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騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


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夕食の席。

「――それで?」

女性陣が、にこにことレンを見ていた。

「あの後、“麗しのヴァレリア公爵様”とどこへ行ったの?」

エレナが“知っているけれど聞きたい”という顔で身を乗り出す。


今夜はオルフェとアルバートが王都へ行っているため、食卓にはイリス、アウラ、エレナ、そしてレンの四人だけだった。

「ピアスを買っていただきました」

レンは素直に答える。


会計を忘れていたことに気づき、慌ててロイドへ伝えたのだが、

『もう済ませてある』

と平然と言われてしまった。

請求しようとしたところで、耳元のピアスへ触れられ――

『もう“公爵様”と呼ぶな。いいな?』

そう言われたので、レンはこくこく頷いた。

そのままを説明すると、


「……うふふ」

「……公爵様、やるわね」

「……お姉様」

三者三様の反応が返ってくる。

アウラがじっとピアスを見た。

「…お姉様。そのピアス、公爵様から贈られたということ?」

「――? そう……なる、ね?」

レンは首を傾げる。

“ロイド様”と呼ぶ代わりに貰った。

そういう認識だ。

イリスはずっと楽しそうに微笑んでいる。


「……ブラックダイヤを選んだのね?」

「? みたいだね」

本当はお揃いだと言われたブラックダイヤも、自分用に欲しかった。

新しくピアスを開けようと思っていたのだが、

『これは俺のだ』

となぜかロイドに回収されてしまったのである。


「え? 嘘でしょう、レンさん……」

エレナは途中で何かに気づいたらしく、微妙な顔をした。

だがイリスは面白そうに笑うだけだ。

「綺麗なピアスを買っていただけて、良かったわね」

「はい。とても嬉しいです」

レンは素直に笑った。

エレナは何か言いたそうだったが、

「――面白くなりそうね」

イリスがそう微笑み、話は流されてしまった。


夕食後もしばらく談笑し、先に部屋へ戻る。

湯船に浸かりながら、レンはぼんやりと考えていた。

今までは、騎士になりたい一心で走ってきた。

だが最近、自分が周囲についていけていないと感じる。

体力も足りない。

隊列も乱してしまう。

今回の討伐でも、一年生についていけなかった。

邪魔だと言われたことも、ちゃんと覚えている。

もしこの先、遠征へ同行することになったら。

また迷惑をかけるのではないか。


――騎士になれるのか?

そう聞かれれば、答えはかなり厳しい。

騎士たちを守れる騎士になりたい。

けれど、自分には何が足りないのだろう。

湯気の中で、レンは静かに考え込む。

ふと、レオニスの言葉を思い出した。

『預かる』

あれは、どういう意味だったのだろう。


「……わからない」

小さく呟く。

結局答えは出ないまま、レンは湯から上がった。


レンが部屋へ戻ったあとも、女性陣のおしゃべりは終わらなかった。

「お義母様にも見ていただきたかったですわ〜」

エレナが余韻に浸るように話し出す。


「周囲なんてまるで見えていないんですもの。二人だけの空間で、ずっといちゃいちゃしていて……もう本当に可愛らしくて!」

レンからすれば、“こそこそ話していただけ”なのだが。

「あのヴァレリア公爵様が、あんなに楽しそうにしていらっしゃるなんて……!」


「もうっ、私も見たかったです!あの公爵様ですよ?」

アウラはまだ信じられないという顔だった。

令嬢たちに微笑みかけることなど滅多にない。

告白されれば、告白される前に釘を刺す。

そんな“氷の公爵様”が、終始機嫌良さそうに笑っていたのだ。

学園の令嬢たちが見れば卒倒ものだろう。


「信じられないと言えば……レンさんって、やっぱり……」

エレナが遠い目をする。

「あの子、全く気づいていないわねぇ」

イリスは困ったように微笑んだ。

「お姉様……心配です。お母様、教えた方がいいのでは?」

レンは、本当に知らないのだ。

男性が女性へ色を贈る意味を。

まして、自分の色を渡し、 相手の色を身につけることが、 どれほど特別なのかを。


「公爵様も大変ねぇ」

イリスがくすくす笑う。

「? 何がです?」

アウラだけがきょとんとしていた。

イリスとエレナは顔を見合わせ、

「「ふふふ」」

意味深に笑うのだった。



休日明け。

オルフェから、午後はレオニス王太子の執務室へ来るよう言われていた。

だから、ある程度の心構えはしていた。

……していたのだが。


久しぶりの学園へ向かう足取りは、どうしても重くなる。

レン以外は、五日間の休日だとロイドから聞いていた。

つまりまた、自分だけが取り残される。…あの孤独な場所へ戻るのだ。


自分で決めたことだ。

……やるしかない。

でも、辛い。

何度も心の中で反芻しながら、レンは制服へ着替える。

ぱちん、と軽く頬を叩いた。

「……よしっ」

訓練場近くへ転移し、そのまま歩き出す。

一年生たちも、実地遠征には最後まで残っていた。

だが初日以降、ほとんど関わっていない。

だから当然、今日も――


「「レン様!! おはようございます!!」」

「!!!?」

びくり、と肩が跳ねた。

一年生全員が、綺麗に並んでこちらを見ている。

レンは反射的に後ろを振り返った。

教官に言ったのかと思ったからだ。…だが、誰もいない。

恐る恐る視線を戻し、レンは下でぎゅっと両手を握る。


「お、おはようございますっ」

できるだけ大きな声を出したつもりだったが、少し震えてしまった。

その中から、一年生の代表らしき男子生徒が前へ出る。


「レン様のおかげで、俺たちはここにいます!」

真っ直ぐな声だった。

「実地遠征を最後までやり遂げられたのも、貴方のおかげです! 一同、感謝しています!!」

「「ありがとうございました!!」」


「きょ、恐縮です……」

頑張ったのは皆の方だ。そう言いたかったが、緊張でうまく言葉が出てこない。皆、なぜか目を輝かせてレンを見ている。

レンは、連絡係と負傷者の運搬をしていただけだ。そこまで感謝される理由が分からない。

一年生たちはそんなレンを見て、 “怯えた子猫みたいだ” と思っていたが、本人は知らない。

その後ろで様子を見ていた教官が、ゆっくりとレンの隣へ並んだ。


「ここに、誰一人欠けることなく立っていられるのは――たしかに彼女のおかげだろう」

静かな声が響く。


「だが、君たちもよく耐えた」

教官は一年生たちを見渡した。

「大規模討伐だったにも関わらず、“残りたい”と言った。……よく頑張った」


遠征初日。

毒虫の群れに襲われた時、教官は撤退を考えていた。経験の浅い一年生を守るためだ。

『あれくらいなら、私が退けますよ?』

一年生たちは絶句した。

レンは一年生たちの顔を見て、はっとした。


――本当は帰りたかったのかもしれない。

余計なことを言ってしまった、と反省する。が、実際は違う。

彼らはただ、 “何を言っているんだこの人” と衝撃を受けていただけだった。

数日後には、

『レン様がいるなら大丈夫です!!』

と、逆に一年生側が教官を説得し始めていたのだが。

もちろんレンは知らない。


レンは思い出したように、うんうんと頷く。

その様子に、一年生たちの空気がふっと和らいだ。

「―――?」

不意に静かになり、レンは隣の教官を見上げる。

!!

怖い顔の、怖い教官が。

泣いていた。


「……君がいてくれたから」

掠れた声が落ちる。

「教え子を失わずに済んだ……ありがとう」

……ありがとう、と。

レンはぶんぶんと首を振った。

「と、とんでもないですっ。あ、あの……!」

勇気を出して、一年生たちへ向き直る。


「頑張ったのは皆さんの方です。皆さんが支えてくださったから、最後まで頑張れたと思います。さ、支えてくれて…ありがとうございました!」

精一杯、頭を下げる。


ぱち、ぱちぱち、と柔らかな拍手が返ってきた。

「……はぁ」

レンのどこか拍子抜けするような返答に、教官は脱力したように息を吐いた。

そしてそのまま、いつもの調子で――


「――10キロ走!! その後、ダッシュ、スクワット、腕立て百回!!」

「「はいっ!!!」」

一気に訓練モードへ戻る。

そして。

教官は横にいるレンをちらりと見て、

「お前は半分だ」

と、初めて笑った。


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