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8/10

町内会長決めるノリで、征夷大将軍に任命されました

慶長七年。


本来ならば、天下分け目の戦が起こる年である。


だが、起きなかった。


石田三成は佐和山で薬草を育て、上杉景勝は雪と格闘し、宇喜多秀家は家臣同士の喧嘩を仲裁し、毛利輝元は跡目を決められず、大友義統は領地復興。


そして、島津は島津。

それ以上でもそれ以下でもない。説明不要だ。


そして――徳川家康は。


「内府殿。」


「何じゃ。」


「また揉めております。」


「今度は誰じゃ。」


「奉行衆にございます。」


「……行くか。」


今日も仲裁だった。


◇◇◇


「治部殿がおれば!」


「いや、お主がやるべきじゃ!」


「予算が!」


「検地が!」


「帳簿が!」


「順番じゃ。」


家康が一言告げる。


「一人ずつ申せ。」


「「「……はい。」」」


その一言で、静かになる。


片桐且元は涙目で呟く。


「内府様……。」


「何じゃ。」


「助かりました……。」


「胃薬は飲んだか。」


「はい……佐吉から届いたやつです。」


「効くか?」


「めちゃくちゃ効きます。」


「そうか。」


◇◇◇


その頃、佐和山城。


「父上!」


「何や!」


「淀の方様から文!」


三成は受け取り、静かに読む。


『胃薬、もう少し送ってください。

皆、胃を壊しております。

特に且元に至っては、瀕死です。

徳川殿は政務の合間に自分で煎じております。

いい加減、適量を教えてやって下さい。

秀頼の養育の時間にほんの僅かではありますが、影響が出ております。』


三成は黙って薬箱を取り出した。


「重家。」


「はい。」


「陳皮。」


「はい。」


「乾姜。」


「はい。」


「倍作る。」


「はい。」


そして、縁側で薬草を干してる正則へ視線を向ける。

福島正則、清洲の一国一城の主人であり、暇じゃないはずなのに、佐和山にしょっちゅう来ている。


「市松、甘草は?」


「ええ頃合いやで!」


「持って来て。」


「おう!」


◇◇◇


数か月後、家康の元に朝廷より使者が訪れた。


「征夷大将軍任官の儀。」


家康は固まる。


「……正信。」


「はい。」


「儂。」


「はい。」


「何かしたか?」


正信は真面目に数え始める。


「豊臣家臣団の仲裁。」


「うむ。」


「奉行衆の調整。」


「うむ。」


「秀頼様の養育。」


「うむ。」


「朝鮮との和睦。」


「うむ。」


「交易。」


「うむ。」


「大名との折衝。」


「うむ。」


「胃薬の配布。」


「……それは違う。」


「失礼しました。」


家康は腕を組む。


「……戦は。」


「しておりませぬ。」


「じゃが。」


「はい。誰よりも働いてはおりました。」


沈黙。


「……。」


「……。」


家康はぽつりと呟く。


「やる者が誰もおらぬから、儂がなった……という流れではないか?」


正信は少し考えた。


「否定は出来ませぬ。」


征夷大将軍の任を受けた翌日。


家康は茶々に呼び出され、奥御殿へ訪れた。


(……ついに来たか。)


豊臣家からすれば、家臣である徳川が征夷大将軍となったのである。

咎められても、不思議ではない。


(何を申されても、受け止めねばならぬ。

淀の方も、思うところがあろうて。)


罵詈雑言、罵声罵倒を浴びせられる覚悟で奥御殿へ赴いた。

しかし、茶々の口から語られたのは、そんなものではなかった。


「内府殿、お願いがございまする。」


目の前に座り手を付く茶々は、戦乱の世を生き抜き、覚悟をとうに決めた女の目をしていた。


「高台院様をはじめ、私たち豊臣家が望むものは、家の存続。」


「はい。」


「それから、秀頼の後見を。」


「承知いたしました。」


そして、茶々は外に視線をやる。


「最後に……。これは私の願いです。」


「はい。」


「これから先……民を燃やさぬように……。」


静かに、しかし、はっきりと強い口調だった。


「……お頼みいたします。」


茶々は深く頭を下げた。


「お任せ下さい。」


家康もまた、茶々へ頭を下げた。


(加賀殿……儂は約束を果たせましたでしょうか?)


家康は亡き強敵に、心の中で問い掛けていた。

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