表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/10

お主ら、何しに行ったん?

石田三成が佐和山へ帰ってから、一月余り。


大坂城・西の丸。


評定を終えた家康は、一息つこうと湯呑みへ手を伸ばした、その時。


「申し上げます。」


小姓が一礼する。


「加藤主計頭様、福島左衛門大夫様がお見えにございます。」


「……ほう。」


家康は湯呑みを置いた。


(治部殿へ謝りに行くとは、官兵衛殿から聞いておった。)


ならば、おそらく今日はその報告であろう。


「通せ。」


「はっ。」


間もなくして、清正と正則が部屋へ入る。


「失礼いたします。」


「うむ。」


二人とも以前より幾分晴れやかな顔をしている。


(無事、和解出来たようじゃな。)


家康は自然と頬を緩めた。


「して。」


茶を一口飲む。


「治部殿とは、どうじゃった?」


清正は姿勢を正した。


「はい。佐和山に着いて早々……。」


「うむ。」


「猪が出ました。」


「……うん?」


家康の手が止まる。


「三成が槍を持って追い掛けまして。」


「……。」


「某と正則で仕留めました。」


「……。」


「その日は猪鍋を馳走になりまして。」


「……。」


「泊まれ、と。」


「……。」


家康は黙って続きを待った。


「翌朝。」


「うむ。」


「猪避けの柵を作りました。」


「……。」


「三日目は薬草畑を広げまして。」


「……。」


「四日目は若い衆の稽古を。」


「……。」


「胃薬も煎じまして。」


「……。」


「五日目に。」


家康は少しだけ身を乗り出す。


「うむ。」


「ようやく謝りました。」


静寂。


「……。」


「……。」


家康はゆっくりと二人を見た。


「……其方たちは。」


一拍。


「何をしに行ったんじゃ?」


正則が頭を掻く。


「俺らも、その……。」


清正も困ったように笑う。


「気付いたら、五日経っとりまして……。」


「気付いたら、で五日過ぎるか。」


家康は思わず額を押さえた。


「しかも。」


正則が思い出したように言う。


「三成、全然怒っとらんかったんです。」


「……ほう。」


「俺らだけ、ずっと気まずかったんやなぁって。」


「そうか。」


家康は小さく息を吐いた。


(治部殿らしい。)


そう思った。


「あと。」


正則がまた何かを思い出した。


「うた殿……三成の奥方が島左近殿らと手分けして、書状を燃やしておりました。」


「……む?」


「大坂からの書状をです。帰って来い、ばかりですので。」


「まぁ……奥方の気持ち、分からんでもないわ。」


家康は思わず苦笑する。

もしも、自分が三成と同じ立場になったら、側近の正信や側室の阿茶局も恐らく同じ事をするだろう。


「その代わり、小西様や浅野様、長束様からの『帳簿はどこにある?』という文は、三成へ回しておりました。」


「そうか。」


家康、内心ホッとした。


清正が側に置いていた薬箱を、両手で差し出す。


「三成より、徳川様へ預かって参りました。」


「……これは?」


家康は蓋を開けると、中には丁寧に包まれた漢方薬。


「胃に効く薬だそうにございます。」


「ほう……。」


家康の目が変わった。

薬包を一つ開き、香りを確かめる。


「陳皮……。」


鼻を近付ける。


「甘草。」


もう一つ開ける。


「乾姜か。」


正則が清正へ小声で囁く。


「始まった。」


「始まったな。」


二人は知っている。


徳川家康。漢方の話になると、止まらない。


「煎じ方は?」


家康が顔を上げる。


「……それが。」


清正は苦笑した。


「適量、と。」


「……適量?」


「はい。」


「それしか聞いておりません。」


家康は薬包を見つめた。


「……。」


「……。」


「適量とは、どの程度じゃろうな。」


その目は、戦よりも難しい問題に向き合う学者のようであった。


清正と正則は顔を見合わせる。


(始まったな。)


(当分終わらんな。)


二人は心の中で同時に呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ