エンチャント
ビリボートのお嬢様の正式な使用人になってから、6日がたった。
この数日は落ち着いていた。
主な仕事は屋敷を掃除することで、悪くない。
それから、屋敷全体と他の使用人たちをこっそり滅菌し続けている。
水の供給源には、菌がいないように魔法を使い続けている。
それだけだ。
今屋敷の図書室に立っている。
隣で、ユレは退屈そうにしている。
数メートル先で、お嬢様が勉強している。もう3時間近く、ずっとそんな調子だ。
「ユレ」
「はい、何ですか?」
「魔法、使えるか?」
「……い、いいえ……っ」
「ん」
「す、すみません……っ」
「お前、魔法使えるよな?」
お嬢様が期待を込めた目で見つめてくる。俺は誇らしげに一歩前に踏み出す。
「ああ!」
「攻撃魔法は何か使えるのか?」
「……な、ないです……っ」
「ん」
「す、すみません」
恥ずかしそうにお嬢様から目をそらす。
「じゃあ、あの時使った呪文は? なんて名前なんだ?」
「それか? 『溶かせ 』だ。主に小さな虫を殺すために自分で作ったんだ」
「お前が作ったのか?」
「ああ! 作るのに3年かかったし、Sランクだと思う」
「S!? コホン……嘘でしょ」
一瞬、お嬢様はあわてそうになった。
「外に出なさい。何ができるのか見せてみなさい」
「はい!」
・
外に出ると、屋敷の近くにある森の中にいた。
お嬢様は俺に、あの「溶かせ」を全力で使うように言った。
今、お嬢様は後ろに下がっていて、ユレはいつでも守れるように身構えている。
この魔法を作った時、一番やりたかったのはすべての虫を消すことだった。
「溶かせ」
手のひらから黒い雲が出てくる。
進む先で、見た目には何も起きていないようだが、俺にはよく見える。たくさんの虫が死んでいく。
「ふう、これ以上続けたら、魔力がなくなりそうだ……」
二人の少女ががっかりした目で見つめてくる。なぜだ!?
何を期待していたんだ? これは虫を……まあ、人間も殺せるけどさ。
「行くぞ、ユレ」
「はい、がっかりでした」
「待って、待って! もっとすごいことができるんだから!」
お嬢様は俺の必死のお願いを聞いて、足を止める。
「で、それは?」
「ユレさん、剣を貸してくれないか?」
「断ります」
諦めて、ちょうどいい小枝を探す……。これでいいか。
物にエンチャントするには、大切なことがある。
自分の魔力ではなく、まわりにある魔力を使うことだ。
適当なものでいい。小枝に「自然はすべての母」と書き込む。
ここに円を描いて……。それから、これを……ここに……。
あれ、どうだったっけ?
今、まわりの魔力を少し込めると……。
円が光り出し、よしっ!お嬢様がとても興味を持った様子で近づいてくる。
「何をしたの?」
「エンチャントだ」
「その小枝に?」
「ああ。ユレさん、これでその木を切ってみてくれないか?」
「……はい」
戸惑いながら、ユレは小枝を受け取り、幹が一番太い木に向かった。
気が進まない様子で小枝を振り、大した力も入れずに木の幹を叩いた。
「何も起きてない……」
「もっとすごいものを期待していたのに……」
お嬢様ががっかりしたようにつぶやく。
だが次の瞬間、不気味な音が響き、目の前の大きな木が音を立てて倒れ始めた。




