魔法の契約
殺し屋におそわれた翌日、俺はまたお嬢様の部屋で、自分がやらかした後のそうじをしている。
手袋とマスク、それに自分で作ったばかりのエプロンをつけている。
つまり、汚れと戦うためのよろいだ!
大きなブラシを手に取り、床をみがき始める。
「情けないわね」
「情けなくないよ。ただ、こいつの残りで汚れたくないだけだ……これ、こいつの目かな?」
一緒にいるのはユレだ。
いつもの冷たい目で、手伝う気もなく俺を見ている。
「大丈夫?」
「いや、大丈夫じゃないよ。はきそうだ……」
「人を殺した後でも、気分が悪くならないの?」
「やるしかなかったんだ。あいつかお嬢様か、どっちかだった。俺は使用人として、真剣にやってるんだ」
「じゃあ、ずっとここにいるつもり?」
「わからない……誰かの世話をしたいとは思うけど、それは……特別な人じゃないとだめなのかもしれない」
これが俺の生きる目的なんだと思う。
周りの人たちを清潔に保つこと……。
「どこから来たの? それに、なんでここにいるの?」
「なんでそんなこと聞くの……?」
「答えて」
「北から来たんだ。船に乗って、シトコ大陸に行くつもりだった」
「何しに行くつもりだったの?」
「……パーティーを追い出された後、使用人の仕事を持ちかけられてさ。様子を見に行くつもりだったけど、ここに残ったんだ」
ええと……血が落ちないな……。ブラシにエンチャントをかけてみた。
これでよし……。
「ビリボート様がお前と話したいそうよ」
「様!? まさか、そうじがちゃんとできてないの!?」
「そういうわけじゃない」
「ふぅ……なるほど」
「ここが終わったら、旦那様の執務室に行って」
「あの……手伝ってくれないの?」
もう行っちゃった……。
ビリボート様が俺に会いたいらしい。怖い人じゃなければいいけど……。
・
ここがその部屋のはずだ。
トントン
「どうぞ」
部屋の中から声がする。
緊張しながらドアを開けて、中に入る。そこには、若くて服装のいい男がいる。
この人がお嬢様の父親か? あまりにも若すぎる。
「お、おはよございます……っ。あ、俺に会いたいって聞いたんです……」
「ああ、入って、座りなさい」
「あ、ありがとうございます……」
言われた通りに席に座った。
「ここ、初めてか?」
「はい!昨日、お嬢様の専属の使用人になった……ソエン・アルデリアです。よろしく」
「私はダレン・ビリボートだ。お前と話したい。それと、昨夜のことだが……」
昨日……昨日、お嬢様の部屋を汚した!
「し、すみません! やりすぎて、お嬢様の部屋をめちゃくちゃにしてしまった……」
「気にするな。昨日は娘を守ってくれて、よくやった。お礼を言いたかっただけだ」
安心させようと笑った。
「なるほど……。じゃあ、俺に何の用ですか?」
「お前の仕事についてだ。ダンから聞いたぞ。お前はまだ、正式に娘の使用人として働くかどうか決めていないそうだな」
「はい、迷っていて、これが自分のやりたいことなのか分かりませんでした」
「で、ここで正式に働くことに興味はあるのか?」
ここで正式に働く……この大きな屋敷を毎日掃除できる。
お嬢様や他のメイドたちの世話もできるし……。
悪くないな……しかも、メイドたちの料理はすごくうまい。
「引き受ける……。本当にいいんですか?」
「もちろんだ……。それに、お前は……あるスキルを持っているとも聞いたぞ」
「持っている」
「それじゃあ、そのスキルを私たちのために使ってくれないか?」
「ビリボート家のためだけにそれを使えるなら、誇らしく思う」
「ここに……」
机の上を一枚の紙が滑ってきた。
それはあるじと使用人がむすぶ魔法だ。これで、個人的な使用人はあるじを絶対にうらぎらない。
おたがいに、いつ相手を必要としているか分かる。
そして、使用人のマナの一部があるじへ流れる。あるじしか契約を破れない……。
これじゃ一生出られない牢屋だ。
どれいじゃないか!
「よく考えたら……やっぱり断る——」
契約から黒い煙が出て、急に俺の魔力をすい取っている……。
動こうとするが、動けない。
なんてバカだったんだ。




