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騎士になりたいんですが、闇属性の私には難しい  作者: アイム


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誰もいなくなった訓練場から転移し、レンは自室の浴槽へ潜り込んだ。

湯は温かい。 きっとメイドたちが準備してくれていたのだろう。薬草の香りもする


昨日と今日、オルフェは北側の視察で不在だった。 レンが帰ってきていることは知らないはずだ。

昨夜、部屋に灯りがついたことに気づいたメイド長は、

「お嬢様、おかえりなさいませ」

そう言って、何も聞かずに風呂と食事を用意してくれた。 朝食も昼食も。


――こんな私、見られたくない。

涙がぽろぽろ落ちる。

ばしゃ、ばしゃ、と顔へ湯をかけても止まらなかった。

深く息を吸い、呼吸を整える。


風呂から上がると、メイド長が待っていた。

何も聞かないまま、魔法具で髪を乾かしていく。

お嬢様の髪は綺麗ですね

そう言って梳いてくれる。

慰めてくれているのだと、 また涙が零れた。


「お嬢様……旦那様なんですよ」

「……?」

鏡越しに見上げる。

「お嬢様がいつ帰ってきてもいいように、食事や身の回りを整えておくよう仰っていたのです」

――っ……

「ふ、っ……うぅ……」

大丈夫ですよ、と

そっと頭を撫でてくれる。

――父上……ごめんなさい……

不甲斐ない私で。


翌朝。

レンはいつものように目を覚まし、部屋で朝食を取った。

けれど向かった先は学園ではない。

ルークのいる森だった。

もう行きたくない。 考えたくもない。

なのに。


――こっちは真面目にやってんだよ

――みっともねぇ

――俺たちのクラスで恥かかせんな!!


言葉が何度も頭の中を巡る。

そんな自分が嫌だった。

体育座りで顔を伏せる。

ルークが来ても、そのまま。


――情けない……

――何が騎士だ……

――迷惑ばかりで……恥晒しもいいとこだ……


やがてレンは、後ろで寝転ぶルークへ寄りかかった。筋肉痛もひどい

ぼうっと空を見上げる。

また涙が落ちた。

ぐぅぅぅ。

ルークの腹が鳴る。

「……ふふ」


遠くから蹄の音がする

――?

遠くをみてみる。


!!

「……父上」

視察から戻ったオルフェが馬で駆けてきていた。

罪悪感に襲われ、俯く。

オルフェは目の前へしゃがみ込み、 レンの顎をそっと持ち上げた。


「――何があった?」

あのことが蘇る

――ふっ……うぅ……


「―レン?」

「……じ、自分が……私が不甲斐なくて……情けなくて……恥ずかしくて……」

涙で声が震える。

オルフェは肩を擦ってくれる。


「みんなについていけなくて……悲しい……できると思ってた……でも、頑張ろうとしても……な、何もできない……

私は……みっともない……」


父上…ごめんなさい…


「恥をかかせてしまって……ごめんなさい……」

あの男子たちの言葉を、 オルフェに謝罪する。


――ふぅ

オルフェは静かに息を吐く。

その気配に、レンの肩がびくりと揺れた。

…失望されてしまった。

そう感じた。

しかし、オルフェは

「……騎士になる方法を探そう」

さらさらと黒髪を撫でる。

「学園へ行かずとも、道はある。オルフェ・トワ・ヴィスタールにできないことはないのだから」


「……ふふ、甘すぎだよ……」

泣きながら、レンは少し笑った。

「当たり前だ」

オルフェも微かに笑う。

「私の娘は努力家だ、やると決めたことは最後までやる」

……

「そんなお前を、私は誇りに思う」

それに、


「お前には他にない力があるだろう」

「……?」

オルフェが困ったように笑う。

「暴走しなければいい、そのために努力してきたではないか」

――闇属性。

あ……

「……でも、もっと嫌われちゃうかも」

「――既に嫌われたなら、相手は何も言わんだろう」

……言わないのかな……


そしてレンの頭を軽く撫でる。

「結果は後からついてくる……だから

行きたいとこまで行って来い」


全力でな

オルフェはにやっと笑った


ぐりゅるるるる……。

けたたましく鳴るルークの腹に、レンとオルフェは思わずそちらを見る。

「……ふふ」

オルフェはレンから貰った収納袋を開き、中から魔物の肉を取り出した。

ルークは嬉しそうに喉を鳴らし、 ばくり、と豪快に食いつく。

「相変わらずよく食べるな」

オルフェが苦笑する。

黒竜は美味しそうに尻尾を揺らしながら、夢中で肉を平らげていた。



翌朝、訓練場。

レンは例の三人へ頭を下げた。

「一昨日は……言わせてしまって、ごめんなさい。まだ体力はないけど、全力で頑張ります」

うっ、と一人が苦しそうな顔をする。

「……俺に言われても……いや、俺も言い過ぎた。悪かったよ」

歯切れ悪く返した。


「10キロ走!! その後、腕立て、腹筋、背筋、スクワット100!!」

教官の怒号が響く。

「「はい!!」」

クラス順に走り出す。

筋肉痛もあり、レンは早々に抜かれた。 三キロ地点で最後尾。


――転移。

すぅ、と少し前へ移動する。

また差が開き、 また転移。

それを繰り返した。

「はぁ……っ、はぁ……っ」

息を切らしていると、教官が横へ来た。

「頑張ったな」

ぽん、と肩を叩く。

「残りのメニューは半分でいい」

「……はい!」

一昨日よりずっと早く終われた。

学生たちとの時差もほとんどない。

レンは転移で自室へ戻り、風呂へ入る。


そのあと食堂で朝食を食べた。

奇異の視線は感じる。

けれど気にしないことにした。

目が合えば会釈して微笑む。

そして全力で食べた。

午前授業を終え、昼休憩。

レンはホール裏の森側にある東屋へ向かった。

入学初日、彷徨っていた時に見つけた場所だ。

人気がなく、 風が気持ちいい。

収納袋からポットを取り出し、 紅茶を淹れる。

読書をしながら、そよ風に髪が揺れた。

――気持ちいい。

少しだけ心が軽かった。


予鈴が鳴り、レンは立ち上がる。

今日は少し楽しみだった。

召喚術。

精霊を呼び出し、契約・使役する術式体系だ。

契約した精霊は属性に応じて術者の魔力を増幅し、本来以上の力を引き出してくれる。


その恩恵は大きい。

特に前線へ立つ騎士や、高位魔術を扱う魔導士にとって、精霊契約は生存率そのものを左右すると言われていた。

そのため正式な使役許可を持つのは、基本的に騎士と魔導士のみ。

無許可契約は本来禁じられている。


――もっとも。

精霊側から一方的に契約を結びに来る例も少なくはない。

そうした“自然契約”に関してのみ、国は半ば黙認していた。


訓練場には巨大な魔法陣が描かれていた。

複数の神官と、長い帽子を被った大神官が祈りを捧げている。

――なるほど、全員まとめてやるんだ。

祈りが終わり、生徒たちは次々と召喚していく。

「来い!」 「来てくれ!」

精霊達が次々と姿を現す。

レンも真似してみた。


「……おいで」

しん――。

何も起きない。

……?

もう一度。

「おいで」

やはり何も起きなかった。

周囲がざわつく。

教官が近づいてきた。

「召喚できなかったか……。魔力不足で召喚できない者もいる」

「西棟は特にな。気にするなと言いたいところだが……残念だったな」


――魔力不足?

レンは首を傾げた。

それは違う。

むしろガロには多いと言われている。

……闇属性だから?

周囲から声が漏れる。

魔力ないの? 騎士科で?やばくね?と


レンはふぅ、と息を吐いた。

楽しみだったけど、属性のこともあるのだろう、仕方ない。

そして教官へ手を挙げる。


「あの…りゅ…ペットを連れてきてもいいでしょうか?」

本当は友人と言いたいが、空気を読んだ

「は? ペット?」

「頼りになるペットがいます!お願いします」

教官は少し考え――。


「……ふっ、まぁ可哀想だからな。好きにしろ。子猫でも連れてこい」

「ありがとうございます」

周囲から失笑が漏れた。

ペットって?…頭大丈夫か?子猫って……

皆、冗談だと思っている。


――言質は取った。

必要な時はルークを連れてこよう。

そう心に決めた。

召喚に成功した生徒たちは、そのまま親睦を深めるため自主練となった。

皆楽しそうだ。

――わかる。

精霊は知らないが、ルークと出会った時、自分もそうだった。

その横でレンは。

副教官と腹筋をしていた。


そして授業終了後。

片付けをしていた生徒たちが、一斉に森の方を見る。

視線を追う。

森からぞろぞろと人影が現れた。

「先輩方が遠征から帰ってきたな」

誰かが言う。

泥や傷のついた装備。

疲労の色。

けれど堂々とした空気。

先輩たちはそのまま寮へ入っていった。

力のある生徒はすでに訓練兵や、指揮などしているらしい。


――なるほど。

ホールも訓練場も広すぎると思っていた。

レンは今さら気づく。

先輩たちの存在を、すっかり忘れていたのだ。


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