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騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


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3

そこに現れたのは――。

とても。


とても愛らしい女の子だった。

透き通るような黒髪。

イリスによく似た整った顔立ち。

エメラルド色の瞳は、少しつり気味で子猫のようだ。


「はじめまして、父上、母上。レンともうします」

小さく可愛らしい声。

そして、完璧なカーテシー。


……可愛い。


オルフェは思わず黙り込む。

「顔を上げてくれ」


レンがおそるおそる顔を上げた。

エメラルド色の瞳と視線がぶつかる。

緊張しているのだろう。

小さな両手をぎゅっと握り締めていた。


……可愛い。


「長い間留守にして悪かった」

オルフェは静かに言う。

「寂しい思いをさせたな」


その隣で、イリスがそっと膝をついた。

「はじめまして、レン」


視線を合わせるように、レンの目線まで身を屈める。


「あなたを一人にさせてしまって、本当にごめんなさい」

ぎゅっと握られていた小さな手を、優しく包み込んだ。

レンは一生懸命、教わった通りに微笑もうとしていた。

けれど緊張しているのか、少し顔が引きつっている。


それすら愛らしい。

「……許してくれとは言いません」

イリスの声が震える。


「これからは、一緒にいましょうね」

そっとレンを抱きしめた。


「本当に……思い出せなくてごめんなさい」

イリスは苦しそうに目を伏せる。


「どうして、こんなに可愛いあなたを忘れてしまったのか……」


「イリス」


オルフェが静かに制した。


イリスがはっと顔を上げる。

「あ……」


気まずい沈黙が落ちた。


その空気を裂くように、レンが二人を交互に見上げる。


「ちちうえ、ははうえ」

たどたどしく呼ぶ声。


「お会いできて、よかったです。しつれいいたすまし」


ぺこり、と。


レンは可愛らしくカーテシーをした。

さらに満足げに、くるっと一回転する。


「お、お嬢様……!」

後ろでメイド長が小さく悲鳴を上げる。

慌ててレンの前へ出た。


「まだです!」


「……さんじゅっぷん、まだだった?」

「まだです!」


その瞬間。

「ぶっ……!」

リカルドが吹き出した。


「あははは!」

アルバートも堪えきれず笑い出す。


「お前たち」

オルフェが冷たい視線を向けた。


だがアルバートは笑いを抑えながら肩をすくめる。

「まぁまぁ。レンも緊張しているのでしょう」


そう言って、ひょいとレンを抱き上げた。


「これから時間はたくさんあるんです。少しずつ慣れていけばいい」


レンは突然抱き上げられて目を丸くする。


「アル?」

「お兄様」

「おにいさま」

満足そうに頷いたアルバートは、そのまま扉へ向かった。


「では、少しレンを借りますね」

ガチャリ、と扉が閉まる。


残されたオルフェたちは、なんとも言えない空気の中で立ち尽くしていた。


――ウィルみたい。


それが、オルフェを初めて見た時の感想だった。

ウィルより一回りほど細いが、それでも体格は良い。

一目で強い人だと分かる。


髪はウィルより赤みが強く、瞳は灰色と虹彩は黒。

けれど雰囲気はまるで違った。

ウィルより、ずっと上品だ。


そして――母上。

レンは思う。

妖精さんだ。

その一言に尽きる。

きらきらしていて、とても綺麗だった。

抱きしめられた時、お花みたいな良い匂いがした。


今、レンはアルバートに抱っこされながら庭を散歩している。


「おにいさま……アル」

「ん?」

「……あの人たちが、ちちうえとははうえなの?」

アルバートが少しだけ目を細めた。


「どうした?」

「うーん……」

言葉が浮かばない。

レンの世界は、とても狭い。


兄たちとウィル。

乳母、執事長、メイド長。

使用人たち。

騎士たち。

それがレンの世界だった。

それが普通だった。

足りないと思ったこともない。

寂しいと泣いたこともない。


だから。

“悪かった”と言われても、よく分からなかった。

レンの世界は、ずっと満たされていたのだ。

何もしていないのに謝らなくていいのに、とさえ思う。


それに――。

誰にも似ていない。

イリスは、きらきらしたロゼ色の髪と紫の瞳の妖精。

アルバートは父上によく似た赤色の髪で、瞳は深い灰色、虹彩は紫。

リカルドはウィルに似た赤黒い髪色で、瞳はアルバートと同じ。


でも。

レンだけ、違う。

黒い髪。

緑色の目。

同じ色の人は、どこにもいない。

母上は“忘れていた”と言った。


「……うーん」

考えるほど、胸の奥がもやもやする。

難しい。

だからレンは、ぽいっと考えるのをやめた。


「あ、そんなことより見て!」

ぱっと顔を上げる。

「あのお馬さん、赤ちゃん生まれたのよ!」

「あぁ、本当だな」

アルバートが優しく笑う。


その日の昼食は、家族みんなで食べた。

父上はレンを膝の上へ乗せ、自分で食べさせてくれる。

それを見ながら、母上は嬉しそうに微笑んでいた。

「夕食は俺がレンの膝な!」

リカルドが元気よく宣言する。


賑やかで。

優しくて。

きっと、楽しいはずなのに。

レンはずっと、ほっぺが痛かった。


微笑むのは、思っていたより疲れる。

早く一人になりたい。

部屋へ帰りたい。

どうしてそんなことを思うのか、自分でも分からない。


ただ。

父上の身体は、とても温かかった。

「レン?」

気づけば、ぽてりとオルフェへ寄りかかっていた。


「寝てしまったのか?」

オルフェが小さく笑う。

「おやすみ、レン」

その声を最後に、レンの意識はゆっくり沈んでいった。



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