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騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


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討伐開始から四日たった。

魔物の増殖は収まる気配を見せず、初めは約五百人だった討伐隊も、国からの追加要請でさらに五百人増員された。

その中には、父上――オルフェの部隊も含まれていた。


「レン、お前……ついに……そうか。」

呆れ半分、諦め半分の顔で、ウィルが言う。

「バレるよな、そりゃ。」

久しぶりに会う叔父は相変わらずだった。


ウィルは今では子爵となり、レンの家から少し北側に位置する“北方遠征の補給基地”を治めている。

今は結婚して三人の息子がいる。

彼が治める土地は屋台と宿屋兼酒場が多い。利用者の大半は傭兵や兵士。 荒くれ者も少なくない。


だが、ウィルや騎士たちの人柄、そして住民たちの温かさのおかげで、荒くれ者たちは次第に落ち着き、気づけば胃袋を掴まれ、そのまま居着いて忠実な部下になっていくらしい。

ちなみにウィル本人も、胃袋を掴まれた側だ。

荒くれ者をまとめ上げるウィルに、父上も感心していた。


「お久しぶりです、ウィル叔父上。」

周囲の目もあるため、レンはしっかりと敬礼し、にこりと微笑む。

「いっちょ前にお前……」

可愛すぎる。

レンを幼い頃から知る者たちは、揃って父親のような気持ちになってしまう。


ウィル部隊の担当は“毒系大型虫”。

毒虫は通常、火魔法で焼却する。 だが、その煙すら毒を含むため、全員ガスマスクを装着していた。


「ごほん……報告を頼む。」

空気が切り替わる。


「はい!」

レンはぴっと姿勢を正した。

「巨大な毒虫が連日大量発生しています! おそらく、これからもっと増えると思いますので、皆さんのお力で焼き消してください!」

「ふっ……了解した。」

ウィルも周囲も、“ふわっとした説明を、大きな声で伝えるレン”を微笑ましく見ていた。


「……昨日は中型の蛾が出現した。麻痺や痺れを引き起こし、連日戦っていた者たちが動けなくなっている。」

補足するように騎士団長が説明を続ける。

「回復も追いついていない。だからこそ、力を借りたい。」

うんうん、とレンは真剣に頷く。

その横で、


「ふっ……」

ロイドが堪えきれず笑い、ぽんとレンの頭を撫でた。

―――?

レンは困ったようにロイドを見上げた。


レンは主に連絡係と負傷者の搬送を担当していた。

各エリアを転移で回りながら、怪我人を教会へ運び、魔物が押してくる危険な場面では戦闘に加わる。

ただし、レン一人では指揮ができないため、常に騎士団長とロイドが同行している。


そんな中、父上からは、

『終息せずに帰ってくる奴がいるか』

と怒られ、

『…これを持って行きなさい』

と、鍵付きの小さな小屋を渡された。

レンはそれを現地へ設置し、仮眠所として使っている。


だが、この“仮眠”が辛かった。

今まで毎日きっちり八時間睡眠を取っていたレンにとって、短時間睡眠は地獄だったのだ。

騎士団長には呆れられ、

「慣れていけ。」

と言われたが、慣れるはずもない。

乱暴に扉を叩かれても起きず、ついには――


バキィ!!

ドアを蹴破られて起こされた。

「パジャマで寝る奴がいるか!! さっさと着替えなさい!!」

「――父上、ねむい……」

寝ぼけたレンが呟く。


「誰がお前の父だ!!!」

騎士団長の怒声が響き、

入り口に寄りかかっていたロイドは腹を抱えて笑っていた。


ロイドが同行している理由を、レンは知らない。

だが裏では、別の目的があった。

レンはオルフェ・トワ・ヴィスタール――ヴィスタール辺境伯の謎の娘。

その出自と異常な戦力から、万が一政治的に動けば現場では制御できないと判断された。


そこで選ばれたのが、ヴァレリア公爵家のロイド・リ・ヴァレリアだった。

同格以上の権力を持つ者を監督役に置くことで、均衡を保つためだ。

と、ロイドから提案してきた為、採用した。

レンの行動や言動からその考えは杞憂に終わったが。


夜の魔物討伐時、緑の瞳が闇夜に浮かぶ。

その動きはしなやかで、まるで――黒豹のようだった。

一度踏み込めば、迷いなく斬り伏せる。 その殲滅速度は、騎士百人に匹敵するどころか、それ以上とも言える。


しかし日中は一転して、睡眠不足の影響かどこかぽやぽやとしている。

本人は悟られてないと思っているようだが筒抜けだ。


対人では、ぎゅっと両手を握りしめ、“怒られるの?”とでも言いたげな表情でこちらを見る。

その様子はまるで幼い子供のようで、人に慣れていないことがよくわかった。

まさに、子猫のようだった。

色々な意味で、貴族令嬢とは思えない。

だが本人にその自覚はない。

ただ一生懸命に、目の前の誰かを助けようとしているだけだ。

その姿は、静かに周囲の評価を変えていった。


「彼女がなんと言われてるか、知っていますか?」

ロイドが騎士団長に尋ねる。

「…黒豹を纏う子猫」

ふっ

とロイドは笑う。

ここで、一番関わっている自分たちもそう思うのだ。周りも気づく。その本人は仮眠中だ。今、三回声をかけたが起きない。

ドンドンドン!!


しかしこの青年も変わった。

こんなに笑う男だったろうか?

在学中とはいえ、実力がある為要請する。

この男も規格外の部類だろう。

属性を4つ得ている。

魔力も多すぎて体調を崩すほどに。

定期的に彼を討伐に加えているが、この男が笑ったのを見たことがない。


冷静に状況を見極め、的確に指示を出しつつ、自らも最短で敵を制圧する。


ジェネラルオークを倒したのは、この男だ。

――一瞬だった。

雷が落ちたかと思えば、巨大なオークは塵となって消えていた。

その時のことを、騎士団長は思い出す。


後方から“大型毒虫接近”の報告が入った瞬間、背筋が冷えた。

負傷者の中には友人もいる。 学生たちも。


――死ぬ。

そう思った。

だが、自分はここを離れられない。

騎士たちは一斉にジェネラルオークへ火炎を放ち、斬り伏せていく。

あと二体。

その時だった。


魔狼の群れと対峙していたはずのロイドが、こちらへ駆け込んできた。

「団長!!! 離れて!!」

直後――雷鎚(らいつい)が振り下ろされた。

轟音。

閃光。

ジェネラルオークが消し飛ぶ。

しかし次の瞬間には、オークの群れが雪崩れ込むように押し寄せてきた。


「後方の援護を!!!」

―――頼む!!早く行ってくれ…

団長が叫ぶ。

その直後だった。

「大型ムカデ十数体、大量の大型毒虫は――」

報告役の兵が、震える声を上げる。

「い、一年生が一人で倒しました!! 後方に被害なし!!」


――――!!!!

――――!!!!

その場の空気が止まった。

報告している兵は、ぼろぼろと涙を流していた。


…友人も…学生たちも……助かったのか?


――よかった。

――よかった…

騎士団長は深く息を吐く。


「後方は無事だ!!!」

怒号が響く。

「ここを全て駆逐しろ!!!!」

「おおおお!!!!」

絶望しかけていた戦場に、再び士気が戻った。

勝機が見えたのだ。


――誰かは知らない。

だが、お前のおかげで助かった。

そう伝えたかった。

他の者も、きっと同じだっただろう。

なのに――


「……帰った?」

あの時の気の抜けた声を思い出し、

騎士団長の額に青筋が浮かぶ。


バキィ!!

「いつまで寝ている!!! さっさと起きろ!!!」


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