episode8 Beautiful.World
読んでいただきありがとうございます。
勉強頑張るとは言ったもののやっぱり授業は退屈。
あの騒動から幾日が過ぎ、ゴールデンウイーク明けのぽかぽか陽気に誘われて、少しでも油断すると意識が遠のきかける。
おまけに今は苦手な数学、教科担当の先生の軽やかで優しいその声も子守唄にしか聞こえない。
あぁ~微睡は~魅惑の香り~、私はこのまま落ちてゆくぅ。
授業を夢の中で受けるのも悪く無いなぁと思っていたら後ろの席の男子、池下君が突然すごい勢いで立ち上がってその音にびっくりして目が覚めた。
「う、うわぁぁ、止めてくれぇ!」
何事よと思って振り返ると池下君はあろうことか自分の両手で自分の首を絞め始めた。
彼の太い指が喉に食い込んでそのせいで苦しそうなうめき声まで漏れている、ガチで首絞めてるじゃん。
「ちょっと何やってんの!」
異変に気付いた先生や、男子が数人駆け寄ってきて彼の両手を離しにかかる、女子たちからは悲鳴が聞こえる。
しかし、彼を取り囲んでその腕を取り離そうとした生徒たちは、池下君に大きく抵抗されるかのように振り払われてしまう、しかも首を絞めたままの状態で。
一体何が起こっているのか、池下君は大きく体を振り回すようにもだえ苦しみとうとう膝から砕け落ちた、首の腕はまだ外れない。
何とか腕を外してやらなければと男子生徒たちが彼の腕を抑えにかかる、その輪の中に羽澄君がいた。
他の生徒たちは気付かなかったかもしれないが私には見えた、羽澄君は伸ばした指先を池下君の背中にそっと触れる、その瞬間彼の腕はようやく首から手を離した。
そう、まるで池下君に取り憑いていたモノが離れたかのように。
教室内がざわついている、羽澄君はそれでも何事も無かったかのように自分の席に戻っていった、
今絶対何かした、でも聞いたって答える気が無いんでしょうけど。
意識が戻ったのか大きく息をしたあと苦しそうにむせ込んでいる、先生がその背中をさすりながら心配そうにのぞき込んでいる。
「大丈夫か、保健室に行った方がいいな」
池下君に何が起こったのか、もしかしてこの間の東山君の時のように何か怪しい事に巻き込まれているのだとしたら、ここは私が行くしかない。
「先生、池下君は私が連れて行きます」
「そう、そうしてくれるとありがたいが」
池下君はまだ息が荒くて苦しそうだ、とても一人では立てない状態にいる、私のか弱い力ではどうにもならないことぐらい解る。
どうしようかとチラっと盗み見た羽澄君は、相変わらず知らん顔を決め込んでいる、助けてくれないのか冷たい奴だと思っていると。
「俺も行きます」
そう言ってくれたのは東山君だった。
それは心強い、池下君から話を聞き出しやすくなる。
あれからはもう東山君はいつもの東山君だ、眼鏡をはずしたり、ましてや赤いドレスで登校してくることも、もう無い。
東山君は池下君の身体を支え、その腕を取り肩に担ぐように立ち上がらせる、私も反対側の体に手を添えて支えてあげた。
まだ意識もはっきりしない様子だったが、すまない、とか細い声で東山君に言っているのが聞こえた、もう大丈夫だろう。
保健室に行くと、私たちの様子に驚いた洛ちゃん先生に誘導されてベッドに寝かせてあげた。
首のあざが痛々しい、何がどうしちゃったの?と聞かれたのだが、本当のことを言う訳にもいかず、答えに迷っていたが、東山君が。
「クラスの子がふざけて催眠術をかけるという遊びをやっていたら、この池下がふざけてかかったふりをしていて、だんだんマジになってこんなことに……」
とっさのこととはいえ、そんな話誰が信じるかよと思ったら、
「あきれたぁ、何馬鹿な事をやってるのよぉ」
洛ちゃん先生はあきれ顔で私たちを見た、どうやら信じてくれた。
年上の大人の女性から見ると、高校の保健室というのはこういうおバカ生徒たちの巣窟なのらしい。
その後、先生は職員室に用事があるから後は任せるわと言って保健室を出て行った。
ラッキー、これで落ち着いて池下君から話が聞ける。
辛そうに顔をしかめていた池下君も、しばらく寝ていると落ち着いてきたようだったので、私たちも小さな椅子を持ち出してベッドの脇に座って池下君の話を待つことにした。
それにしても、と改めて東山君の横顔をじっと見る。
堅物で冷酷なイメージから一変してオカマ女装キャラになり果てた東山君、でもその後はそんな姿を打ち消すように勉強にさらに励むようになったのだが、以前の堅物キャラよりも表情が柔らかくなったように思えるのは私だけ?
東山君が顔を動かす度に長く伸ばした前髪が彼の頬をそっと撫でる。
もしかして東山君もこうやってみると意外にいい男かも。眼鏡かけてるけどかっこいいし。
私がそんな事を考えていることなど全く気付かない東山君は、神妙な面持ちで池下君に話しかけた。
「何があった、池下」
「……何がって言われても自分だって意味わかんねぇよ、突然何かに操られるように腕が勝手に」
「勝手に?」
「そうだよ、何が起こったのか俺の方が聞きたいよ、マジ死ぬかと思った」
「もしかしてお前、不思議な爺さんに変な箱をもらった事があるか?」
「爺さんに変な箱、何ソレ?」
池下君は、そんな爺さんにあった事も無ければ箱の事も知らないと言った。
どうやらカメムシに憑かれたのとは違うみたい。
まだ少し辛そうな池下君を休ませてあげようと、私たちは保健室を後にした。
「どう思う、東山君?」
教室に向かう廊下で東山君に話しかける、今は授業中だ、廊下には他に誰もいない。
「どう思うと言われてもな……」
「これやっぱりさ、この間の東山君のカメムシと何か関係あると思う?」
「……さぁ」
「やっぱ関係あるよね、だってさ何かに操られていたみたいだって言ってた池下君を止めたのはあれ絶対羽澄君だったよね、私見たもの苦しんでる池下君の背中にそっと触っただけで首絞めるの止まったんだよ!」
「神谷」
「そんなこと出来るの羽澄君だけだし、今回も羽澄君の不思議な力でかっこよくバシュッズバァーンってカメムシをやっつけちゃえばいいんだわ!私も協力するから東山君もお願い‼」
「神谷!」
「何」
「うるさい」
しまった、今は何処のクラスも授業中で、そんな静かな廊下で一人騒いでいた私、気が付くと先生も廊下に出てきていた。
「ごめんなさい~」
にげろ~
その後はもう何事も無く、池下君も次の授業からは教室に戻って、普通に授業を受けていた。
何だったんだろう、羽澄君なら何か知っているだろうと思い放課後の羽澄君を捕まえようとしたけれど、その時にはもう既に彼の姿はなく。本当逃げ足の速い奴。
明日は絶対捕まえて問い詰めて、何としてでも今日の事件を解決してやるわ。という決意みなぎるラインを東山君に送ったら、既読にはなるものの返事は無かった。
読んでいただきありがとうございます。
東山君もイケメン設定です。




