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騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


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しばらく会っていなかった彼女と目が合う。

その瞬間。

「俺と騎士団長のシグルドを送りますね!」

レン・トワ・ヴィスタールのエメラルドの瞳が淡く光に包まれ、ぱっと笑った。

数ヶ月会わない間に、随分と変わっていた。

いや。

変わったというより――現場に馴染み過ぎていた。

装備らしい装備は一切ない。

軽装。

黒い服。

双剣だけ。

それで大丈夫なのかと言いたかった。

だが。

仕事が早い。

早すぎた。

景色が切り替わる。

次の瞬間には、魔物の群れの中心だった。

「「―――!!!!」」

周囲を異形が埋め尽くす。

黒い瘴気。

唸り声。

牙。

「レン!! お前、殺す気か!!!!」

シグルドが怒鳴る。

だが当の本人は、

「さっきマリアさんにも同じこと言われました!」

などと言いながら、軽やかに跳んだ。

魔物の間を縫う。

反射魔法が牙を弾き返し、その隙に双剣が喉を裂く。

速い。

そして迷いがない。

「レン、ふざけんな!!」

後方からセオンの怒声が飛ぶ。

だがレンは止まらない。

双剣の長さが、一瞬だけ伸びた。

――纏装。

魔力で武器形状を瞬時に変えている。

マリアには見えていなかっただろう。

まるで踊るようだった。

跳び。

裂き。

回り。

黒い髪が翻る。

「レン、次行くぞ」

青灰色の髪の諜報員――ディルクが低く告げる。

「団長、ロイド様、あとはよろしくお願いしますっ!」

そう言って笑い。

レンは再び転移で消えた。

「……ふっ」

思わず笑みが漏れる。

元気そうで良かった。

脳裏に、小声で囁いていた姿が浮かんだ。

『今日の私は一段と普通なのです』

あの妙に得意げな顔。

こんな戦場で思い出すには、あまりにも可愛らしい。

……これが終わったら。

次は彼女の行きたい場所へ行こう。

そんなことを思ってしまった。

「……団長! きりが無い、避けてくれ!!」

「っ!」

ドォォォォン!!!

巨大な魔物が吹き飛ぶ。

「お前っ……お前―――!!!」

怒鳴りながらも、シグルドは剣を振るった。

「ディルクさん、ルーメン嬢、泣いてたんじゃないですか?」

別エリアへ移動中。

セオンの言葉に、ディルクは先程の光景を思い出した。

黒い沼へ向かった時のことだ。

次々と襲い来る魔物。

レンは反射と双剣を使いながら、マリアを守って最短距離を突き進んでいた。

その速度について来れる者などほとんどいない。

ディルクですら必死だった。

その横で。

「ちょっ、待っ、おいっ!!」

マリアが半泣きで叫ぶ。

「おいって!! 聞いてんのかこのクソアマこらぁ!!!!」

……言っていたな。

ディルクは思い出して少し笑った。

まぁ。

普通の令嬢なら気絶している。

「何笑ってるんです?」

セオンが訝しげに見る。

脳裏に浮かぶのは、髪を乱しながら怒鳴っていたマリア・ルーメンの姿。

淡桃色の長い髪。

可憐な顔。

なのに口が悪い。

「……まぁ、強気だったな」

その後。

マリアは半日休憩した後、回復班へ放り込まれた。

そして。

「ほらっ!! 治ったぞ!! さっさと行けーーー!!!」

「お前!! この程度で泣くな!!」

見た目からは想像もできない暴言を吐きながら、次々と兵を回復させていく。

回復魔法だけは、本物だった。

しかも妙に兵達からの評判が良い。

「姐さん助かった!」

「次も頼みます!」

などと言われている。

……飛んだ猫被りだ。

ディルクは呆れ半分で思う。

だが。

もしクラクスコへ戻れば。

あの性格では、本当に誰かに殺されるかもしれない。

ゼフィルが“面倒”と言った意味が、今なら分かる。

「……まぁ、終わったら考えるか」

ディルクは小さく呟き。

ひとまず、目の前の異形へ視線を向けた。


レン・トワ・ヴィスタールとガロは、半日ごとの交代制で動いていた。

レンが稼働する時間帯は、常に戦場全体が慌ただしくなる。

負傷者の回収。

押されているエリアへの騎士転送。

異形発生地点の確認。

そして。

レン自身も前線へ出て、魔物を殲滅していた。

主に共に行動しているのは、セオン。

セオンが通信魔法具を片手に各隊からの報告を整理し、レンへ指示を飛ばす。

「レン、第十二エリア西側!」

「はい!」

転移。

「次、第三エリア!」

「了解です!」

また転移。

レンは既に全エリアの地形を頭へ叩き込んでいた。

恐ろしいほど正確に飛ぶ。

もはや人一人が動いている速度ではない。

そして半日後。

ガロへ交代する。

そのガロもまた、異常だった。

黒竜――ルークの背へ乗り、ディルクと共にエリア十五から三十を巡回していく。

レンと同じ双剣。

だが、大きさが違う。

レンの五倍近い長さ。

幅も倍以上。

もはや双剣というより、大剣に近かった。

それを。

ガロは片手で軽々と振るう。

「―――っ」

重い。

圧倒的に重い斬撃。

魔物ごと地面を叩き割るような一撃だった。

異形が一瞬で消し飛ぶ。

貫禄すら感じる戦い方。

迷いがない。

隙がない。

ディルクはその姿を見ながら思う。

……レンは、この男の背中を見て育ったのか。

跳び方。

双剣の扱い。

無茶な踏み込み。

レンの戦い方の原型が、そこにあった。

だが、まるで違う。

ガロは重い。

対してレンは軽やかだ。

舞うように戦う。

きっと、真似できない部分を、自分なりに変えていったのだろう。

「……こんな戦い方もあるんだな」

討伐開始から数日後。

ガロはぽつりと呟いた。

その視線の先では、騎士達が連携しながら異形を押し返している。

負傷者はすぐ後方へ下がり。

回復役が癒し。

空いた場所へ別の兵が入る。

押されたエリアにはレンが増援を飛ばし。

各隊は通信魔法で常に繋がっていた。

誰か一人に負担を集中させない戦場。

ガロは、それを静かに見ていた。

「貴殿は……ずっと一人で戦っていたのか?」

ディルクが問う。

ガロは返事をしなかった。

ただ前を向いたまま、黒い沼から現れる異形を斬り伏せる。

ディルクは静かに息を吐く。

……本当は。

討伐が終わったら言うつもりだった。

レンへ、あんな自分を削るような戦い方を教えるな、と。

もっと他に方法があっただろう、と。

だが。

その言葉を、飲み込む。

こうするしかなかったのだ。

闇属性は希少過ぎる。

ディルク自身、生きてきて会ったのはレンとガロだけ。

そしてレンを見て理解した。

生活魔法が使えない。

長時間睡眠が必要。

誰かの補助が無ければ、生きることすら難しい。

だから。

一人で完結できる強さが必要だった。

ディルクはふと前を見る。

巨大な双剣を担ぐ男。

孤独に慣れ切った背中。

そして思った。

……レンが闇属性で良かった。

この男と出会えて良かった。

一人ではなかった。

少なくとも今は。

「このまま次のエリアも頼む」

ディルクが声を掛ける。

するとガロは露骨に顔をしかめた。

「はぁー……だりぃ。じじいをこき使いやがって」

文句を言いながら。

だが、どこか嬉しそうに笑う。

ディルクは小さく笑った。

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