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騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


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9

「お姉様ー!」

ぱたぱたと駆けてきたアウラを、レンは軽々と抱き上げた。

「おかえり、アウラ。母上も」


「ええ。…こちらはとっても寒いわね」

イリスは四十半ばとは思えないほど、相変わらず美しかった。

ロゼ色の髪は光を受けるたび、宝石のようにきらきらと輝いている。

その隣で、オルフェは娘たちを見ながら静かに目を細めた。


イリスは、学問だけでなく社交もきちんと学ばせたいらしく、アウラが中等部を卒業するまでは王都で過ごさせるつもりのようだった。


もっとも。

アウラ本人は、辺境へ帰ってくるたびに「ずっとここにいたい」と駄々をこねているが。

「お姉様と一緒がいいのー!」

「ふふ、嬉しい」

レンは笑いながら、妹の頭を撫でた。


アルバートは卒業後、そのまま王都の近衛騎士となって数年が経つ。

リカルドも王都所属の騎士だが、現在は西部勤務で魔獣討伐に携わっていた。

最後に領地で顔を合わせたのは一年半前。 だが、レン自身は王都へ行く機会も多く、兄たちとは度々会っている。


その日の夕食。

「進級試験は問題ないと講師の方も言っていたわ。頑張っているのね」

イリスが優しく微笑む。

「はい」

レンは素直に頷いた。


この国の学園は三段階制だ。

初等部六年。 中等部四年。 高等部四年。

初等部と中等部は義務教育。 高等部からは進路によって複数に分かれる。

貴族や商人の子どもたちだけでなく、優れた魔力を持つ者や騎士志望、成績優秀な者も国の推薦で通っていた。


レンは現在、中等部三年相当。

ただし“在籍のみ”である。

年に二度の進級試験だけを受け、そのために王都へ向かっていた。

本来なら、レンの能力を使えば移動など一瞬だ。


けれど。

それを人前で使うわけにはいかない。

だから表向きは、正式な転移装置を利用して王都へ移動している。


とはいえ。

週に二日はオルフェや護衛と共に王都の屋敷へ行っていた。

レンにとって王都は、もうそれほど遠い場所ではない。


そして

ガロと出会ってから、九年が経った。

修行の日々だった。

纏装(てんそう)―武器に魔力を流し、武器の強化や形状変化を行う。

反射―相手の攻撃をそのまま反転・返還

転移―瞬間移動


ガロですら使えない空間収納まで、レンは覚えていった。


「嬢ちゃん、ほんと意味わかんねぇな」

昔、ガロは呆れたように言っていた。

転移など、本来は高度な集中力が必要な技術らしい。

だがレンは、まるで呼吸をするように使ってしまう。


「子どもだから柔軟なんだろ」

そう結論づけられた。

レン自身は、未だによく分かっていない。

普通になんかできる。

それだけだった。


ちなみに十歳の時。

ガロから、一頭の竜を贈られた。

まだ幼い子竜だったが、漆黒の鱗に黄金の瞳を持つ美しい竜だった。

『嬢ちゃんに似合う』

そう言って押しつけるように渡されたのだ。

レンはその竜に、“ルーク”と名付けた。

今ではすっかり成長し、レンを乗せて空を飛ぶ。


最初にオルフェへ見せた時など、父は本気で倒れかけていた。

「…なぜ竜がいる」

「誕生日プレゼントだと、ガロにもらいました」


「……」

意味が分からない。

そんな顔をしていた。

ちなみにイリスは、「まぁ素敵」と微笑み、アウラは「かっこいいー!」と大興奮だった。


現在レンはルークに乗り、ガロと共に隣国ゼラント王国へ行くこともある。

隣国の隣クラクスコ帝国では竜騎士文化が一般的らしく、特に珍しがられることもなかった。


だが。

この国アルテミア王国では事情が違う。

竜は誰でも乗れるものではなく、国から許可を受けた者だけが扱える存在だった。

まして黒竜など、他国を含めても滅多に存在しないほど希少である。


だからこそ、レンは普段ルークを森の奥で自由にさせている。

「お姉様、またルークに乗せて!」

「いいよ。でも父上には内緒にしてね」

「やったー!」

きゃっきゃと笑うアウラ。

そんな妹を見ながら、レンも小さく笑った。


「うー……痛い……」


今日は進級試験前日。

休めとガロに言われ、レンはルークに乗って隣国ゼラント王国の森を飛んでいた。

そこは巨大な木々が空を覆う、深い深い森だった。


太く長い幹が幾重にも連なり、上空を飛んでいても地面が見えないほどだ。

ルークは木々の間を滑るように進んでいく。

その時だった。


ーーバチーン

横から、太い蔓のようなものが叩きつけられた。

「っ!?」

木の枝みたいなものは、擬態した魔物だった。

普段、レンは飛行中、“下方向のみ”反射を展開している。

地面からの攻撃対策だ。

だが今回は横。

しかも攻撃を受けたのはルークだった。

「グギャっ――」

「ルーク!!」

衝撃で黒竜の身体が大きく弾き飛ばされる。

このままでは木へ激突する。

レンは咄嗟にルークを魔力で包み込み、瞬間移動を発動した。

飛んだ先は、辺境の森の奥にある深い湖。


けれど。

勢いまでは消せない。

「――――っ!」

どっぱぁぁん!!

そのまま湖へ突っ込んだ。

冷たい水。

ぐるぐる回る視界。

息が苦しい。

すると。

ぐいっ、と左腕を引かれた。

「っ……」

ルークがレンの腕を咥え、水中から引っ張り上げていた。

ばしゃ、と湖畔へ転がり出る。

「はぁっ……はぁっ……」

濡れた黒髪が張りつく。

ルークは心配そうに鼻先を擦り寄せてきた。

「ルーク……ごめん……ありがと……大丈夫?」

レンは竜の鼻を撫でた。

「グリュー」

ルークは安心したように喉を鳴らし、そのまま寝床へ戻っていった。


レンもびしょ濡れのまま、自室の浴室へ移動する。

張りついたズボンが脱げず苦戦した。

「ぬ、脱げない……」

ようやく湯へ浸かり、左腕を見る。

紫色に腫れていた。

ルークが助ける際、牙が少し食い込んだのだろう。

血も滲んでいる。

けれど。

ルークが自分を助ける時は、割とこうなる。

むしろ感謝しかない。


「いたた……」

聖水をばしゃばしゃとかける。

本当なら回復魔法を使いたいところだが、レンには効かない。

包帯は片手では巻けず、結局メイドを呼ぶことになった。

頬とこめかみも、いつ擦ったのか血が滲んでいる。

左足までじわじわ痛くなってきた。


――絶対、父上に報告がいく。

「あーーーー……やってしまった……」

顔は隠せない。

怒られる。

ものすごく憂鬱だった。

レンは、生まれつき回復魔法が効かなかった。

幼い頃、高熱を出して教会へ預けられた時もそうだ。

どれだけ治癒魔法をかけても意味がなく、薬草治療しか方法がなかった。

回復魔法は高価で一般人は基本的に薬草で治す。

レンの体質は、かなり珍しいらしい。


もっとも。

レン自身は、あまり困っていなかった。

治るのが異様に早いからだ。

ルークから落ちて骨折した時も、三日で動けるようになった。

魔獣との戦闘で横腹を貫通された時など、オルフェは本気で倒れかけていたが。

貫通から数分で出血は止まり、翌日には普通に歩いていた。

心配させないよう、自分から父の執務室へ向かった結果――。

「父上――」

扉を開けた瞬間。

「レン!!?」

オルフェが蒼白になった。

次の瞬間には抱え上げられている。

「医師を呼べ!!」

「父上?」

オルフェの最速の走りを見てうれしくなった。

だが。

オルフェはまったく嬉しそうではなかったが。


進級試験当日。

「では父上、行ってきます」

「――レン」

「……行ってきます」

「……はぁ」

オルフェは深いため息を吐いた。

「気をつけてと言いたいところだが……すでにボロボロのやつへ言う言葉ではないな」

打撲で首から包帯を吊り。

捻挫した左足を引きずり。

頬には白い布を貼られ。

頭にも包帯が巻かれている。

どう見ても怪我人だった。


ただ。

レンからすれば、これは“一時的なもの”だ。

打撲も捻挫も、明日には治る。

だからレンは、「進級試験に集中したいから」と理由をつけ、イリスとアウラにも会っていなかった。

今日は、たまたま怪我人なだけなのだ。


「もう、行きなさい」

「はい父上。それでは」

レンの姿がふっと消える。

執務室には静寂だけが残った。

オルフェは額を押さえる。

……何度見ても、とんでもない魔法だ。


そして。

王都の邸へ到着した瞬間。

王都の執事たちは言葉を失い、メイド達も声にならない悲鳴を上げたのだった



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