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騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


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討伐遠征が終わって、数日が経っていた。

レンは十日の休暇を与えられた。

丸三日。 食べては寝て、食べては寝てを繰り返した。

メイド長が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。

帰還した時、自分の頬が少し痩けていることに気づいた。

……たしかに、皆もそうだった。

兵士たちは隈も酷く、疲労を隠せていなかった。


四日目。

少し身体を動かしたくなり、レンはガロのいる『フクロウ亭』へ向かった。


「……嬢ちゃん、ふざけんな。おらぁ五十になるんだよ。わかるか?」

オルフェの指示でヴィスタール領の討伐を終えていたガロは疲れ切った顔で、昼間から酒を煽っていた。


「全然動けねー。嬢ちゃんの偉大さを知ったわ……。嬢ちゃんいねぇの、きっつ……」

そこまで言って、ガロはカウンターへ突っ伏す。

どうやら寝たらしい。

いつものことなのだろう。 店主は特に気にした様子もなかった。転移して部屋に運ぼうかとも思ったが、人目がありすぎるのでやめた。


ルークに会うため、レンは森へ向かった。

オルフェも気にかけてくれているのか、時折魔物を運んでくれている。

レン自身も討伐中、休憩の合間に差し入れ――魔物の死骸を持って会いに行っていた。


「ルーク!!」

「ギャウギャウ!」

ルークは嬉しそうにレンの首へ顔を擦りつける。

「……あれ? 大きくなった?」

なんとなく、以前より身体が大きい気がした。

その日は、ひたすらルークとじゃれて過ごした。


その日の夜。

レンはオルフェと共に王都の屋敷へ向かう。

入学してからというもの、レンは学園で少し浮いた存在になっていた。

だからこそ、アウラのことが心配だった。


「お姉様……私は大丈夫よ。本当に。そんなことより、無事でよかった……!」

抱きついてきたのは、ロゼ色の髪に、オルフェ譲りの灰色の瞳、その虹彩だけが紫に染まった少女――アウラだった。


「もぉ、困った子ねぇ」

同じくロゼ色の髪に紫の瞳を持つイリスが、困ったように笑う。

「母上ー」

「あらあら。子供の頃に戻ったみたい」

ふふっと微笑み、イリスもレンを抱きしめた。


――懐かしい。

そう思ってしまうほど、胸が温かくなる。

気づけば、少し涙が滲んでいた。


アルバートと、その妻エレナも交えて夕食を囲む。

心が温かかった。

――ここが、私の帰りたい場所だ。


なお、次兄リカルドは西部勤務のため不在だった。

明日はそちらへ顔を出そうか、とレンは考える。


「レンさん。よければ明日、お買い物へ行きませんか?」

エレナが優しく微笑む。

「エレナっ」

アルバートが焦ったように声を上げた。


――今回の討伐で、レンの力は多くの者へ知られてしまった。

そのため、家族や関係者へ目を向けられる可能性もある。


アルバートは現在、国王陛下直属の近衛騎士として王城へ勤めている。

討伐中には、国王陛下と王太子から直接呼び出され、レンについて問われたらしい。


帰宅してからというもの、アルバートはオルフェと共に、レンの身を案じ続けていた。


「……えっと、私――」

そもそもレンは、領地以外でこういった場所を出歩くこと自体ほとんどない。

イリスやアウラと出掛ける時でさえ、ほとんどが屋敷の敷地内だった。


「大丈夫! いい考えがあるの――」

エレナはにこにこと笑う。

どうやら、アルバートから事情は聞いているらしい。

「――?」

レンはきょとんと首を傾げた。


そして翌日――

「きゃーっ! 可愛すぎます!」

アウラとエレナの声が綺麗に重なった。

「っ……」

レンは居心地悪そうに視線を逸らす。

今のレンは、淡いミルクティー色の髪のカツラを被り、薄いラベンダーのドレスへ身を包んでいた。お化粧もばっちりされた。


…久しぶりのドレス姿だ。

特に胸元が落ち着かない。

「まぁ、素敵じゃない」

イリスが嬉しそうに微笑む。

「レン……その、あまり――」

“あまり一人になるな”

オルフェはそう言いかけて、口を閉じた。


――いや、この子に言うことでもないか。

絡まれて危険なのは、むしろ相手側だ。

「……あまりに可愛い」

結局、そんな言葉になった。



レンとエレナ、そして護衛二人を連れて、王都へ買い物に来ていた。

明茶色のさらさらの髪に黄緑色の瞳のエレナは、王都に慣れていないレンを優しく案内してくれる。


普段いる領地とは違う煌びやかさに、レンは終始そわそわしていた。

そんなレンの手を引きながら、エレナは様々な店を見て回る。


新しくできたカフェ。 流行りのスイーツ。

レンは目を輝かせながら楽しんでいた。

食事のマナーだけは完璧なので、そこだけは少し自信がある。

会話も弾み、とても穏やかで楽しい時間を過ごしていた。


帰り際、注文していたアクセサリーを取りに行くと言うので、レンも一緒について行った。

エレナは護衛を連れて店の奥へ向かう。

その間、レンは壊さないよう慎重に商品を眺めていた。


――あ、ピアス。

レンは、今もウィルから貰ったピアスをつけている。

だが長年使っているせいで、少し色褪せてしまっていた。

だから今度は、自分で買ってみようと思っていたのだ。

ただ、好みの輪型はあまり置いていない。


「うーん……」

悩んでいると、

「……何をそんなに見ている?」

低い声が降ってきた。

顔を上げると、そこにはロイドが立っていた。


「なっ……!?」

びっくりした。

――ロイド・リ・ヴァレリア公爵様だ。


その瞬間、レンの直感がぴんっと働く。

今の自分は、お化粧とミルクティー色のカツラで変装中。

つまりロイドは、自分だと気づいていないはずだ。


――この人、普通に女性を口説いているのでは?

レンが密かに衝撃を受けている間にも、ロイドはショーケースへ視線を向ける。


「これがいいのか?」

「え? いや、こんな石がいっぱい付いてるのはちょっと……」

――あ、普通に答えてしまった。


「そうか。なら、これは?」

「石がないのも……あ、あの」

また素直に答えそうになり、レンは慌てて気を引き締める。


「?」

ロイドが(わず)かに首を(かし)げた。

「こ、このような見ず知らずの令嬢に、いきなり声をかけるのは駄目だと思います」

うんうん、とレンは心の中で自分を褒めた。

ちゃんと言えた。


するとロイドは、

「……ふっ」

堪えるように片手で口元を押さえた。

――?

「……私は、知らない令嬢に声をかけてしまったのか?」


「そうです。公爵様ともあろうお方が、お一人で出歩くのも危険です」

レンは真面目な顔で力説した。

今日だけでも、貴族の令嬢や令息は皆、当然のように護衛を連れていた。


「それに、見ず知らずの令嬢が何をするか分からないのです」


「…………」

ロイドは黙った。


数秒後。

「……確かにな」

ぽつりと呟く。

その声は、微かに震えていた。


「……貴方は危ない令嬢なのか?」

ロイドはミルクティー色の髪を一束指に絡める。

熱を帯びた瞳のまま顔を寄せ、低く(ささや)いた。

―――?

――いつもの自分なら、危ない人かもしれない。

レンは真剣に考える。

森へ行くし、魔物も倒す。

だが今日は違う。


皆から“可愛い”と言われたことを思い出し、レンは少し胸を張る。

そしてロイドにつられるように、こそこそと囁き返した。


「今日の私は、一段と普通なのです」

ロイドの肩が小さく震える。

とうとう堪えきれなかったらしい。

―――?


「あら?そちらの方は――っ!?」

エレナの声に、レンは飛び上がる。

―――!!

バレてしまう。

咄嗟に、身体を小さく縮こませた。

「し、失礼しました。ヴァレリア公爵様」

「いや、構わない」

まだ、肩が震えている


こそこそ話す二人がどう見えたのか、周囲からちらちらと視線が向けられている。

店員など、すでに遠い目をしていた。


はぁ、とロイドは息を整える。

「レンを少し借りてもいいだろうか?」

「え?」

「……え?」

エリスは、“レン”と呼び捨てにしたことへ驚き、

レンは、“最初から気づかれていた”ことに驚いていた。


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