表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/32

21

「魔力を纏っているんだ。普通に分かる」


「――たしかに」

外見は完璧に変えていても、魔力までは隠せない。

レンはなるほど、と納得した。

……ちなみに、完璧に変装できていると思っているのは本人だけだ。


エレナたちと別れたあと、レンはロイドと共に馬車へ乗り込んだ。

「ふふ……どうぞどうぞ」

なぜか彼女は妙に興奮していた。

ロイドは当然のようにレンの肩へ軽く手を添え、慣れた動作で馬車まで導いた。

――なるほど。

レンは“今度からエレナにもこうしよう”と心に決めた。


「ところで公爵様、どちらへ行かれるのですか?」

「……少し付き合え」

ロイドは脚を組み、肘掛けへ頬杖をついた。

そのまま僅かに目を細める。


「ところで、なぜ“公爵様”なんだ?」

低く落ちる声に、レンは瞬きをした。

「―――?」

ロイドは逃がさないように視線を向けたまま、静かに続ける。

「レオニス王太子に会ってから、俺をそう呼ぶようになったな」

ぎくり、とレンの肩が跳ねる。


たしかに最初は“ロイド様”だった。

だが、初めてレオニスへ会い、王城まで送った帰り際。

耳元で静かに囁かれたのだ。

『レン……ロイドはね、私の恋人なんだ』

レオニスはにこりと微笑んだ。


「!!!!」

レンは衝撃を受けた。

メイドたちがそういう話をしていたのを聞いたことがある。

恋人とは、特別な相手だ。


『……だからね。私が嫉妬してしまうから、アレを名前で呼んではいけないよ?』

『わかったね』

後ろに控えていた近衛騎士たちが、“また始まった”という空気を出していたことを、レンは知らない。


恋人。

初めて向けられたその言葉に、レンの心臓はどきどきと大きく鳴った。

「しょ、承知しました!!」

レンは勢いよく頷いた。

――他人が、好きな人の名前を気軽に呼んではいけないのだろう。

それ以降、レンはロイドを“公爵様”と呼ぶようになっていた。


「そ、それは……どこで誰が聞いているか分かりませんし……」

レオニス王太子の耳に入ったら、嫉妬してしまう。

「……名前を呼ぶことを許したのは俺だが?」

ロイドは“本人が呼べと言っている”とでも言いたげな顔で見据えてくる。


――恋人同士なのだから、私は気を遣っているというのに。

なぜ分からないのだろう。

レンは少しむっとした。


そういえばレオニスは、

『まぁ、秘密にはしていないがね』

とも言っていた。

立場のある人だ。 恋人というのは隠すものだと思っていたので、レンは少し驚いたが、王族は違うのかもしれない。

だからきっと、王城では有名な話なのだろう。


「……レオニス王太子が許しません」

言ってやった。

恋人の気持ちを汲めないロイドへ、きちんと伝える。

ぴくり、とロイドの眉が動く。

「……王太子? 何か言われたのか?」

怪訝そうな視線が向けられる。


――え?

まだ分からないのか。

レンは本気で引いた。

仕方がないので、直接教えてあげることにする。

ふぅ、と一度息を整えた。


「いいですか?」

レンは真剣な顔でロイドを見る。

「他人が恋人の名前を呼んでいるのを、快く思わない人もいるのです」

そして、びしりと言い切った。


「公爵様は、もっとレオニス王太子の気持ちを考えるべきです」

そう言い切り、レンはうんうんと頷いた。

今のはちゃんと伝えられた気がする。


「……なに?」

ロイドの表情が、すっと消えた。

空気が冷たく変わる。

「……つまり、お前は王太子の恋人だと?」

低い声だった。

少し苛立ったようにロイドが言った。


!!?

なぜそうなる。

レンは衝撃を受けた。

――公爵様が、私を恋敵だと誤解している……!

それは大変だ。


「ち、違います!」

レンは慌てて首を横に振った。

なんだかロイドが怖くなってきて、声が震える。


「あ、愛し合っている恋人は、公爵様と王太子ですっ。わ、私は恋人などではありませんっ。関係ないのです……!」

だから睨まないでください――。

レンはびくびくと肩を震わせながら、必死に訴えた。


「…………は?」

ロイドの思考が停止する。


「……な、に?」

金色に、水色の虹彩が浮かぶ瞳が大きく揺れた。

理解できない、とでも言いたげに。

馬車の中へ沈黙が落ちた。


「……つまり、お前と王太子は恋人ではないんだな?」

低い声が落ちる。

レンはこくこくと頷いた。

「俺が王太子と――」

そこでロイドの眉間に皺が寄る。

「……は」

乾いた笑いが漏れた。


ロイドは額へ手を当て、深く息を吐く。

あの性悪王太子め……

ぼそり、と呟いた。

―――?

レンは首を傾げる。

ロイドはそのまま、きゅっと握られていたレンの両手を取った。

強張った指を解くように、優しく触れる。

「俺に恋人はいない」

きっぱりと言い切った。


―――?

では、王太子の片想い――。

レンがそう考えたのを察したのか、ロイドは呆れたように目を細める。


「王太子は既婚者だ。子供もいる」

「えっ!?」

レンは目を見開いた。

「お前は揶揄われたんだ」

ロイドは疲れたように息を吐く。


レンが放心している間に、いつの間にか目的地に着いていた。

「これなら、お前に合いそうだ」

どうだ、と言われてレンはハッとする。

――いつの間に?

びっくりしてロイドを見上げ、次にその視線の先を追った。


「……う? わ、可愛い」

レンはケースの中の輪型のピアスに目を輝かせた。

輪を通して一粒の石が揺れている。隣には、三日月の形をした石も並んでいた。

「輪っかにも色がございますので、宝石と組み合わせることもできますよ」

店員がいくつかの輪型を持ってきて説明する。


「あ……これに、これとこれをつけて見せてください」

レンは黒い輪に視線を留めた。

そして、ルークの金の瞳と、自分の緑を思わせる石を選び、輪に通してもらう。ひし形を細長くしたようなカットの石が、上品に揺れていた。


「可愛い……」

これはいい、とすぐに決まる。

もう一つはどうしようかと悩んでいると――


「お揃いも素敵ですよ?」

店員が、そっと別のケースから差し出した。

そこには、シンプルな一粒のブラックダイヤと、角度によって銀にも水色にも見える不思議な石が並んでいた。


レンの右耳の軟骨には、すでに二つの穴が空いている。

カツラで隠れて見えないはずなのに、それに気づいたのだろう店員は小さく微笑んだ。

「お揃いで飾ってもよろしいかと」

――!!

「嬉しい……それもいいですね」

思わず気持ちがこぼれた。


「――お前……いや、いい」

ロイドは途中で言葉を切り、額に手を当てた。

「……続けてくれ」

―――?

何か言いかけていた気がするが、レンには分からない。

首を傾げつつも、そのまま店員と相談を続け、購入を決めた。


「そのままつけていけ」

ロイドの言葉に、レンは素直に頷いた。

それが特別な意味を持つものだとは、まだ気づいていない。

レンは店員と一緒にその場で耳に付け替えた。後ろの留め具は、一人ではうまく扱えないためだ。

ふと、右手がひやりとする。


――あ。

ロイドが少し離れたことで、初めて気づく。

さっきまで、ずっと手が繋がれていたのだ。

あまりにも自然で、気づいていなかった。

……公爵様は、こういうことを普通にする人なのか。

そう思って、不思議と納得できてしまう。


ミルクティー色のロングヘアを耳にかける。

そこに輝くのは、一粒のムーンストーン。

その下には、黒い地金に金とエメラルドの石が飾られている。

「とてもお似合いです」

店員は、感極まったように呟いた。


ロイドは一瞬だけレンの横顔を見て、

「……悪くない」

とだけ言った。

――公爵様の褒め方は、どこか父上に似ている。

レンはそう思いながら、嬉しそうに、少し照れたように微笑む。

「ありがとうございます。嬉しいです」


そして――

「……行くぞ」

ロイドは短く言うと、当然のようにレンの手を取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ