」
横に座る雪鱗から小さなつぶやきが聞こえるため先手を打つ。
「怪我人に力づくとかありえんからな!」
「ななななにをいいいってるですか!ウウウチがそそんな師匠に力づくなんて、力づくなんて・・・ふふふ」
盛大にきょどった後になんか変なスイッチが入ってしまいそうな雰囲気がし背筋に冷たい汗が流れる。
「分かった!一口だけだからな!それで納得しとけよ」
この一言に雪鱗の表情がパァッと明るくなった。
まぁこんな宿屋の食堂で騒いでると余計な奴らが寄ってくるもので。
「おーおー色男さんが女ぁ侍らせてうらやましーこったなぁ!俺らも混ぜてくれよ!」
チンピラが湧きだした・・・ので。
「お前らが全部おごるならいいぞ混ざりたきゃ混ざれ」
即座に許可を出す、最近無視しても無駄なことが多かったので流れに乗ってやることにした、俺も成長しているようだ。
「あん?舐めてんのか!てめえのおごりでこの女どもも俺らに献上するのがぺぎゃ・・・」
食事中に唾が飛んできそうだったので早々に黙らせた・・・だが二皿ほど新しいのに変えてもらうか。
「食事中に唾を飛ばすな、この皿もこの皿ももう駄目だな・・・お前が喰え」
喰いもんで遊ぶ奴、喰いもんを粗末にする奴、そういった奴らを俺は許せない性質なので皿ごとチンピラに叩きつける、するとチンピラの連れだろうか?何やら喚きながら近づいてくるが言語が不自由らしいので何言ってるのかわかんない。
「てめぇ!俺のぷきゃっ」
全く何を言ってるのかわかんないな、それから2匹ほどチンピラが湧いてきたので軽く小突いて外に捨ててくる。
「お客さん困りますよ、店の中であんまり暴れないでくださいね」
店員っぽいおっちゃんに注意されてしまった、謝罪のために手持ちのお金全て渡す・・・チンピラのだけど。
「いえ!こんなもの受け取れませんよ!私たちまで彼らに恨まれるじゃないですか」
「そんな小さいこと気にすんな」
「気にしますよ!なんでこっちがリスク被らなきゃいかんのですか!」
「男が取り出した金を受け取らないなんて失礼じゃないかね?」
「取り出した場所が問題なんですよ!」
なかなかガードが固い店員だ仕方ないな。
「んじゃこのチンピ・・・生ゴミの身ぐるみ剥ぐからそいつで勘弁してくれないか?」
「不思議ですね?状況が良くならないですが、むしろわるくなってますよ?」
この店員なかなかキャラたってたんだなモブのくせに。
「ししょー-”あーん”は~」
ちっ!どさくさで有耶無耶にできなかったか。
ていうかなんかサラとニナまでスタンバってるんだがどうなっているんだ?
「兄さん食事時にそんなに暴れると埃が舞って迷惑ですからいいかげんにしてください」
わーい、ニコルに起こられたー・・・アレ?悪いのって俺かな?
そして夜が更けていく、明日このシーフォートを出発するため早めに休むことにしていたのに少し遅くなってしまった、誰だよ酒頼んだの・・・。
明朝、シーフォートの出入り口で依頼人のルベロさん、試験官のコリン、そして先輩Dランクパーティ”ハモニアの剣”の面々と合流する。
「おいおいおい!おまえ、なんだぁその様は!階段から転げ落ちたかぁ?」
「そんなところだ、ルベロさんすみませんが俺はこんな状態なので急遽彼女を俺のパーティに同行してもらうことになりました、こいつの分・・・彼女の分の費用なんかはこちらが持ちますので許可願います」
「ふむ、その体じゃあ無理はできないでしょうし、私たちに迷惑がかからないのでしたら同行も許可しましょう」
「ありがとうございます」
とちゃんと雪鱗の同行の許可を得てから隊列やらの打ち合わせをして馬車に乗り込む、丁度日が昇りだしたような時間帯での出発である。
帰りの馬車のスピ-ドは行きよりちょっと遅くなる。
真ん中を走るルベロさんたちの馬車が商品を詰め込んでいる為重くなっているのが原因だ。
まぁ実際俺達にとっては行きより安全な旅路ではあるのだが。
本来なら動きも遅くなった馬車なんて盗賊どころか野生の魔物なんかにとってもいい獲物ではあるのだが、馬車に並行して森の中を進む影のおかげでほとんど警戒しなくて済んでいる。
「Dランクの依頼だけど護衛依頼って暇なんだね~」
「暇だな~」
「だからといって、寝転がっていられると困りますよ!ブレドさん」
暇暇言ってんのは一緒に最後尾のゴーレム馬車に乗っている雪鱗もなんだがな、なんで俺だけが怒られる・・・怪我人なのに。
「あなたが寝転がっているからですよ!」
なるほど納得、喉に刺さった小骨が取れた気分だ、ゆっくり寝よう。
「だーかーらー!寝るなって言ってるんですよ!」
まったく!コリンはうるさいな、いいじゃん俺の代わりに雪鱗がいるんだから雪鱗が警戒してたら万事OKじゃん。
「この依頼は”ファルシオン”の昇格依頼で私は”ファルシオン”の昇格依頼の試験官なんです!だからあなたにうるさく言うんです!」
こいつ、さっきから俺が思ってることに反応するかのように答えてくるけど何なの?エスパー?
「どうせしょうもないことを考えてるんでしょうけど、あなたの顔見てたら何言いたいのかくらいわかりますよ」
なんとコリンはエスパーだった、今度からエスパーコリンと呼ぼう・・・心の中で。
「ダメです」
なに?あだ名まで読まれたか!
「どうせ自分の心の中でくだらないあだ名をつけたんでしょう、そんな名前は許可しません」
くっ!エスパーコリンめ、俺の心の中にまで干渉してくるとは。
このままでは俺の心の平穏がこいつ一人に脅かされるということだ・・・どうする、殺すか?
「何か物騒なことを考えてるんじゃないでしょうね」
そんなわけないだろう?平和を手に入れるための考えだ、主に俺の平和なんだがな。
といった平和な時間が過ぎていき特に大きな問題もなく2日3日と日にちは過ぎていった。
4日目の夜。
「順調すぎてつまらん」
俺の言葉に。
「順調なのはいいことじゃないんですか?」
ニコルが答え。
「このまま終わればDランクになってより刺激的な依頼を受けられるんだからここは我慢するところよ!」
俺に自制を促すサラ。
「まぁ、このまま順調にいけば明後日にはついて依頼は成功だ」
「でしょ?ならいいじゃない」
「だがこのまま終わるなんてつまらん!」
「やばい・・・これはまたにゃにか禄でもにゃい事を考えてしまった後みたい」
「ま~ここのところ1日中~コリンさんに説教されてますから~ストレス溜まってるんでしょうね~」
「なるほど、師匠はいつもに無視しているのに勝手に考えを読み取られて延々説教されてるのは面白くなかったんですね、ウチは・・・」
ウチは見てて楽しんでますけどねって繋げそうになったので慌てて黙らせとく、だってニコルが。
「なるほど、ではコリンさんを事故に見せかけてってことですね?」
「しないぞそんな事!
試験管死んだら昇格依頼は達成しても昇格できないし」
「昇格云々以前にそんな犯罪めいたことはしたらだめでしょ?」
サラが至極まっとうなことを言う俺とニコルはさっと視線を逸らす・・・後ろ暗いことしちゃってるつもりのせいかとっさに視線をそらしてしまった。
「なぜ視線を逸らすのかしら?」
さすがに疑問に思ったか。
「まぁいいけど、とにかく明日明後日余計なことは慎んでよね!」
「はぁい」×3
俺、ニナ、雪鱗が返事する・・・俺はともかくなぜ二人が?
「二人とも何かするつもりだったの?」
サラも疑問に思ったのか訊いてくれた。
「ウチは何となく」
雪鱗は残念な子だった。
「あたしも何となく」
残念な子は二人もうちのパーティにいたようだ。
「まあ余計なことはしないが、サンダーエッジ~」
『呼んだか主よ』
どうやっているかは分からないが大きな足音もなくサンダーエッジが首を俺の横まで伸ばしてきた、俺は地図を広げて。
「明日の朝からでいいんだけど、地図で言うと今この辺だろ?でこのあたりにワン太郎がいるはず・・・あぁワン太郎はお前の先輩のブレードウルフだ、そいつがいるはずだからワン太郎と一緒にいる奴に自己紹介した後、そいつらの指示に従っててくれ。
後日迎えに行くから」
『心得た』
了承したサンダーエッジにもう一つ重要なことを伝える。
「ついでにお前に名前は雷凄だ」
『は?』
「だから名前だよ!いつまでもサンダーエッジじゃ長いんだよ」
『はぁ・・・雷凄ですね、しかと受け取りました』
うん、結構頭を抱えたんだぞこの名前、いくら考えてもサンダーエッジを省略した名前しか浮かんでこなくてマジで悩んだ・・・だから雷から考えて”凄まじき事雷のごとし”から貰うことにした、微妙に言い回しとか違う気もするけど貰うことにした。
「その名前ってどんにゃ意味にゃの?」
まぁ聞かれると思ったが、フッ説明してやるか。
「カミナリは凄まじいってことさ」
うん、俺の口下手・・・伝えたかったことが纏まりすぎてしまったようだ。
聞いた皆も、「そ、そうだね・・・雷はすごいもんね」って俺から視線を外していく。
いいんだ・・・俺が納得した名前を付けたんだからそれでさ・・・。




