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騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


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―――ぱたん、と扉が閉まる。

「レオニス王太子、久しぶり」

軽い声音。

そこに立っていたのは、隣国クラクスコ帝国の皇太子、ゼフィル・ドラヴェル・クラクスコ。

金髪に金緑の瞳。 私より六つ下の二十二歳。


留学時代からの付き合いもあり、気安く話せる相手だ。

その男が一人の護衛を連れ、事前連絡すら飛ばし、転移魔道具で突然現れた。

しかも今は執務室の中央に立ち、当然のような顔をしている。

ゼフィルの要望通り、側近達を全て下がらせ、防音魔道具まで起動済みだ。

「……ゼフィル、私は今忙し――」

「聞いてよ、レオニス!」

人の話を聞かない。

レオニスの言葉を遮り、ゼフィルは机へ身を乗り出した。

「うちの国に聖女がいるのは知ってるでしょ?」

クラクスコ帝国。

瘴気汚染領域を国土の四分の一も抱える大国。

“聖女”という存在によって均衡を保ち続けている国でもある。

「でさ、その聖女補佐の一人がめちゃくちゃ面倒なんだよ。助けてくれ」

「……」

なぜ今その話をする。

レオニスは眉間を押さえた。

「男爵令嬢のマリアって奴なんだけどさ。聖女補佐としては力もあるし、仕事もできる」

ゼフィルは深く椅子へ座り直す。

「でも今俺狙いでさ。俺、婚約者いるし。婚姻も控えてるわけ。」

ため息を吐いた。

「余計な揉め事に巻き込まれたくないんだよね」

そして。

ゼフィルは、にこりと笑った。

「最悪、殺すしかないかなって思ってる」

「……」

レオニスの眉がぴくりと動く。

だがゼフィルは軽い口調のまま続けた。

「聖女補佐だから表向きは守られてるけど、放置すると絶対面倒になるタイプなんだよ」

「……お前な」

「いや、俺もできれば穏便に済ませたいよ?」

本当にそう思っているのか分からない声音だった。

「…だからレオニス。引き取ってくれない?」

腕を組み、前のめりになる。

「この国は俺も大切にしてるし、大切な友人が修羅場ってるのは心が痛む」

さらりと言う。

「マリアには……できれば別の男に夢中になってほしいんだよね」

そして、笑顔のまま続けた。


「……ゼフィル」

「――黒い沼、だろ?」

空気が変わった。

レオニスの目が鋭く細まる。

「……!」

ゼフィルは笑みを消さない。

「詳しくは言えない。でも今、お前に伝えるべきだって婚約者が」

―――聖女か。

未来視。 あるいは予知。

噂程度には聞いたことがある。

「……マリアは置いていく」

ゼフィルは立ち上がった。

「殺さずに済むなら、その方がいい」

軽い声。

だが、その言葉だけは妙に本音に聞こえた。

「俺達の婚姻が済むまで好きに使え。……しっかりやれよ、レオニス」

そう言い残し、転移魔道具の光と共に姿を消した。

しばらくして。

こんこん、と控えめなノックが響く。

「……入れ」

扉が開く。

「皇太子殿下の勅命により参りました。聖女補佐、マリア・ルーメンと申します」

白いドレス。 金糸の刺繍が上品に散りばめられている。

淡い桃色の髪に、金色の瞳。

柔らかな微笑みを浮かべたその女性を見て。

レオニスは静かに思った。

――面倒事が増えた。





数名の侍女を従え、女は静かにレオニスの前へ現れた。

「……ルーメン嬢。こちらはそれほど時間がない」

レオニスは椅子へ深く腰掛けたまま問う。

「君に何ができる?」

面倒。

率直に言えば、それが第一印象だった。

だが同時に、 ゼフィルの婚約者――聖女が“今伝えるべき”と言った件が引っかかっている。

ならば、無視もできない。

「王太子様」

マリア・ルーメンは柔らかく微笑んだ。

「わたくしは聖女として、この国を導くことができますわ」

「……例えば?」

「瘴気を払うことができますの」

この国に瘴気はほとんど存在しない。

だが。

「……密度の高い瘴気も払えるのだな?」

黒い沼とは言わない。

あえて濁して問う。

マリアは微笑みを崩さなかった。

「わたくしに払えないものはございませんわ」

断言。

その自信に、レオニスは静かに目を細めた。

「……そうか。ならば協力を頼みたい」

「それはもちろんですわ」

だが次の瞬間。

「ただ……この身はゼフィル様のもの」

上目遣い。

甘えるような声音。

「寵愛を賜っておりますので、傷など負えばゼフィル様がお困りになりますの」

ちらり。

「ですから、護衛は多めにつけていただけると助かりますわ」

「……」

なるほど。

レオニスはようやく、 ゼフィルの言っていた“面倒”を理解し始めた。

「……善処しよう」

「ありがとうございます」

マリアは満足そうに微笑んだ。

いくつか確認を終え、マリアが退室する。

静寂。

レオニスは深く息を吐いた。

同時に届いていたレンの報告書へ視線を落とす。

魔道具使用不可。

闇属性による疲弊で長時間睡眠必須だ。

――闇属性が希少すぎて、誰もそこへ考えが至らなかった。

討伐遠征時のレンの姿が脳裏を過る。

眠そうにしながら、それでも自分の仕事をしていた少女。

……可哀想なことをした。

胸の奥が鈍く痛む。

だが。

感傷に浸っている時間など存在しない。

百年周期で発生すると言われる、 “異形”の大発生。

その兆候が、数日後に迫っている。

聖女がどこまで通用するのか。

レンの力は何なのか。

まだ何も分かっていない。

そして――。

「はじめまして! レンと申します! マリアさん、よろしくお願いします!」

「……ガロだ」

「セオンです」

「ディルクだ」

「よろしくお願いします。マリア・ルーメンと申しますわ」

「よし、全員揃ったな」

にかっと笑う男。

「この隊を預かる、ウィルだ。よろしくな」

北方騎士団所属。

大型魔物討伐を得意とする実戦部隊隊長。

その笑顔だけ見れば豪快な男だ。

だが。

「…………」

「………」

「……」

なぜだろう。

セオンは既に胃が痛かった。

二日前。

レオニス王太子に呼び出された時点で嫌な予感はしていた。

「ちょっと面倒でね」

そう言って王太子が示したのは、

レン

聖女補佐という、問題児の詰め合わせだった。

「ウィル隊と君たちに頼みたい。レンを見てきた君たちなら大丈夫だろう」

いやいや。

レンだけで既に手一杯なんですよ。

その上、訳あり聖女追加とか聞いてない。

絶対に身が持たない。

セオンは心の中で即座に叫んだ。

だが。

「……なるほど、了解しました」

隣でウィルが爽やかに頷く。

全然“なるほど”じゃない。

「聖女として前面へ出すと後々面倒だ」

レオニスは淡々と続ける。

「表向きは回復魔法に長けた諜報員として扱う」

「黒い沼を浄化できればそれで良し。無理なら回復要員だ」

しかも本人は渋々了承。

もう最初から不穏しかない。

レンの今後すら定まっていないのに。

そこへ更に問題児が追加された。

セオンは静かに思った。

――胃薬が欲しい。


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