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家康、大坂城西の丸に入る

寧々と茶々からの返事は割と直ぐに来た。


『もう休みなさい。みんな、困ったらええねん。

そんぐらいせな分からんで。』


要約すると、そう書かれてあった。


「……では、佐和山へ戻ります。」


「うむ。」


豊臣家の母たる北政所寧々と、秀頼生母の淀の方より許しを得た。


家康は正信へ静かに命じる。


「秀康に治部殿を佐和山まで送るように、と伝えよ。」


「はっ。」


こうして三成は、家康の次男・結城秀康の護衛を受けて、佐和山へと帰還した。


「やれやれ。」


家康は湯呑みへ手を伸ばしたが………冷めていた。


(思うた以上に、限界だったようじゃ。)


数日前の三成の顔が脳裏に浮かぶ。


疲れ切った顔、酒が入った途端、止まらなくなった愚痴。

そして最後の一言。


『もう知らん。』


あれは怒りではない、諦めだ。


(加賀殿……。)


家康は天井を見上げた。


(其方、誠に厄介なものを儂へ残していきよったのぉ。)


その日の夕刻。


「殿、淀の方様より。」


「もう来たの?」


小姓から文を受け取った家康は、さっと開く。


「殿、いつの間に淀の方様へ御文を?」


「一昨日じゃ。今後の事で相談したき儀があるとな。」


茶々からの返事は簡潔だった。


『西の丸にて、北政所様とお待ちしております。』


それだけだった。


家康は静かに文を畳む。


「支度整えよ、大坂城へ参る。」


「はっ!」


◇◇◇


家康は正信たち重臣たちを引き連れ、大坂城の西の丸に入城した。


西の丸の御殿には既に寧々と茶々が待っていた。


「内府殿、挨拶は無用じゃ。」


「はっ。」


「先に、伝えておきたい事が。

此度は治部を守って下さり、誠にありがとうございました。」


寧々が頭を下げると、続けて茶々も頭を下げた。


「いやいや、某は何も……。北政所様の頼みとあらば、断る理由もございませぬ。

それから……加賀殿との約束もありますしな。」


寧々と茶々は僅かに目線を合わせると、静かに頷いた。


「治部殿は、佐和山へ?」


「はい、秀康に送らせました。」


「まぁ。秀康殿が護衛とならば、流石に追撃は出来ぬからのぉ〜。」


「ホンマに。」


寧々は小さく笑ってから、大きく息を吐く。


「それにしても……虎之助と市松、与一郎は、頭に血ぃ昇ると周りが見えんようになるんやけども……。

ホンマにやるとは思わんかったわ……。」


自ら育て上げた息子たちが、まさか本当に襲撃するとは……。

寧々も今回の事件は予想外だったようだ。


「して、内府殿。如何なさるのです?」


茶々に聞かれ、家康は淡々と答える。


「先ずは、あの馬鹿どもの言い分を聞きます。説教はその後に……。」


「程々にね〜。」


茶々はニコリと笑った。


「誰が正しい、誰が悪いは内府殿にお任せします。

でも……治部殿が歩み寄ろうと思った矢先にコレだもの。

そりゃ『もう知らん』とも言いたなるわ〜。」


家康は僅かに眉を上げる。

茶々はくすりと笑った。


「あの人の顔見てれば分かるわよぉ。

それに、官兵衛殿や幽斎殿にも頼ってたようで、動いていたのは知ってるわ。」


「成る程……。」


「お茶々ですら気ぃ付いたのに……。あの子らの目ぇはどこに付いとるんやろか?」


寧々の声色には、ほんの少しだけ落胆が混じっていた。


「内府殿、頼んでもよろしいか?

内府殿の話にも聞く耳を持たぬと言うのであれば……私が出ましょう。」


「有り難き御言葉。」


そして、家康は加藤清正、福島正則、黒田長政、加藤嘉明、細川忠興を呼び出すのだが……。


家康は、前田利家が何年も胃を痛めていた理由を、身をもって知ることになった。

作中では幼馴染感を出したかったので、幼名・通称で呼び合っています。


* 佐吉=石田三成

* 虎之助=加藤清正

* 市松=福島正則

* 与一郎=細川忠興

* 孫六=加藤嘉明

* 松寿=黒田長政


「誰やったっけ?」となった時の参考にして頂ければ幸いです。

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