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レンと会って、早数ヶ月。
少しずつ――本当に少しずつだが、レンは成長していた。
セオンとディルクは、諜報員として“今のレンに何ができるか”を整理している最中だった。
まず、魔物へ突撃する前に周囲の状況確認。
これは、まあまあできるようになった。
……まあ、“俺達の『待て!』が必要”ではあるのだが。
移動経路の確保も優秀だ。 崖を近道扱いする癖さえ除けば、ほぼ完璧。
飲み込みがとにかく早い。
飛行中、レンは耳につける通信魔道具が使えないため、基本的にセオンと二人でルークへ乗っていた。
魔力を魔道具へ流すことは、まだ上手くできないようで、この辺りは追々だろう。
そのうち慣れる。
…たぶん。
そのため、通信はセオン経由だ。
地形把握能力は◎。
元々ルークと乗っていた経験もあり、レンはすでにアルテミア王国の三分の一ほどを把握していた。
北西、北、北東、東。
その辺りは、ガロという傭兵と回っていたらしい。
残る地形も、まるでパズルを埋めるように覚えていく。
現在は南東から南側を飛行中だった。
その日も、ルークに乗りながら地形確認をしていた時だった。
「セオさん! あそこに黒い沼あります! マグマに落としましょう!」
風に負けないよう、大声でレンが叫ぶ。
「……黒い沼?」
「どうした?」
後方を飛ぶディルクへ、セオンが通信を繋ぐ。
「……何を言っている?」
それはこっちが聞きたい。
レンの指差す方向へ、ルークが進路を変えた。
その後ろを、ディルクの竜が追う。
そして。
「……ほんとにあるな」
ディルクが低く呟いた。
遠目には、陽光を反射したただの溜め池に見える。
だが近付くと分かった。
黒い、どろりとした液体のように、ゆっくり脈打っている。
飛行したまま様子を窺う。
レンは目を輝かせていた。
「さあ、何が出てくるか!」
「?」
次の瞬間。
―――バシャアッ!!
黒い沼が弾けた。
飛び出したのは、巨大な魔狼の群れ。
「……は!?」
「なんだと!?」
セオンとディルクが同時に声を上げる。
魔狼は一体一体が異様に大きい。
通常種の倍近くはある。
「まあまあ、大きいです」
「どこがだ!!」
ディルクの怒声が飛んだ。
あれが街へ向かえば被害は洒落にならない。
レンは黒い沼を見つめながら、ぽつりと呟く。
「今年は豊作のようなので……」
「…………」
セオンだけが、それを聞いてしまった。
聞きたくなかった。
その後、すぐ近隣の諜報員へ連絡。
兵を集め、討伐隊が編成された。
発生直後だったこともあり、人への被害は出なかった。
だが討伐には時間が掛かった。
通常個体より、明らかに強い。
「まだ出てきそうですね。マグマに落とした方が早いです」
「待――」
止める間もなくレンが転移して、黒い沼が綺麗さっぱり消えた。
「…………」
討伐遠征の時もそうだったとレンは言う。
“マグマへ落としました”
などと、とんでもないことを平然と言う。
セオンとディルクは顔を見合わせた。
そして無言で、王太子直属近衛騎士へ連絡を入れた。
ちなみにレンは、
「眠いです……」
と言った直後、今にも寝落ちしそうになっていたため、そのまま帰らせた。
よくあることだ。
レンがいなくなってから増員して、黒い沼を探させていたがなにもなかった。




