何もわからない
朝、ベッドから起き上がるところから、一日が始まる。
使用人棟にある俺の部屋は広くはないが、居心地がいい。
ベッドを整え、それからサッとシャワーを浴びて全身を消毒する。
さっぱりして、いい匂いだ。
清潔さが女を惚れさせるって、子供の頃によく言われたな。
この屋敷には俺を含めて、使用人は四人しかいない。
三人は女の子で、まったく使い物にならない。
ダンは出かけていて、俺に留守を任せていった。
台所に入った時、目にした光景に呆然とした。
まるで、あたり一面が火事にでもあったかのようだった。
その真ん中に、赤毛のメイドの少女がいる。
「シアさん……」
「ん? シニンさん、何か用?」
なぜか、そんなふうに呼ばれるようになった。
「……もしかして、ここにドラゴンでも入ってきたのか?」
「……」
怪しそうに、彼女は目をそらした。
「これ、お前がやったのか?」
「……うん」
「どうしてだ?」
「コンロをつけようとして……魔法を使おうとしたら……こうなったの!」
なぜか、あいつは笑っている。
魔法を使って手早く台所を掃除し、すべてを元の状態に戻した。
コンロは基本的に薪で動くんだから、魔法を使う必要なんてなかったのに。
「シニンさん、料理するの?」
「ああ。お前は苦手だろ」
「へへ……ありがと」
急いで料理にとりかかった。
お嬢様の朝食は完璧で、健康的なものでなくてはならない。見た目だって大事だ!
卵、パン、いくつかの果物に、少しの牛乳……。
これでうまくいくだろう。
数分で料理を終え、これ以上何もしないようシアに言ってから、慌てて台所を出た。
今度は食堂を掃除して、すべてが消毒されているか確認しなくてはならない。
食堂の掃除を終え、お嬢様が降りてくるまで階段のそばで待った。
……遅いな。
足音が聞こえると、軽く一礼した。
「おはようございます、お嬢様」
「ん」
口数の少ない子だ。
食堂では、シアが朝食を運んで配膳する。
ユレと俺は、お嬢様の食事中、後ろに控えている。
朝食の後、お嬢様は図書館に向かう。その間に、すべての部屋を掃除する。
どんなエンチャントや魔法を使っても、すぐに汚れてしまう。
・
午後、すべてがもっと穏やかだ……。
お嬢様が書類に目を通している隣で、俺は控えている。
ふいに、彼女が疲れたため息をついた。
「お嬢様、何かありましたか?」
心配そうにユレが尋ねた。
「最近、商人が来ないわね」
お嬢様はリテンのすべての領地を管理している。
だから時々機嫌が悪そうに見える。
「税金を下げたのに、それでもまだ来ない……」
気になって、聞いてみた。
「どうして、もう来ないんだ?」
「……サンタナが商人がこちら側へ来るのを禁止したのよ」
「そんなの知らなかった……」
だから、ここのものは高く見えるわけだ。
サンタナは隣の国で、この大陸で五番目に軍事力が強い国だ。
商人が来るのを禁止して、いったい何を得るというんだ?
「それで何を得ようとしているんだ?」
「国を不安定にするためよ。あの襲撃の夜を覚えている?」
殺し屋がお嬢様を殺そうとした……。そして、アルカディアから同盟の話をするために使節団がやってきた……。
「サンタナはその同盟が結ばれるのを望んでいないのよ」
「あいつらがあの殺し屋を送り込んだのか?」
「ええ、それだけじゃなかったわ」
お嬢様は息を吸い、話を続けた。
「サンタナはエリオン全体を併合したいけど、口実もなく侵略することはできない。まずエリオン全体を飢餓で苦しめ、その後、自分たちが引き起こした飢餓から住民を救うという名目で侵略するつもりなのよ」
「ええ……どうしてそこまで気にするんだ?」
「領土よ。アルカディアとサンタナの間にあるのはエリオンだけだから」
敵を隣の家に置きたくないというわけか。
「これまでアルカディアとの合意には至っていないわ。サンタナは、もし同盟が結ばれれば、私たちが魔王と共謀したという理由で侵略すると言っている。そしてアルカディアは私たちを守ることができない。なぜなら、アルデリアがアルカディアへ宣戦布告する口実ができてしまうから……どの選択肢を選んでも、この国エリオンが消滅する運命なのよ……ん?」
だんだん複雑になってきたな。
サンタナがまだ侵略してこないのが不思議だ。
突然、お嬢様が目を見開き、勢いよく俺の方を向いた。
「な、名前は何て言うの?」
「えっ? ソエン……ア、アルデリア……。考えているようなこととは違うからな!」
「アルデリアの出身なの!?」
ついに、お嬢様が冷静さを失った。




