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騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


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「レオニス王太子っ……! 南西側にて、“黒い沼”を確認したとの報告です!」

駆け込んできた伝令兵が息を切らしながら叫ぶ。

討伐本陣の空気が一瞬で張り詰めた。

簡易天幕の中央には巨大な地図。 周囲では騎士達が怒号を飛ばし、伝令が走り回っている。

既に戦場は動き始めていた。


「……そうか」

レオニスは静かに目を閉じる。

そして深く息を吸った。

迷っている時間はない。

「全兵に告ぐ――これより、大規模討伐を開始する!!」

「「はっ!!」」

一斉に声が響いた。


レオニスは地図を広げる。

報告が上がるたび、次々と印を置いていった。

南西から南東の旧街道沿い、 山脈付近 森の深部。

黒い染みのように、発生地点が広がっていく。

……やれることは、全てやったはずだ。

南西から南東を一から三十までのエリアへ分けた。

観測地点から、それぞれへ兵を派遣。

確認され次第、即座に討伐。

更に、この国の三分の一に及ぶ騎士、兵、傭兵を動員した。

各エリアには魔術師と回復魔法師を配置。

避難誘導。

物資輸送。

街道封鎖。

簡易治療所。

通常なら数週間かかる準備を、数日で整えた。

上空では竜騎兵による諜報隊が飛び回っている。

通信魔道具を使い、各地点の情報が絶え間なく送られてきていた。

だが。

「……確認速度が異常だな」

側近の呟きに、レオニスも無言で頷く。

半数以上のエリアで、“黒い沼”が確認され始めていた。

広がりが早すぎる。


その時。

「レオニス王太子!」

別の伝令兵が飛び込んでくる。

「魔術師隊より報告! 黒い沼そのものへの攻撃を試みましたが、全属性、効果なし!」

「……っ」

空気が重く沈む。

火属性。

水属性。

風属性。

土属性。

光属性。

どれも効かなかった。

「……消滅は不可能ということか」

「いえ!」

伝令兵は慌てて続ける。

「黒い沼より異形の魔物が出現後、沼が縮小。その後、消滅したとのことです!」

「……何?」

レオニスの目が細くなる。

「つまり……沼は永続存在ではない、と?」

「現時点では、その可能性が高いかと!」

黒い沼。

あれは“門”なのか。

それとも魔物そのものなのか。

異形を生み出す何かか。


……分からない。

情報が足りなすぎる。

レオニスは地図を睨みつけた。

その時。

「緊急報告!!」

また一人、竜騎兵からの伝令が飛び込んでくる。

「第十二エリアにて、同時に三つの黒い沼を確認!!」

「―――!!」

天幕内がざわめいた。

同一エリアで複数発生。

それも、一時間も経たない内に。

あり得ない。

通常の異形発生とは明らかに違う。

「続けて第十五エリア、第十九エリアでも確認!!」

「発生速度が上昇しています!!」

次々と叫ばれる報告。

地図へ黒い印が増えていく。

レオニスは奥歯を噛み締めた。

……早い。

想定より、全てが早すぎる。


レオニスは剣の柄へ手を置いた。

「……各隊へ通達」

静かな声。

だが、その場の全員が息を呑む。

「発生地点の制圧を最優先」

「黒い沼を確認次第、即時包囲、討伐へ移れ」


「「はっ!!」」

怒号のような返答。

その瞬間。

討伐本陣は、更なる緊張に包まれた。



マリアは浮かれていた。

これが終われば。

クラクスコ帝国全土に、自分の名が知れ渡る。

聖女補佐として黒い瘴気災害を鎮めた功績。 それを機に、ゼフィル・ドラヴェル・クラクスコから正式に求婚される。

その未来を、疑っていなかった。

社交界でも散々根回しをした。 貴族達へ恩を売り、噂を流し、ようやくゼフィルの隣へ近づいたのだ。

瘴気を払うなど朝飯前。

昨日まで、本気でそう思っていた。

「い、…きゃーーーーーっ!!!」

悲鳴が響く。

「ちょっ、待っ、おい!! おいって、聞いてんのかこのクソアマこらぁ!!!!」

魔物の群れ。

その中央を、レン・トワ・ヴィスタールとディルクに挟まれながら、マリアは半ば引きずられるように走っていた。

魔物達が牙を剥く。

だが。

レンが展開している反射魔法に触れた瞬間、魔物は次々と吹き飛び、絶命していく。

黒い服装へ着替えたレンは、軽やかに転移を繰り返しながら進んでいた。

速い。

異常なほど。

「こんなの聞いてない……!!」

マリアの顔が引き攣る。

この女、私を殺す気!?

そして。

目の前に“黒い沼”が現れた。

どろりと揺れる漆黒。

そこから次々と異形の魔物が這い出してくる。

「マリアさん! お願いします!」

レンが両手で示す。

「はい! どうぞ!」

……え。

無理。

「さぁ!!!」

「…………ちっ」

マリアは盛大に舌打ちした。

両手を前へかざす。

瞬間。

白い光が溢れ出す。

ジュワァァァ―――ッ。

黒い沼が音を立てて消滅していく。

「―――!!!」

周囲の騎士達が目を見開いた。

同時に、セオンが通信魔法具へ声を飛ばす。

「こちらエリア20! 聖女魔法により黒い沼の消滅を確認! ただし――」

ジュワァァ……

浄化は止まる。

「っ、は……ぁ……!」

マリアが膝をついた。

肩で荒く息をしている。

「……黒い沼一つを浄化するので限界かと」

沈黙。

通信先からも言葉が消えた。

「……ゼフィルめ、覚えてろ」

本陣で報告を聞いていたレオニスは額を押さえる。

あれだけ自信満々だったくせに、全く足りていない。

「ちっ」

大きな舌打ちが響いた。

その直後。

「……レンが、残った沼をマグマへ転移しました」

「…………は?」

空気が止まる。

だが今は問い詰めている暇もない。

「聖女補佐は回復班へ回せ。レンは複数発生地点へ――」

その瞬間。

一斉に通信魔法具が光り始めた。

「こちらエリア12! 黒い沼の発生数が倍増!!」

「兵が苦戦しています!」

「魔物の変異個体を確認!」

「エリア9も同様!」

次々と悲鳴のような報告が飛び交う。

各エリアには既に精鋭を配置済みだ。

それでも押されている。

つまり。

「……数が増えたか」

レオニスの目が鋭く細まる。

「レンとルーメン嬢を本陣へ」

しばらくして。

「お呼びに預かり光栄ですわ」

優雅に礼をするマリア。

対照的に。

「お待たせしましたっ!」

レンは息を切らしながら駆け込んできた。

そこからは地獄のような忙しさだった。

レンの転移で上級騎士達を各エリアへ送り込む。

負傷者を野営地へ転送。

通信魔法具の使えないレンに同行するため、セオンも共に走り回る。

その間、マリアを中心とした回復魔法師達が負傷兵を癒していった。

「エリア3、制圧完了!」

「エリア11完了!」

「新たな黒い沼を確認!」

「第8班向かわせます!」

「完了!」

「出現!」

「完了!」

「出現!」

終わらない。

討伐と発生の繰り返し。

それでも。

「エリア7、討伐完了」

報告が届いた後。

…………。

通信魔法具は、光らなかった。

静寂。

レオニスはゆっくりと息を吐く。

地図には全エリア制圧の印。

二つのエリア中央へ野営地を設置し、結界を展開。

兵達は交代制で食事と仮眠を取る。

一つのエリアへ四班を配置し、巡回を継続。

完全に終わったわけではない。

だが。

ひとまず最悪の第一波は、防ぎ切った。

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