表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/32

7

オルフェは絶句した。

腰まであった綺麗な黒髪が――。

耳よりも短くなっている。

さらりと揺れる短髪。

首筋が見えていた。


可愛い。

……いや、違う。

待て、今なんと言った?

「父上ー! 私、騎士になります!」

「…………は?」


そして今に至る。

「見て父上! 戦士の耳飾り!」

「!!!?」

オルフェは本気で気を失いかけた。

物理的に強い、魔獣相手でも怯まない。

そんな男が、ぐらりとよろめく。

こんな経験は初めてだった。

息子たちですら、ここまでにはならなかった。

……娘だからなのか。


レンが嬉しそうに近づいてくる。

「ほら!」

片耳を見せられ、オルフェの顔が引き攣った。

赤い。

明らかに開けたばかりだ。

痛々しいほど赤い耳に、二つの輪の耳飾りが揺れている。

黒い輪と、銀色の輪。

きらきらしている。


いや、そうじゃない。

痛そうだ。

ものすごく痛そうだ。

教会で闇属性だと判明してから、まだ五日しか経っていない。

そりゃ倒れそうにもなる。


オルフェはぎぎぎ、と首を動かした。

レンの後ろ。

片手で顔を覆っているウィルへ、無言の威圧を飛ばす。


任せろと言ったよな?

ウィルはすっと目を逸らした。

どうしてこうなった。

塞ぎ込むかと思っていた。

怖がるかと思っていた。

だからウィルへ任せた。


なのに。

蓋を開ければこれである。

だが、確かにレンは元気だった。

夕食もいつも通り。

むしろ前向きですらある。

オルフェも安心していたのだ。


ちゃんばらだって、いつも以上に付き合った。

長い髪を後ろで一つに結んだレンは、以前より活発に見えた。

汗を流しながら竹刀を振る姿は、本当に楽しそうだった。


そして先ほど。

肩で息をしていたレンを見て、オルフェは少しだけ手を抜いた。

竹刀を弾かせる。

「参った」

そう降参してみせたのだ。


すると。

「やったー!!」

満面の笑みで飛びつかれた。

可愛かった。

とても。


……それが二時間前。

そして現在。

「父上に勝利したことで、私は騎士になる権利を得ました」

「――――?」

「このたび、わたくし、レン・トワ・イェーガーは、騎士になることを宣言しましす!」

「…………」

なぜ噛む。

可愛い。

違う違う。


オルフェは深く息を吐いた。

「……レン」

低い声で呼ぶ。

「なんの話だ?」

同時に、背後のウィルへ圧を向ける。

ウィルは乾いた笑いを漏らした。

「いやー……はは」

「俺もなんのことだか」


―― 一日前。

「なぁ、オルフェはお前が騎士になりたいって知ってんのか?」

ウィルが何気なく聞いた。

レンは当然のように頷く。

「毎日稽古つけてもらってるからね」

兄上、それ遊びだと思うぞ。

ウィルは真顔になった。

「……ちゃんと話してみろよ?」

レンは考えた。


そして結論を出す。

勝ったら言おう。

その翌日。

レンは人生で初めてオルフェへ一本取った。

嬉しかった。

本当に嬉しかった。


だから。

勢いのまま行動した。

「メイド長、耳飾りあけて」

「ダメです」

即答だった。

イリスはアウラの健診で不在。

ならば。

「……自分でやるか」

騎士になるのだ。


これくらい、自分でやらなければ。

レンは別のメイドへ近づいた。

「針ってどれくらい大きいの?」

裁縫用の針箱を見せてもらう。

その中から、長い針を見つけた。

そして。

がしゃん!

「きゃっ!」

わざと針箱を落とし、その隙に一本借りる。

さらにアウラ用に置かれていた聖水も拝借した。

準備完了。


「よし!」

ぶすっ。

「い、いったぁ……!!」

涙目になりながら針を押し込む。

貫通。

急いで聖水をかける。

「黒の輪……完了……」

痛い。

めちゃくちゃ痛い。

でも。

「……二個目……」

今しかない。

ぶすっ。

「あぁぁぁ……っ!」

じわっと涙が滲む。

「ふ、ふぅ……」

銀の輪、完了。

耳ががんがんする。

でも格好いい。

レンは満足した。


そしてそのままウィルの元へ向かったのだ。

「父上に勝ったー!」

「あぁ、見てたよ。やるな」

笑いながら振り返ったウィルは。

次の瞬間。

ざくっ。

「…………」

レンは短剣で自分の髪を切り始めた。

周囲の騎士たちも絶句する。

さらさらと黒髪が落ちていく。


「ざんぱつしきしまーす」

「えーーー!????」

騎士団に悲鳴が響いた。


そして現在。

オルフェは両膝をついていた。

「……俺のせいだ」

「いや違うだろ」

ウィルが真顔で否定する。


「レン、なんで先に言わなかった。俺、確認しろって言ったよな?」

「ウィルが前に、“背中で語れ”って言ってた」

「違うだろ!!!」


アウラの健診から帰って来て、ぱたぱたとレンが駆け寄ってくる。

「母上!」

元気な声に顔を上げたイリスは――固まった。

「…………え?」

腰まであった美しい黒髪。

それが。

耳の上まで短く切られている。

しかも片耳には二つの耳飾り。

黒と銀の輪が揺れていた。


イリスもまた、ふらふらとメイドに支えられていた。

「奥様、大丈夫ですか?」

「えぇ……少し疲れただけよ……」


「アウラ、そんなに母上を困らせてはダメよ」

「なーよー」

アウラがぷぅっと頬を膨らませ、小さな手を上げる。


イリスは視線を逸らした。

「……ごめんなさい」

「幻覚が見えるわ」

「今日はもう休むわね」

そそくさと背を向ける。

レンは首を傾げた。

「母上?」


その夜。

「あなた、おかえりなさい」

寝室で待っていたイリスが、おそるおそる口を開く。

「あの……レンの髪は……?」

「あぁ……」

オルフェは遠い目をした。


そして。

ぽつり、ぽつりと今日の出来事を説明していく。

騎士になる宣言。

耳飾り。

勝利宣言。

自力開通。

散髪式。


「……騎士のままごとをしていると思っていたんだ」

最後にそう締めくくると、部屋に長い沈黙が落ちた。


やがて。

「……あの子から、学園の話が出たの」

イリスが静かに言う。

「……そうか」

二人は考え込む。


レンの属性は闇。

稀少で、未知で。

人々に恐れられている。

学園へ行けば、何を言われるか分からない。


沈黙の中。

ふふ、とイリスが小さく笑った。

「……あの子の髪…ふふ」

オルフェが怪訝そうに見る。


「最近、淑女教育の講師に言われたことがあるの

『お嬢様は頑張り屋ですね』って


嫌な顔をしながらも、全部完璧にこなす子です

騎士訓練場へ行きたいから、早く終わらせたいのが丸分かりで」


オルフェは少し驚く。

レンは礼儀作法も、勉強も、やれと言われれば真面目にやる。


だが。

剣を持っている時が一番楽しそうなのだ。

「……しかし」

「やりたいように、させてあげたいわ」

イリスは優しく微笑む。

「そのために嫌なことも頑張れる子よ」

「……学園は」

「もちろん簡単じゃないわ」

イリスの表情が少し曇る。

「だから――」


翌朝。

朝食の席で、オルフェがレンを呼んだ。

「レン」

「はい!」

ぴしっと背筋を伸ばす。

短い髪が揺れた。

オルフェは内心まだ慣れない。


「学園の件だが」

「っ!!」

レンの目が輝く。

オルフェは静かに続けた。

「お前の属性は特殊だ…まだ分からないことも多い

場合によっては、人を傷つける危険もある」

レンは真剣な顔で聞いている。


「…よって

「まずは辺境伯領の騎士見習いとして訓練を受けろ

自分の力を制御できるようになった時、学園へ通うことを許可する」


「!!!」

レンの顔がぱっと明るくなる。

「お前の講師は三日後に来る

しっかり学ぶように」

オルフェは厳格に告げた。

その横で、イリスと視線を交わす。

――どう反応するだろう。


すると。

「……え?」

レンが固まった。

「私……学園、いけない?」

「――レン」

オルフェが眉を寄せる。

レンは困ったように口を開いた。

「こいした魔女は…本に……」

「……レン?」

今なんと言った?

恋した?

魔女?

オルフェとイリスの空気が止まる。

レンは真剣そのものだった。

「父上!わかりました!…学園には行きません!」


「…………」

「…………」

夫婦は静かに顔を見合わせた。


話が。

まったく見えなかった。


しばらくして。

レンはふっと安心したように笑う。

「父上」

「……なんだ」

「フラグ折ってくれてありがとう」


「……意味が分からん」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ