心配
お嬢様が、俺の名字が世界で一番強い国と同じだと気づいてから、20日がたった。
もちろん、ただの偶然だと、お嬢様を必死に説得した。
ただの偶然だ。
あれからずっと落ち着いている。
前は8リラだったリンゴが、今は20リラだ。さすがに高すぎやしないか?
最近、屋敷の食べ物が減っている。
リテンでも、すでに食べ物が足りなくなっている。
住民が混乱する日も、そう遠くない。
突然、お嬢様がまたため息をついて、机にガクッと頭を乗せた。
「これはまずいな……」
「今日も商人は来なかったのか?」
「うーん……それに、また作物がたくさん失われた……」
「最近、雨ばかりだな……」
「……食料もあと三十日分しか残っていないわ」
お嬢様が不安そうに爪を噛み始めた。
俺もお嬢様を助けたいが、こんな問題をどう解決すればいいのか思いつかない……。
「アルカディアからの商人は?」
「来てくれないわ……道が危なくて……」
「魔物がいるのか?」
「ううん、道が荒れていて、あのあたりには盗賊もいるみたいよ」
「それなら、兵士を何人か送ったらどうだ?」
「リテンには兵士が一人もいないのよ」
俺はサンタナに侵略されたほうがましだと思い始めている。
兵士が一人もいないなんて、どういうことだ……。
急に、お嬢様が立ち上がった。
「決めたわ、あの道の様子を見に行きましょう」
「すぐに馬車を用意する」
「いいえ」
「いえ?」
苦笑いを浮かべながら、彼女は言った。
「馬で行くわよ」
「……あぁ、ユレを呼んでくる」
急いでユレの部屋へ向かった。
◇
「ユレさん、ユレさんっ!」
必死に扉を叩いた。
扉が開き、ユレが眠そうな顔を出した。
「……死にたいのか?」
「まだ死なないさ! でも、大変なことになってるんだ!」
「何があった?」
「お嬢様が馬に乗るって言ってるんだ!」
「……」
「おい、扉を閉めるな!」
ユレが部屋から出てきて、俺はその格好に驚いた。とても、とてもきれいで、よく似合うネグリジェを着ていた。
「お嬢様は馬に乗れるさ」
「それに、馬は危ない! しかもアルカディアへ続く道を見に行く気だぞ!」
ユレは俺を一人残して部屋に戻った。
数秒後、使用人の制服に着替えて、また姿を現した。
「どうしてあそこに行きたがるんだ?」
「アルカディアの商人が、なぜあそこを通るのを怖がるのか確かめたいらしい」
「あの辺りには盗賊が出るからな……」
「そんなの関係ないだろ、ユレさん! お嬢様が馬に乗るなんてダメだ!」
「どうしてだ?」
「だって女の子だからな! 体もか弱いし、馬の揺れで怪我をするかもしれないだろ!」
困惑した様子で、ユレは俺の心配を軽くあしらった。
「何ともないさ」
「だが……!」
「落ち着け。行くぞ」
「馬車で行ったほうがいいって言ってくれ……」
「馬に乗って何が悪いんだ?」
馬に乗らないほうがいい理由はいくらでもある。
そして一番の理由は、子供の頃に聞いた古い話だ……。いや、俺が勝手にそう思っているだけかもしれないが。
◇
本当に俺まで行く必要があるのか?
ここに残って番をしたり、シアが屋敷を燃やさないように見張ったりするんじゃダメなのか……?
目の前には二頭の大きな馬がいて、それぞれに女の子が乗っている。
乗馬服を着たお嬢様が、厳しい表情で俺を見つめている。
「行くわよ」
「いや、行きたくない。屋敷を見張らないと……」
「質問しているんじゃないわ」
「だって、俺は馬に乗ったことがないんだ……すごく怖い」
お嬢様はため息をついて、動き出した。
もう一頭の馬に乗っているユレが、俺を見下ろしている。
「乗れ」
「お前と? この馬に二人でか?」
「そうだ」
「ええーっ……ユレが嫌だってわけじゃないが、お前と同じ馬に乗るなんて無理だ」
「どうしてだ?」
ユレが聞いてくるとは思わなかった。
怒って行ってしまうと思ったのに、そうじゃなかった。
気がつくと、指をいじっていた。
「そ、その……ふ、夫婦だけが一緒に馬に乗るんだ……」
思わず顔が赤くなってしまった……えっ?
すごい力でユレに服の襟をつかまれ、そのまま馬の上へ無理やり引き上げられた。
「行くぞ」
「待てっ!」
馬が走り出すと、俺はユレの腰にしがみついた。
これって誘拐になるんじゃないか……?




