第1789話 格別に美しい景色
類を見ない盛り上がりを見せた、冒険者ギルド総本部の腕相撲大会。
開催は午後五時までで、ライト達は昼食時間を除いてずっと腕相撲大会を観戦し続けた。
午後の一時頃に、プロステス領主のウォーベック侯爵が弟のクラウス伯爵やウィルフレッド、ハリエットとともに催し物の見学に来たり、三時半過ぎにはジョゼとイヴリン、イグニスが近所の子供達とともに遊びに来て十人の子供達と対戦したり。
「いやー、レオニス君は本当に強いなぁ!さすがは金剛級冒険者に至るだけのことはある!」 ←アレクシス
「全くです。私もハリエットが通うラグーン学園の運動会で、レオニス君の戦いっぷりを何度も目にしていますが……もはや人族の常識では図りきれない力です」 ←クラウス
「レオニスさん、本当にすごいなぁ……」 ←ウィルフレッド
「ライトさんが『うちのレオ兄ちゃんはね、オーガ族の人達にも腕相撲で勝っちゃうんだよ!』と仰っていましたが……それは本当のことだったんですね……」 ←ハリエット
ジョゼ達とは、対戦後にライトが観客席から大きく手を振って合流した。
「ジョゼ君達も、レオ兄ちゃんの腕相撲大会を見に来てくれたんだね!」
「うん!子供達は参加無料って聞いたから、試しに参加してみたけど……びくともしなかったわ!」 ←イヴリン
「キャンプの講師の先生が『レオニス? ありゃバケモンだ』って言ってたけど。本当にそうだったとはね……」 ←ジョゼ
「てゆか、ライト、お前の兄ちゃんってホントにすげーな!おいらだって全体重をかけたってのに、指一本分も動かせねーんだもん!」 ←イグニス
皆口々にレオニスの強さやすごさを褒め称えていて、それを聞いているライトまで嬉しくなってくる。
普段の生活では冒険者に関わることのない人達にも、レオニスのすごさをこうして実際に知ってもらえるのはとても良いことだ。
そうして時は刻々と過ぎていき、午後五時に無事閉会となった。
特設会場は最後まで大盛り上がりで、締め括りにはパレンが出た。
舞台上に上ったパレンに、再び黄色い声援が飛び交う。
「ラグナロッツァに住まう皆々様、本日は我が冒険者ギルド総本部のイベントに来てくださって本当にありがとう。このパレン、心より感謝申し上げる」
「皆様方の中には、普段は冒険者に関わることなど全くない方々も多くおられよう。中にはきっと『冒険者なんて、野蛮な人間のすることだ!』と思っておられる人も少なからずいるだろうと思う」
「だが、決してそんなことはない。長旅の道中の護衛、公園や下水道の清掃、薬草採取にビッグワーム退治等々、我ら冒険者ギルドに依頼を出してくださる皆様方のために、我々は日々誠心誠意働いている」
「そして今日、獅子奮迅の活躍を見せてくれたレオニス・フィア。彼こそは世界最強の冒険者であり、アクシーディア公国の守護神と言っても過言ではない。彼のおかげで、このラグナロッツァは安寧を得られている。このことを、是非とも皆にも知っていただきたい」
「私達はこれからも、自分達が愛するこのラグナロッツァという街を守り続けていくことをここに誓う。皆、今日は本当にありがとう!」
パレンの素晴らしいスピーチに、観客席から万雷の拍手が沸き起こる。
こうして冒険者ギルド総本部が開催した渾身のイベント『金剛級冒険者レオニス・フィアと腕相撲大会!』は大成功のうちに終了したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
腕相撲大会が終了した後、レオニスは午後五時半になる前に帰宅を許された。
これだけ大盛況のイベントを朝から一日中こなしたのだ、少しくらい早く帰宅させてやってもよかろう、というパレンの粋な計らいによるものである。
ライト達は五時にイベントが終わった後、売店でのんびりと買い物をしていたのだが。レオニスが早々に売店に来てライト達に声をかけた。
「お、ライト、まだ買い物してたんか」
「あッ、レオ兄ちゃん!もしかして、もう今日のお仕事は終わったの!?」
「おう、マスターパレンに早く帰っていいぞ、と言ってもらえたからな。これから家に帰ろうと思ってたところだ」
「そうなんだ!じゃあ皆でいっしょに帰ろう!」
「おう、そうしよう」
「あ、ちょっと待っててね、すぐにお会計してくるから!」
「いってらー」
売店に現れたレオニスの姿を見たライト、花咲くような笑顔でレオニスのもとに駆け寄った。
いつもなら翌日の朝まで冒険者ギルド総本部に詰めていなければならないところだが、組織のトップたるパレンが帰宅の許可を出したのだから大手を振って堂々と帰宅できる。
ライトは急いで会計に向かい、その間にラウルやマキシ、ラーデを抱っこしたシャーリィとも合流した。
「皆、お待たせ!」
「さ、じゃあ皆で家に帰るか」
「うん!」
冒険者ギルド総本部の出店から外に出たライト達。
レオニスがライトの身体をヒョイ、と抱えて首の後ろにストン、と乗せた。いわゆる肩車というやつである。
「わーい!レオ兄ちゃんの肩車、ひッさしぶりー!……って、レオ兄ちゃん、疲れてない? 大丈夫?」
「この程度、全く問題ない。そこから見える景色を、思う存分堪能するといい」
「……うん!レオ兄ちゃん、ありがとう!」
レオニスからのちょっとしたサプライズに、ライトは目を丸くして驚いた後にすぐに大喜びした。
そしてライトは、レオニスの肩の上に乗りながらふと考える。自分はいつまでこうしてレオニスに肩車をしてもらえるだろうか―――と。
身長や体重にもよるが、年齢的にはせいぜい十二歳か長くても十三歳くらいまでか。
いつまでも見ることを許される景色ではないことは確かだ。
一月初旬のラグナロッツァの日が落ちるのは早い。
夕方の五時ともなれば空は茜色に染まり、六時にはもうかなり暗くなる。
午後の五時半は昼と夜が入れ替わる、まさにちょうど境目の時間帯である。
あと何回堪能できるか分からない、レオニスの肩の上から見るラグナロッツァの街の景色。
茜色から宵闇色に移り変わる、この美しい一瞬をいつまでも覚えていられますように―――ライトはそんなことを考えながら、目の前に映る格別に美しい景色を己の目と心に焼き付けるように眺め続けていた。
世紀の一戦を終えた後の、ゆったりとしたひと時です。
いや、ホントはここら辺すっ飛ばして公国生誕祭三日目を開始しても良かったんですが(=ω=)
前話の戦いが7000字を超えた力作()のせいか、作者もすっかりくたびれてしまったのでひと息つくことに(´^ω^`)
ライトが作中でレオニスに肩車をしてもらうのは、第1175話での公国生誕祭三日目のパレード鑑賞以来ですか(゜ω゜)
いや、実は作中で明記されていないだけで、ホントは秋の大運動会の時なんかにも肩車をしてもらってるかもしれないんですが。
それでもライトが小さい子供でいられる時間は、本当にあと僅かなことは間違いない事実で。
終焉が近づいてきた、限りある時間を惜しみながら心に焼き付ける———郷愁にも似た、ちょっぴり切ない心情も出したかったのです( ´ω` )




